« 「これからのこと」 No.320 | トップページ | 創刊号「ヴォイトレと研究所」 »

Vol.61

○プロの声に同化する

 

 声のプロというと、声優さんです。しかし、お笑い芸人、アナウンサー、ナレーター、噺家、タレントも含みます。

 憧れのアーティストと同じせりふを言ってみましょう。トップビジネスマンや尊敬する人のことば、そして、その声を練習しましょう。

 

○スピーチの練習

 

 あなたがスピーチを頼まれたとします。しゃべってみる練習をしますか。普通は、原稿を書いたり、メモをつくるでしょう。そして何回か直すでしょう。これで内容はできたわけです。当日、メモをみないとするなら、すべて覚えますね。

 本番では、あがったり、ど忘れしたりすることもあります。原稿があってもスラスラと思う通りいかなかったり、棒読みになることもあります。それでは、うまく伝わりません。

 

 これは、伝え方を考えていないからです。

 内容と伝えることとは、違います。内容は、ことば、伝えるのは、声です。

 原稿を書き直すのは内容をつくるためです。読みながら直すなら、慣れた人です。そこで伝え直す練習は、多くの人はしていません。芝居でいうと、脚本を書きあげて、練習をせず本番を迎えたようなものです。肝心の稽古がなされていないのでは、うまくいくはずがありません。

 

 スピーチは、内容を読みあげるのではありません。相手の心に伝える練習をしなくてはいけないのです。

 

〇内容より伝えること

 

 日本人のスピーチがへたなのは、内容を練ることばかりに時間をかけているからです。原稿をつくれば、あとは読みあげるだけと思っているからでしょう。読みあげるのでなく、伝えるのですから、内容をつくる以上に伝える練習をすることです。

 

 なかにはリハーサルとして、家族や知人のまえで練習する人もいるでしょう。これはすぐれた方法です。伝わりにくいことばを直したり、言いかえたりできます。一人で読むと、内容チェックの予行練習にはなっても、伝わった、伝わらないのチェックはできないのです。

 日本の学校の詩の授業は、棒読みに解釈だけです。間をあける、はっきりという、トーンを変えるなどというような指導は、なされてこなかったでしょう。

 このときに出てくる問題を、どのようにチェックするのか、どのように直すかが肝要です。

 いったい何が直せるのか、そして、直せないことは何かということも、わかってくれば格段に上達します。

 

○声色をまねる

 

 私のトレーナーとしての仕事は、相手の声を読み込みにいくことからです。

 その声色から、どこにどのように触れて、そう出てきたかをたどります。

 何年もやっていると、相手を見ずに自分が声を出さなくても、舌や口の内がどのような動きをとり、相手がどう声を扱っているかを実感できます。そして、それを直した状態とのギャップを埋めるメニュを処方するわけです。

 それでも若いときは、自分と違うタイプの声に乗り移るのは大変でした。

 たとえば、男性にとって女性は声の高さもひびきも違います。でも、ボーイソプラノの頃を思い出せば、少しわかります。幼いとき、男性も高い声を出していたからです。女性の方が男性の声は理解しにくいのではないでしょうか。

 

〇生声に慣れる

 

 顔つき(骨格)から舌の長さ、口の中の大きさ、筋肉と、一人ひとり違うのです。今の私は、かなり条件が悪くても、顔もみなくても、どう声を出しているか、ほぼわかります。

 

 かつての歌声や役者声は、厳しい条件下で使われたため、目的がはっきりしていて、基準が定めやすかったと思います。それで却って身につけやすかったともいえます。厳しいとは、生本番、録画なしとか、外の音も防げない芝居小屋など、環境も含めてです。今は音響技術で何でも加工できるだけに、逆に、生身の声の判断には、大変な難しさを伴うといえるのです。

 

○声は個声

 

 今のJ-popの歌や日常の声においては、基準はその人自身です。業界での一定の基準といったものはありません。

 私は、トレーニングとしては、声の生理的、物理的条件から、可能性をより大きくとれるように発声を優先するようにしてきました。それでも最終的には、私やトレーナーの出せない個性、オリジナリティに注目しています。つまり、オンリーワン、その人にはその人に合った声があるということです。

 長所も短所も含めて、その人の声を探ります。短所をなくすトレーニングより、長所を伸ばすトレーニングにしていくのです。

 それでは長所短所とは何かということになります。舞台でなくても、日常的にもTPOに応じて求められる声、ふさわしい声というなら、それには条件もあります。そこをトレーニングするのです。

 

○第一に、声量

 

 最低ベースの声量は、第一条件です。声が聞こえなくては、届かなくては始まらないのです。声量と音圧です。

 次に声が聞こえても何を言っているのかわかりにくいのも困ります。これは発音です。

 表現として、メッセージやニュアンス(声質での感情や表情など)が通らないのもよくありません。

 そう、本人がどう思おうと、芸やビジネスなら、そうあった方がよいという条件はあるのです。

 

○声の習得順

 

 本人がどう思おうと、本人も思わぬ方向に声が働いていることもあります。それは、暴走したのと同じですから、やはり本人が声の効果を知って、そのときの相手に最適に伝わるようにコントロールしなくてはなりません。

 つまり、声は、状況把握、使う声の選択、使い方、声の認知と修正と学んでいくのです。そして、実際の現場での使用をくり返しフィードバックして磨いていくのです。

 

○声を出すシチュエーション

 

 簡単に声をよくする方法があります。発声とか発音トレーニングではありません。それは相手や状況にかまわず、相手を最愛の人とイメージして、声を出すことです。それを、いつでもどこでもイメージできるようにすることです。

 

 夫には憎まれ口しか叩かなくなったヨン様ファンのオバさんは、ヨン様の前では、好かれるような美声を出そうとするでしょう。奇声、奇矯極まりなくとも、一人の少女に戻るのです。もしかすると、銀の鈴のような声が出るかもしれません。生理的、物理的なものよりも、心理的なもので声の大化けは可能なのです。

 夫の顔にヨン様の写真を貼り付けてでも、その声を日頃から使いましょう。いざというきだけという付け焼刃はなかなか効きません。

 

〇声の幅を知る

 

 特に女性は、男性に比べると、無意識のままでも使っている声の変化が大きい人が多いようです。

 自分の声が相手によってどれだけ違っているのか、その日の気分によって、どれだけ違うのかを知りましょう。そのギャップから自分の声をつかんで欲しいのです。

「何だよ、俺にはこんな言い方するのに、あいつには違う声を使いやがって」、そう思っている男性は大勢います。

 

○気分による声の分類

 声を二者の関係において図式化してみました。

  声 相手の気分 あなたの気分

 Aよい      Dよい  

 Bふつう      Eふつう 

 C悪い     F悪い  

 Aの相手にDのよい気分のときと、Cの相手にFの悪い気分のときとの声は雲泥の差です。ADはよそいきの声、CFは、ふてくされたときの地の声です。人によってはここで1オクターブ近い差が生じることもあります。

 

 ここでは具体的に

 ADAEAF

 BDBEBF

 CDCECF

の九つの声をとり出してみてください。

 あるいは、具体的な状況を設けてから入ってみてもよいでしょう。

 

〇異なる声を使っている

 

 お願いやおねだりするとき

 ふだん、ノーマルな状態

 怒りふっとうのとき

 それぞれ、ずいぶんと異なる声を使っていませんか。

 主婦でも、相手が担任の先生、ご用聞きのとき、子どものときと違うでしょう。子どもでも、よいお友だち、普通のお友だち、悪ガキ相手のときと、まさに千変万化します。先生には裏声、子どもには地声を使う人もいます。

 育ちのよいお友だちには、「やさしくてよいお母さん」、悪ガキには「鬼ババア」って呼ばれてしまうのです。そのように声を演出しているのです。

 

○声は喧嘩のきっかけ

 

 人がカチンとくるのは、言われている内容が嫌なこともありますが、ほとんどは、その言い方によるところが大きいです。

 同じことでも、柔らかく言われたら、「ああそう。」で終わるのに、強く言われたら「なにを!」と「カッ」となるのが人間というものです。わかってはいるけれど、やめられないのです。

 「間のとり方は夫婦喧嘩に学べ」といったのは大弁士であった、徳川夢声でした。日本では珍しく、対話する二者間に絶妙なアウンの呼吸が成り立っている例としてあげたのでしょう。

 子どもでも、「片づけてくれる」と「片づけないとだめでしょ」と言われるのでは、やる気の出方が違います。

 イメージ一つで、声にもいろんなメッセージが込められるのです。誰にもその力のあることを確認してください。そのトレーニングをしましょう。

 

○声メッセージの込め方

 

 思い切って、やや難問から入ります。

 わざと声のメッセージの入れ替えをします。少し極端なところからいきましょう。

 A.怒った声で笑う人 

 B.笑った声で怒る人

 この二つをやってみましょう。昔の竹中直人さんの芸を参考にしてください。

 さらにもう二つ

1.「アイウエオ」を感情で言い分ける

2.「さようなら」を5パターンで言い分ける(シチュエーションをつくってください)

 いかがですか。なかなかうまくいかないことや、ことばの働きをなくしても、感情と声が結びついていることがよくわかるでしょう。

 

○合わない人とは声で解消する

 

 こうしてみると、自分と合わない人がいても、あなたのあいさつの声のかけ方一つで、大体はよい方向にいくものといえます。“仲直りの声”を使えばよいのです。とはいえ、すべて結果を狙って思い通りに加工すればよいということではありません。“わざとらしい声”になると、かえって反感を生みます。奥歯にものをはさんだような“声”もよくありません。ブリッコ声や、つくり笑顔声も、度を超えると、しらけかねません。なかには、同性が好んでも、異性には通じない声もあるのです。

 

○自分のキャラと合わせた声

 

 長嶋茂雄さんの高い声は、昔は、一部で大いに不評でした。いかつい胸の、男の中の男のイメージに、あのカン高い声、カタカナ英語のわけのわからぬしゃべり方、違和感をぬぐえなかったのでしょう。しかし、今になってみると、あの声やことばだからこそ、天性のオーラが入っていたと思います。王さんのしっかりとした実直な声とは対極的でした。それこそ、努力などを人前にみせない華麗なスーパースターを象徴していたのでしょう。そういう天才児は別として、一般的には、その人のキャラに合っていないと、どんな声でも説得力が出ないということです。

« 「これからのこと」 No.320 | トップページ | 創刊号「ヴォイトレと研究所」 »

3-1.声の話」カテゴリの記事

ブレスヴォイストレーニング研究所ホームページ

ブレスヴォイストレーニング研究所 レッスン受講資料請求

サイト内検索
ココログ最強検索 by 暴想

発声と音声表現のQ&A

ヴォイトレレッスンの日々

2.ヴォイトレの論点