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第5号「力をつけるための基礎の徹底」

○効果を出し、力をつけるトレーニング

 

 養成所が与えられるものというのは、本番以上に厳しい場とそこで耐えうる習慣だと思います。伝わる、伝わっていないというのは、否応無しにわかってくるところでなくてはなりません。とことん音声に敏感になれたら、ということです。そうやって、ようやく自分の基準ができていきます。

 

 私のいいたいことは、読むことと実行できることは違います。そのことばの意味することがどういうことなのかということを、レッスンの場から気づいてこそ、効果につながるのです。

 トレーニングをやって何の意味があるのかと考えるような人もいますが、力をつけることで意味が見出せてくるのです。

習いに行かなくとも、それ以上のことをやっていて、それなりのものを作っている人はいくらでもいます。それを前提に考えなくてはいけません。今うまくできないとか、まだやれていないということは、気にすることはありません。

 

○あなた自身の声、そして歌に気づくこと

 

 自分のものがいつ出てくるかというのは、誰にもわからないのです。

続けていくには、手間ひまをじっくりとかけることです。そのことを最優先して生きることです。作品そのものからインスピレーションを得て、トレーニングの方法を自分で発見し、それを実践して、常にレッスンの中で問うていくことです。

 

 レッスンであっても、「その歌」を歌うのではありません。もし「その歌」から学べるものを全て学んだら、「その歌」にはなりません。「あなたの歌」になり、「あなたの声」に「あなた」が現れて、はじめて伝わります。

 

○徹底した基本のマスターを

 

 発声なども、1曲を繰り返し徹底してマスターすれば、ほとんどの問題は解決するはずです。もちろん、何事も発声法だけで解決するものではありません。

複合的なものを入れては出して、繰り返すのです。いつかそれを忘れたときに歌が出てくるのです。だから、発声と音楽たるものの基礎を徹底して、自分に入れておくことです。

 

 曲を本当に聞くことができているなら、一曲の中でリズムトレーニングも、音感トレーニングもできるのです。それが聞けない時期は、トレーナーについて、別の方法で音感、リズム感などを磨いていくこともあってもよいでしょう。そうして自分なりに、自分の方法論をつくってください。

 

○トレーニングで本当にやることとは

 

 トレーニングでやることは

1.長期的に身になること、今すぐ役立つものではないこと

2.やがて過酷な状況でも、のどが耐えられるようにしていく(鍛えてタフに、使い方を知ること)

 そのために、レッスンでは一人では、できないことを気づき、自ら、やりにいくのです。

 

 このように、あとで効いてくることをやることがトレーニングなのです。

 参考までに、中川牧三氏の言葉を引用させていただきます。

聞き手は心理学のオーソリティ、河合隼雄氏です。(「101歳の人生をきく」中川牧三・河合隼雄著 より)

 

河合:合唱団なんかも、ちょっと特別なものと違いますか。一糸乱れぬようにパーッとやって喜んだり、むずかしい曲を必死に練習したりして。

だけど、自分の身体からほんとうに声が出てきて楽しいという感じじゃなくなっているのが多いみたいに思うんですけどね。

 

中川:悪口のようになるから言うのはいやなんですけど、いまのみなさんの勉強のしかたには多くの問題があるように思います。世に蔓延する偽者(技法)に騙されてはいけません。それに近道を望んでもいけません。

レコードを、エンリコ・カルーソーのにしても、レナータ・テバルディのにしても、ほんとうに偉い人の歌をよく聴いてみてください。けっしてみなさんがやっているような声で歌っているわけではない。それがすぐわかるんです。

 

この歌をカルーソーはどう歌うのか。ここまでポジションをもちあげて、その次にここをゆるめて、この場所に入れる。それから曲芸を見せて、ウーッと・・・。真の芸当ができるのは真の力のある人だけです。

それに、この正当なベルカントの発声法は、ただ練習を熱心にしたからというだけでできるわけではないんです。

 

河合:それはしかし、音楽だけじゃなくてすべてに通じることですね。

いまはやっぱりみんな慌てるから。本当の先生は時間がかかるんですね。

 

中川:時間はかかります。

 

河合:パッパーッと真似して、「ここまで」とか「これで」と言うんやったら、これは方法があるんです。そこまで到達するなら、わりと簡単な方法があるんですよ。

それにいまの人たちは、歌だけじゃないですよ。あらゆる世界で、みんなマニュアル方式で「ここまで行きましょう」と。

それでちょっと才能のある人は、それにプラスして勝手にミックスしてやっている。

そういうふうな格好がものすごい多いかもしれませんね。

 

中川:そのとおりです。

 

河合:それをもういっぺん、ほんとうの先生から、人間から人間に、と。これは歌の世界で言っておられるけど、あらゆるところに通じることじゃないですかね。

現代の大問題。それは機械でパッとわかるということと同じで、要するに、要領のよい方法であれば、ここまで行きましょうというのは、ものすごく発達してきているわけです。

 

中川:あらゆる分野で。

 

河合:また、若い人はすぐ、「先生、どうしたらそうなりますか」と訊くんです。

 

中川:よく訊かれますねえ。

 

河合:その問題がすごく大きいことかもしれませんね。で、生の、生きている人と生きている人の関係というのが少なくなってきて・・・。

 

中川:イタリアでも発声レッスンの場合、習うほうにしてみればもの足りないんです。

それらを積み重ねて紙一重の違いを見極めていく忍耐がいるんですが、でもいまの人は、じれったいんでしょう。それから、曲をちっともやらしてくれないから、おもしろくない。それより、一つの曲を二回歌って、克明に直してもらう「曲づくり」のほうを喜ぶ。それでは何にもならないんだけど。

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