音色の動き No.290
○音色の動き
皆の中でも、ときに、いい音色が出ているところがあります。それを指摘しないのは、そこだけ見ていてもしかたがないからです。こういうところが出て、伝わったといっても、20点くらい、こういう流れのところから、いきなり外れてしまったり、声がせっかく出ているのに、統制とか統一とか、集中力なのか、つかんでいる部分なのか動きをつくっている部分なのか、しばらくは待つしかない。そこから変な方向にいってしまう人もいれば、よくなっていく人もいる。
結果としてよくなる変化と悪くなる変化がある。そこの中で駆け引きしていくのです。その辺になってくると、先にどうやりなさいとはいえないのです。
○わかる
その人がやってみたときに、よければそれはいいといわなくても大体わかります。ほとんどの場合はそういうふうにはいかないから、そういうところが見つかるところまで、期待しながらやっていくということですね。
課題を短くすると、音域はせまくなるし、集中力は持つから、打破するきっかけになる。日本人のもっとも練習すべきところは4フレーズくらい、半オクターブくらいのところです。所さんのつくる歌はそのくらいです。オチがついて終わってしまいますが、そこまでは歌っているようには聞こえないわけです。
○切り取る 切り替える
切り替えが早いですね。距離をいろいろな意味で変えていますね。多くのクラシック歌手は同じところで歌ってしまいます。好きに切り取ってください。
こういうところも、歌では「にゃー」とか「の」くらいしか残らないです。残るところというのは、たくさんの歌を聴いたらわかるのです。たとえばここで切り替えられて、まったく違うものが出てきた。
○残る
「ルルル」といった後、空白があって、大きく言っているところしか聞こえないのです。こういうところをまわして、10人も20人も同じフレーズを歌ったときに、何が残るかということです。他人と違うことをやっている人ですね。それがすごく下手だと残る。下手だとあまり残したくないから、何かしらみせられた人、ひとつの条件は、ここで完全に変えられるかどうかです。
○呼吸で
呼吸からいうのは、日本人にとっては難しくて、歌って成り立っていること、一つひとつが成り立っていること。
「だけど」が成り立っていること、それから次の「ルルル」につなげる。それからその前の「さわ」の「ぐ」のところにつながっていること。「ぐーだけどー」と歌っていて、「ぐ」で切って、そこを受けて次の呼吸で、せりふの中の間合いとかきっかけとか違ってきてしまう。うまい落語家は、登場人物を音色でわけるのは誰でもできるのですけれども、息でわけてしまうのです。男性と女性の息、物語が展開していきます。
○呼吸を変える
呼吸を変えられるヴォーカルはあまりいないですね。クラシックの場合は、発音という準備をしなければいけないですし、コピーで目一杯。本来、それぞれのところを成り立たせながらつないでいく。呼吸を変えていかないと、自分の呼吸がないと、本当の意味では伝わらないですね。
そういう意味でいうとこの作品はうまくできています。なりきっている、演じきっているということで、うまく見えてくるし、そうは見えなくても、それをなりきったところで引き受けている。役者の力も必要だと思います。
○同化しない
4曲歌ったら、だいたいの人は同じようになってしまう。1曲の中でも同じような歌い方をしない。これが漫才だったら持たない。お笑いで、本当に見てほしいと思うのは、大きくは、同じペースで世界観をもちながらも、同じようにいったらダメなのですね。早くなっていくテンポで息つぎが短くなっていたり、急にふっと抜けて違うところから言葉がポッと入っていたり、そして新鮮さを維持しなければ、お客さんは飽きてしまう。
○攻める
音楽の場合は守られてしまっているでしょう。リズムがついてメロディがついている。言葉がついている。練習としては、それを外すことをやらなければいけないですね。
伸ばしてはいないのに、どのくらい伸ばせるのだろう、どのくらい間を空けられるのだろう、その感覚で、攻めて成り立たせたものにおいて、無理に歌うところから始めなければいけない。
○区分けしない
外国人の場合は、それをあまり無理に歌いあげようとしないです。クラシックもポップスもない。せりふも歌もあまり区分けがないのです。ところが日本の場合は、それを区分けしたところから入っているから、今のような歌い方をしたらリズムがとれていないとか、音がとれていないではないかとかが基準になる。レッスンは、さらにそうですね、そこしかいえないのでしょう。感情が入っていないというと、感情を入れては乱れてしまうわけです。デッサンをきちんとして、どのくらい、それを塗り固めるのか、どのくらいで離すのかというようなこと、それが独自のものになっていかなければいけないと思います。
○声楽の弱点
「明日はどっちだ」をのせるために、これだけ大きくフレーズをつくっています。「何かある」の「あ」だけが、ちょっと声楽っぽいですね。このまま「る」もいってしまうと、声楽出身者と思ってしまうのです。微妙なところですね。「あ」をあのポジションには、普通持っていかないのです。この場合、たまたまそうなったのではないかと思います。
○声楽とせりふ
いろいろな響き方が出てくるのですが、その中で上に引っ込めた、いわゆるきれいに母音を響かせるほうに動かしたやり方ですね。そのところで全部歌いなさいというのは、声楽の先生ですね。今は流行しなくなったような歌い方です。声楽の勉強は、ヴォイストレーニングで、せりふの勉強と兼ねると役立つような歌い方ではないかと思いました。
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