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2011年2月

「コール&レスポンス」 Vol.234 

こんな話をしたことがあります。歌い手にとっての一番の幸せは自分の歌を観客の前で歌えることと観客に自分の歌を歌ってもらうことだと。

自分で表現することに対して、表現させることですね。でも、それは自分一人よりもっと大きい表現です。聞くだけの観客でなく、歌う観客のほうが盛り上がりは大きいでしょう。端的にいうと、いわゆるロックのシンガーの“イエイ”コールと、オーディエンスの“イエイ”のレスポンスということです。問題は、“イエイ”のあとに動けるか、相手を動かせるかです。何事においてもコールとレスポンスの主導権争いで展開していくようなものが理想かもしれません。(私がトレーナーを続けてきたのは、そういうことでもあったのかもしれないと思うことがあります。自分が大きな木となるか、―粒の種をまくか、似たようなものですが。)

 

これまで「歌心」とか「間」とか、「伝わる」とかいろんなことばでいってきました。すべてのテンポが速くなるとレスポンスも早くなり、置いていかれないようについていこうと急ぐ。まるでゲーム機器のソフト開発のようです。今こそ、ハンドルや釣り糸の遊びといった、play、余白の効果が見直されるときでしょう。

 

私は合宿でフレーズコピーを参加者全員にやらせていました。自分の選んだ最高の1フレーズを一息で歌い切り、それを囲む全員20~30名が同じようにそのフレーズをコピーして、振りや声色やアクションもまねて、すぐに返すというものです。歌のうまい人のコールへのレスポンスはみながぴったりと一息で入れ、ぶれません。つまり伴奏者が引きやすいヴォーカリスト=うまい、のようなものです。そういえばタモリさんがやるように「友だちの輪・・・!ワッ」(「ワッ!」)の実習もやらせたときがありました。が、このコールでもけっこうはずしてしまうものでした。

これらは誰かのように上手にやればよいのではないのです。自分のフレーズで呼吸を自ら学んでいく、つまり自分が学んで、自分でつくったそのルールを自分自身の全身で統一して、まわりを乗せ引き込み、瞬間に時間と空間を一つにして、一気に出して決めるという高度な技です。自分の作品というオリジナリティをまわりに問い、一瞬にまわりの理解と気持ちをとりつけるのです。

 

一流のアーティストはそれをいともたやすく作品の中でやっています。全く気づかないくらいにしぜんにです。そこに私が日ごろ述べていることをすべて含んだ上で、さらに創造を加えているのです。自分でありながら他人に入り込む、他人の呼吸をコントロールし、他人をも心地よくして、その口をしぜんと開かせ、声を出させてしまうのです。

あなたは、人生でそんな歌を一曲でも歌っているでしょうか。

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