〇あまり大きく口を開閉しないこと
日本人の発音練習は、きれいな(美しくひびく)日本語を使おうと、口の形の練習ばかりをやっているかのように思われます。(若い女性のナレーター、アイドルやファーストフードの店員、大企業の受付、プロの電話交換の声などを思い浮かべてください。)
しかし本当は、身体からしっかりと息を流し、胸の深いところで声としてしっかりととらえ、充分に共鳴させた上で発音した方が、よいのです。身体を使う分、喉は楽になります。
へたな合唱団のように口ばかりパクパクして、本当の声が身体から出てこないようでは困ります。1音1音、大きく口を開閉するのは不自然な上に、息の流れが一定でなくなり、流暢に聞こえにくくなります。
現場で即戦力を求める場合、こういう形になるのは、やむをえないかもしれません。ビジュアル(口の形)でも、伝わる分、口の形を整えるのは、有利であったからです。
しかし、ここでは、声としてしっかり出した上で、音として調整するようにしましょう。
口をはっきりとあけることは、最終段階でよいのです。口の形からやる人も多いのですが、母音というのは唇や口に直接関係していないことを知っておいてください。
〇日本語のアイウエオは一時、使わなくてよい
日本語では声が浅く、どうしても無理が生じて聞こえます。たとえば、「ウ」の発音は軽く口を閉じ喉をならすものですが、こうすると息がもれやすく身体からのしっかりとした声になりにくいのです。日本語の口の形通りに発音すると、ア、イやエも、ずいぶんと薄っぺらい声になります。
外国人が日本語で歌ったものは、とてもきれいに音が響いています。これは、「U」でOに近いところで、喉も口のなかも開いたまま発声するからです。私や役者が話すときは、この深い母音AIUEOを使っているのです。
〇インターナショナルな発音は、発声から
インターナショナルな発声の練習をします。これは、いままでの日本語の音声トレーニングと異なります。でも、20年以上使い慣れ聞いてきた日本語のくせがそう簡単にとれるわけではありません。特に、日本語での発音をもとに外国語の発音をつくろうとする無理からきます。
そこで私は、外国語の発音以前の発声まで立ち戻り、そこからの深い音を借用させています。つまり、どうせ勉強するなら何語でもOKという調音以前の発声を身につけようということです。しっかりした発声でなくては発音もうまくいかないからです。
※発音は聞きとる力によって大きく異なります。母音を浅く捉えた日本語と日本人の生活は、日本人を国際的に強い音声言語の使い手にはしませんでした。
〇発声から発音へ
日本語のアエイオウを、AEIOUとおきかえて、英語で説明します。ただし、英語のAは口内が狭くなりがちなので注意してください。
A……GARDEN(ガーデン) 口を大きくあけ、舌を平らにして明るく。薄っぺらな声にならないように
E……EVER(エバー) Iより口を大きく。多くの息を使う
I……CHEESE(チーズ) 唇がほどよく開き、明るく広く
O……FOR(フォー) 舌を平らにする
U……FOOL(フール) 唇をあまり前につき出さず、鼻音にもならないように気をつける
ついでに、もう3つ、発音を学びましょう。
ユ( Ü)(ウムラウト)……ウの口形でイを発音(英語になく、ドイツ語・フランス語) [※ウムラウト・・・後続母音の影響による母音変異]
アー(ER)……HER、口を中くらいにあけて、やや唇をつき出す
ア(A)……HAT、大きな口で明るくはっきりと出す
〇外国語の発音もよくなる
A・E・I・O・Uを、最初の段階では、「A」と「E」の間の音、「E」と「I」の間の音など、それぞれの中間音を出してみるのもよいでしょう。ここでは、響きと声をコントロールする方法をおぼえることに意味があるからです。あいまいな音をうまく出せることも、インターナショナルなレベルでの発声・発音に対応していくためには大切なことです。
もちろん、ここでいう、あいまいとは、言語(発音)不明瞭ということではありません。日本語のアイウエオではないだけで、はっきりした音ということです。
〇AEIOUアエイオウ、母音のチェック
「A」「E」「I」「O」「U」で同じ音色にとることをチェックしてください。
□喉が開いている
□声がしっかり胸についている
□お腹をしっかりとつかって支えている
□語の響きが均一である
□5音とも、身体の使い方、息の使い方がそろっている
□息が詰まっていない、きちんと流れている
□舌に力が入っていない、平らになっている
□呼吸の準備をしてから発声している(ため、構えがある)
□あごが出ていない
〇ことばの基本は5つの母音
母音とは、声帯で発せられた声が、共鳴器官を通って鼻や口から外へ出るまでの間、妨げられずに出たものです。
日本語では、ア行音 あ[a] い[i] う[u] え[e] お[o] にあたります。
〇母音の発音
EX.「ありがとうございます」 「お先にいただきます」
母音は、舌の位置、口の開き方の三点で、発音が変わります。
[あ]自然な口の構えで、あごを大きく開きます。上下の唇の間に、指二本が縦になんとか入るぐらいが、「あ」の最大の口の開きです。舌はあごと一緒に下げて、唇はまるめません。
[え]「あ」から、あごを閉じてきて、舌の位置を「あ」のときより前にもち上げます。唇は、両端をやや左右に引く感じです。
[い]「え」からあごを閉じてきて、ほとんど開かない状態にします。舌は、上歯ぐきの上の硬口蓋へ向けて、ジーと摩擦音が起こる手前まで高く上げます。唇は、平たくわずかに開けます。
[お]「う」の場合より、あごを開き、上下の唇の間に、人指し指一本がたてに入るぐらいの大きさにする。舌は「う」のときよりやや奥へ引き込み、「あ」の場合より奥舌がうしろへ持ち上げられます。唇は五つの母音の中で、一番丸くします。
[う]「い」に近いのですが、あごの開きは、五つの母音の中で最も小さくなります。舌先を奥のほうへ引っ込め、舌のつけ根に近い部分をやや緊張させてもり上げる感じです。唇は「い」より両端を左右から中央へ引き寄せます。(日本語の「う」は、完全にまるめるのではなく、外見上は平らな感じ。唇は丸くなりません。)
〇声からことばに
声が使われ始めたときに、ことばはまだありませんでした。
最初に使った声は、動物と同じく痛みや恐れを表したり、敵を威嚇するもの、悲鳴に近いものなどだったと思われます。
日本語では5音しか認識しない母音も、国が違えば異なる音が多くあります。かつては、日本語のなかにも今と違う発音がたくさんあったのです。アイウエオは、後々に日本語のことばとして(とくに書くために)定められたものです。
基本を旨とするトレーニングでは、原始的な音のエネルギーにまで戻ってそのパワーを吸収していきたいものです。
結果として、発音、ことばとして聞こえるようにそろえることができればよいのです。
声が出てからことばになっていったのですから、まずは声が出ることにこだわって、チェックをしていきましょう。その後にことばとして使えるようにしていきましょう。
「ア」 アーいい天気だ
「エ」 エーそうだったんですか
「イ」 イーッだ イッヤッダッ
「オ」 オー ワンダフル
「ウ」 ウー マンボッ
〇母音の発声で特に注意すること
□「あ」……舌の力が抜けているか
□「え」……口が狭すぎて「い」に近くなっていないか(このときは、唇を少し横にひく)
□「い」……「え」とか「あ」に近くなっていないか
□「お」……口の開きすぎで「あ」に近くなっていないか、唇を使いすぎて「う」に近くなっていないか
□「う」……「¨」(ウムラウト)になっていないか
指や鉛筆をくわえて、口の形をまったく動かさず、唇と舌で5つの母音を発してみるとよいでしょう。
母音そのもののもつ音質(フォルマント)は、口に到達する前につくられています。そのため、口を動かさないで、5音とも発声できます。母音は声を出した瞬間につくられるのです。ですから、口先に頼って発音せず、腹話術のように口の奥で声にするイメージをもつとよいでしょう。
唇には力を入れすぎてはなりません。少し緊張させて声をしっかりと前に出すように習慣づけてください。きちんと発されていたら、声は結果として前に飛びます。
舌は、前歯の歯ぐきのうしろです。そこに自然に軽くつけておきます。舌根(舌の根元の方)に力が入るとよくありません。舌を平らにするように注意してください。あごと舌を楽にすれば自然とそうなります。
すべてのことばをはっきりと発音しすぎることによって、流暢な流れ、ことばの抑揚を打ち消してしまう人もいます。これは、ことばを口先ではなく、口の形をあまり変えずに、はっきりと響きで伝えられるようにすることによって解決できます。
私が深い声を重視するのは、発音面で区分けすればよいアナウンサーならともかく、この問題を解決せずには、魅力のある声が出せないからです。
ことばをはっきりさせるための発音練習は必要ですが、それと声で、自分の意志や感情を伝えることは別問題です。相手に伝わり、相手の心を動かすだけの表現がのる声が、まずは大切であることを忘れないで下さい。
<ア行のトレーニング>
(ア)あした、あさって、しあさって/秋、愛は熱く燃える
(イ)イライラしている猪/一途なる意志とイマジネーション
(ウ)うれしい噂は嘘だった/ウカウカしていると運が逃げる
(エ)偉い絵師が選んだ絵/エネルギュッシュな演技に詠嘆
(オ)お母さんの大きなおなか/お金を落として怒る人