これぞ究極に声がものを言う電話声
○電話で相手が聞きやすい声にする
やや高め、明るめに入るのが、日本人のビジネスコミュニケーションの基本です。そのことで、丁寧にへりくだって言う気持ちを表わします。
最近の電話はとても感度がよくなっているので、特に電話ということで気にかけることはありません。その人の発声によって、受話器に近づけた方がよいときと、少し離した方がよいときもあります。ただ、やはりお互いの表情が見えないので、ことばの頭の発音や間合いに、より気をつけてください。
携帯電話などは、受信状況が悪かったり、まわりが騒がしすぎてわかりにくいことがあります。そのときは、ゆっくりと話すことです。
わかりにくいと思ったら、ともかく、ゆっくりと大きめに話すことです。日時や価格といった数字は、しっかりと言い切って間をあけ、必ずくり返すことです。
○電話の切り出し
「もしもし」・・顔の見えない電話で、「申す申す」「申し申し」から始まり、「聞こえていますか」「ラジャ」のような音信通話、確認の役割のことばです。話では、「エー」「あの-」で相手の耳を惹きつけることや、マイクでは「コホン」と咳払いして、音の入りを確かめるのと似ています。
アナウンサーや司会、講演、人前で話す人は、「あの-」や「エー」という口ぐせは入れませんが、それは聞く人の体制が整っているからで、必要に応じて、話の途中にこういうことばは入ってもよいのです。ただくせになって、意味なく多用されるとよくないのです。
●留守番電話での応答トレーニング
携帯電話の留守録を入れてみて、それを聞きながら直していきましょう。(携帯電話のヴォイスメモでシミュレーションできます)
「お電話、ありがとうございます。ただいま、電話に出ることができません。申し訳ありません。すぐに折り返し連絡いたします。よろしくお願いします。」
自分で聞いてみて、どうでしょうか。
多くの人は、「あまり無表情な感じで、そっけない感じがします」といいます。
この短い中に、たくさんのものを入れていますが、つながりはできている文例です。留守番電話なので、あまり表情をつけすぎるのもどうかと思いますが、自分で聞いて、嫌だと感じるところや気になるところはありましたか。
「ありがとうございます」と「申し訳ありません」などと言っているところは、相手に対する表情が少しでも出せればよいでしょう。
では、一行ずつみていきましょう。
最初の「お電話、ありがとうございます」の「お電話」を唐突すぎる感じになる人が多いようです。そこで一呼吸置いてみましょう。
それから、「ありがとうございます」も、急ぎすぎないことです。
「ただいま、電話に出ることができません」の「電話」の「で」の大きさを、あまり目立たせないようにしてください。
「できません」「ありません」は、同じ感じで続いてしまいやすいので、少し変えてみましょう。
「申し訳ありませんが」とつなげる感じで、実際につなぐのもよいでしょう。
「ただいま、電話に出ることができません。申し訳ありません。すぐに折り返し連絡いたします。よろしくお願いします。」
この中で声の感じを変えるとしたら、「すぐに」の前だからです。
そこで変えると、最後まで一気に言って、四つの文章で捉えることになりますね。「申し訳ありません」は少しくどい感じがするので、これか、「よろしくお願いします」のどちらかはとってもよいと思います。それでもう一度、言ってみましょう。
(応用) 「はい、△△です。ただいま電話に出ることができません。発信音のあとに、お名前とメッセージをお願いします。」
自分のメッセージを聞いてみて、「暗い」という人は、どういうふうに変えたいか考えてみてください。
「もう少し透明感があるような感じというか、やわらかい感じにしたい。」などと、イメージをはっきりさせることで、やわらかい声が出せるようになります。さらに、フィジカルな部分のケアです。
鏡をみて、思いっきり口角をあげて笑ってみましょう。
まず顔をマッサージしてみてください。顔をもみほぐしながら、ついでに首の方も回してみてください。
肩と首の間を押してみてください。続けて胸の横の脇も押してみてください。このあたりが硬いとか凝っているのは、声によくありません。首から肩、肩から腕と、マッサージしながら、顔は笑顔にしていってください。
続けて、口の運動もしていきます。口を大きく開けたり、舌やあごを動かしてみます。まず一回、大きな声で笑ってみましょう。
笑っていると、そのうちにだんだんおかしくなってきます。それから徐々に、声を出しながら笑ってみましょう。
その感じで、もう一度やってみましょう。
少し笑った感じでずいぶん変わるものです。呼吸を整えてやってみましょう。
<TAKE2>の録音をしてください。今度は、あなたの名前を入れましょう。
「はい、□□です。ただいま、電話に出ることができません。発信音のあとに、お名前とご用件をお入れください。」
自分で聞いてみてどうですか。
声が浅く高い人は、もう少し凛とした、かっこいい声をイメージしましょう。
かわいい、高い声は、若い女性に多くなってきました。アニメの声のようにかわいくてよいのですが、ビジネスでは、子供っぽくみられたりするものです。
そういう人は、声を低めに出してみてください。単に声を低くするのではなくて、必ず相手を想定して厳かに言ってみてください。本当に大切なことを伝えるときや、大事な人に何かを言うときは、あなたの出す声は違っているはずです。
相手はとてもあなたに大切な人で、またいつ電話がかかってくるかもわからない重要人物だとしたら、どうでしょうか。そんなに高い声で、早くは言わないですよね。そういうイメージを持つだけで、ずいぶん聞きやすくなるはずです。
次は、もっときらびやかな大人になり切ったつもりで、オペラに出てくるような貴族のイメージでやってみてください。
声だけなら、いきなりセレブな大人になれる人もいます。あまり変わると、相手はあなたが出てもわからず、「間違い電話かな」と思うかもしれませんが、それも悪くはありません。
<TAKE3>の録音をしてください。
(応用) 「はい、○○です。せっかくお電話いただきましたが、ただいま、電話に出ることができません。発信音のあとに、お名前とご用件をお願いいたします。」
自分で聞いてみて、「乾燥した感じ」という人がいました。
あまり声に潤いがないという感じでは、事務的な応対に聞こえます。オフィシャルな場では、こういう応対も必要です。ただ、もう少し表情があったほうがよいこともあります。そのほうが、相手も留守録を入れやすくなるからです。留守録メッセージには、あまり入れたがらない人も多いですから、そこを何とか入れて欲しいという気持ちでやりましょう。あなたの声の感じで相手も入れるかどうかを決めるのですよ。
ずいぶん聞きやすくなりませんか。自分で変わったと思えますか。
普段入れるときは、間違えないようにしようということだけで、相手を想定したり、相手にメッセージを入れて欲しいという気持ちを込めることは全くやっていないから、けっこうこれだけでも大きく変わるものなのです。
●電話のトレーニング
いつも失礼しております
電話で大変申し訳ございませんが
あわただしくて申し訳ありません
夜分恐れ入ります
お休みのところ、まことに恐れ入りますが
●伝言のトレーニング
おことづてをお願いしたいのですが
かしこました。申し伝えます
念のため復唱させていただきます
○個性的な声を伸ばすワーク
声はこれまで述べたように、いろんな可能性とともに、制限もあります。
声域も声量も、声の長さも声色も、無限に出せるわけではありません。あなたが好きな人のように声を出したい、使いたいと思っても、そのまま真似すると、無理がきたり、のどによくないときもあります。また似た声の人や、似た骨格、とくに顔や身長に共通点のある人の声は、似せやすいし、無理はないのですが、似ていると見られるのが、必ずしもよいこととは限りません。「タレントの○○みたいですね」というのは、ほめ言葉のようでも、あまりうれしいものではないことも多いでしょう。そう、あなたの声は、あなたのものなのです。
そこで、個性的な声を伸ばすには、
1.まず、自分の理想的なイメージづくり
雑誌から切り抜いて、ヘアースタイル、メイク、ファッションとコーディネートするように、あなたの望む声や話し方の理想像をみつけましょう。できたら、5~7人くらいみつけて録音します。
2.それぞれを声でコピーしてみます。10回くらい聞いて、真似すると、口ぐせや話のテンポ、しゃべり方などは似せられます。そこで、声の高さや音色で無理のある人は、はずしましょう。スピードは慣れてきたら大丈夫です。最終的には、3人くらいを残して、それ以上減らさない方がよいでしょう。自分のをテープで聞いてみます。物まねを目的とするのでないのですから、そんなに似てなくてもかまいません。
3.このような作業を通じて、比較の中から、声の自分らしさ、自分らしい声をみつけます。つまり、自分の中心の声をみつけるのです。
いろんな声を演じているうちに、自分で自分のことが好きになりそうな声と、そうでない声に出会うでしょう。もちろん、自分が好む声を覚えて、いつでもそれが使えるようにしていくのです。TPO別に、瞬時に切り替えて使い分けられるようになれば、もうあなたは、声使いの上級者です。
○声に感情を込めるためのワーク
感情がちっとも入っていないように聞こえる声は、人の心に届きません。確かに仕事では、マニュアル通りのテキパキした声も必要です。感情や気持ちが入りすぎる声は、社会人としては若干、問題があります。しかし、コントロールさえすれば、どんな声も使えるのです。
特に、叱ったり、なぐさめたり、励ましたりするようなときには、心や想いが声に表れないと、せっかくのあなたの気持ちも空回りしかねません。まして、プライベートで家族や親しい相手に、または子供に対するとき、ポーカーフェイスならぬ、“ポーカー声”では、場がうまく持たないでしょう。
この練習は、最初は大きく派手にやって体に覚えさせることからです。先にも述べましたが、のどを痛めない範囲での、大声で感情を声に出せる場を行なうのが、もっとも即効的です。(たくさん休みを入れてのどに負担を重ねないことです)
スポーツの応援などはよいですね。誰よりも、のって声を上げてやってみてください。
映画やドラマの1シーン、特に派手な場面(声)での、アテレコを全身でやりましょう。ユーモラスなシーン、大ゲンカ、大失恋、弁論討論、くどき場面、誕生から葬式まで、人生のすべてのシーンの一流の見本があります。
○2音目にアクセントをつける
「おはようございます」・・・この場合は、「は」と「ざ」
「失礼いたしました」・・・「つ」「た」
一音を強い出だしにすると、相手を脅かしかねません。そこで、日本語では高めに出します。
2音目がはっきりすると、およそ察することができます。「オハ」「オス」と二語にするのが好きな日本人には、簡単なことですね。
○フォームづくり
テニスの素振りで腕を痛めるとしたら、それは急ぎすぎているのです。フォームをつくることより、振ることに頭がいっているからです。素振りは、フォームづくりなのです。すぐに打てることが目的ではないのです。それでも、シャドーボクシングでも明確な目的を定めて、先から取り込むものと、逆に自分の今の体を中心に感じて深めていく、元に戻していくのとは、全く違うのです。
それがいずれ一致することを目指しつつ、トレーニングするのです。黙って息吐きをし、ただひたすら声を出すのは、後者の感覚を得るためのトレーニングですが、これも開かれていないと飛んだ勘違いに成りかねません。共鳴も体を使うのも、「そうする」「そうさせる」でなく、「そうしている」で初めて身につきます。
息と声との流れで納めていくこと。一言ずつでなく、流れで動かして音を発するのです。声について、技術のないことで個性がにじり出てきます。吃音も障害も、人よりも足らないことで、強烈に個が出てきます。それはハンディキャップや不足を補う努力ではなく、むしろ、アドバンテージのようなものです。たとえば、レッスンにおいても、低く、ゆっくり読むことで、欠点が露わになるものです。