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音色の動き No.290

○トレーナーの違いを取り込む

 レッスンで、私は2人以上のトレーナーをつけています。となると、大体、どちらかの方がやりやすいし合っているとなります。そういうふうに必ず、違いが出てくるからよいのです。そのときに、今の自分の判断(多くは好き嫌い)で異なるトレーナーの価値観を一つに決めようとしないことです。
 私は、あなたが選ぶ、合う方のトレーナーよりも、合わないトレーナーをつけたくて2人のトレーナーに担当させているので、正直、合う人だけとやりたいと言われると、OKはしますが、がっかりします。表現の活動をしていくほどに、周りは個性的で、合わない人ばかりになっていくなかで、自分を相手に合わすのでなく、相手を自分の世界に巻き込んでいかなくてはいけないのです。そういう人たちには、より多くのことを、ストレスを感じても学んで欲しいからです。そこに大きなエネルギーがいるのですから養って欲しいのです。耐性をつけて欲しいのです。
 トレーナーを紹介するということを望んでいる人にも、似ていて合う人を、というなら、自分で探せばよいのです。ここでなければできないレッスン、それは、ここでなければ選ばないトレーナーと接することです。もちろん、だめなトレーナーというのは別です。しかし、ここにはだめなトレーナーはいません。少なくても3年、5年、8年と続いているのは、そのトレーナーの熱心なファンがいるからです。

○トレーナーが合わない☆☆

 ここには他のところからトレーナーが合わなくてきたという人もかなりいます。10か所くらいを回ってきた人もいます。それぞれのところで続けている人、育っている人もいるのに、「合わなかったということなら、そこを、その自分を改めないと、ここにトレーナーは10人以上いるけど、同じになるよ」と言います。
 多くのケースで、私は「そこでは何を学んだのですか」と聞くので、(相手が言わない限り具体的には聞いていませんが)この30年で、ほぼ日本中のスクールやベテランのトレーナーの名は出てきました。思った以上に、誰にも万能なトレーナーはいるものではありません。また、トレーナー本人が思っているよりもずっと万能という感じはありえないというのが事実です。

○前の経験も活かす☆

 ヴォイトレは、生まれたときからスタートしているゆえに、どこの経験であっても学べることがあれば、ここでも以前の経験を活かしたいのです。やりやすいメニュや効果をあげたことを聞くと、それを使う方がよいし、本当の問題もより早くわかります。
 ここにいらっしゃる方は、レッスン曜日が変わったり、トレーナーの公演や留学で、他のトレーナーが代行したり、引き継いだりするときに同じ問題が起きます。そこで違うトレーナーや違うやり方を適当に入れるようにしています。だから、他のトレーナーについていけないというなら、何の基本だったのでしょう、となるのです。
 
○マンツーマン個人レッスンのデメリット☆☆

 マンツーマンの弱点は、一人のトレーナーの価値観のなかで全てを納めてしまうようになることです。特に日本の場合、その傾向が強いようです。以前述べたように、学んでいるときは素直だったのに、教えだすと自分が絶対になる人が多いのでしょう。
 「一人のアーティストだけを聞いている人は、何を歌っても、そのアーティストのまねになり、まねになっていることさえわからなくなる。だから、好きでなくともすぐれたアーティスト複数から学ぶように」と言ってきました。トレーナーについても、私は全く同じ考えです。
 育ててくれたトレーナーに認められた、「とってもよい」と言われたことが、他のトレーナーのところへ行くと、「全くだめ」ということは、この世界ではよくあります。それがどういうことなのかをよくよく考えてみることです。

○基本の厳しさ

 私のブレスヴォイストレーニングなどは、日本人の欠点を補うのに特化したものですから、他のどんなトレーニングでも同じですが、必要のない人には必要ないとも思っています。
 だからといって、何でもよいのではありません。役者やポピュラーのトレーナーをおかないのは、基本における価値観もそれぞれにバラバラ、応用についても、自分の経験と好き嫌いで判断することが多いからです。私は、それを否定しているのではありません。そういうところに通いながら来ている人もたくさんいます。そこをやめるより、続けながらここも利用すればよいと思っています。でも、基本はやはり基本として、すぐれて厳しい価値観があるのです。

○使える力をつける☆☆

 「よく誰でも受け入れるのですが」と言われます。最初にお会いして、対応できるかどうかについては説明します。期間など、どのくらいかかるのかは、過去の経験、実績で話します。これまでにないケースでは、紹介できるところがあればそうします。対応できるところがどこもないときは、「一緒に研究しますか」ということで同意されたらOKです。なかには、可能性が何パーセントかもわからないことさえあります。(医師の紹介のケースなど)とにかくここには、他のスクールや個人のトレーナーなどでは引き受けられない人がよくいらっしゃいます。
 最初は大変でしたが、今はそういう人の方が楽しみです。それは、多くのトレーナーと長く行っていると、よくあるタイプは全面的に任せても何の問題もない、むしろ、私よりもずっとよかったりするらしいですから、ありがたいことです。
 最初はゼロでも、少しずつやれるようにしていく、できるようにしていく、それがレッスンでのトレーニングです。それをやれないように、できないようにしか使わない人もいたので、その反省から、まずは、誰でも、どうにでも使えるようにと、体制を変えてきたのです。使える前に使う力をつける、それが本当の基礎づくりなのです。

○ベストのトレーナーより複数のトレーナーでの総括☆☆

 トレーナーには自分が自信をもって教えられる人だけ選んで教えるという人もいます。ここのトレーナーも最初は、それを望んでいます。「学んできたことだけを学べる人にギブしたい」と。「自分が自信をもってうまく教えられるのは、こういう人です」というわけです。
 世の中に一人しかトレーナーがいないなら、それでよいでしょう。しかし、相手の立場から考えてみると、たくさんのトレーナーがいるのですから、もっともよい人を選びたいに決まっています。ですから、トレーナーに問います。
 「あなた(トレーナー)は相手にとって世界一ふさわしいトレーナーですか」
 教えること、伸ばすことは、どのトレーナーでもできますが、「世界一、誰よりもその人を伸ばすことができますか」ということです。誰に対しても万能のトレーナー、ベストのトレーナーはいないということです。そんなことを言っている人がいたら、もっともよくないトレーナーです。そういうところからもここにいらっしゃっています。
一人で教えていると、伸びた人のことは知っていても、伸びず、黙ってやめた人のことは知らないからです。大体、他のトレーナーのところへ行くわけですね。
 それを研究所では中でフォローしているので、本人の同時期の状況分析が客観的に出ます。それぞれのトレーナーのレッスン体験を総括できるので、次の手段がみえてきます。少なくとも、10か所のスクールに順々に行くよりもよいわけです。そこでは、それがバラバラの体験とかなりません。それを通してチェックできる人がいないからです。

○チームをつくる☆☆

 このトータルとしてのマネジメントこそが、研究所たる所以だと思っています。最低、2人のトレーナーのレッスン、(声のデータの分析や3,4人目のトレーナーのアドバイス)、大体、平均して1,2年に4人くらいのトレーナーと接します。それを束ねるスタッフ・カウンセラー、私、この3重の体制(サードオピニオンスタンス)でタッグを組むのです。
 私は、力をつけるなら、ヴォイストレーナーだけにつくのでなく、「自分の能力を最大限につけていくチームをつくれ」と言ってきました。自分に足りない才能は、他から補うのです。私自身がそうして自らの平凡な力を世の中に役立ててきました。異なるトレーナーや専門家とのコラボは、その一つの到達点です。歌手も俳優もビジネスマンも、どんな職業も同じです。

○誰でも難題だらけのレッスン☆☆

 トレーナーは、人をみると、「この人は無理」「この人は伸ばせる」と区分けして思うものです。はっきりと私に言うこともあります。しかし、「無理」と言ってもやれないことはない。それを学ぶのに、ここには別のトレーナーもいます。
大体、一人のトレーナーが「無理」と言うときは、他のトレーナーも「無理」と言うようなタイプの人なのです。そこで私は、「この人には自信ある」というトレーナーがいたら、その人を中心にチームにします。
 逆に、「この人は教えやすいし伸ばせる」と一人のトレーナーが思う相手は、他のトレーナーも大体そう思っています。どのトレーナーでも伸びるのです。ですから、「他のトレーナーよりも伸ばせるか」と聞きます。「はい」ならば「ハイレベルに世界に通用するくらいにできるのか」というと、どのトレーナーにも、やはり難関となります。でも、そうでなければ、そのトレーナーにつける意味がありません。
 つまり、どんな相手でも、本気であたるのなら、同じくらいに難題になるのです。あまりよい例えでないのですが、0点の人を10点にするのも、10点の人を100点にするのも同じ難しさです。10点の人を30、50点にするくらいなら、どんなトレーナーでもできるのですから、研究所にきていただく意味もありません。遠方から来なくても、地方でトレーナーを探しても充分です。
 
○必要以上にセットする

昔よりも疲れてきた、痛むことが多くなったとしたら、それは筋肉の量が少なくなって支えられないことが第一です。負担が大きく緊張が続くためです。
 右利きなら右の方が筋肉量が多いでしょう。よくカバンは片手だけでなく交互に持ちましょうと言われます。パソコンもスマホも利き腕中心なので偏りの原因ですが、それを逆の手でやってバランスをとっても筋肉は同じです。重量として重力の負担は同じなので、バランス調整よりも鍛練して、筋肉量を増やすことが解決策です。
 
 こういうことは、私がいつもヴォイトレで述べていることと同じです。一言で、器といっていますが、この場合、例えば「2時間立っていること」ことで考えます。フルでステージをやる人ならリハーサルや動くことも考え、これを最低条件とします。それが平気な人と30分できつい人がいると、30分できつい人は、当然、足や首肩までも早く疲れ、痛くなるでしょう。そこで、いくら左右のバランスを均等にしても1時間立てるようになるわけではありません。2時間になると、同じことが起きます。調整してもよくなりません。もう調整しているからです。この場合、鍛えて、2時間耐えられる筋力、つまり、その器を大きくすることしかないのです。
 体は、これほどわかりやすいのに、そのように疑問に思って聞く人が多いということは、問題にさえ浮かんでこないわけです。声は、さらに複雑ですが、こういうふうにシンプルに考えるべきです。よく、いきなり響きを上にあててとか、奥を開けてとかやっているわけです。
 器のある人に対しては、器をつけなければ、大して変わりようもありません。器をより大きくするか、そこで調整するかはどう考えるかです。
 しかし、トレーニングは、必要に応じて呼吸一つとっても、大きい方がより有利ということで、必要以上に力をつけておくことのためにやると思った方が迷わないと思います。

Q.早くうまくなれるというトレーニングは、本当にあるのですか。☆☆
A.「早く少々できるようになることは過大に評価され、長くかかってすごくできることは過小に評価されるもの」です。
 だからこそ、自分のトレーナーとしての適任者をうまく選ばなくてはならないと思います。難しいなら一人は応用、今すぐうまく、もう一人は基礎、将来によくなるように分担するのもよいでしょう。

Q.どんなメニュや、どんな方法がよいでしょうか。☆☆
A.どんな方法やメニュもどれがよくて、どれがダメということはありません。短期的にみて、片方は少しよくなり、もう一方は少し悪くなるのを、よいもの正しいものと、悪いもの間違ったもののように多くの人が思っています。本当は、どちらにもメリット、デメリットがあります。
 こちらは、このメリットがあるが、一方で、このデメリットがある。もう一つの方は、このデメリットはあるが、このメリットがあるというものです。メリットだけのメニュや方法はありえないのです。両方のメリットだけを活かせる人が有能であり、本当のトレーニングはそうなるように力をつけていくのです。頭の中だけ、机上での正誤論議はやめるべきです。

Q.くり返しのトレーニングで力がつきますか。
A.慣れていくこと、身につけていくこと、マンネリになることは、トレーニングの進歩です。これをくり返しつつ、同じレベルで甘んじるのなく、レベルをアップさせていくのです。ですから、同じことを新たな視点でみせたり、違うことを新しく得ていく発想力、想像力が必要です。トレーナーは、それを必要に応じて気づかせる存在なのです。

Q.すべての人にお勧めの方法はありますか。
A.万人に当てはまるトレーニング方法などありません。自分に合ったものをみつけましょう。トレーナーは、その手伝いをしていくのであり、当てはまらないものを無理に当てはめていくものではありません。いわば、タイミングに応じて、よい材料を出していくのが仕事です。

Q.トレーニングの原理とは、なんですか。☆☆
A.何かが刺激や負荷に対して適応しようと身体が変化していくことで、少しずつ、それに耐えられるようになるのが、トレーニングというものです。ですから、メニュや方法ではなく、どのくらいの刺激、負荷を与えるのかがもっとも大切なのです。

Q.意味のないトレーニングとは何ですか。☆☆
A.その人にとって、全く負荷のないトレーニング、方法やメニュといって目先を変えただけのトレーニングは無意味です。例えていうと、サッカー選手に100メートルを10回歩いてくださいと言うようなものです。これは、3週間ほど寝たきりで退院したばかりの患者にはハードトレーニングですが、サッカー選手の技術や筋力向上には何にもならないでしょう。そんなレッスンやメニュ、というか、使われ方が多すぎます。

Q.プロのヴォーカリストと同じメニュを使っているのですか。☆☆<教材・メニュー>
A.ヴォイトレのメニュもいろいろとあります。やり方やメニュでみるのでなく、レベルや目的に対してマッチしているかどうかなのです。つまり設定、セッティングこそがもっとも大切なのです。
 私はプロのJ-POPS歌手に、同じようなJ-POPSの歌をあまり歌わせません。歌う練習にはなるし、歌詞は覚えますが、歌えてしまう声はすでにもっているので、声のトレーニングになりません。そのレベルの声をもっているからプロなのです。
でも、そういう人でもオペラのサビになると5秒ももちません。オペラを歌う必要はなくても声のパフォーマンスとして地力を上げるなら、その刺激、負荷を与えます。
つまり、常に明確なギャップを与え、みえるようにして、そこを埋めていくことこそがヴォイトレなのです。今の感覚、身体にどのように対していき、その適応を引き出していくのかがトレーニングで問われていることなのです。

Q.「体験談」は、どう活用しているのですか。☆☆<体験談>
A.体験談、効果談は生徒さんの感想ですから、それを読んでトレーナーは喜ぶのでなく、その意味するところを徹底して批判的に検証しなくてはいけないと思います。生徒さんが満足しても、トレーナーは常にもっとよい可能性、よりよく、より早くできないのか、できなかったのかを考えることです。レポートには本音で厳しく指摘するのでなく、気遣ったり褒めてくださるようにしているやさしい生徒さんもいるのです。
 そのために全てのレッスンを記録するのは当然のことです。そういうプロセスの記録のしっかりしていないものを実践として組み込むのは避けるべきです。

Q.「レッスン感想」の活用は☆☆<レッスン感想>
A.私は、研究所のなかの「レッスンの感想」は本人とトレーナーだけでなく、他の学ぶ人のための大きなヒントになると思って公けにしています。それは感想ですから検証からは外しています。参考となるのは、もっと厳しい意見、反応です。
 むしろ、うまくいかなかったりクレームだったり、不信を生じたときのデータ、また、トレーナーの見解の差異についてが、もっともよい検証材料となります。そういったものは並べただけでは無批判なものですから、何ら発展性はありません。その人の最初の声と比べ、トレーナーの差異がどういうことかも比べ、本人とトレーナーと私とのなかで目的とプロセスを明らかにします。もちろん、レッスンが順調にいっている多くの人にはその必要はありません。

Q.「ある方法で声がよくなった」という効果は、本当だと思いますか。
A.「回復していく病人に○○を処方したから回復した」というのも、「成長している子供たちに○○を食べさせたから成長した」というのも同じで、それがある方法の効果とは限らないのに、そう言う人は少なくありません。臨床的な実験は、回復に対しては、ある程度、絶対的に信頼できる検証ができますが、トレーニングで上達させるというようなことに対しては、甚だ難しいと思います。

Q.個人的な経験の評価の絶対性について、どう考えられますか。
A.「自分が体験してよくなった(悪くなった)のだから、それは、間違いない」というのも、大半は誤解です。何かを行って何かの結果を得ると、人は原因-結果と因果関係に捉えてしまいますが、必ずしもそうでないことは、再三述べてきました。もっとずっと前にやったことが効いてきたのかもしれないし、よくなったという結果の判断が、長い眼で見ると、逆だったいうこともあります。
何よりも「○○ができた」は「でも○○はできなくなった」が隠れていることがほとんどなのです。「○○のやり方で高い声に届いた。けれど、今まで出していたしっかりした声が薄まった、浅くなった」など。今はよくなったようでも、そのために3,4年後の可能性が狭まったということもあるのですから。評価ということをどう扱うかこそが、もっとも難しいものなのです。

Q.他の人は間違っていて、自分が正しいという人をどう思いますか。
A.1.王様は裸、自分だけが正しいと言う人は裸の王様です。
2.安易にすぐに効果を上げるやり方や方法はドラック、脱法ハーブに近い。それで改善されたところで、それに頼るところで終わっていると思うべきでしょう。しかし、地道な基礎訓練で効果がみえないときに、そういうものに飛びついてしまう人は多いのです。
3.毒にならないとしても、メンタル的、自信とかキャリアとして不毛ゆえ、頼らない方がよいでしょう。くじや占いも、勇気づけられ実力にもなるということなら別ですが。

Q.最初に理論ありきですか。
A.いえ、共に実践あり、効果あり、そして理論ですが、大体の実践のレベルで、理というのはみえてくるものです。革新的なもの、つまり、新しいものやこれまでにないものであれば、周りから否定されるのが当然です。そういう状況において、叩かれ、潰されることのないだけの実践を通じて効果をあげる理論立てをしていかなくてはいけないのです。独りよがりか、そうでないかは、そこに一流の人が育っているのか、さらに一流のトレーナーで切磋琢磨しているのかということです。

Q.なぜ、いろんなメニュがトレーナーやトレーニングごとに違うほどにあるのですか。
A.ありとあらゆるメニュがあります。その大半は私も知っています。しかし、その多くは日常の健康改善に役立つ、その結果、声もよくなるというくらいのものです。間違いとはいえないが、メニュや方法として、特別にありえるようなものでないのです。
 そこからトレーナーのタイプ、得意不得意や経歴、日常生活などもよくわかります。それに対して、あなたが自分自身のものとして、つくっていかなくてはいけないのは言うまでもありません。問題は、メニュを与えるのでなく、その使い方、つくり方を必要に応じて与え、本人が使えるようにしているのかでしょう。

Q.どうやって発声を覚えていくのですか。
A.誰しも幼い頃、発声しているうちに覚えてしまったのが発声です。母語のように、そこからさらに教育、学習によって覚えていくものと、外国語のように母語を基に学習していくものがあります。言語なら、いきなり外国に連れていかれて日常生活のなかでマスターしているケースもあります。同じバイリンガルでも、幼いときにそうであったのと、その後、母語を基に覚えていくのは違うでしょう。方法にそって覚えていくのです。

Q.発声は、覚えていっている自覚なしに身についているものですか。
A.はい、それは身体技法に多くみられます。もっともベーシックなものは命を守るための行動としてのものです。声では、「わっ」とか「あっ」とか「熱い」とか「危ない」とか発してしまうもので、これを練習した覚えはありますまい。ですから、レッスンやトレーニングで覚えていくのは、本当は、しぜんと身についていく環境下におかれて身についていたというものではないのです。

Q.発声法、歌唱法は、しぜんに身につくのですか。
A.歌唱やせりふとして、あるレベル以上に問われる発声としての発声のことですね。すべてにおいて何が身についているか、身につけるべきは何かをはっきりさせる必要があります。そうでないと「歌がうまくなりたいのですが」という質問と同じです。とことん絞り込まないままでは効果が出ない、いや、何を効果とするかわからないまま、となりかねません。どうやってというのは、私の本やブログに書いてあります。

Q.究極の発声について、知りたいのですが。
A.ここへ質問というのは、最終的なレベルのことなのでしょうか。ということならば、私の思う発声が身につくとは、発声を教えている人の多くでさえ、まだ身についていないレベルのことです。体で覚える、身につくという点では、私もまだまだ追い求めている部分があります。ことばにならないことですから、身につくとどうなるかからみていくしかないでしょう。声が通るとか、座っているイスや部屋がびりびりするとか、そこが最低ラインでしょうか。声そのものとして、歌手や役者とは、また別の基準としてみています。

Q.なぜ、体で覚えられないのですか。
A.身につける経験で一番わかりやすいのは自転車でしょう。一度乗れると二度と乗れなくなることはありません。体が覚えているからです。似たものではスキーやスノボ、スケート、サーフィンなど、体でバランスをとるものが多いようです。竹馬や一輪車なども、覚えるときに、マニュアルや理論など使わなかったでしょう。もし、それがあったとしても、それとあまり関係なく身につけていたはずです。理論とあまり関係なく身につく、発声もそういうものだからです。

Q.いろんな理論があって、迷って、あれこれ言われると困るのですが。
A.私の本やブログを読んで文章であれこれ言われても…という人もたくさんいると思います。確かに、その通りなのです。しかし、言語はツールであり、使いようによっては役立つし、トレーニングというわざとらしいものをわざわざ提唱した以上は、言語化するという説明責任も負うことになります。
 体が覚えるためには、「体が覚えなくては死ぬ」というくらいの気持ちをもつことです。例えば、戦いでは、頭の判断でなく体の判断で行動しないと危ないわけです。危険なところへ行ったり、危険なことに関わるときも同じです。状況で信じられるのは体だけとなると、体も敏感になるものです。
 どうやってできるようになったのかを、できた人が、必ずしも、わかっているわけではありません。ですから、ノウハウとして取り出したり、説明できるわけでもないのです。
 トレーナーは、そのプロセスとかやり方を教えているわけです。しかし、それは、大体は、自己分析、教えられた経験、教えた経験の3つでパターン化しているのです。ですからといって、他の人全員に当てはまるわけではないのです。
 マナー、モラルなどもその類ですが、まだチェックはしやすいです。体に何かを身につけるには、そのプロセスで、それらのみえないものを得ていきます。そう簡単にみえないもの、語れないものを身につけていくと思うことです。

Q.学び方の秘訣を教えてください。
A.「門前の小僧、習わぬ経を覚える」「念仏百万遍」

Q.数多くの質問への答えは、どうしているのですか。☆☆
A.レッスンの現場では、いつもさまざまなことが起きます。それ以外に、私は他のトレーナーの報告や、生徒のレポートも目を通し、打ち合わせやカウンセリングでこたえています。そこで出てきた質問やカウンセリング内容やレポートを、研究所では、トレーナー、スタッフと手分けしてまとめています。
 他に気づいたこと、私の本からの引用などなども含め、できるだけ問題を拾い集め、会報に載せて提供しているわけです。
 レッスン受講者やトレーナーはもちろん、全国の皆さんの勉強の糧になればと思っています。私の知っていることだけでなく、現場やトレーナーや皆さんから与えられたもの、引きだされたものが多いです。

Q.正しい姿勢とは一つですか。先生のどの本にもチェックリストがありましたが、絶対なのですか。☆
A.姿勢のリストは、結果的に、フォームです。つまり、身についていくとそうなる、そう感じる人が多いという目安です。身につけていくことがトレーニングのプロセスというのは、時間の経過によって変わるからです。さらにどう使うのかという実践での動きを入れると、正しい姿勢とは一つに定まっているのでなく、もっとも柔軟に対応しやすいものというくらいでしょう。
 スポーツでも構えとプレーは違います。まして、ファインプレーやエラーにより、無理な負担やリスクが生じたり、正しさからは逸脱するかもしれませんが、その必要があればそうするでしょう。
 正しいことの一つの目安として、体に部分的に負担を長くかけていないこと、その状態で長時間保てることなどがあります。そこからみると、痛みが出るようなものは、どこかよくないとなります。しかし、筋トレなどは、そういう負担を強います。まして、舞台では美しいとか格好いいとかいった振りもつけるでしょう。アスリートも楽器のプレイヤーも、それぞれの用途に合った姿勢になるでしょう。
 正しいというのが、一般的にみて偏った姿勢となることもあるでしょう。個人差も相当あります。歌も、顎を引くのがよいと言われても、顎をあげて歌っているプロ歌手もいますし、あげて歌うこともあるでしょう。それで正しくないとはなりません。
 人それぞれです。ヴォイトレもトレーナーのアドバイスを基にとはいえ、柔軟に対応しましょう。アドバイス自体を、柔軟に捉えてください。

Q.姿勢が悪いと言われます。整体師さんにも左右がずれていると言われました。☆☆
A.体のことは、体のプロと直していくのがよいと思います。体のプロといっても、いろんな人がいます。ただ、ヴォイトレや声、歌に使うことからいうと、日常はともかく、体が左右対称にならないとか歪んでいるようなことはよくある、いや、ほとんどの人がそうなので心配はいりせん。

Q.体が硬いとだめですか。
A.それも、よく聞かれますが、硬いより柔らかい方がよいというだけです。できるのなら柔らかくしましょう、ということで、プロにも硬い人はたくさんいます。
 
Q.猫背が直りません。☆
A.背筋を伸ばし、胸を張れ、姿勢をよくすること、などと次々に注意されても疲れてしまうものです。しぜんと丸まるから、そうならないように体幹を鍛えること、腹筋を鍛えるということなどに取り組む人もいますが、それだけでは逆に丸まりかねません。
 下半身から鍛えること、歩いて筋肉を増やし血液やリンパの流れをよくすることの方がベースです。姿勢を意識して毎日1時間1駅区間を歩くとよいでしょう。あとは、肩甲骨の運動です。猫背は、背だけでなく丸くなるには、肩が前に出て肩甲骨が外に開くのです。(歩くと手の平が後ろを向く)その間の菱形筋が弱くなっているし、胸の大胸筋が固くなっているのです。これには懸垂とかストレッチが効きます。あとはまっすぐ前を見て歩くことです。下を向くスマホみながら歩きはだめです。

Q.姿勢矯正ベルトはよいですか。☆
A.強制された姿勢の感覚を知るのに使ってみるのはよいですが、常用することは、腰痛の人についてもお勧めしません。バンドで負荷をかけるならよいのですが、助けるとしたら筋力は付かないどころか衰えます。それでは今よりも筋力、ひいては声も歌も維持は難しくなります。

Q.発声にも役立つ用具、薬などを使えませんか。☆
A.この回答は原則として、健康な人でかつ前向きに昨日よりも進歩したい人に述べています。あらゆる補助具やケアは、気づくのに有効なこともあります。しかし、それらに頼り、常用するのは依存してしまい、体や自分の能力を、そこで甘んじたり弱めてしまいかねません。
 私は、研究所をバリアフリーにはしません。そこに注意して足をあげることで筋トレにもなるわけです。もちろん日常の家庭でくつろぎたい人は別ですが。
 ヴォイトレも調整ばかりでは、2、3年で限界がくるのです。しかし、この2、3年を鍛えていたら、さらに可能性がでます。そこは分けられないので、全く別に息や体の補強トレーニングもあるのです。
 それを否定する人はもうプロで、現状維持、そして長年のキャリアを重ね、体をつくってきた人でしょう。そうでない人は、プロの人の自分と同じ年齢の頃の声を聞いて考えてみてください。ほぼ、できあがっているとしたら、わざわざトレーニングを必要としなかったのです。レベルはともかく、ポピュラーはマイクがあるので、判断しにくいですが。
 
Q.マッサージばかりに行っています。☆
A.マッサージも同じです。マッサージは特に必要以上の使い方をしたときに戻すのによいし、一定期間ハードな舞台が続くのなら、そのフォローとして仕方ありません。しかし、それを必要としないレベルに鍛え、維持できるのが理想です。芸を日常化するには非日常の体をもつしかないのです。

Q.モデルの姿勢はどうなのですか。☆
A.腰が反りお尻が上がるようなら、軍隊式の構え敬礼と同じく、深い呼吸に不利です。椎間板に負担がかかります。

Q.ハイヒールでの練習はないのですか。☆
A.反り腰になり、スタイルはよくなりますが、お勧めしません。つま先に重心という感覚のために使われることはあるようですが。

Q.ナチュラルな姿勢は、しぜんと体がリラックスすれば、どんなのでもよいのですか。☆
A.姿勢はつくるもの、つくられるものです。

Q.レッスンの緊張なのか、肩が突っ張ります。☆
A.これは僧帽筋上部繊維の膠着が原因です。緊張やストレスでそうなったなら肩を温めましょう。水泳のクロール、バタフライは肩だけでなく肩甲骨から動かします。そのために両腕を同時に逆に回すような特別なトレーニングをします。最初は片腕ずつでもよいから回してみましょう。

Q.脱力の感覚がわかりません。
A.よくあるのは、力を入れて抜くというものです。脱力は難しいのです。水の上で脱力して浮かぶことができますか。

Q.トレーニングで、どう調整するのですか。
A.ただ調整するのでなく、まず鍛えられるように調整しましょう。そして、鍛えるべきところを鍛え、さらに調整するつもりで臨みたいものです。

Q.毎日のトレーニングメニュのつくり方について。
A.実感できる、楽しい、身になっている感じがする、おもしろい、ややめんどう、という感じです。調子のよいときも悪いときも用いることのできるように2~3パターンつくるといいでしょう。人間の可能性と限界に挑めるメニュにしましょう。

Q.調律は、440HZが悪く、444HZがとてもよいと聞きました本当ですか。☆
A.以前にも触れた通り、そんなことはありません。(rf)
 そのときのものに加えておきます。
 今の日本では、ほぼ442HZ、その間をとっています。楽器他の調律器具自体、温度などの条件で1HZくらいぶれるし、最高レベルの音感の持ち主でも2HZくらいの違いしかわからないそうです。
 調律師さんとかでも絶対音感の人は、あまりいないようです。絶対音感の人の方が個人差がかなりあります。まして歌唱においてこだわる必要は全くありません。ビブラートなどでは10HZくらいに高低がかかることもあります。前述したように、そのズレのなかで、ずり上がり(日本人に多い)よりは、どうせずれるのなら高めがよいとなり、そのうち音響のリバーブ効果技術がよくなって、ノンビブラートで(ビブラートが全くないのではない)ピッチ狙い(カラオケの点数でトップクラスのえなりかずきさんのような唱法)に代わるようになったわけです。
 まあ、A=444HZで調律したときの上のCの音の528HZは、DNAの修復をするという人もいますし、また千年以上も前にそれを使っていた人というのもいますので、そう信じられる人は、その効用を使えばいいと思います。声や歌に関わる以上、私もスピリチュアルなものとして、接してはいます。
 440HZより444HZがよいと聞き比べてと思った人は446HZ~4448HZで聞いてみてください。あるいは、5つくらいのHZでブラインドテストしてみてください。結論としてよいというのはよいけど、だめというのはだめってことでしょうね。
 
P.S.そもそも計算すると、平均律でA=444HZならC=528.011…で合いません。ちなみにA=440で純正律にすると528。どちらを使おうとしても、理論そのものが最初から破たんしているのです。

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