第2号 「ヴォイトレの目的」
第2号 「ヴォイトレの目的」
○声の先天的と後天的なところ
声には、先天的なところと後天的なところがあります。厳密には、指紋と同じで、一人ひとり“声帯”も喉も違うのです。他人と同じにはなれません。
声帯や発声器官での限界もあります。声や歌は、けっこう加工できるので、それをわかりにくくしてしまいます。特にうまくなろうと思い、早くうまくするという指導をされると、限界が早くきてしまうのです。それで満足できるなら、これも悪くはありません。しかし、その先、深められません。
声帯を中心とした発声器官自体もトレーニングで変えられます。変えなくても、声の出し方で変えることもできます。いろんな可能性があるのですが、私は、前者の可能性から考えるようにしています。
○目標をはっきりさせよう
ここで知ってほしいのは、すぐれた成果をあげたいなら、「自分が持って生まれた楽器をきちんと使いこなすことに目標を絞る」ことです。声はもって生まれたものだけに「可能性があるとともに、制限もある」のです。
でも、心配することはありません。心配することが、発声を一番悪くするのです。
あなたの目標が、実際に身につけることなら、大切なことは、それを今日から生かすことです。すぐに生かせなければ、どういう形なら生かしていけるかを考えることです。考えられなければ実践すること、です。
迷ったら、行動してください。迷えるのですから、勇気を出して、思うようにやってみてください。
アドバイスはトレーニングで行きづまったら、また読んでください。
○わからないことを恐れない
私は、少なくとも、声に関しては、学び始めたころの数百倍もわからないことが増えています。しかし、トレーニングによって自らの声は鍛えられ、このような仕事ができるようになっています。
大切なのは、「声を、現実にどう生かすのか」ということです。声がわかってもわからなくてもどうでもよいことです。わかるとは、どういうことでしょうか。
あなた自身の問いをつくることです。あなたが、あなたの夢を現実にかなえていく、あなたの答えを追及していくのです。
「ヴォーカリストになりたい」「役者になりたい」「声をよくしたい」
本を読むのも、スクールにいくのもよいでしょう。しかし、わからないことがわかっても、疑問が解けても、何にもなりません。
実は、わからなくても、最高のステージができていったらよいのです。人生でやりたいことが実現できていったらよいのです。
○問題にする必要のないこと
よく尋ねられる質問の中には、高音の出し方、声区のチェンジ、ファルセットのかけ方、ビブラートのやり方、ミックスヴォイス、マスケラ、ベルカント、デックング、ジラーレなど、たくさんあります。
ここでは、複数のトレーナーに答えてもらい参考にしています。(「発声と音声表現のQ&Aブログ」の共通Q&A参照)
それ以前に、問題にすることにおいて問題になるものは、問題ではないと思うのです。あまりによく聞かれるので、触れました。
あなたが、ヴォイストレーナーか弟子をもつ声楽家なら、世界の最先端の研究や言葉の意味、由来を知ること、そういう専門家との知識のやりとりも必要でしょう。
でも、これからヴォイトレをするのなら、まず自分自身に向きあうことです。自分を知るのは、将来の他人を知ることより難しいともいえるからです。
○トレーナーのノウハウの大半は不要
アーティスト、ヴォーカリストを目指すなら、現場では、「ベルカント唱法をやっていた」とか、「○○先生のもとに通った」とかはいりません。偉い先生のもとにいたからって、あなたが偉いわけでも、できたわけでもないのです。
こういった技術が習得できた、だからといっても、大して使いません。使うところもありません。
使うというのは、技術とみえなくなるまで、習得しなくては使いようもないからです。ある技術を習得したらプロになれるというのは、日本人らしい真面目さからくる誤解です。
あなたの声が何を表現するかがすべて、です。
問われるのは、あなたの(作品としての)価値がどこにあり、何を補うべきか、そのための手段として、ヴォイストレーニングがどう有効に活かせるのか、ということです。
相手の肩書きや経歴にこだわらないことです。声がみえなくなります。
○マニュアルを超えること
私の答えは、いつもとてもシンプルです。複雑で、難しくなるとしたら、おかしいと疑いましょう。それは、歌や表現を声の中でなんとかしようなどと考えるからです。
あなたの表現へのこだわりを徹底して深め、声に込めるのに努めましょう。できたら、詩や音楽の神様の導きの元に・・・。
心と体、呼吸と声は、大きく結びついてきます。そのために学ぶのです。
マニュアルは所詮、マニュアルです。トレーナーに教えられたり、直されたりしてしまうような歌や声が、世の中に通用するわけがありません。誰もトレーナーやプロデューサーの出した答えを、あなたに再提出してもらいたいのではない。そんな安易な方法(論)やマニュアルや技術で得たようなものは、それが前面に出てしまうだけ、よくないのです。トレーニングのプロセスとしてのみ是とされることもあるのです。
それは、“声らしいもの”“歌らしいもの”ではあっても、決して真の“声”“歌”ではありません。
あなたは、あなたの答えを出さなくてはいけません。他人のように歌うのでなく、あなたの歌を歌う、いいえ、あなた自身を歌ってください。「発声からでなく、声の使い道から考えること」です。つまり、目的から考えることです。ヴォイストレーニングは、その補強に最低限、必要であると位置づけるべきなのです。
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