第8号「トレーニングのつくり方」
○万能なトレーニングを考える
疑問に対応する基本的な考え方を示しておきます。
1.トレーニングは、器を大きくし、可能性(限界)を広げていく。
歌は伝えるための器のなかで切りとり、作品として最高のものに編集していく。
花壇づくりと活け花のような関係。
2.どんなメニューがよいかは、目的にどう結びつけるかで決まる。目的に結びつかないと本当には使えない。それ
ぞれの必要性に対して位置づけがある。
3.問題を発見するためにメニューをセットして、発見したらそれに対応をとる。その場での処置法と根本的な対応
とは、異なるので、二段構えにする。
4.体に教え込み、意識せずともやれるようにしておかないと、何事にも対応できない。
正確さが欠けたり、遅れる。
5.自分で必要と感じて初めて意味がある。全身と全精神で捉えようとしたときに、どんなに必要か、どんなに欠け
ているのかを実感することから、心身と結びついてくる。
6.目的と優先順位をはっきりさせる。トレーニングは部分的な目的達成のための必要悪である。早く効果を期待す
れば、無理がくる。
〇論理的につめてメニュをつくる
二つ以上の問題が矛盾していることをつかめば、そこにチェックのためのメニュー(認識)と解決のためのメニュー(トレーニング)ができます。
7.対立させられる二軸に対しては、論理的にその間にメニューを詰めていくと解決に近づく。少なくとも、問題がより明らかになり、より細かなメニュー設定ができる。矛盾を詰め、その間にメニューをおく。
たとえば、
例1)息を強く吐くと、リラックスできない。それは、強い息をリラックスして吐く必要があるとしたからです。
その必要性の是非は、もう一つまえの問題です。
例2)高い声を強く出したい
「高い声=○、強い声=×」と、「高い声=×、強い声=○」の間に、いくつかのトレーニングをおく。そのまえに「高い声を弱く出す」「低い声を強く出す」という別の必要性や目的がある。
例3)響かせると発音がはっきりしない
「響く=○、発音=×」「響く=×、発音=○」、
それを両端におき、そのなかにメニュをつくります。
その真ん中に「半分よく響く=△、半分よく発音できる=△」がくる。
例4)アエイオウで「イ」がいえない
aeiouで、a、e、o、uがよいなら、ai、aai、aei、aieなどで詰めていくのです。
私は音声学などを利用して、より早く適切なメニュをつくっています。
ただ、現実の発声、発音から聞いて、メニュを設定する方が効果的です。
すぐれた医者の診断は、マニュアルにまさるのです。
〇トレーニングの考え方
8.正誤ではなく、できたら、あなたが惚れ込むだけのものにする。
それで終わるのではなく、すべてはそこからである。
9.トレーナーにつくのは、問題をはっきりとさせ、解決の糸口をつけるためである。
自分自身で問題を自覚できるようになることと修正できるようになるためである。
10.結果として声に表われ働きかけるものを、マニュアルや方法論として勉強すると、本やトレーナーに一方的に与えられるほど、積み重ならず力にならない。
11.トレーニングできるところでなければ、トレーニングはできない。トレーニングできないところはできない。
できると思っているところがきちんとできていないから、できないところが生じる。そうでないところは、それ以上のところは不要のことが多い。
12.メニュは、どういうことのためにやっているのかをわかっておくこと。
それぞれの問題は、全体の一つの要素にしかすぎず、多くはそれを解決せずとも他で代用できる。
解決にこだわることが、常に全体のより大きな問題を見失ってしまう。
13.表現力は、日常のものをパワーアップした上に成り立つ。声は歌、歌はステージで応用して正される。出口という目的に対して、セットすることであるが、本当の出口を考えつづけることが大切である。
14.多くの問題は、何事もできないよりはできた方がよいというくらいのもので、本人が思っているほど大したことではないことが多い。むしろ、小さいと思う問題の方が重要なことが多い。
15.「より高く」「より大きく」「より深く」などの「より」というのは、「今より」ということで、今できないことである。そうでなくては、問題にならない。
だから、今、問題としても、すぐ解決すべきことではない。
16.形をとり、実を入れないより、実から形をとること。
17.問題として、すぐに解けたとしたら、それはごまかしやクセがついたということである。
18.人間には、限界がある。それゆえ、作品にできる。
19.作品には限界がある(時間、予算、設備、スタッフ、才能)。
それゆえ、作品にできる。
20.あなたが売れるものをもっていたら(つまり買い手が欲するもの)、プロになれる。プロとは、制作者であり、制作能力が問われる。
21.あなたのもっているものが一つでもあれば、まわりの才能、技術を駆使することで、補えることは多い。
22.すでにあなたは充分にもっている。ただ、使えていない。
23.わかりやすいものなど、所詮、わかってしまえばつまらないものにすぎない。
24.わからないうちは、わからなくてよい。すべてわかることはありえない。
25.決して、声や歌のせいにするな。
26.決して、他人のせいにするな。
27.すべては、あなた自身のイメージとテンションからなのだ。
○好きの限界
「自分の好きにやればよい」という人には、それでよいでしょう。ただ、私に接する人は、好き嫌いを超えて、最高のもの、自分で気づいていない本当の才能を引き出すことを求めてきます。
私も長時間、年月をかけたら、誰でもできることよりも、その人しかできないことを求めていきます。
あなたが好き嫌いで勝手にやるようなものは、必ずしもオリジナリティや個性として力をもつほど深められていないからです。
「世界のことを知るよりも、自分自身を知ることの方がはるかに難しい」(ゲーテ)
「汝自身を知れ、汝自身を知れば、今までの汝をのりこえられる」(ソクラテス)
« 第7号「知識や理論に振り回されないこと」 | トップページ | 「火事場のバカ力と祈り」 No.322 »
「1.ヴォイストレーナーの選び方」カテゴリの記事
- ブログ移動のお知らせ(2023.07.01)
- 「歌の判断について」(2021.10.30)
- 「声道」(2021.10.20)
- 「メニュ」(2021.10.10)
- 「感覚について」(2021.09.30)