「イメージで変える発声法~レッスンでの誤解を正す」
〇イメージの大切さ
トレーニングの最大の効果は、みえないところを、どれだけ具体的にありありとイメージできるかにかかっています。イメージすることで脳の中の書き換えを起こし、声を変えていくのです。感覚を調整し、体や神経、筋肉での反映をしていくのです。
〇全身呼吸のイメージ
しぜんなせりふに通う呼吸のように、身体からの息を声にします。声を全身で使えるように強化します。
そこでのイメージとして、下腹、丹田、おへその意識と、横隔膜で腹式呼吸など、呼吸がおなか中心という考えは、一時、害になることもあります。その点で、最初は、横隔膜呼吸とイメージするより、「腹から声を」と大ざっぱに捉える方がよいと思います。
自分で吸うのでなく、空気が入ってくるようにする、そういう体づくりを目指しましょう。
まず、腰回りが膨らむようにイメージします。呼吸には、風船、ふいご、ポンプ、アコーディオンなどのイメージが、よく使われます。これも人によります。そのイメージでうまく動いていれば、よしとすべきです。
トレーニングのプロセスでは、お腹を膨らましたり、へこませたりすることもよいのですが、実際は、しぜんに同時に行われるものです。
しばらくは、後背面の広がりが支えとなります。横隔膜の後ろの引っ張りと、それを保持する力を養うことが必要です。
〇鼻呼吸と口呼吸を分けない
鼻も口も開口しています。
鼻呼吸では、歌やせりふなどのなかで、急に充分に吸気しなくてはいけないときに間に合わないことがあります。
吸う音はたてないようにします。鼻から吸う音がいつも消えないなら、それはトレーニングの悪い影響です。
とはいえ、意識することで生じる無理は、必要悪です。それがどんどん重なって固まっていき、不具合が生じるところまでいくとよくありません。
できるだけ、その場で解決しておくように、それが難しければ、時間をかけるか、部分的な目的が達成されたのをみて元に戻します。
深呼吸やハミングでクールダウンをしましょう。
〇力みの脱力
新たな試みというのは、何をやっても、最初は意識するし、余分な力が入るものです。そこから余分を抜いていくのも、トレーニングです。そこで抜けたのに、より働くのが真の型です。
首や肩の力みに注意しましょう。いつも脱力しましょう。ゆるみ、たるみをもった体、凛としているけど丸い体になりましょう。猫背になってはよくないです。
長く続けるにつれて固まってくるので、それを放ちましょう。忘れてみることも大切です。これまでの感じを捨ててみる、休みを入れてみるなど、少し別の角度でアプローチするのです。妊娠中の姿勢で声がわかったという人もいます。
空手の「オス」は、両手を腰で握ります。これは、手でなく腰に力がたまるのです。
とはいえ、急に縮めようとしないことです。内から動くように、緩めておきます。外から筋肉の力で強制しないように気をつけましょう。
〇赤ん坊の発声と共鳴
いまだに赤ん坊の声が理想的発声で見本などと言われます。実のところ、発声としてはよいわけではありません。ただ、体と息が声になっているところで一体となり、一つの大きな動きができていること、しぜん、かつ大声でひびくことに学ぶべきものがあるのです。つまり、共鳴がよいのです。
しかし、そのひびき方は、歌唱の共鳴とは異なります。歌唱は、集約された共鳴で、そこに芯があるというイメージです。
○声づくりに必要なイメージとジラーレ
声づくりには、体、呼吸、声のイメージづくりが大切です。ジラーレという、息が回る、螺旋形に回るバネのように声がのっていくイメージです。これは、声楽の特殊な技法用語として声区融合などに使われていますが、どの声域の発声も息でまわしていくように捉えておくとよいでしょう。
○発声を支える体のイメージ
息を出すのは、背の筋肉で支えるイメージです。
骨は、体を支えます。腰で支えます。人の体を支えている背骨は、逆S字です。
腰は、立つ、歩くという支点の要です。
体を左右、前後(厚み)、上下の3軸で、発声と共鳴を捉えてみてはいかがでしょう。
〇抵抗とテコの原理
声も息も重さを感じるようになるとよいでしょう。手ごたえです。それが動かせる力がつくと軽くなります。まさにテコの原理です。
しっかりと重心を捉えます。これが声の芯、次にそこを中心に動かします。それはフォームづくりです。
声は結果です。トレーニングは、結果でなくプロセスです。
〇発声とレガート
出だしを構えて、ぶつけないことです。そのために、きちんと吸気して空気を体内に保っておく準備がいるのです。それを構えということで準備が必要です。イメージから無意識にできるようにしていきましょう。
声の出だしでは、息から声への完全な効率変換を目指します。息=声のキープ、配分、コントロールです。特に、発声の後半の支えは大切です。
そして終止です。共鳴したままでフェイドアウトします。
〇レガート
レガートが基本です。一つにつながっているからレガートといいます。点が線と「アアアア」でもよいのですが、「アーー」と線としてとらえます。そこは呼吸法のイメージと同じです。すべては柔らかく、ゆったり、しなやかに、滑らかにイメージします。息や声を丁寧に吸うのが基本としての感覚です。私は子音をつけて起声をチェックすることをお勧めします。
発声では、踊り子の舞いや習字の筆の動き、円をイメージするとよいでしょう。止まらずに道に沿って動く車の運転やレースの感覚に似ています。ある程度のパワー、スピードがないと、最初はかえってやりにくいものです。
〇ヴォーカリーズに子音をつける
母音だけ発声するよりも子音を付ける方が深く踏み込みやすいことが多いようです。
私は、ガ行をよく使います。ge-ga、go-gaのよい方から入ります。少し安定してきたらgo-ge-giで、いきなり難しいgiでイに挑み、はっきりと縦の線、深い共鳴を意識させます。
〇深いイのひびき
日本の歌手から、この深いiを聴くことができなくなってきました。マイクに頼るにつれ、鼻腔処理中心だけに集中して、体からの大きな共鳴のイを失ってきているのです。そのため、とてもイメージづくりに苦労します。 理想的な共鳴は、日本語のイではないのです。声楽家、ミュージカル俳優、演歌歌手が、使っている共鳴するイです。
以前は、この音のひびきが若いアイドルタレントとプロ歌手を分ける目安でした。イの心地よいひびき、ビブラートでも明らかに差がつくのです。
〇口の開閉
口は縦に開けるイメージにしましょう。口内(cavita)は、軟口蓋と舌の間で縦に広くとります。軟口蓋がもちあがった状態、そこから鼻の付け根を意識します。縦の線、鼻の三角と腰をつなげましょう。
口を開けるのでなく、口の奥を開けます。口角を横、イ、エで引っ張ると、浅く薄くなります。
「口を開ける」とか、「口を開けないように」という注意は、ひびきを落とさないためです。しかし、多くのケースでは、ひびきが落ちるからでなく、その前に、ひびきが上がっていないことが問題です。歌うと、いきなり口元が狭く、息も少なくなりがちなので、気をつけましょう。
脱力した首、喉、声帯、背中を広げていく、体全体を柔らかく、丸くイメージします。丸く、は猫背にするのではありません。
声帯は、小さくとも筋肉なので、筋トレが必要です。それは、声を出すことです。
〇トレーナーの指摘ミス
発声のマニュアルやトレーナーの注意が、一つ先のことを伝えていて、空回りしていることがよくあります。本人がそのステップをしぜんとクリアしていて、少し高いレベルで注意されたことを、初心者にそのまま受け売りして教えると、よくこういうことが起こります。レベル差をふまえない教え方といえます。先取りした指摘ならよいのですが、多くは、先走った教えたがりのミスなのです。
〇メニュのよし悪し
メニュのよし悪しの判断が難しいのは、どれか一つを変えると全体のバランスも変わるからです。さらに、変わることで、一時、どこかに無理が生じるのは、仕方ないこともあります。
そのあと、それが解決し、よりよくなるかが大切なのです。ここで、何をもって、よりよくというのか、一時というなら、それはどのくらいの間かが問われます。つまり、待つのです。
○トレーナーの見切りと待つ幅
よりよくなるとは限らないと思ったときに、どこで限界や見切りをつけるのかも難しい問題です。場合によっては戻すのか、それは単に無駄になるのか、ただのマイナスになるのか、どこかでプラスにならないのかと、考えます。
その幅を、トレーナーはどのくらいでみるかということになります。
理想は、デメリットを少なく、メリットを大きく、同じ事なら早くできるようにということです。あるメリットのために、大きなデメリットや長い期間をやむなくとることもあります。何手も先を読みつつ詰めていくのです。それも試行錯誤の中でしか、わからないこともあります。
一方、本人との価値観のすり合わせを忘れてはなりません。芸、芸術ゆえ、そこでの相違こそが、最大の難所です。☆
〇歌と表現
歌うのが「歌わされている」「歌ってしまっている」ということがあります。それは、一本調子で平たく薄く伸ばしただけだからです。
表現としては、立体的、メリハリ、リアルな感触が問われます。これがないと、生命をもって働きかけないのです。
体の調律とは、声のひびきと息、息と声、それらのバランスをとり、コントロールすることです。音程、リズム(メロディ)と声の関係をつかみましょう。
〇日常とメンタル
イメージでは、抑えないで、開放する方向にもっていきましょう。
メンタル面でストレスをかけないよう注意します。
リラックスした生活、食事、便通などに注意します。
やわらかい神経、頭、心、そして声が大切です。
個人主義を旨としても、周りと仲良く協調しましょう。
〇発声と聴く力
なぜ、歌に、声に、音楽に感動するのでしょう。風や虫の声に耳を傾けるのでしょう。
日本は言霊の国です。祭り、謡と踊り、神、その理念が人、実体として現れたとみます。
人は、考える頭と声(行動)をもって世界を切り拓いてきました。
〇成功している人は、声がよい
声がよいから成功している芸人を例に、音や声が人の心理に与える影響をひもといています。そこで、もう一つ大切なことは、聴覚、聞くことの重要性です。日本では、音声は、諸外国ほど重視されてきませんでした。察する国として、聴く耳が問われてきたのです。これも、声を知ることからつながるのです。
〇呼吸について
Q.息の使い方を知りたいです。
A.全身での呼吸を目指します。背中を拡げる、開けるなど、まず動きにくい背面への意識づけをします。柔軟でしなやかな体を思い浮かべて、そういう体づくりのイメージをもちましょう。
Q.強い息で声を出すのですか。☆
A.呼気が強く出ているイメージだけで行うのでは、雑すぎます。一方で、声は鋭いひびきのときもあるわけです。確実に声を捉えているときは増幅してみましょう。弓を解き放つイメージなども使うとよいでしょう。
Q.声が高くなると、息を少なくした方がよいのではないですか。★☆☆☆
A.私は、意図的に、トレーニングとして、ことばの強弱、特に強く言い切る、吐き出す感覚と、声が高くなることを同列に捉えるようにしています。そこは、ことばから歌にしていくプロセスと同じように、ということです。トレーニングでは、声量と声質の統一を優先します。 ハイトーン域ではなく、話声域でのことです。声域は、どちらかというと、バランス、調整、コントロールです。もちろん、基礎としては、トレーニングが必要で、その結果ですが。
Q.呼吸で声を飛ばすのですか。
A.息の声をのせる、声にことばをおく、そういうイメージの方がよいと思います。
Q.呼吸のとき、リラックスと集中が両立しません。☆
A.海では、人は体の力を抜けば浮かび、力を入れると沈みます。
心を重心におきます。すると、眉間の真ん中にも集中するものです。第三の眼があります。天帝と呼ばれるところです。丹田に力を入れるのでなく、気を鎮めるのです。
力が抜けた状態と、力を抜いた状態は違うのです。「落ち着くところに落ち着く」というように考えるとよいでしょう。重心を下におきます。わからなければ何か重いものをもてばよいでしょう、そして、そのイメージでできるようになればよいでしょう。
〇共鳴について
Q.声を前に出せと言われます。☆
A.声は、まっすぐ前へ出るのでも、引っ込んだり集まったりして出るのでもありません。ただし、こもる、掘る、下に押し付けるイメージは、特別なケースを除いてよくありません。
縦のイメージをもちます。鼻の付け根に眉間の少し下くらいに三角点を描いて、口内は縦に広くイメージしてみましょう。そこで声を回します。息を吸う、香りを嗅ぐという感じです。どこかハイレベルに厳かにイメージしてください。
Q.声は、体や頭にひびかせて出すのですか。
A.体内でひびく声でも耳にうるさいのは、遠くに通らないことが多いです。声が拡散するのでなく、芯や線というのを伴っている、集約されているイメージをもつとよいと思います。 がんばって拡散するように出してはよくないのです。
Q.喉仏を下げるように言われます。☆
A.口の開け方で「指2本縦に」とか、「スプーンを入れて」など言われたのは、口先より口内の高さ、縦の距離を保つためです。高いほど下に引っ張る感じです。最近は、そういうことばも使われなくなってきたのでしょうか。
今では、「喉仏、喉頭が上がらないように」などというのは、生理学、物理学的なアドバイスです。このアドバイスが間違っているとは言いません。必要なときもあります。しかし、指でチェックしたり、無理に下に引っ張って保ったりするとなると行き過ぎです。鏡で充分です。必ずしも高音で喉頭を下げたらよいというものではありません。安易に動くのを戒めるだけで、高音で上がるのが悪いわけではありません。現実にそうなりやすいし、それで歌っている人もたくさんいます。すっかり小手先の指導法が定着してきたことが心配です。
Q.発声では、尻の穴を締めるのですか。そのトレーニングがあるのですか。☆☆☆
A.ちゃんと生きているなら、そこは締まっているのです。それをトレーニングするのはおかしなことです。結果としてそうなっているのです。この場合は、尻の穴が締まっているのと、さらにそれを締めるというのは、むしろ、反すること、力が入りすぎると思います。つまり、どこかに力や意識を向けて喉を脱する、それなら肛門に限る必要はありません。精神的なことが入っていると思います。
形として、チェックとして、そこから入ることはあってもよいと思います。しかし、それは目的でなく、一つのプロセスです。いつまでもそれに囚われてはいけません。
Q.レガートのスケールがうまくいきません。
A.息を集中して、ロスしないこと、息もれを起こさないこと、押したりぶつけないことです。ビブラートを感じ、そこにのせていくようにします。音が上がるときより、下がるときの方が、支えに注意することです。
Q.顎を落とさず、口も開けない方がよいですか。☆
A.そういう教え方が一般的ですが、これは、声の共鳴が落ちるのを避けるためです。しかし、初心者では、そうなっているとは限りません。顎を引くこと、口を開けすぎないことが大切なのです。その注意と混同されて使われていることの方が多いようです。
Q.重い声なのか、飛びません。
A.声を飛ばすのは、声が浮いたり、声を浮かすのとは違います。軽い声、声の軽さは、別のものです。芯、支えがあってこその軽さであるべきです。そこでは、重たい声やこもった声がよいのではありません。
無駄な力をなくしていくことで、重い声ほどひびいて飛ぶとも言われています。イメージは、よい方に捉えましょう。
Q.発声を強化したいです。
A.粒の揃った声で、母音をイメージしましょう。
そこでは、目の力は抜いて、リラックスしてみてください。100パーセントの共鳴を感じて、部屋の隅々まで届いていくようにします。
〇発音について
Q.破裂音で鍛えられますか。
A.発音をクリアにするのは、口や舌の動き、そして発声です。
Pa行、Ba行でやってみましょう。そのあとR、Lとラ、Mと、Nとハミング、Fなどを使ってみます。うまく息を入れましょう。
口腔を拡げるつもりで、口や舌の動きをよくするとよいでしょう。
Q.口の開き方について知りたいです。☆
A.口の開きは、前歯が少しみえるくらいと言われます。唇が出っ張りすぎるのも、おちょぼな口も、歯がみえすぎるのもよくないと言われますが、個人差があります。唇、歯の形態もいろいろで、発声にも違いがあるので、自分に合ったようにすることです。
Q.口の周りの筋肉も鍛えるべきですか。
A.結果として、それは、固くするのでなく、柔らかく保つためにするのです。このことだけでも一つの論文になるほど、いろんな問題を含んでいます。筋肉の動きや脱力も、必ずしも表面からみえるものではないから、なおさら難しいのです。
Q.深い声で発音をしたいのですが。
A.日本語のアイウエオをAIUEOにするのは、浅い喉声を深い共鳴を伴ったものにするためです。ア→A、イ→Iのように異なるものにするとか、ずらすのではありません。狭いアを広いアにして、そこでの最良を選べるようにしていくということです。
「横への拡散を縦にして集約する」イメージをもつように言っています。そこは、発音でなく、発声で深く響くようにして、最終的に発音もクリアにブラッシュアップすると捉える方がよいと思います。
つまり、アイウエオでなく、もっと広く、あらゆる母音の発声のなかでもっともよいポジションを得ることが目的なのです。
Q.発音と発声のトレーニングのときのイメージは。
A.日本人の場合は、シンプルに「深い」のイメージでよいと思います。より芯のある発声を得ることからです。日本人は引きがちなので、「大きく」「強く」「太く」などのイメージをあえて加えることもあります。
今の5音の母音のなかで選ぶのでなく、それをヒントに新たに得る、発見するのでもなく、つくり出すものと思っておくほうが確かともいえます。
特に、日本人の日本語の場合、アは浅く、ウ、イも平べったくて、使い物にくいことが多いです。エやオに比較的よいのをもつ人もいます。
〇その他の質問
Q.私のトレーナーは、他の人のやり方の批判ばかりしています。☆☆
A.多くの指導者が、他の指導者のやり方を否定します。自分が正しいメソッドをもち、実現できていると信じているからです。ある程度、そう信じなくては他人に教えられるものではありませんから、仕方ないと思います。しかし、全てにおいて自分のが正しいと、何をもって言えるのでしょうか。
トレーナーとしては、ここまでは確信をもって教えられるが、このあたりは試行錯誤、これはわからないなど、トレーナーとしては、その区別くらいのつく人であって欲しいものです。同じことも相手や目的によって、かなり違ってくるのです。
トレーナーも、お山の大将タイプが多いのです。すぐれたトレーナーといわれても、あるタイプに強いというケースでの実績にすぎないことが多いのです。こういうことをふまえて自分よりもほかのトレーナーが、あるタイプには相応しいとわかって任せようとするトレーナー、自分には向いていないと断れるトレーナーは、あまりいないと思います。
Q.トレーナーが真意を伝えてくれていない気がします。☆☆
A.すべてを伝えるかどうかは、指導においては別問題です。特によくないところは正直に言うのがよいとは限らないです。あなたにも、その真意を読みとる力があった方がよいともいえませんが。
イメージとなると、正しい、間違っているもないのです。大半は事実に反しているので正しくはありません。 正しく伝えるとは、事実を伝えることとは限りません。 私は、これを研究と指導として完全に分けています。トレーナーは、どちらかに偏りがちです。この区分けができないことから生じる問題も少なくありません。
Q.「他の人の教えているのはベルカントでない」という指導者をどう思いますか。☆
A.声楽のマニュアル批判で多いのは、ドイツ式、イタリア式と分けての批判、あるいは、「本当のベルカント」でないという批判です。しかし、本当のベルカントとは?
そうした多くの指導者が、誰でも教えられる前は、しぜんでよい発声であったのに、教えられて、つまり、間違ったメソッド、間違った教え方で、よくない、伸びない、本心ではひどくなったと思っています。
さらにポップスは、自己流で間違った発声が多いとも言われます。
声楽は、最初から誰かに教えられることが多いので、その教え方や教わり方自体が否定されてしまうのでしょう。
赤ちゃんや子供の声が理想と、そこまで持ち出して、勉強中の生徒の発声を否定する人もいます。自分の生徒以外を、です。お互いに、それをやり合っていて100年以上経つのも笑止千万ですが、その渦中にいると気づかないのです。気づかなくなってしまうのです。
流派、派閥みたいのも、多数を好む日本人らしい考えです。
○○先生門下となり、さらに海外の権威に弱い日本人は、そこに世界で名の通った歌手や指導者、一流の○○を育てた○○に教わった、ゆえに、私のは本物だという論理を持ち出すのです。これはずっと変わっていないどころか、ひどくなっているようです。
イメージや勘を磨く、心身を使って自ら知ることです。そして、実際の声での判断を鋭くできるように高めていくことです。