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「声の大系」 No.292-2

○基本と方向

 

 一般的なヴォイトレでは、私の「声の基本図」で説明しています。ここのトレーナーは声楽の基礎をマスターしているので、まずは、共鳴についての専門家として紹介します。一言でヴォイトレを示すなら、その本質は、声の共鳴のためのプロセスをトレーニングすることだと思うからです。共鳴とは倍音フォルマントの違いで生じる音色(声質)ということです。

 生物が人間が進化していくプロセス、あるいは赤ん坊が大人に成長するプロセスこそが基本です。トレーニングそのものも、そのプロセスを歩むものです。

 人並みになるのと超人になるのとは目標レベルが違います。自分の能力の回復と潜在能力の、さらなる開発とは目標レベルが違います。私の目指すのは後者ですが、現実には前者の仕事が多いです。人は人に憧れ、比較して優劣を競うものだからです。上へ上へとできていないところへ行きたがります。しかし、本当の基本とは、他人と関係なく本人の掘り下げ、下へ下へとできているつもりのところへ戻ることなのです。

 

12通りでみる

 

 共鳴の基本を下へ下へとると、共鳴―発声-呼吸―体となります。プロセスとして4つに分けていますが、いつも本当は一つ、一体なのです。これは、体-共鳴を無理に分けているのです。

 レッスンでは、体-呼吸、呼吸-発声、発声-共鳴、それを、それぞれ、体から呼吸、呼吸から発声のように2経路でみるわけです。さらに、これはやや高度な能力ですが、体-発声、発声-体、呼吸-共鳴、共鳴-呼吸でもみているのです。共鳴-体、体-共鳴も含めると4つの要素ですから、12通りあります。それを大きくみると、大体は呼吸を発声するところに感覚や使い方のズレがみつかるわけです。それを部分的に修正するのか、体の方に下がって全体的に修正するのかという、いつもの問題になります。

 

○口笛に学ぶ

 

 体と一口にいっても、姿勢、体力(筋力)、心(精神的)統一など、いくつもの要素があります。それは呼吸に現れます。他のフィジカルなプレー、スポーツなどに比べると,発声は原理として,喉頭の中の声帯で外からは触れられないところを、しかも、呼気という空気を声帯の扱いで音に変える独特の方式で声を生じさせるので、そこだけがクローズアップされがちです。

 そこに関しては、笛のように考える方がわかりやすいと思います。笛の中では尺八のように音を発するのに、本人の唇の入るもの、つきつめると、口笛が最適の例かもしれません。口笛を鳴らすには口唇のセッティング、キープと息の使い方、キープが重要です。口笛をどのようにマスターしたか覚えていますか。

 

○アーティキュレーション

 

 共鳴から上の話をします。ここから話、せりふの方向へは、発音、ことばのフレーズ、アーティキュレーション、そして、せりふ、表現と進みます。アナウンサー、声優、俳優、噺家などです。

ちなみに、アーティキュレーションは、音楽では音のつながり方(強弱、スラー、メリハリ、表情、テヌート、スタッカート、レガートなど)を指すのですが、教育用語では、カリキュラムやその学習のつながりに使われます。英語では、区切ること、接合部、これは言語の関節、節目(artus)、話の分野では、明瞭な発音や発声などに使われています。

 そのためでもありませんが、プロとしての表現のメリハリをつけるためにヴォイトレにいらっしゃる人のなかには、アーティキュレーションやプロミネンス(強調表現)が中心、そのために発音アクセント、イントネーションを学ぶ人もいます。つまり、せりふのためのヴォイトレです。

 

○共鳴と母音

 

 歌を中心とした音楽的な方向は、声の共鳴が、より基本となります。共鳴には、いろんな要素が含まれているからです。

 まずは、母音、これは口内、舌の位置で変化させます。ここでの母音は日本語だけでなく、世界共通の母音です。つまり、子音でないものです。

 子音とは、調音点で調音法をもって出します。無声音だけでなく、有声音もあります。すべて共鳴や吐く息に対し、加工、つまり妨害、邪魔することで音を発するのが子音です。ですから、子音の発声が入るところから共鳴は妨げられたりくせがついたりするわけです。

 ことば、せりふは、喉を疲れさせるわけです。子音の瞬時の発音と、母音の持続的な共鳴のどちらが疲れるかは、どうみるかにもよりますが…。母音で歌うのは、劇団四季の練習法として取り上げられることがありますが、ヴォーカリーズ母音唱法として昔からあります。

 

○ヴォーカリーズ

 

 母音唱法をヴォーカリーズというのは、フランス語で、声だけで歌え(声にする)vocalise(命令形)に由来します。英語ではvocalization(母音vowel子音consonan)、共鳴を旨とするオペラの歌唱での練習法として取り入れられてきました。

 母音のベースはa、i、uの3母音で、aを中心に、a-i、a-uの三角形となります。この間にe(a-i)、о(a-u)厳密には、оは直線上のa-uの間にはないのですが、語によっても異なります。詳しくは、IPA(国際音声記号)を参照ください。このあたりは、レッスンのヴォイトレにも入っています。

 ミュージカルとはいえ、日本語発音を優先するものですから、劇団四季は、あくまで5母音の発音の区別のために母音歌唱をしていますが、私のところやオペラのような歌唱芸術では、もっともよい発声-共鳴(音色)で歌曲をさらえるようにするために、ヴォーカリーズを使います。

 

○「ハイ」と「ハイ、ラー」

 

 私は、役者の声のベースを「ハイ」(声門の調音での発音、発声)とする一方で、役者のヴォイトレにも共鳴中心、もっともよい一音(母音、さらに子音)ですべて発声させ、他の音を巻き込むようにしています。「ハイ、ラー」「ハイ、ララ」など。

 ここは、発声共鳴中心か、発音、ことば中心かの別れ際だということです。音楽的であれば楽器、器楽的な条件を優先し、発音やことばは後で調整すべきというのは、日本では珍しい私のスタンスです。オペラ歌手以外、そうしているヴォイトレはあまりありません。

 ちなみに高音域になると発音と共鳴は矛盾して、両立しなくなります。オペラ歌手は共鳴を優先し、その結果、何を言っているのかわからなくなります。音楽だからそれでよい、声がよければよいというのは、私の立場です。

 日本では、歌はことば(とストーリー)で聞くので、劇団四季のように発音を明瞭にする方がわかりやすくてよいとなります。ただ、基本の発声ができていない多くの人には負担がかかってしまい、長続きしない、突出したスターが出ないなどにつながります。

 

○日本のアナウンサー☆

 

 アナウンサーでは、ラジオをのぞくと、ビジュアル面もあり、母音は口(唇)や顎の開きでも母音を明確に分けて発音します。口をみると、新人ほどトレーニングしたてで練習の口形で出ています。声の力がないので、やむをえないのですが、滑舌、早口練習でかまないことを第一優先で学んでいることがわかります。ですから、2年くらいでプロ?(サラリーマン、OLですが)になれるのです。

 海外のキャスターのように、何年もキャリアを積んで、声の魅力や音声表現の説得力で起用されるのでありません。ルックス、スタイルなど、アイドルに求められる要素と同じです。

 そこから、20代後半30代以降、声の魅力を、といらっしゃる方もいます。朗読、ナレーションになるとルックスでカバーできないからです。声が通らないと失格なのです。

 

○オペラ歌手と役者

 

 オペラ歌手の体、体-呼吸、発声と共鳴をもって、声の仕事をする、今のスタンスは歌手、日本のオペラ歌手に、かつての役者や邦楽家のような強い声、喉を持って歌うようにと、私が、ヴォイトレを始めたとき、提唱したことと逆転したようにも思いますから、まとめておきたく思います。

 オペラ歌手でいうと、ソプラノ、テノールが主役、特に日本では、そのパートが、体格などもあって多いのですが、アルト、バリトン(バス)をイメージしてもらう方が、全ての分野に共通の声の基礎としてわかりやすいと思います。ポップス、特にJ-POPSでハイトーン、ハイCなど使うのは、かなり特殊で、しかも音響あってのものです。以前はオペラ歌手しか日本人は使わなかったし、オペラ歌手も本当には使えていなかったのです。あとは、天与の条件によらず、生涯使えるという可能性から考えるべきであり、少なくとも私のヴォイトレでは、ハイCの最高音域を絶対条件とはしていません。他の基礎のある上で、声域は広く、高音域も使えた方がよいのは言うまでもありませんが…。

 

○練習曲集、「コンコーネ50番」

 

 共鳴は、母音歌唱、ヴォーカリーズとして練習、音大などでは、「イタリア歌曲集」などの前に、「コンコーネ50番」を使います。(25番、40番、15番など)、その50曲を母音や音名階名で歌うのです。まさに、ヴォイトレとしてソルフェージュのように使われました。

 歌は音楽として歌詞がなくてもよいというので、ヴォーカリーズは、声楽の発声技法の練習から作品そのものにもなりました。もとより、歌詞のない器楽曲をハミングや母音で歌うとそうなるのです。日本でも、口唱歌、口三味線として楽器の演奏家は、まずは歌って覚えていたわけです。雅楽もです。つまり、発声練習曲集で、「パノフカ」、「トスティ」、「ヴァッカイ」(歌詞のあるものもある)など、ピアノのバイエルのようなものです。

 

○作品としてのヴォーカリーズ

 

 ヴォーカリーズの作品は調べてみてください。たくさん美しい作品があり、声の響きを楽しめます。また、共鳴の練習にもよいでしょう。意味のないことばとして、音のリズムや動きを楽しむのは、魔法使いサリー(ご存知でしょうか?)に出てくる呪文「マハリク マハリタ~」「ラミパス ラミパス ルルルルル~」「テクマクマヤコン」など、他にも数々挙げられるでしょう。タモリの北京語(中国語)やハナモゲラ語などはgibberishというらしいです。

 日本ではオノマトペとしてよく使われています。まったく知らない言語を感覚だけでとってくることもあります。日本の歌として、シャンソンなどを訳すときに、部分的に言語で残してあるのは、意味を訳せないのではなく語感を残したいからでしょうか。ビートルズの「オブラディ オブラダ」は、アフリカのヨルバ族の語(「なるようになる」の意味)らしいです。

 

○スキャット●

 

 「ヴォーカリーズ」というと、ボビー・マクファーリンのCDが有名です。レッスンで使ったことがあります。そのとき、チェロがヨーヨー・マと知らなかったのですが、いろんな声や体で音のパフォーマンスをする歌い手です。

 なお、「シャバドォビ ダバドォバ」はテレビ番組の11PM、大橋巨泉さんつながりで、「やめてけーれドォビドォバ」は、左卜全(「老人と子供のポルカ」)、ザ・ピーナッツの「恋のフーガ」、新しいところで椎名林檎さんの「唄ひ手冥利」の中のjazz a gogoスキャットとジャズではいうもの、これは母音の響きより子音のリズムや語感覚を活かしたものです。

 スキャット唱法ということをつくりあげたサッチモことルイ・アームストロングのトランペットと歌唱で、「バラ色の人生」を比べたこともありましたね。

スキャットの女王エラ・フィッツジェラルド「マック・ザ・ナイフ」は、日本では渡辺えり子さんのを勧めていました。さらに、サラ・ヴォーンの「枯葉」は、よく使いました。

 

○マウスミュージック

 

 マウスミュージックは、声を器楽のように使います。人間の声、ことばでのハイテンポ、早口ことばの音楽で、マウスとはいえ全身を使います。

 ヒカキンなどの楽器音、スクラッチなども含め、人間の声とは思えない完成度の模倣をします。これは、そのまま楽器の代用のように人の器官を使うビートボクシングです。ヒップポップのドラムマシーンの代用から生じたようなものです。一方、楽器で意味を伝えようとすると、トーキングドラムとなります。モールス信号など。音での合図もその延長上にあります。

 

○声とフレーズ

 

 スキャットやマウスミュージックの子音は、アタック、リズムなど各音の性格で選ばれているのでしょう。語感やオノマトペで研究するとよいでしょう。それに対し、母音は、音の高さ(高い方からイーエーアーオーウ)や長さを担っているようです。

 共鳴には、音声のもつ高さ(高低)、大きさ(強弱)、音色、長さ(減衰 響きの伸び)などが含まれます。それゆえ、私は、楽器音としての声の可能性として、子音やことばのつく前の一声を、完成された楽器として取り出そうとします。さらに、そことフレーズとしてオリジナルなもの、個性も含めた表現を基準をもって評価、その動きを養成しているのです。

 歌における説得というのは、口説きに近いものかとも思います。となると、歌垣の頃に戻るのも基礎ということになります。

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