○自分の声は好きですか NO.248
〇自分の声は好きですか
あなたは自分の声が好きですか。
他の人の声は正しく入っているのに、録音した自分の声を聞くと、なんか違う、嫌だと感じる人は多いものです。
「本当にこれが自分の声の声なのですか」と、思う人も多いようですが、録音された知り合いの人の声が、聞いてすぐに分かるくらいには、聞こえてくる自分の声も、そう聞こえているのは確かです。
実際には、頭の中を伝導しているので、自分で聞いている声の方が、少々低いです。そう考えると、自分の声というのは、自分が出すものなのに、リアルタイムに他の誰もが聞くようには、一生に一度も聞けないわけです。
自分の声が嫌だと思う人は多いのですが、「他の人の声になりたいですか」というと、どうでしょうか。
「自分の声は好きではないけれども、他の人の声にはなりたくないです」という人の方が多いのです。
さすがに、声を取り替えるのは抵抗があるかもしれません。でも、今は整形する人も多いでしょう。そのうちに、声をよくする手術も行われることでしょう。
他の人の声は当たり前と聞いていて、自分の声は変だと思っているものですが、よくよく聞いてみると、案外と他の人の声も変なのです。友達や家族の声は何回も聞いているから、普通の声だと思っているのですが。本当によく聞いてみたら、変なはずですから、安心してください。
鏡をみると、すぐに髪型や服装の乱れは直せますね。メイキャップを直すように、自分の声を直していくことはできないものでしょうか。
「鏡の代わりに録音しては直すのです」、でも「どう直せばよいのですか」「どこがよくないのか、どうしたらわかるのですか」ということで、中には、「声はもうあきらめています」という方もいます。
「出し方を変えると、声はかなり変わるでしょう?」というと、「だからよけいにどう直せばよいのか、よくわかりません」、「丁寧にいえばよくなりますか」などとなるのです。しゃべり方は直せそうですが、声は体の一部という感じがして、直しにくい気がするのでしょう。あなたには、「あの声がいいな」という、あこがれの声の人はいませんか。そういうところから、声を知っていくのも大きなきっかけとなります。
〇自分の声を変に思うのは
では、どうして自分の声だけ、変に思うのでしょうか。
先に述べたように、外耳だけで聞き慣れていないのが第一の原因です。
次に、多くの人がテレビやラジオの出演者を基準にしている、ということもあります。最近は、テレビに素人のようなタレントもたくさん出ているので、自分も同じように声を出しているつもりなのですが、タレントは場に慣れている上で、皆、けっこう苦労して直しているのです。
カラオケでも、エコーをつけずに自分の声を聞いてみると、ショックを受けますね。
問題は、そこからなのです。他の人はそのあなたの声を聞いているのです。その声がよくなれば、それはあなたにとってとても素敵なこと、何よりも魅力的になれることなのですから。
多くの人は、声は生まれつきのもので変わらないと思っています。でも、ときによって、いろんな声を出しているのです。
「何か読んでください」というと、ほとんど一通りの声しか使わないのです。ところが、日常の中で怒ったり、泣いたり、わめいたりするときの声は実に、いろんなところを使って多彩な声を使い分けているのです。
そのことを自覚して、一つのことばを言うときにも、少しずつ使い分けていくように、気遣っていきましょう。
〇言い方や声の使い方に留意する
何か話すときには、誰しも話の内容を考えます。ところが、その言い方や声の使い方について考えている人は少ないものです。
「役者やアナウンサーのようなプロではない」といっても、相手が聞いているのは、あなたのその声です。ビジネスにおいても、社長はもちろん、仕事のできる人は録音に耐えるくらいの音声表現をもっていますね。
例えば、電話では、親しい人との間になるほど、内容などはあまり聞いていないのです。声の調子、その声の感じで、体調や心情に、「具合悪い、何かあったの?」ということが直感的にわかります。声というのは、相手に対して、内容や意味以外にたくさんのことを伝えているということです。
電話で話しているときに、「体調悪いの? 風邪?」とか、「機嫌悪いの?」などと聞かれたことはありませんか。いつもと違うトーンで力なく言うと、そう受け取られます。会っていれば、表情などもわかるから誤解されにくいのですが。
声に関するこのような誤解は、とても多いのです。特に電話の場合は、声だけで伝わります。さらに困ったことに、あなたが気をつけていても、そのときの相手の受け止め方によっても違うのです。
私は、小学生の頃、親に映画館に連れて行ってもらって、その感想を聞かれたとき、何か適当なことをぶっきらぼうに言ったら、怒られたことがありました。これは、声のニュアンスが先走って、相手を怒らせてしまったというケースです。
こちらとしては、何の意図もなかったのに、切り出された声のニュアンスが、勝手に暴走してしまったのです。
こういうことは日常でも仕事でもよくあることです。
〇「伝える」と「伝わる」
伝わる声の第一条件は、声量です。声量は最低限、相手に届く音の大きさとして必要です。しかし、大勢の場では必ずマイクを使える現代においては、声量不足で、不利なことは少なくなりつつあります。
次に、届く声がどう働くのか、その働きの大きさを伝わるということで考えていくことです。
同じことを言っても、指示の伝わる人と、伝わりにくい人がいます。笑いのとれる人と、とれない人がいます。相手を心地よくさせる人と、不快にさせる人がいます。
また、同じ人でも、声の使い方一つで、相手を心地よくさせたり、不快にさせたりするものです。同じことばでも、言い方一つで、大きく変わります。確かに、ことばの使い方(ことばの選択)も大切です。しかし、同じことばでも、誰が言うか、どう言うかで、伝わり方は全く違うのです。
特に、人の心に働きかける、感情を動かすのは、ことばそのものよりも、その言い方ですね。
あなたも、ことばの内容よりもその言い方にカチンときたり、むかついたことはありませんか。反面、和やか、穏やか、やさしい声は、人の心を癒してくれます。電話で声を聞くだけで、初めての相手でも会いたくなったり、会いたくなくなったりするものではありませんか。あなたの声はどちらでしょう。
笑顔は人を楽しませ、安らがせ、幸福にします。声もまた、同じような効果をもたらすのです。顔は視覚、耳は聴覚に働きかけます。
あまりに視覚中心の情報処理が大きくなった今、聴覚への働きかけはもっと見直されてもよいと思うのです。
※余談ですが、最近は声の大きさに違和感や不快感を感じる人が増えたように思います。先日、初めて私は声を大きくしたいというのと全く逆の、声は大きいが、その大きさをセーブしたい(つまりは伝わる声にしたいということですが)というセミナーを研修会社で頼まれました。多分、若い人や女性に強い声を嫌う傾向が増して、それに対応したためでしょう。威張る声は、クールでなくなってきたのです。
〇声は、内面を表す
「人は見かけが9割」という本がヒットしました。面接では、その人の見かけや言動が採用を大きく左右するのはいうまでもありません。私の知り合いのベテラン面接官はこんなことを言っていました。
「その人の中身は声に出るんだよね。外見や使うことばは、それを数日でよくなるように教えてくれるところもあるし、そこで見違えるようになる人もいるけれど、声はそう簡単に変わらないから、声を見るんだよ」と。人事担当者の人をみる眼は、厳しいものです。その後の人材の評価が結果としてフィードバックされるだけに、それを何年も続けていくと、みかけでなく、五感と経験を伴った判断になります。そこで声はとてもモノをいうということなのです。
私も多くのプロといろんな仕事をして、ビジネスでも、大成する人、そうでない人をたくさんみてきました。見かけが大切というものの、出会いでの自己紹介から始まる、最初の見かけというのは、案外とあてにならないものということもわかってきました。「一所懸命やります」などと言う人に限って、自分の意に添わないと、簡単に投げ出してしまう人も少なくありません。
ビジネスは、ロングスタンスで判断するものですから、人もコツコツと、仕事をしっかりとこなす人に、信望が集まってくるものです。ですから、それは見かけや見たふりではなく、声で察した方がよいのです。声にはその人の内面や精神性が表れているともいえるでしょう。
ビジネスの大切なのは、客との出会いのときと、再会のときです。どんな商売であれ、客が集まり、それが続いていけばこそ、成り立つのです。となると、出会いを演出するのは、姿格好がものをいうとしても、その後のよい関係をキープするのは、まさに声を通してのコミュニケーションではないでしょうか。説得、納得をするにも、打ち解けた関係作りにも、「声をかけ」続け、相手の心に「声で応え」なくてはなりませんね。
その声に魅力があればよいことはいうまでもありません。
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