〇子音のトレーニング① カ行とガ行
カ行音の成り立ち
カ行の子音「k」は、奥舌と軟口蓋でつくる破裂音で、奥舌を軟口蓋につけて息の出口をふさぎ、息を吐き出すとき、この閉じた部分を突き破ることによって発します。
濁音と鼻濁音
ガ行音はさまざまに発されます。学問の「ガ」は、濁音で発音します。ところが、音楽(オンガク)の「ガ」は、濁音と鼻にかかった鼻音とに分かれます。破裂音で濁音「g」に、ガと鼻から抜いたやわらかい「ガ」となるのです。これを鼻濁音と呼びます。
〈カ行のトレーニング〉
カ 金で母さん、悲しませたか/噛んだら噛むだけ辛いカラシ/重ねて確認、確実に
キ きっとキミは来てくれる/気さくで気がつき器量よし/地球の危機きっとくる
ク 黒い鯨の口/熊本の空港にくる/ひゃっくり、びっくり、くりくりの目
ケ 経験は人間を形成する/今朝すごいけんまくで喧嘩した/やけ酒のわけ
コ 子供の心に入り込む/今度、近藤さんと来よう/濃いコーヒーよリココアが好み
〈ガ行のトレーニング〉
ガ ガサツでガミガミ外国人
ギ 銀座の銀行義理づきあい
グ グッチにガマグチ、グチを言う
ゲ ゲコゲコ、玄関に一撃
ゴ ゴマすり、ゴリゴリ、ご苦労さん
〇子音のトレーニング② サ行とザ行
シとサスセソの違い/シとスィの違い
「刺す」と「死す」の発音を比較し、呼気の通るすき間の位置を比べてみてください。サは舌先が上歯ぐきの裏に近づくのに対して、シは舌の上面の前の方が、上あごの前方の硬口蓋に近づき、舌先の下がサと違い、下歯ぐきの裏から離れた状態で発されます。先生を「シェンシェイ」となまるのは、この混同です。スェスェ、スェンスェン、センセイとくり返して直しましょう。
ザ行音の成り立ち
ザ行は「サ」と違い、舌先がまず上歯ぐきの裏に接します。それを押し破って、破裂音とし、そのすき間から生じる摩擦音が加わって「dz」の音をつくります。このように破裂音と摩擦音の組み合わさった音を破擦音といいます。ちなみに、風邪(カゼ)が「カデ」となる人は、舌が歯ぐきから離れるからです。
〈サ行のトレーニング〉
サ さざなみのささやき/サメとサバとサンマ/さっさと財布を探さなきゃ
シ シタールの静かな調べ/知ったら嫉妬、知らぬが花/椎茸と塩を仕入れる
ス 透き通る素肌ヘキス/すべてを捨てて救う/炭火を入れるのが済む
セ 背骨を矯正する先生/せせらぎと船頭の声/背伸びする制服の生徒
ソ そばでそつと添い寝する/食欲をそそるソウル/外の掃除が騒々しい
〈ザ行のトレーニング〉
ザ 残念、残酷、ざまあみろ
ジ じいさん、自分で、持参する
ズ ズボン、ずりおち、ずいぶんだ
ゼ 絶体絶命、銭がない
ゾ 像の銅像、どうぞどうぞ
〇子音のトレーニング③ 夕行 ダ行 ナ行
チ、ティ、ツィの違い
チ「tʃi」をささやくように「チー」と伸ばして発音すると、最初の「チ」の音のあとに、「シ」のような摩擦音が「シー」と続きます。「アチー!」の「チ」です。「ティ」ではありません。
ティ「ti」、ツィ「tsi」を伸ばすと、「イー」となります。この2つは、ティーポット、ツィードなどの外来語の発音以外は使いません。
ダ行音の成り立ち
「ダ、デ、ド」は、夕行が無声音、ダ行音は有声の破裂音です。ヂとヅは音の上では、ジとズと同じです。「ヂャヂュヂョ」も「ジャジュジヨ」と同じで、特別なとき以外は使いません。
このように、ザ行音と共通のところが多いので、「ダデド」と「ザゼゾ」を混同しないように注意しましょう。「さざ波」が「サダナミ」、「なでる」が「ナゼル」、「のど」が「ゾ」になる人は、要注意です。
ナ行音と夕行音
ナ行は、舌の接するところは夕行と同じです。夕行音は破裂音ですが、ナ行音は舌を歯ぐきにつけたまま、息を鼻へ抜く鼻音になります。
「ナ」は、そのまま声を出さなければ、鼻から息が静かにもれます。そこで、鼻に手を当てながら「ナ」を発音すると、声が鼻に響いて振動するのがわかるでしょう。ナ行音は、鼻にこもらせないことがポイントです。
ハミングとナ行
響きを集める目的で、ハミングを使ってみましょう。
口の中を閉じ、唇も軽く閉じます。その状態で鼻のつけ根を意識してハミングをします。声を一点にめがけて出すようにすると、響きがまとまります。
やりにくければ、Min、Min…と声を出してみましょう。Na(ナ)やNya(ニャー)でも、かまいません。口の中を響かせようとして口を開けすぎないように注意してください。
〈夕行のトレーニング〉
夕 たまに玉ネギを使った/楽しい旅をしたい/ただで食べるタコ焼き
チ 知恵と力で勝ち取る/塵はきちんと持ち帰れ/地下鉄でチョコをちょっと食べる
ツ きつい靴は窮屈だ/つまみにつけたさつまあげ/つまらない付き合いを続ける
テ おてんとうさんがテラスを照らす/丁寧に手を洗う/転校生の手書きの手紙
卜 遠くにトンボが飛んでいる/灯台のともしびが届く/遠い都市の時計が止まるとき
〈ダ行のトレーニング〉
ダ 大ちゃん、大好き、大胆な
ヂ 赤地と白地の生地
ヅ 堤さんとつづきさんの小包
デ デレデレ、電話に出るな
ド 堂々、どしどし、どんくさい
〈ナ行のトレーニング〉
ナ 何が何でも夏がいい/泣き顔なのに涙がない/海原の七不思議
二 煮込んだ肉のいい匂い/二人三脚で荷造りして逃げた/兄さんを二度と憎まない
ヌ 濡れたような絹を縫う/ヌルヌルぬめる/塗り薬が塗れぬよ
ネ 寝るに寝れない熱帯夜/年々きれいになる姉さん/来年を念じながら眠る
ノ ノックののち覗く/納期でノイローゼの農民/野はのどかでノスタルジイ
〇子音のトレーニング④ ハ行 バ行 パ行 マ行
ハ行音の注意点
「h」の音は、ハーと息を吐くときの喉音です。喉の奥を「アエオ」より狭くして出す摩擦音です。「h」は咽頭からの深い声、喉声ですが、「ハヘホ」はこの「h」音と母音「アエオ」でつくられます。
「ヒ」と「シ」は調音点が近いため混同しやすく、「日比谷」と「渋谷」、「質屋」など、よく聞き間違えられます。地域によっては「ヒ」と「シ」を逆に発音するところもあります。
もっとも息の速いパ行
日本語を発したとき、もっとも速いのは、パ行「パピプペポ」です。波形に強い揺れが出て揺れるのです。
パ行は、唇で空気をためて、はじくように発声します。破裂させる音なので、手をあてるとわかるでしょう。一方、大声と発音の速度とはあまり関係ありません。
マ行音とバ行音の混同
両唇を用いる点で、マ行はバ行音と近い発音法であるため、両者は混同しがちです。
さびしい←さみしい/さむい←さぶい/けむい←けぶい/ムミカンソー(無味乾燥)←ムビカンソー/ムボービ(無防備)←ムモービなど、いろいろあります。
さびしい←さみしいのように、両方が一般化してきているものもありますが、本来の発音はどれなのかを注意することで、ことばに対する関心を高めるようにしましょう。
〈ハ行のトレーニング〉
ハ 箱を博物館へ運ぶ/華やかではかない花火/蜂に刺されて鼻はれた
ヒ 広い額の人にひるむ/光る瞳にひかれる/昼寝する人に昼飯広げる人
フ 不快不安感が心を塞ぐ/工夫をこらした豆腐のフライ/不意に触れ合う二人の心
へ 塀や兵器のない平和な世界/へとへとにへたばる/平気で変な返事する
ホ 星が微笑む豊作の村/頬のほてりは惚れてる証拠/本を翻訳したのは本当?
〈バ行のトレーニング〉
バ バイバイ、バラ色のバス
ビ ビタミンBとビタワン
ブ 不恰好な部下をブイブイいわす
べ べっぴんなベイビー、べたぼめ
ボ ボスのボサボサ帽子
(パ行のトレーニング〉
パ パパのパパイヤ、パイナップル
ピ ピチピチのヒッピー
プ プータローは、プリンス、プーさん
ペ ペリカン便、ペダルでペチペチ
ポ ピンポン、パンポン、ポンポンド
〈マ行のトレーニング〉
マ まるで待ちかねたように松の木/前々から前歯が曲がっていた
ミ 耳に水が入る/未知なる道を見つめる/みんなで未来を見つけよう
ム 無邪気な娘に夢中/息子は六日に婿入り/昔むかしの虫かご
メ 名月に女神を愛でる/しめしめ、しめじ飯だよ/迷宮で女神にめぐり逢う
モ 桃をもらって来い/もうモラルをもとう/身も心も燃え立つ
〇子音のトレーニング⑤ ヤ行 ラ行 ワ行
ヤユヨとは
ヤユヨは、「イア」「イウ」「イオ」のように、「イ」の口の形をして「ア、ウ、オ」を発音します。そのため、イ、ユ、ヨが混同されています。行く(ユク、イク)、良い(ヨイ、イイ)などです。これはどちらも認められています。力が入ると、「ヨコハマ」が「ィヨーコハマ」のようにねばっこくなってしまうようです。
「R」「L」の発音
ラ行は、日本人にとってはなかなか難しい音で、いくつかのパターンがあります。「ホラーッ」のような、はじめるように聞こえる弾音と、「ブルンブルン」というときの強い震え音、巻き舌で話すときの音です。
英語の「L」の発音は、前もって舌先が歯ぐきに触れていて跳ねる音です。ラジオ、ロボット、リズムなど、語頭に多く用いられます。
「R」の発音は、舌先は軟口蓋で口の奥で発し、Rは唇を丸め、舌先を上(口蓋)につけず口先で発します。
「わたし」と「あたし」
ワ行の「w」は、口構えをウ「u」に近い形にして発する両唇摩擦音です。しかし「w」は、英語の発音ほど両唇を近づけません。「わたし」と「あたし」を区別できますか。
〈ヤ行のトレーニング〉
ヤ 深夜の山はやばい/闇の中で優しい声に安らぐ/安い八百屋が休み
ユ 湯上がり、雪でゆとりの日/優雅な百合の花/憂鬱は優柔を誘発する
ヨ 夜な夜なヨーグルトを食べる/陽気な妖精と夜を明かす/よそよそしさを装う
〈ラ行のトレーニング〉
ラ ラベンダーとバラの快楽/ライブのラストはラブソング/桜は暗いときに開く
リ 理想を力説するリーダー/リリカルな輪郭と彩り/漁師の料理が立派にできた
ル 投げる走るも攻めるが肝心/落雷のなか落涙する/留守にルビーを盗まれた
レ 彼は熱烈で華麗、でも冷淡/レンガづくりの歴史的レストラン
ロ 浪曲を6曲録音する/ロザリオを持つ牢屋の老人/路地をうろついていろ
〈ワ行のトレーニング〉ワ 私は笑いながら別れをかわした/忘れられない脇役の笑い声/我の脇に若い人
〇拗音・撥音・促音のトレーニング
拗音…ャ、ュ、ョ
カ「ka」に対してキャという音があります。音韻論的には、キャはカ「ka」の中に半母音「j」がはさまって「kja」という拍(音節)になっているとも考えられます。このように子音+母音の拍(これを直音といいます)に対して、半母音が入った拍を拗音とよびます。
拗音は、音声学的にみると、「k」「ɡ」「ŋ」「b」「p」「m」「ɾ」は、半母音「j」を経て母音「a」「u」「o」につながる音であり、その他は「ʃ」「ʒ」「dʒ」「tʃ」「ɲ」「ç」に母音「a」「u」「o」がついたものです。また、千住(センジ)、手術(シュジツ)、新宿(シンジク)などのように、拗音なのに、拗音でない発音になることもあります。
撥音…ン「m」「n」「ɳ」「ɴ」
撥音は、両唇や舌などで口からの呼気の出口を閉じ、鼻腔へ逃がす音です。文字は同じ「ン」で表記しますが、後にくることばによっては音は違います。
原則として、「ン」のあとに「p」「b」「m」の両唇音がくる場合は「m」の音になります。「t」「d」「n」「r」などの歯ぐきと舌先を使う音がくるときは、「n」の音。あとに「k」「ɡ」「ŋ」(鼻濁音)など軟口蓋と後舌でつくる音がくる場合は「ɳ」の音。「s」「a」「o」「u」「w」「i」「e」「ʃ」「j」などの音の前にあるンは、聞き取りにくいので、はっきりと出すようにしましょう。繊維(センイ)、官位(カンイ)など、「ン」のあとに「い」がくると、難しいです。
促音…っ
促音は、小さい「っ」を使って表記します。そのあとに続く音を発する口構えのまま一拍分、息をこらえます。そして、次の音を強い息で出します。つめる音、つまる音で圧迫した声の出し方で、日本語の特徴のひとつです。ガッカリは「k」の口構え、ヤッパリは「p」の口構えとなります。いつも小さい「っ」の発音が伴うとは限りません。
促音が小さい「ッ」で表記されるため、たとえば「カムチャツカ」(×カムチャッカ)、「かつて」(×かって)、「トロツキー」(×トロッキー)など、本来促音でないものが、促音のように間違って発音されるケースもあります。
「華奢でキュートなギャルは、社長の出張に躊躇した」
(1)キャキュキョ「k」ギャギュギョ「ɡ」ギャギュギョ「ŋ」
(2)シャシュショ「ʃ」ジャジュジョ「dʒ」
(3)チャチュチョ「tʃ」ニャニュニョ「ɲ」
(4)ヒャヒュヒョ「ç」ビャビュビョ「b」ピャピュピョ「p」
(5)ミャミュミョ「m」リャリュリョ「ɾ」
〈撥音のトレーニング〉
「仙台の新聞社でガンガン働いている」それぞれの「ン」の違いを知りましょう。
n:仙台、先頭、宣伝、反対、残念、線路
m:新聞、先輩、連盟、憲法
ŋ:ガンガン、散会、宣言、演劇
〈促音のトレーニング〉
「やっぱり、がっかり。やっただけでおわった。」