〇伝える必要性を意識しよう
声のよしあしには、伝える必要性を話し手がどの程度、意識して話しているかに負うところが大きいものです。たとえ、子供でも、本当に心から訴えたいことは、ことばが足らなくても、声で伝えることができるものです。その声がまわりの人の心を強く動かすこともあることでしょう。
ところが、そんな子どもでも、教室などで話すことを強いられたら、しどろもどろになりがちです。まして、急にスピーチなど、内容も考えていないことを、話す必要を感じないところで話すのは、難しいことです。
私も、自分ではっきりと知らないことを無理に話そうとして、うまくいかなかった経験があります。まして、何のために話すのかがわからずには、なかなかうまく話せません。
つまり、自分のよく知らないことや伝えたくないことは、うまく話せないものなのです。こういうときの声は、不安定で、よくありません。
〇声に表われる意志力
どのような声がもっともよく使えるかは、いろんな要素がたくさん働いているので、一概にはいえません。しかし、こうしてはいけない、こうしない方がよいということでは、いくつかあります。
まず、話す意志が声にどう表われているかが問われます。人に伝えたいとか、わかって欲しいという意志が必要です。それがない話は、他の人に働きかけません。どんなによいことを話してみても、よい話だったという、よい印象を残さないのです。
実際に内容を考えて話したのは、あなただったのに、あとから誰かが説明して、はじめて皆が納得し、その人が考えたもののような印象になったという経験はありませんか。
つまり、話をする以上、自信をもって自分の考えを主張するということが、第一の条件です。自信をもって堂々と声を使うことができたら、話す問題の半分は解決したのも同然です。うまく話せるということは、自分の伝えたいことをいかにしっかりと伝えられるかということなのです。
〇声で伝えることに専念する
多くの人は、話すときに、伝えた結果、どうなるのかとか、こういうと人にどう思われるかなどとばかり、考えています。その場でまだ考えているということも少なくないようです。
内容をきちんとまとめていないから、自信をもって切り出せない。すると、身体から呼吸を使い、メリハリのきく声で話せなくなります。
話した結果に対して責任をとる覚悟がないと、声に説得力が表われません。人に声を使うときは、いかにうまく伝えるかに全力を投じることです。歌い手がステージに立つときに、選曲のよしあしを考えてもしかたないでしょう。そこでは、ただ出し切るのみです。
多くの人は、うまく話せないから自信がないといいます。すると自信がないから、うまく話せないという悪循環になります。
これは、いらないことを考えすぎるからです。声についても同じです。そのまえにしっかり考え、いい切ろうとしないから、うまくいかないのです。
あなたは、話し手として期待されている役割を演じればよいだけです。多くの場合、すでに内容ももっているでしょう。そうでなければ、まずその準備をしっかりとやらなくてはなりません。
そして、誰でもあたりまえにいえる内容であっても、いかに皆にわかりやすく、うまく伝えるかということを練習するのです。どうせ話すなら、話す自分、声を出す自分を楽しむところまでいきたいものです。
〇話すことに専念するな
次に、話すことに一所懸命になるのはよいが、伝えることを忘れて話すことに専念していると、あなたの意志に反して、案外と伝わらないものです。いうなれば、自己陶酔したへたなカラオケと同じです。歌は歌えばよいのではなく、聞く人の心に伝えることが必要です。伝える努力が必要です。そこに気持ちがいっていなければ、うまく伝わることはありません。
社長さんの話というのは、声ベタ、話ベタでも、案外と聞いている人にうまく伝わります。自分の考え、伝えたいことがしっかりとあり、それを伝えようと苦心して人に話をしてきた経験があるからでしょう。その努力がなければ、人は動かないし、会社はおかしくなってしまっていたことでしょう。
伝わるということは、話がうまいということではありません。話すというよりも語りかけるというほうが適切かもしれません。
〇話しすぎることに気をつけよう
私も、たくさん早く話せば多くのものを伝えられると、のべつまくなしにまくしたてていたときがありました。これは聞く人に労を強いることになります。
聞く人はたくさんのことを聞いて混乱したり、頭を疲れさせたいのではありません。わかりやすく心地よく話を聞いて、頭に負担をかけたくないのです。その場を楽したい、楽しみたいという人も多いのです。
そういうときは、自分の声を気にかけてみましょう。少しゆっくりめに、少していねいに声を出すのです。
話しすぎて失敗するのは、最悪のパターンの一つです。つまり、聞く人への思いやりがないということで失格です。
たった一分間でも、聞く人は短い人生の時間を、あなたの話を聞こうとしてくれています。そこでは、聞く人を思いやることからです。聞く人のことを絶えず、考え、自分の話を律することです。
〇感謝のことばが、口につくように
「ありがとうございます」
毎日、いつでも、誰にでも使ってほしいことばが「ありがとうございます」です。
落とし物を拾ってもらった際に、「あら、いやだ……」ではなく、すかさず「ありがとうございます」がいえるようになりましょう。
「ありがとうございます」をたくさん使える人ほど、感謝する気持ちを相手に伝えることができます。
これは、相手の心に働きかける、もっとも大切なことばです。
〇自分の声について正しく知ること
なぜ声を出すことが苦手なのかという答えのほとんどは、声のトレーニングをしていないからといえるでしょう。
ここからは、実践的なトレーニングに入っていきます。
まず、録音、録画できる機器(スマホでよい)を用意してください。
録画の方が、トータルのチェックができますが、ヴォイストレーニングでは、音声だけでチェックする方が効果的です。
次の順に録音しましょう(最初の記録になります)。
1.ことばを使う
「こんにちは、元気ですか。」
「みんな、ありがとう。」
2.役者になったつもりで話す<3分間>
「何か用かい(かしら)。」
「どこへ行くんだ(行くの)。」
「それじゃあな(ね)」
3.自分の好きな詩(歌詞でもよい)を読む
4.新聞のコラムを読む
そして、再生して聞いてみてください。
どのように感じましたか。
多くの人は、何だか自分の声ではないような、変な声のように感じるようです。しかし、この声こそ、あなたの今もっている生の声(に近い声)なのです。
自分でいつも聞いている自分の声は、内耳を通って聞こえる声、あなただけが自分の声と思っている声です。
もし、機器やマイクの性能のせいだと思うなら、他の人に聞いてください。
他の人の声も、いろいろと録って聞くとよいでしょう。
誰の声か、すぐにわかる、ということは、あなたの声も再生されている声が近いということなのです。
よくも悪くも、この声とつきあっていくのです。
ですから、この声を少しずつ、磨いていきます。
再生した自分の声が、素晴らしいと思えるようになるまで、がんばってください。
〇ヴォイス診断( 年 月 日) [各5点満点]
再生した声をもとに、声の診断をしておきましょう。
1.ことばは、はっきりと聞こえるか。
1・2・3・4・5
2.息がしぜんに流れ、無理がないか。
1・2・3・4・5
3.声に潤いとつやがあるか。
1・2・3・4・5
4.若々しく魅力的な声であるか。
1・2・3・4・5
5.息苦しさが感じられず、安定しているか。
1・2・3・4・5
6.息のもれる音やかすれる音が入っていないか。
1・2・3・4・5
7.声が前にひびいているか。
1・2・3・4・5
8.音域にも音色にも余裕があるか。
1・2・3・4・5
9.小さな声も大きな声もきちんと聞こえるか。
1・2・3・4・5
10.身体から声が出ていて喉をしめつけていないか。
1・2・3・4・5
〇声の鏡をもとう
いかがでしたか。でも、あまり心配しないでください。最初は誰でも思った以上に声をうまく使えていないものです。
まずは、声に関心をもつこと、そして、日常の生活のなかで、自分がどのような声を出しているのかを気をつけることです。それだけでも、まったく声に関心をもたずに毎日を過ごしている人に比べたら、随分と声がよくなるのです。
元々の声がよくないのではありません。今まで、声を意識してこなかったから、うまく使えないのは、当然のことでしょう。
役者であれば、自分の表情、身振りが、他の人の眼にどう映っているのかは、鏡をみなくてもわかっています。だからこそ、人前で堂々と役になり切って演じることができるのです。しかし、そうなるまでには、何回も鏡や録画をみて、自分の表情・動作がどうなっているのかを確かめてきたわけです。こういうこともトレーニングするとよいでしょう。
しかし、まずは、声に全神経を集中してください。
自分の声、他の人の声、声をプロとして使っている人(アナウンサー、声優、ナレーター、落語家など)の声とその使い方をしっかり聞くことです。
よい声をたくさん聞くと自分の声もよくなってきます。これも、ヴォイストレーニングの基本です。