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第4号「まねすることとトレーナー」

○トレーナーの声や歌手の声をお手本にすることについて

 

 コピーできるのは、あなたが素人なら、素人でもとれるところ、つまり、真似てはいけないところの方が多いのです。感覚と体がプロのレベルでないと、見えないところ、聞こえないところ、つまり肝心なところは盗れないのです。盗れるなら、同じように発声もでき、歌もすぐ歌えるはずでしょう。

 

 トレーナーの声の見本は、声帯や体が違うのですから、参考にとどめることです。もちろん、声楽や邦楽では、徹底的に時間をかけて見本となる人を写しとります。その後、同じようにコピーしても、完全にはとれないところに、個性をみつけていくという方法もあります。

しかし、トップスターのコピー方式は、二代目、三代目と器を小粒にしてしまいます。トレーナーの声を真似るまえに、一流ヴォーカリストの、声の使い方に直接学ぶべきでしょう。

 

〇一声と三つのくみたて

 

 独自の個性で売れているプロのヴォーカリストに声を学んでどうなりますか。ファンは嫌がります。ファン以外はもっと聞かないでしょう。

一アーティスト、一声なのです。真似は、使いようによっては、最短の方法ともいえますが、場合によって、かなりリスキーなやり方といえます。似ている声の歌手やトレーナーほど、真似やすいため、上達したかのように勘違いしやすいのも、問題が大きいです。

 

 プロ歌手は持っている声、発声(声の使い方)、声での音楽の組み立て、少なくとも、この三つで成り立っているのです。歌は応用だから、やり方では教えられないのです。

 すぐれたアーティストがレコードから学んだように、CDからどう学ぶか、耳の力をつけさせることに専念してきました。聞き方が変わって、はじめて声も内から変わるからです。

 

○声域や声量をまねない

 

 特に高音や大きな声の見本をトレーナーがやると、それをマスターできればと思う人が多いのですが、問題です。一般の人がプロらしく聞くような声は、いわゆる、それっぽい声です。伝えたいという気持ちや集中力なしに、体の部分的なところで、片手間で真似られるくらい声が通じるはずはないのに、日本人には、そういうものを声の大きさ、高さだけをみて技術と思う人が少なくありません。(困ったことに、プロやトレーナーにもいます。)

 

 カラオケ上達法としては、高音の歌手を真似るのはてっとり早い方法です。多くの人がやっています。しかし、それでうまくできた人も、プロになれるとは思わないでしょう。できなかった人は、トレーナーに細かく教えてもらっても、さして効果が出ているとは思えません。もって生まれた楽器に性能の個人差と限界があるからです。

 

○トレーナーに似せない、真似ない

 

 私はたくさんのトレーナーとともにやってきました。すると、トレーナーと発声や歌がそっくりに似てくる人がいます。表向きだけ、そうならないように、気をつけています。真似たら、悪いところだけ真似てしまうため、歌が嘘くさくなるのです。あとで伸び悩むタイプは、この傾向が強いのです。これは、ポップスでは、もっとも気をつけなくてはいけないことです。

 

〇自分の見方

 

 集団指導のメリットの一つとして、他の生徒を見て、まねを見抜く目をつけられることがあります。ただし、厳しい環境下で同じメンバーと45年は続ける環境がいります。自分の声に対する判断が、このように難しいことを知れば、トレーナーは必要欠かすべかざる存在です。

 すぐれたトレーナーの判断力を学ぶことで、自分についてもかなりの精度で客観視できるようになります。その判断力を求めにいくのが、レッスンなのです。

もちろん、初心者は、トレーナーの発声がヒントになるし、真似から入るのはやむをえないと思います。実践的で実感できるレッスンを求めているうちは、本質がみえないからです。

 

 一人のトレーナーの見方が全ての基準ではありません。それは一つの見方として見ておけばよいのです。多くの人は一つの見方さえもっていません。自分自身の見方をつくるために、あるトレーナーの判断を一つの叩き台にすればよいのです。トレーナーをもっとも厳しい客として想定するのです。つまり、そのトレーナーに認められたら、世界に通じるくらいの厳しい基準を共有していくことが大切なのです。

 

〇捨ててから創る

 

 選曲なども、今まで自分が歌ってきた曲を全部捨てたときに、自分から何が出てくるのか、何が歌い出すのかということを見ていくことです。自分にしかできないところで勝負するには、どういうメロディ、どういうことばの方がよいのかを追求しましょう。

そういうことを見つけるために、私は、ノートに50音や練習のフレーズなどをつくらせています。それは、滑舌や早口をやるためではありません。自分のことばで声をものにするためです。

体と心が一致してきてはじめて、ことばや音楽も自然に処理できるからです。

 

〇音の感覚と語り

 

 音楽を入れて、そこで歌うのではありません。心から語ってください。これは、プロセスでなく、高度の目標なのです。語るということは高度なことです。ただのおしゃべりではありません。ただ、音楽が入っていないのにしゃべっても、歌にはなりません。

歌をやっていくのであれば、音の感覚の中から勉強していくことです。いったいどういうふうに聞こえるのか、他の人が読んでいるものをもっとていねいに読めるようになることからです。

 

○自ら創る努力を優先にする☆

 

 トレーナーが見本をみせて、「その通りにやりなさい」というのは簡単そうで、実のところ、できることではありません。そこでできていないのに、できているかのように思わせて、ほめていくのが、日本によくあるヴォイストレーニングです☆。

これでは、メンタルトレーニングでしかないのです。

似ていくように思えるのは、基準が甘いからであって、初心者にしか通じません。いえ、完全に似たところで先はないのです。その結果、あなたの本来の活きる力、創造性、アイデアや内容を殺してしまうことになりかねないからです。

 

〇不足と補強

 

外国のトレーナーなら、そういうことはやらせないことを、私は実に多く現場で見聞し、体験してきました。(外国人トレーナーのすべてがそうでありませんし、日本人向きのトレーナーは、ほぼ違ってしまいますが。)

 たとえば、スキャットやアドリブができないということは、それだけ入っていないのだから、入れては出す努力をさせ、待ちます。何でもよいから創る楽しみをもって、たくさん入れて出させます。そのあとに、人々に伝わるものを選びなさいとなるのです。

よくないということではないのです。いつも足りないということです。しかし、この自由度を本当に使えるのに、プロ並の力や思想、感覚がいるともいえます。

 

〇つくる

 

 最初はたくさんつくらなくてはいけません。その中から自分自身で選んで質を高めていくことができるようになることです。その辺の手間ひまを惜しまずじっくりとかけていくようにしてください。

 そこで腰を据えてやっていくのです。そうでないものをつくってみても、その先はやれません。たぶんトレーナーの10分の1の力もつかないでしょう。

 最近は、そういうことがわからない人が多いのが、気になってきています。つくれないからこそ、自らに深くとり、入れる必要性が出てくるのです☆。その必要性に基づいて声も入ってくるのです。

 

〇トレーナーを複数にし、一人は長期的につく★

 

 研究所の中にたくさんトレーナーがいます。また、ここだけで考えているのではありません。ここにいるとか外にいるというように区別した考えではやっていません。というのも、役者や声優などにはWスクールの人が多いからです。

 

 実際にここは続ける人が多く、業界でも在籍年数はトップだと思います。ここを出てからも、会報を5年、10年と購読している方がずいぶんといらっしゃいます。

それは勉強とともに、表現ということへのモチベーションということで続けられていると思います。

研究所の内外ということはあまり考えていないせいか、業界でやっていく人はここを切らないで、何らかと結びつきをとっています。いろんな生き方があり、その選択があると思います。

 

 誰とやるか、何人のトレーナーとやるか、実際には自ら試してよいと思います。ある時期は、このトレーナーでやって、半年か1年で見直すなど、いろんなパターンがあります。半年、1年とやったときに、何が得られた、何が足らなかった、では次の1年で何をやろうというように、見直していくのがよいと思います。

 私のところでは、二人をつけて、そのうち一人は長期的に担当させるようにしています。誰かが継続してみていることを交代や調整を両立させる、もっともよい方法と思います。

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