Vol.22
○声は間で決まる
声は、場の雰囲気にしたがって出ます。ゆっくり話している人にはゆっくり、急いでいる人には早くと、同調を強いるものです。だから、声そのものを変えるよりも、場を変える方が早いのです。そのチャンスは、間にあります。
“朝まで生テレビ”などの討論番組では、わずかな間に、次に話す番のとりあいが、繰り広げられます。TV番組では、ひな壇芸人などと呼ばれ、複数のゲストが発言を待っているようになりました。間でのホスト(MC)の発言の振り分け力が、番組の成否を分けてしまうようになってきました。しかし、これは一対一でも、一対多でも、同じことなのです。
●間をつかむトレーニング
話しすぎなきゃいけない圧力をとり、沈黙のできる相手になりましょう。せかさないことです。
気持ちを通じさせるのに対して、ことばはいらないのです。恋人たちの間には、ことばは邪魔ですね。電話でさえ、沈黙できるのが親しい関係です。
1.「いかがですか」「はい」(0秒の間)
2.「いかがですか」「はい」(1秒の間)
3.「いかがですか」「はい」(3秒の間)
4.「いかがですか」「はい」(5秒の間)
○間の感覚
間の感覚というのを知っておきましょう。ビジネスでは、応答の間がしばしば勝負の決め手となります。セールスマニュアルには、クロージングをかけてからの間を、声で出してはいけない時として述べています。
ちなみに、九州ラーメン一風堂のオーナーは、挨拶は2.8秒と言っていました。その絶妙な返答の間のトレーニングを、ここに入れておきます。
「ちわー」「いらっしゃいませ」この間を(1秒)(2秒)(3秒)(2.8秒)に替えてみてください。
○コールで
いかがでしたか。業態や状況によっても違いますね。
ちなみに、よくいわれる電話の3回鳴るまでコールも入れておきますね。1回のコールがほぼ何秒かを計っておくのです。
1.「ピー」「はい、○○です」
2.「ピー、ピー」「はい、○○です」
3.「ピー、ピー、ピー」「はい、○○です」
3では、やはり長く感じませんか。「お待たせしました」を入れる方がよいですね。
○余韻と間
声は音波として、空気中を、空間を広がります。そこは声量、トーンとして考えるべきといえます。切り終えたあとの余韻まで、大切なのです。余韻とは、残響音のことですが、これは耳だけでなく、心に残る、つまり伝わるものです。
一方で、声は音として、時間軸の中で、次々に送り出されます。バネの伝導のように、圧力変化(空気圧)を起こしています。つまり、文字と違い、時間とともにあるということです。
声は言った端から消えるのです。相手に伝えたつもりでも、伝わっていないのは、右の耳から入って左の耳に入るがごとく、抜けていくからです。
話の中では、声は途切れてもかまわないのです。間があるということは、そこでは呼吸があるのです。これを止めてはなりません。いや、止まったら死にますから、大丈夫です。この呼吸を読むことが、ここのレッスンの課題です。
○メモとスピーチ
文字は、メモでわかるように音声の内容を固定します。音楽における楽譜と同じです。書くことで情報量は著しく少なくなりますが、時間や空間を超えられます。近年、音声の録音、映像の録画が手軽にできるようになりましたが、私たちの方はまだそこまで対応できていません。
スピーチで原稿内容を詳細にチェックする人はいても、ヴォイスレコーダーで自分の読みのチェックをする人はほとんどいません。この方がずっと大切なのですが。アピールや来客を楽しませるよりも、儀礼的にこなす習慣が日本人には身についているのです。
●声を出さないところでの息読みトレーニング
ため息 1.浅い 2.ふつう 3.深い
疲れたため息、投げやりなため息を出してみましょう。
○息とことばから声にする
声のトレーニングのなかで伝わることを知るには、日頃、使っていることばの実感から学んでいくことが早いでしょう。短いことばをなるべく体から(お腹の底から)声をつかんで、ことばにします。簡単なことばで、しっかりと発してみることです。
最初は、正確な発音をあまり気にする必要はありません。体からの発声を重視します。それとともに、日本語を少しでも深く捉えるようにしていきます。
まずは、息でことばを読んでみます。これを「息よみのトレーニング」と呼んでいます。息読みのトレーニングは声帯を使わないので、のどを痛めません。初心者が、声を出そうとすると必ず、そこに無理な力が加わります。息でやると安全だからよいのです。
○息読みで読むトレーニング
1.次の文章(ことばのトレーニング)を息で読んでみる
(例文) 「これは、深い息を出せるようになり、しかもそれが声と結びつくためのトレーニングです。無理して急に強く行なうと、のどによくありません。」
2.文章を息で読んでメリハリをつける
3.文章を息で読んだあと、声で読む
4.息を3回「ハッハッハッ」と吐いて、1回「ハイ」と大声でいいます(20回)
5.息で「(アオイ)」といって、声で「アオイ」といいます(20回)
○ため息の効用
上司へのため息攻撃の練習ではありません。ため息というネガティブな経験もまた、ポジティブなスキルを知るために大切なのです。少なくとも、「ヒュー、ヒュー」とはやし立てる息のトレーニングよりは有効です。
なぜため息が出るかというと、そうして、私たちは、自らのホメオスタシスをキープしているからです。あくびと同じく、心身が必要としているのです。それを、ここではこれみよがしにやりましょう。「フゥー」 と、だいぶすっきりしませんか。
●外国語の基本となる「S」の10秒トレーニング
「S」で10秒間伸ばしてみましょう。これを教えていただいたのは、「英語耳ボイトレ」の共著者、松澤先生です。
●途切れをなくさずに言うトレーニング
3秒はあけないルールを述べました。1秒で「ハイ、わかりました」といえるのですから、3秒では、続けて3回くらい言えます。
クッション+理由+表明(ことば)+依頼 の形とします。
「お手数ですが、今後のためにも、その○○をご返送くださいませんか」
謝罪も同じです。
「この度は、○○の件で、ご迷惑をおかけして申し訳ございません。どうかご容赦くださいませ。」
○声の表情づけ
声がきれいでも、マニュアルを棒読みしているように、気持ち、感情が入っていないように感じられることもあります。ハキハキと口だけ、大きく動かすだけでは、なんだかつくった声のように魅力がなく聞こえてしまいます。
誰も声がきれいだから、とは感動しないのです。その人自身の魅力がそこに出て初めて、親しみと感動が生まれるのです。
そこで、次のようなことをやってみましょう。
1.声の発声原理をつかむ(オリジナルの声)
2.その声を動かし、表情も含め方向づける(フレージング)
3.ことばで表現する(組み立てる)
「あ~あ」という声を出してみましょう。
どんな感じになりましたか? どんな感情を入れましたか?
次に、自分が最初に出したパターンと異なる他の感情表現をやってみてください。できたら他の人に聞いてみるとよいでしょう。振りをつけて、大げさにやってみるとよいでしょう。
イマジネーションとそれを表現する声の技術が、大切です。声で伝えたい思いが少しも損なわれないようにしていくことです。
○気持ちを声に出すトレーニング
次のことばでやってみましょう。
「どうか、よろしくお願いします」
言うときに、気持ちをしっかりと入れてみてください。
何度かくり返して、心を表現できたと思ったら、録音して聞いてみましょう。
ことばで「どうか」「よろしく」「お願いします」を、それぞれ読んでみましょう。
次に、それを少しずつ大きくしていきます。大きな声でしっかりと言いましょう。そのうちに、ことばの流れに声の線が出てきます。それをつなげて、一つのフレーズにのせていきます。
○感嘆詞を使って声を伸ばすトレーニング
「あぁ!」「おぅ!」と、大きな声で言ってみてください。そこに感情が現れるようにです。
あなたはどのように感じましたか。次のような気持ちを入れて、いろいろと変えてやってみましょう。
1.退屈なように
2.投げやりに
3.驚いたように
4.感動したように
5.怒りを含んで
6.非難するように
7.あきれかえったように