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Vol.41

声の状態を知る

 

○一日の中でも、声の調子は変わる

 

 声は、心身の状態に大きく影響されます。起きたときはどうですか。寝ぼけ声ですね。起きたばかりで、最高の声が出る人はまずいないでしょう。そのときに、電話に出たら、きっとさっきまで寝ていたことが相手に分かってしまうでしょう。

 起きた直後は、まだ体が眠っているから、体を動かすことには、あまり向いていない状態です。息も弱く、鼻声の状態が声にも反映されてしまうのです。朝早くから、スポーツの試合があるとき、選手はいつもより早起きをします。早く体を動かし、調子をあげておくためです。ビジネスでも、重要な会議などがあるときは、そうしていませんか。頭や体を起こし、最良の結果を得る準備をするのです。

 声に対しても、同じことがあてはまります。心身が整っていないのに、無理に大声を出したら、けっしてよい結果になりません。

 “千の風になって”のテノール歌手、秋川雅史さんは、「朝起きてから3時間は声を出さない」そうです。あなたは、何時頃になると、声が乗ってくるでしょうか。今日から、ぜひ一日の中での自分の声の状態に関心をもってください。

 

○もっともよく出たときの声をベースにする

 

 これは、一日の中だけでなく、一ヶ月、一年の中にも通じます。あなたの心身の状態がとてもよかったときに、よい声が、楽して大きく高く長く、朗々と出たことがあれば、その状態を整えることが最良の声への近道であることを知ってください。

 つまり、声は体の中に入っている楽器から出しますから、心身の状態をよく保つことが、今のあなたの中のもっともよい声を出すために不可欠なのです。つまり、フィジカルとメンタルの両方から声の調子のよしあしを振り返り、またこれからの声のよしあしを知っていくようにしてください。

 声の状態を管理できなければ、最良の声へのトレーニングもできないのです。

 しかし、これは簡単なことではありません。一人ひとり違う自分の体、そして心、さらに毎日の生活の中での状況におかれた、自分を客観視して把握しなくてはいけないのですから。そのお助けをするのが、ヴォイストレーナーなのです。

 

※たとえば、メンタル面でいうと、失声症といって、精神的ショックで声が出なくなることがあります。機能的には、何の問題もないので、耳鼻咽喉科の医者にいっても、何ともなりません。あるいは、どんなにトレーナーが優秀でも、一週間ほとんど寝ていない人の声をよくすることはできません。まず、睡眠を充分にとってもらうことからです。つまり、歯を直すように、早く声帯をいじるということではないのです。

 フィジカル面も同じです。1,2ヶ月骨折して入院していた人はまともに歩けるようになるのに、筋トレのリハビリが必要です。宇宙飛行士は、今は筋トレを宇宙船内でしているので、すぐ地上で立てますが、以前は無重力のため、戻ってきてから歩けなかったそうです。

 

※今、私のところにいらしているプロ歌手の方は、体を壊して入院していたときに、全く声が出ずに、回復とともに声が戻っていったことを感慨深く話してくれました。体の中の発声器官は筋肉で動かしています。筋力が弱ったら衰えるし、トレーニングしたら鍛えられるのです。(使わないと老化する)

 

声の条件を変える

 

○ベターの状態の声からベストの条件を伴う声へ

 

 多くのトレーナーやヴォイトレを受けている人は、声の状態をよくさえすれば、すばらしい声が出ると思っています。しかし、そんなに簡単なことではないのです。ワークショップなどのヴォイトレで一時的に声がよくなったのに持続しない、あるいは発展しないと、ここを訪れる人が増えました。現在の私たちの生活は、あまり声を出すのに向いていません。

 冷房下で8時間、タイピングをして、いきなりスポーツや歌を歌うのは、自殺行為でしょう。けがの原因にもなります。ですから、多くの人は尚さら、マッピングをしてからやりますね。声も同じように考えたらよいのです。

 

 ヴォイトレの多くのは、最初、緊張した空間で行います。改めて、声を出すということを意識したら、不慣れなのは当たり前です。そして、トレーナーがメンタル面でリラックス、フィジカル面で体をほぐすにつれ、あなた自身のすでに持っていた声がうまく出るようになるのです。つまり、マイナスがゼロになるのです。このゼロがこれまでの最良の状態であり、最良の声だったとき、私はこれをベターの声と述べています。つまり、多くのヴォイトレは、リラックスさえすれば、誰でも最高の声が出るという考えで行われてきたのです。

 

※もちろん、それが一人で取り出せる人は少ないので、メンタルやフィジカル面でのトレーナーアドバイスは、とても効率のよいことです。ただ、リラックスさえすれば、癒される、その人の声が出るというのは、私には病気で声を失った人が、元に戻るためのリハビリテーションで、言語聴覚士の仕事のようにも思うのです。つまり、それでも充分な人はたくさんいるでしょうが、それだけでよいのかと、それでは、本当に厳しい舞台やビジネスでは通用しない。つまり、状況が変わり、状態が悪くなることで、左右されてしまう声だからです。

 

○条件をよくするトレーニングとは

 

 宇宙人が、私とイチローと松井とを採集して分類したとします。すると、イチロー、松井の体は野球をするための体ですから、私と区別するでしょう。彼らは素質、キャリア、センス、集中力、記憶力など、野球をする能力はトップクラスですが、体だけをとっても常人とは全く違うはずです。サッカー選手なら、太ももが女性のウエストほどあるでしょう。ピアニストでも、両手の小指が私たちよりは強いでしょう。バイオリニストでも、バイオリンを弾くプロとしての体をもつでしょう。それなら、声を出す人、たとえばオペラ歌手は、オペラ歌手の体をもっているでしょう。

 つまり、ヴォイストレーニングというからには、トレーニング、つまり負荷をかけ、意識的に部分的に強化トレーニングを行い、体(感覚も含む)を目的に添わせていく、そういうものだと私は考えるのです。体が変わると何が変わるのか、声は4つの要素があります。それぞれが変わるのですが、トータルでの結果である音色が変わってこそ、トレーニングの成果といえましょう。

 

○3時間の猛特訓の果てに

 

 「声を鍛える」ということは、よく言われます。果たして、声は鍛えられるのでしょうか。

 ときどき、私のHPや本を読んで「毎日3時間カラオケボックスで、ぶっつづけで歌っています」という熱心なファンの方がきます。「これ以上、何をすればよいのでしょうか」と。

 

 私は即座に「やめた方がよいです」と返答します。人間の集中力は3時間持ちません。のども3時間使うと、かなり悪い状況になります。これでは声を壊したり、病気になりかねません。質的なレベルアップは難しいでしょう。3時間の練習をあてるのは立派ですが、内容がよくないのです。3時間あるなら、30分ほどを発声にあて、あとは体をほぐすにつれて、あなた自身のすでに持っていた声がうまく出るようになるのを待つのです。

 

 それよりも、体づくりや聴くことのトレーニングをした方がよいでしょう。

 さらに、その30分もできるだけ、よい状態だけで声を取り扱いたいのです。ですから、1分間声を出したら、1分間休む、調子の悪いときは、2~5分間休めてもよいほどです。合計時間を競うのでなく、もっとも状態のよいところで行うことだけを、トレーニングと考えて欲しいのです。その理由は、発声の原理(特に声帯からどう声が生じるか)を知れば、納得していただけるでしょう。

 

※状態が悪いときは、状態をよくすることに集中してください。ときには、発声も極力しない方がよいこともあります。

 なぜなら、トレーニングとは、よりよく明日、将来のために行うものだからです。

 もちろん、役者の仲代達矢さんのように、声をつぶしては、鍛えたという一流の人もいます。しかし、平幹二郎さんのように声が弱く、薄い紙を重ねるように磨いていった人もいます。

 人それぞれというよりも、自分の持って生まれた楽器を知って、それにあったトレーニングをすることが大切なのです。

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