Vol.58
○声の使い方でイメージは変わる
自分の声があまり好ましくないところに位置づけされても、諦めないでください。もともと持っている声そのものよりも、声は、使い方でずいぶんとイメージが変わるからです。
表情や態度とも関係します。つっけんどんにしているとか、甘えているとかいうことが、声に表われます。心身に深く影響されるからです。
ものまねでは、まねる相手から、声だけでなく、特徴的な雰囲気、身振り、表情を似させていきます。表情や態度が声に大きく影響してくることがわかります。
骨格、体が似ている(もとの声、声帯)と似てくるものです。育ちも影響します。親子、特に同性では、声がそっくりというケースが多いです。つまり、声は性格、態度(表情のつくり方)、声やことばの使い方で、いろんな工夫ができるのです。
○自分の声のチェック
自分の声のなかには、どういう声があるのかをチェックしてみましょう。自分の声は、一つしかない?そんなことはありません。誰でもたくさんの声をもっています。でも、たくさんの声を使っている人と少しの声しか使っていない人がいるということです。さらに意識的に使っている人とそうでない人がいます。あなたは意識的に使ったことがありませんか。
怒った声、泣いた声、笑った声でもかなり違います。笑った声でも、腹の底から笑った声と、少し笑った声では全く違います。感情が声に表れるのです。
小さな子どもをみてください。感情にまかせて、さまざま声を自由に使っています。
もし、自分の声のあらゆるパターンとその効果を知っていたら、どうでしょうか。あなたの表現力、コミュニケーション力は格段に高まりませんか。
○甘えた声は甘くみられる
いつも甘えた声を出している人がいます。特に最近の日本人の女性には、わざと甘えた声を出している人がたくさんいます。アニメの声優の影響などもあるようです。これはあまりよいことではありません。さとう珠緒さん、山瀬まみさんの声のようなタレント業としての演出を実生活ととり違えないことです。
「うそー」「やだー」「ホントー」という口ぐせは、頭の悪さより、かわいさを優先した結果ですが、声でも同じです。
〇たれ流ししないで言い切る
「むかつく」「うざい」こんな日本語は、一切、使わないようにしましょう。声も死んでしまいます。
こういうことばや声を使うと、そんな気分になるから、自分の心身に悪いからです。それを言霊ともいいます。言われた方はなおさらよいものではありません。声もあなたの印象も悪くなってしまいます。
若い人のよく使う半疑問形の広がりも、感心しません。
「ーとか」「ー?」などと、語尾があがるのは、自信なく、まわりの同調をさそおうとしています。自分で意見を言って、その是非のリスクをとることを避けているのです。ことばと声の、たれ流しです。
ことばは、自己主張でもあります。それを避けてきた日本の文化、奥ゆかしさは、こういう弱点となっているのです。
最近、私は昔の映画、時代劇などのことばが美しく、声がパワフルと思うことがあります。それは、きっとしっかりと自分の意志や気持ちを声で言い切っているからです。今でも戦時物もの、法廷ものの映画やドラマなどに、若干の残っているようです。しかし、勝新太郎さん、悪役商会の役者さえなどの、低く太くハスキーでダミ声の悪役声は少なくなりました。
〇ことばよりも言い方
言ったことのよしあしも大切ですが、そこに気をつけるなら、言い方には、もっと気をつけなくてはなりません。
言うことばは、間違ったら直せばよいのです。それで一つ学べます。ところが、きちんと声を出して言わないと、そういうことさえわからないのです。ことばが直ったら、次に声の問題に入れます。
しかし、考えようによっては、ことばの使い方が難しいからこそ、どんなことばでも好感のもたれる声でカバーできていればよいのです。
○声は、相手によって存在する
声は、目をつぶるとわかりやすいです。耳の世界、聞こえてくるものだからです。自分の声であっても、相手との間の空気を伝わり、相手の耳に届いてはじめて、声は存在を認められます。自分自身に語る声や心の声というのもありますが、それは発声する必要はありません。
ですから、声は、発した時点で、相手のものとなると思ってください。自分の体から出るのですが、独り言でない限り、それは相手を想定して使っているわけです。つまり、相手にしっかりと伝わってなんぼのものです。
となると、声を出す自分の方のことばかり考えても、仕方ありません。声は、自分と相手を結びつけるということです。その声の上に話がのるのです。
〇話は声で伝わる
話というのは、相手に左右されます。相手が受けとめて、なんぼです。話は、声にのって伝わります。
どんなによいことを言っても、「聞き取れませんでした」「聞いていませんでした」と言われては、効果ゼロなのです。となると、まずは、声量です。
もちろん、聞き手の態度にもよります。相手が熱心に聞いてくれるときと、他のことを気にしているときとは、伝わり方が異なります。話の仕方がどうであれ、大半は、聞き手の態度で決まるのです。
ですから、話す方も聞き手の態度を変えることが大切です。そのための声と考えてみるとよいでしょう。聞き手に関心のある話、必要な話なら声がどうあれ伝わるのですが、そうでない場合、声が決め手となるのです。
○自分が一番知らない自分の声
周りの人にあなたの声について聞いてみてください。「自分のファッションは、自分にしかよさがわからない」とはいえませんね。まして、話や声については、あなた自身が、自分のものなのに、多くの場合、周りの人よりもずっと知らないのです。
なぜなら、あなた自身が使い、相手に伝わっているリアルな自分の声を聞いたことがないからです。録音再生で聞いたとしても、それはリアルな声と違います。その回数は、あなたの親しい人が聞いたよりも、ずっと少ないはずです。
○あなたに聞こえる声は、実際の声と違う
あなたがいつも使っている声として聞いているつもりの自分の声は、内耳から骨伝導で伝わる合成された音です。あなた以外のすべての人の聞くあなたの声とは違うのです。まわりの人が聞くあなたの声は、あなたの聞けるあなたの声ではないということです。周りの人の聞く声は、少し高めとなります。
自分の出した声は、自分が一番聞いているつもりで、聞いていないと言えるのです。こんな変なことは、他にはありません。普通はあなたのもので、あなたが一番使っているものなら、あなたが一番よく知っているはずですから。
あなたの声の感想を友だちに聞いてみてください。「大きすぎる、うるさいよ」、「「す」がよく聞こえない」「なまってる」「何か眠くなるな」、「固すぎる」、「テンポ速いんじゃない」、こんなことを言ってくれるかもしれません。それはあなたが、これまで気づかなかった、だから直らなかったところです。ファッションのたとえでも述べましたが、みえない分、直しにくいのです。
○声と使い方
問題をわかりやすく2つに分けてみましょう。声そのものについてと、その使い方についてです。
1.声そのものについて
声は生まれもっての声ですが、成長とともに変わります。発声器官だけでなく、心身のすべてが、あなたの声を決めています。
声には、高低、強弱、長短、音色などがあります。声が暗い、明るいなどというのは、音色、声質のことです。
2.声の使い方について
声をどのように使っているかということです。それは、大体は、これまでどう使ってきたかということの影響下にあります。あなたの性格、環境、仕事、地位などにも影響されています。
使い方そのものは、高さ、強さ、長さや音色なども、いろいろと変えられます。つまり、声の機能面であり、声を出す楽器の演奏方法のことです。
○発声の仕組み
発声の仕組みは、主に4つに分けられます。それがよくないときの症状を併記します。
1.エネルギー源―呼吸、息の使い方……ブレスが聞き苦しい、落ち着かない
2.発声―声 息から声にする……固い、かすれる、つっぱっている
3.共鳴―母音 声からひびきにする……伸びがない、ひびきがよくない
4.調音(構音)―子音 声からことばにする……発音不明瞭、もごもごしている
声は、息というエネルギーを使って、声化、音声化、ひびき化(共鳴)、ことば化(発音)していくのです。
○まねるのでなく自分の声を生かす
ヴォイストレーニングは、トレーナーの声をまねて、そろえていくような練習と思われています。
でも本当は、自分自身の自分らしい声をきちんと使えるようにしていくことなのです。そのために、
・声のことで知ること
・声の状態、条件を整えること
・声をTPOで使えるようにすること
私の考えでは、理想の歌声や話し声を見本をまねるのでなく、生来もっている自分の声を知り、うまく活かすために行なうのが、ヴォイトレです。
〇声の調整
ですから、
1.今の声や違う声を、いろいろと出してみる
2.そのなかでもっともよいと思う声(A)、よくなりそうに思う声(B)、使いやすい声(C)を選んでみる
3.TPO(状況)に合わせて、それぞれの声を使いこなす
ここまでは調整です。そして、それを完全にできるようにするために、元の声そのものをタフ(丈夫に、強く、健康)にしていくことが、本当はトレーニングの中心なのです。
〇声をタフにする
まず、ありったけの声を出してみましょう。
たぶんあなたはまだ神様が与えてくれた声の10分の1もその可能性を使っていないはずです。日常のレベルでよいと思われる声を求めるなら、体力づくりや呼吸法やのどの、たいそうなトレーニングはいりません。柔軟と呼吸と発声の調整で充分です。しかし、それでは心身の不調に対応できません。そのために、やや過剰に鍛錬しておくのです。
オペラ歌手になるのなら、あなたの今の声は使いにくいから、あなたのなかであなたがイタリア人だったら出していたような深い声を選び、それでも声域や声量が足らないからと、俳優や声楽家のように鍛えていくのです。
とはいえ、ビジネスや日常では、あまりにあなた自身のイメージから離れたら問題です。声の整形手術をするわけではないのです。あなたのなかで、ビジネスのいろんなケースに使いやすい声もあれば、日常に使いやすい声もあるはずです。まずはそこから、自分の声の棚卸しをしてみましょう。
○いろんな声を出してみよう
声を<TPO>で考えてみましょう。
・ビジネスに使う声
・日常に使う声
具体的にいうと、
・明るくさわやかに、元気を与える声
・温かい気持ちで応対する声
・疑問、尋ねる、お伺いをたてる声
・お礼、感謝を伝える声
・礼儀正しく、畏敬を持って伝える声
・謝罪、心からの謝意を伝える声
・意欲をみせる声、リーダーシップをとる声
・依頼、お願いをする声
・安心させる声、寛大に伝える声
・小さな声で伝える、注意する、ガイダンスする声
・てきぱきと、正確に伝える声
などです。
○初めて出せた声
これまで使ったことのない声を見つけていきましょう。このへんからが、ヴォイトレの真骨頂です。
今のままの声に自信をもちなさい、というのでは、声は変わらないと思われるかもしれません。でも、ここまでのことをきちんと意識するだけでも、声は大きく変わるのです。
〇経験を補うトレーニング
役者は、ベテランになるにつれ、目と口もとなど、最小限の動きだけで、喜び悲しみを表現できるようになります。しかし、人生で、よほど悲喜哀楽にめぐまれた人というか、けっこう不幸な人でなければ、あるいは相当な年齢で多彩な経験を経ないと、そういう表情や声は、なかなか、しぜんとは身につきませんし、出てきません。それを補うために行なうのがトレーニングと思ってください。