〇声の力は伝える力
話は、口から出た言葉が一瞬一瞬で消えてしまうライブのようなものです。だから、一度、口にしてしまった言葉は取り返せません。やり直しがきかないのです。そこであなたが意識しようとしまいと、あなたの声から、醸し出された雰囲気や感覚は、話の内容以上に、その話の印象や価値を左右してしまいます。
どんなに内容にすぐれていても、あまり関係ありません。声でどう伝わるかどうかということによって、話の効果が大きく違ってくるのです。
つまり、話のよしあしは、話の内容だけでなく、話の伝え方で決まります。しかし、話す力をつけるのに、声の力も含めた伝え方を私たちはあまり学んでいません。ここでは、この大切な話すための声の力、話声力をつけることに重点をおきました。
〇声の判断
声の判断で難しいのは、
1.現在、自分がどのくらいのレベルにいて(現実)
2.どこに達しようとしていて(目的)
3.そのギャップをどのように埋めていったらよいのか(手段)
4.さらにどのようによくしていくのか(理論)
を、把握していないからです。
多くの人は、
1.客観的に自分の実力をつかんでいないまま
2.不明確な目的に対し
3.あいまいなやり方でくり返しています。
これでは、効果も期待できません。何の分野であれ、客観的に評価して正せる、もう1人の自分がいてこそ、上達するものです。
〇声の学び方
話というのは、どんな人が話しても、それなりに話として何となく聞けるものです。ですから上達の第一歩は、プロとどこが違うのかを、細かくみるところからです。
たとえば、自分の声を録音したなかに、プロの人の話を間にはさんで、友だちに聞かせても区別がつかないというレベルにもっていくというのを、目標とするのもよいでしょう。
声にも、実力アップのための基本となるスキルがたくさんあります。それを学びましょう。
次に現実に使う実践例で、まるごと声の使い方を習得してしまいましょう。
難しい理屈はさておき、ご自分の耳から入れ込むことで、いつでもスラスラとよい声でよい間合いで語ることができる、そうであってこそ、あなたの声もしぜんと根本的によくなるのです。
声の基礎づくりと話という表現活動とは、次元が異なるステップです。これを一緒にやろうとすると、どうしても声の基礎づくりがなおざりになるのです。話としての表現を考えつつ、声の基礎トレーニングをしましょう。
※日本語、敬語やことばづかいのマニュアルは、たくさん出ています。しかし、ことばより大切なもの、同じことばでもいい方や口調によってまったく効果が違うことに、多くの人は、まだまだ無自覚です。
どんなに滑舌や発音のトレーニングをしても、人間関係やビジネスはうまくいきません。人は、そのことばだけでなく、そこでの声のニュアンスで、本当のところを判断しているからです。
ここでは、多くの話し方やことばづかいのメソッドとは、一味違って、ビジネスや人間関係のシーンに役立つことばのトレーニングを集めました。生きた声を見本として、そのまま耳に入れることによって、声の使い方を実践的にマスターしていこうというものです。
これで、ことばを文字で理解し、伝えることの練習が徹底的にできます。ここにとりあげる声の表現法をしっかりとマスターすると、仕事や日常生活における問題は、大半、解決することでしょう。
必要なことは、演劇部や放送部での基礎トレーニングのようなものです。
これからの社会において、声の使い方は欠くことのできない必修資格となってくるでしょう。
ですから、今、人より先んじてこの学習することは、絶大な効果をもたらすでしょう。それはあたかも、外国語を学ぶ人のなかで、あなただけがラジオで直接、学ぶようなものです。
ビジネスでよく使用することばと合わせて、声を学ぶことができるのです。
私の長年携わってきたヴォイストレーニングのベーシックなトレーニングがお役に立つのは、とてもうれしいことです。是非、うまく活用して、人間関係における最強の武器である声とその使い方を手に入れてください。
〇話し手のタイプで声の使い方は違ってくる
話と一口にいっても、いろいろなタイプがあります。内容としての知識や情報を与えることを主とする人もいれば、話をイキイキと伝えることを中心としている人もいます。
どんな話し手も、いろんなスタイルが混ざっています。
私は、いつも人の話はメモをとって聞くのですが、話がうまいといわれる人は、いくらメモして話しても、そのよさは、他の人に伝わらないものです。その場にいなくては、味わえない“臨場感”に支えられたライブステージのようなものだからです。声もとても印象的です。
それに対して、内容の価値で評価される人は、いわば作品をパッケージして伝えられるスタジオ録音制作型とでもいえましょう。
同じ内容でも、声で伝えられるスキルによって、何倍もの効果が違ってきます。たとえ、つたない内容でも、人に魅力的に自分をアピールできるようにさえなります。また、よい内容なのに、皆に充分に伝わらないという憂き目にあうこともなくなるでしょう。
〇他の人の内容を借りて自分の声の力をチェック
よい話には、内容と伝達力が必要ですが、これを両立させることは、なかなか難しいものです。そこでまずは、話すことに重点をおきます。両方、いっぺんにやろうとすると、どうしても内容、つまり、話の原稿の方ばかり気になるからです。
それには、まねから始めてみるのが早いでしょう。すでにできあがっている他の人の話から内容を借りて、声のトレーニングをしてみましょう。
噺家のように、同じ話を何度も、練習するのです。すると、内容でなく、伝達での自分の実力もわかり、何を学べばよいかもはっきりとしてきます。
話の内容、組み立て、構成展開、声のトーン、使い方、間など、それぞれ人によっていろんな特色があります。
一人の声からも多くのことが学べますが、多くの人の声に手本をとると、その比較から得られることは、より大きいでしょう。よい話し手には、共通のルールというものがあるからです。
他の人の話を文章に起こしてみるのも有効な手段です。内容、構成にさまざまな工夫が見えてきます。問題は、そこからです。同じ内容がどう話になるのか、原稿ではみえない話の声のノウハウを身につけていきましょう。
同じ話を、話のうまい人と同じレベルで声を使えるようにできたら、それは話し手としてのノウハウを手に入れたことになります。
まずは、話の中に声の世界があること、それがどのようになっているのかに着目してみてください。
〇話し手のタイプについて
大きく分けると、話し手にも、いろんなタイプがいます。もちろん、話すときの相手や目的によっても変わります。自分のことを考えるときの参考にしてみてください。
1.話芸型
A…その人の声を聞けば元気になるハイパワーヴォイスタイプ
現われるなり出迎えた相手の肩を叩き握手を求めるような人。いつも、ハイテンションで人前に出て、そのまま熱情的な声で話す。この人が身体からの声で語りかけると、言葉に命が吹き込まれ、思わず皆が聞き惚れる。パワー、インパクト、スキンシップ、表現力、表情に秀でる。個性を売りものとする。
B…一芸として確立された〇〇節を披露する話芸ヴォイスタイプ
テーマはいつも同じ。噺家のように同じ展開、同じおちがつく。聞く人は、同じところで笑い、同じところでほっとする。間や手振り身振りなど芸が細かく洗練されている。話し口や声の使い方に独特のものがあり、その味わいに人は耳を傾ける。
C…パフォーマンス型の大道芸人香具師口上ヴォイスタイプ
声も大きく、身振りやジェスチャーも派手で見ているだけで飽きない。おもしろさや時流に応じた話材を的確に組み立て、提示する。観客コミュニケーションに重きをおく聴衆参加型。会場のなかをまわったり、小物の演出に凝る。ときに聴衆も質問を浴びせられたり、壇上にあげられたりして協力させられる。観客との一体感、コミュニケーションを重視する。欧米人に多い。発声、トーン、メリハリ、間合いにすぐれている。
2.内容(知識、情報)伝達型
D…プレゼンテーションタイプ
パソコン(スライド)など最新機器で動画や図表を使い、わかりやすく伝える。話をビジュアル化するので、わかりやすく、説得力がある。話の内容や情報を、うまくまとめている。企画営業マンタイプ。
E…スペシャリストタイプ
幅広い知識に支えられた持論を展開する。聞く人が理解できるレベルであるときには伝わる。話力はあまりない。博識、内容の質でカバーする。学者、大学の教授などにも多い。
F…コメンテータータイプ
身近な例や比喩を使って、難しい話を優しくおきかえて説明する。最新の情報、専門の分野については特に強い。鋭い切り口で分析をする。話の構成、組み立て、声での見せ方もうまい。若い人の趣向によく通じており、タイムリーで造語力にたけている。テレビや講演など、マスコミにも重宝される。評論家など。
G…ジャーナリストタイプ
数字、データ、多くの事例や経験によって、他の人のもっていない情報を売りものとする。専門分野をもつ人や、特定の業界、分野、国、仕事に詳しい。声は、人によってさまざま、テンポも使い方も、よい人も悪い人も幅がある。