Vol.46
○泣き声から母語学習まで
生まれてオギャーと泣く声が産声です。これは、初めて肺で息をして出した、感動すべき一声です。おかあさんの羊水から外に出され、水を吐き出し、空気を吸い、肺をふくらませて、水中生物から哺乳類になったのです。
しばらくすると、赤ちゃんは喃語(なんご)といって、ことばにならない声で、まわりの人に自分の意志を伝えようとするようになります。「お腹へった」「うんちした、気持ち悪い」「ねむい」などということを、ことばでなく声の感じで知らせるのです。
ここらは、ムズがったり、いらついたり、わがままし放題、王様の時期です。
それに対して、「よしよし」とか「だめ」とか、表情と声の感じで、両親は反応します。そのことばを母語として聞くことで、それを発することができるように、脳に配線ができていきます。
そして、学校に入る頃までに、およそ主な母語を聞いて話すことができるようになります。その母語が、あなたの言語のベースとなります。あなたのネイティブなことばは、日本語となったわけです。この時期(臨界期)をすぎると、ネイティブにはなりません。
○日本語と外国語
さて、そんな頃をすべて忘れた頃、最初の外国語である英語に接するわけです。そこで日本語にない発音がたくさんあることを知ります。発音記号なども学びます。
それでは、日本語はそういうものはなかったのでしょうか。
いいえ、幼稚園や小学校一年生のときに50音ということで「あいうえお」という母音や、「(あ)かさたなはまやらわ」という子音を学んではいるのです。ただ、日本語というのは、音声面ではとてもシンプルなので、だいたい幼稚園までに大体は話せるようになるのです。
なぜなら、5つの母音に子音をつけて、その2つの組み合わせで、すぐに言えるからです。つまり、A、I、U、E、Oのまえに、Sがつくと、Sa、Si、Su、Se、So、それで通じたらすむので、それ以上に詳しくは学ばないのです。
たとえば、Sa、Su、Se、SoとSiのSの発音が違うことを知っていますか?
発している音は必ずしも50音表での100余りの音だけではないのですが、そのように覚えたら、100余りの音で認識して、発し分けたらよいだけです。あとは、日本語はとても文字が多いので、ひたすら読み書き、カタカナや漢字の習得に時間を使ってきたのです。
音声面での発音が複雑な外国語では、外国人も発音や発声について、基礎教育で学ぶことは当然です。彼らのは、子音中心言語で、音の組み合わせがとんでもないほど、ヴァリエーションがあるのです。つまり、日本語は音声面でシンプルなので、あなたもほとんど日常レベルで音声についてそれほど学んではこなかったわけです。日本語には、外国語によくある複雑な発音がありません。これが、日本人が外国語の習得が難しい原因の一つなのです。
○声の老化
老化は、悪い方に変わることです。ただ、年齢で老化するというなら、体という楽器では、成人したら、あとは肺活量も筋肉も衰えていきます。しかし、クラシック歌手をみてもわかるように、鍛えたり、使い方を高度にすることで、声はさらによくなっていきます。実年齢よりも、精神年齢と肉体年齢で考えるべきことです。
○人間の発声器官は、まだ未完成
発声の器官は、もともと声を出すために備わったのではありません。人間の進歩とともに、肺ができ、外部の水を入れない弁ができ(声帯)、それを転用して使っているわけです。
と考えると、食べたり、飲んだりするときの音なども、言語と無関係なわけではありません。体内の空気が口から出れば、声やげっぷ(せき、くしゃみ)、お尻からでれば屁という具合です。発音にも、飲み込む音などがありますね。のどの手術で失い、食道発声をしている人もいます。
いろんなものまねをしてみると、体のあらゆる機能を組み合わせて、言語にして使ってきたともいえるのです。だから、まだまだ可能性があります。
人の成長でみると、発声の完成は、第二次成長期以降にずれ込んで、人間の器官の中でもっとも遅い部類に入ります。これを系統発生と個体発生の関係にあてはめると、人間のもつ発声器官は、まだまだ進化中と考えてもよさそうです。
○発声のメカニズム
人間の生理、つまり体と動きが、どのように音声を形成しているかの理解をしましょう。
つまり、発声をするには、
1.素質としての楽器(のど)
2.育ちとしての喉の筋肉 内喉頭筋中心に(輪状甲状筋など)や呼吸筋(横隔膜など)
3.使い方としての共鳴
この3つの複雑な結びつきがあります。
発声の原理は、
1.エネルギーとしての呼吸(呼気)
2.声帯での原音づくり
3.声道での共鳴とコントロール
先に述べた声の状態は、1~3全てに関係しますが、
本来のトレーニングの目的は、筋肉を中心に鍛えて、感
覚(神経)や体自体を変えていくことです。
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