Vol.44
○トレーニングでの偏り
私のトレーニングの一部だけをとって、のどに負担を与えるとか、体や息を無理に使うのはおかしいというトレーナーもいました。(ちなみに私は、決してのどに負担を与えず、体や息を無理に使わせていなかったのに、そのようにやってしまう人がいたのです。)
しかし、トレーニングは、ある目的を遂げるために部分的に意識的に集中してやるのですから、もとより「おかしい」ものなのです。しっかりとした条件づくりができてから、全体のバランスをとって戻していったときに、器が大きくなったかどうかで問うべきなのです。
また、それをいうなら、一流の人のフォームも考え方もどこか常人離れしているものでしょう。比較的、筋肉の動きを力の働く方向からつかみやすいスポーツのフォームでさえ、一流ほど個性の違いが際立ちます。しかし、結果として、全体的にしなやかで美しいというのが、共通のことであり、そのプロセスは必ずしもそういうものでないというのが実状でしょう。
○感覚のこと
本当は、CDは、テキストをみずに何回も飽きるほど聞き込んで欲しいのです。そして声の高低、強調、トーン、長さ、リズム、メリハリなどを声に出して(声が出せないなら、息だけでも口パクでもよいでしょう)楽しんで欲しいのです。あたかも幼い子供がピアノをめちゃくちゃに叩いて、驚いたり喜んだりするようにして欲しいのです。その繰り返しの中に、何かしら一つの法則が見えてくるようになり、いわゆる演奏家の元となる“感覚”といったものが生じてきます。外国語学習も歌の勉強もヴォイトレも同じなのです。頭でなく、体や心で捉えて、身に入れていって欲しいのです。
サッカーでいうと、ルールやプログラムでの定型の基本練習のまえに、ストリートサッカーのように、エリアもゴールもないところで、ボールや仲間と目一杯、戯れるところで楽しんで欲しいということです。(それなしには、プロとなっても一流のプレーには追いつかないのです。教えられたことを繰り返しやることは必要ですが、一流はそれを超えるとんでもないプレイを発想して実現します。その自由奔放な発想力は、その経験に根ざすと思われるのです。)
つまり、正誤で考え、間違えないように暗記しようとするのではなく、まずは通じる、伝わることを目指して欲しいのです。そのためには、表情やしぐさ、さらに声の勢いやメリハリなどが、ことばよりも大切です。少なくとも生涯、使うかどうかもわからないことばを覚えるよりは、一つの単語や一つの文章に声で豊かな表情づけ=意味づけをするほうが有効なのです。
ラップ、ジャズを聞いても、耳から聞き、のどで発音している私たちに、体で聞いて(骨振動レベル)腰の動き、背骨から肩や首の動きを通して、腹から胸からの声で発して欲しいということなのです。
読みのスピードや発音の速さよりも、息のスピードや声の強弱、これは大小というより、鋭さ鈍さということで聞いてみてください。すると、もっともベーシックな言語感覚が身についていくと思います。
☆毎朝、声のために習慣づけたいこと
毎日、自分のよい声をなるべく朝から使えるようにしましょう。すると、一日中声も疲れませんし、よい声を出していると自分も元気になれるのです。声で気合いを入れたり、声でパワーを出している人もいますね。そのためには、早く体と心を目覚めさせることです。
朝、起きたら深呼吸をして柔軟体操をします。首や顔の表情も動かしましょう。体を動かしながら、息をゆっくりと大きめに長く吐きます。次に声を出して、喉や口のなかも起こします。何かをゆっくりと読むのもよいでしょう(読経、朗読など)。急に大声を出したり、ハードに歌ったりするのは、やめましょう。
これでふだんなら午後や夕方からしか、のってこない声が出しやすくなり、それだけよい声での一日が長く過ごせるのです。このように、呼吸や声のためには、よい習慣づけをすることが大切です。
○外国人耳とヴォイトレ
外国語教育に、ヴォイストレーニングを活かそうというのは、仕事柄、英語も含めて、いろんな言語の歌を聞いて指導してきた私のヴォイトレに、外国人との仕事の経験や、外国語の学習法が多くのヒントを与えてくれたからです。
特に発音、リズムの本は、CDがついて充実していたので、とても参考になりました。
○英語耳ヴォイトレをお勧め
私がちょうど海外を50カ国くらいまわった後のことでした。“学校の正しい英語”でなく、パワフルに伝わる“いい加減な英語”として、世界中で(英語圏でなく)通じるブロークンなものを考えたことがあります。発声力で通じさせるコツを一言でいうと、発音をけっこうあいまいにして、息で強く吐き捨てることでした。リズミカルに・・!
なかでも、もっともわかりやすく完成度が高く、その上、私の考えや話したり、行なってきたのと、もっとも近かったのが、松澤喜好先生の「英語耳」でした。声を耳で聴き、詞よりも声に感動したというのは、今の若い人でも、同じ体験としてもっているのではないでしょうか。
鋭い耳としっかりとした発声があれば、何とかならないわけでないのです。この声の魅力の面にスポットをあて、声のトレーニングから述べたのが、この本です。
○ネイティブへ挑戦するヴォイトレ
ネイティブになれるかというのは、何をもってネイティブというのかにもよりますが、英語のように、世界の共通語となっているのは、かなり許容範囲が広いから、あまり心配しなくてもよいのです。ジャパニッシュより、イングリッシュに近ければよいくらいから、スタートしてもよいでしょう。
日本語というのは、けっこうあいまいです。たとえば、正しい「あ」はどこなのかというと、決まっていません。結局、「い」「う」「え」「お」に聞こえなければよいわけで、「あ」「え」の間くらいだと、少し聞き苦しいですが、あまりはっきりとアナウンサーのように言うのも、わざとらしく感じられます。
私たちが認識していないから、言い分けられないのですが、日本語で普段使っている中にも、たくさんの音があります。文字としての50音(実際は100~150くらい)でなく、音声としてはけっこうあります。そういうものに敏感になっていくのも、耳を鍛えることになりますね。
体については、日本人は欧米人のように、ホリが深くないといわれます。しかし、アジア、アフリカからもすばらしいオペラ歌手が誕生しています。言語というものは、そこで生まれて育ったら、人種、民族問わずに、誰でもネイティブになっているわけです。声量、息の強さや肺活量についても、先の美空ひばりさんが152センチの小柄であったことをとっても(従って肺活量も一般的な男性より少ない)、あまり関係ないと思ってもよいでしょう。後天的な要素の方が大きいために、努力しだいで習得できるといえるのです。
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