第9号「似ていることのデメリット」
○イメージと構成力
曲を受けとめ膨らますのは想像力、自分の思いを声として展開するのは創造力、その2つの不足を補うことです。音のつなぎ方一つから、いろいろとアレンジして表現する練習をしましょう。
似ていくなら、あなたの存在価値、歌の作品価値がありません。どれだけ、他の人と違っていくかという勝負なのです。
コピーから入ると、多くは元のヴォーカリストの歌い方がしっくりくる気がします。しかし、それではあなたが歌う必要などなくなります。あなたが歌うのは、もの真似をするためではないはずです。他の人は皆、あなたの個性、あなたらしい歌、あなたにしか歌えない歌を聞きたいのです。
コピーを聴かせるのではもったいないです。
自分の土俵で勝負しないと、最初は受けがよくとも、いずれやれなくなります。
大変でも、今から自分の土俵をつくるようにしてください。
〇まねにならないチェック法
楽譜通りに伴奏テープをつくり、オリジナルを聴く前に自分で歌いこなしてみるような練習も効果的だと思います。似てはいけないが、結果として似ているのはかまわないのです。一つの歌を、解釈をして表現する方向は、あなたがすぐれていくにつれて、プロがイメージするものと似てしまいます。
自分の好きな人のように歌うと、自分に心地よい。でもそれではファンです。
トレーナーもそういう判断をする人が少なくないので、やっかいです。
それが、業界受けするからやむをえないともいえますが。
それをさけるには、同じ歌を多くの人が歌うのを聞いて、個性があるとは、似ていないとはどういうことなのかを、知る方がよいでしょう。トレーナーが真似のできる歌い方に仕上がっていないかというのも、よい判断の方法です。
○“まね”のタイプⅠ
巷によくみかける歌い手のタイプをあげておきますので参考にしてください。
歌には、自分の表現を自分の呼吸で声としてとり出すことが基本です。
作品は、リアリティ(立体感、生命力)に、あふれているかどうかでしょう。
しかし、次のような場合でも、状況さえ伴えば、大化けすることもあります。
歌というものは、おもしろいですね。日本人(客)の好みも反映されます。
◇唱歌、コーラス・ハモネプ風・・・感じられない、得意ソウ、“うざい”
唱歌風の歌い方は、発声トレーニングを受けてきた人に多くみられます。
共鳴に頼りすぎて、ヴォリューム感やメリハリがない。一本調子、正確さだけが取り柄で、おもしろみがない。つまり、誰が歌っても同じ、その人の個性や思いが出てこないのです。
合唱団、音大生、プロダクションの歌手、トレーナーなど、正規の教育を受けてきた人にもよくみられます。音楽を表現するのに必要なパワー、インパクト、リズム・グルーヴ感がないのです。生まれつきの声のよさだけに頼ってきた人にも多いです。先生の言うままにつくられた“日本では、歌がうまいといわれる”優等生タイプです。
◇アイドル型・タレント型・・・やっていることがわからない、カワイイ、“ガキっぽい”
しゃべり声で、甘えた感じで歌う。喉声にならないように浮かし、やや発音不明瞭で鼻についた声です。タレント型ヴォーカルに多くみられます。
他の人がやると、くせのまねにしかなりません。カラオケでは目標とされています。
とはいえ、高度なレベルでは、ニューミュージックやJ-POP、演歌の歌い手など、声が高く生まれついただけで、作詞・作曲・アレンジ力で通用しているヴォーカリストにも多いようです。他のタイプの人には、真似て百害あって
一利なしです。
◇役者型、喉シャウト型、語り調・・・のれない、くさい、“くどい”
ことばを強く出し、せりふとして感情移入でもたせます。個性やパフォーマンス、演技からくる表現力でもたせているため、呼吸がことばに重きをおく反面、音楽性、グルーヴ感に欠けます。存在感とインパクトの強さで、個性的なステージになります。シャウトもどきの声でやる人は、調子をくずしやすく、選曲のよしあしで良くも悪くもなります。
もう一つは、語り調で、雰囲気づくりにたけ、ぼそぼそと歌うタイプです。
テンポ感、リズム、ピッチに、甘いです。
〇まねのタイプⅡ
◇日本のシャンソン風、ジャズ風・・・格好ヨサソウ、インパクトがない、“たいくつ”
上品さや気品を上っつらだけをまねた、自己陶酔っぽい歌い方です。
中途半端に声楽家離れしない人や役者出身者に多いのが特長です。
それで通じた昭和の時代は、古く遠くなりつつあるように思います。
鋭い音楽性、深くパワフルな声のない語りものの日本のジャズもまた、雰囲気好きの日本人に期待された結果の産物だったのでしょう。
センスとパワーの一致を望みたいものです。
◇日本のオペラ、カンツォーネ風・・・押し付けがましい、自慢げ、声だけ“うるさい”
声の美しさ、響きに頼った歌い方で、個性や表現の意志に欠けます。
声量だけは感じさせるのですが、一流の声楽家や本物の歌い手と比べられて聞かれるので、マイナス面をみられがちです。発声や技術が前に出てしまい、人間性が感じられない。不自然な表情や動きになります。
◇日本のブラック、ゴスペル、ラップ風・・・なんか変、みせかけ、ちぐはぐ“ウソッポイ”
洋ものを真似て、声をハスキーにしたり、やわらかく使う表面的な歌い方に終始しています。日本人特有の雰囲気、甘さ、コミュニケーション先行で、厳しさやしまりがないため、おもしろさに欠けた退屈なものになりがちです。
精神性が感じられず、洗脳されたような薄気味悪さがあります。ビジュアル、笑顔、一体感、振りなどの演出に逃げ、個としてのパワー、インパクトに欠けます。
しかし、不思議に日本人はそういう歌い方を評価するようです。
こういった多くの歌い方は、世界で受け入れられたアーティストの個性や雰囲気を、表面的に真似て、インスタント加工したものです。体、呼吸、心、音といった根本での声、歌、音楽の生まれる条件を、踏んでいないのです。
ピカソやシャガールの絵を真似て、上手といっているようなものです。
それで通用してしまう日本の状況が、私は有望なヴォーカリストにまで才能を甘んじさせているように思います。トレーニングとして、自分の声や歌を知る材料として出してみました。
○オリジナリティの価値
歌のオリジナリティは、あなたの持ち味を生かせるかどうかなのです。
はじめてやったからとか、他人と違うことをやるのがオリジナリティというのではありません。人と同じことをやりながら、そこに埋もれず、その人らしさが光る、というのが、本当のオリジナリティというものでしょう。何を歌っても、曲や歌の中にあなたが埋もれてしまわないこと。それだけのものをあなたはみて、自分の声や声の使い方を磨いてきましたか。
あなたは自分の最高のセッティングが、選曲、テンポ、キィでわかりますか?
あなたと曲とが本当に一体になって迫ってくる、存在感とパワーが感じられるステージに、人は心を打たれるのです。このパワーの源がオリジナリティなのです。
世界にはたくさんのよい曲があります。それをオリジナルに歌う練習が、力をつけると思います。テンポもキィも変える。スタンダード曲をオリジナルに歌唱するところから入る、オリジナルに編曲、作詞し、リカバーするのは、もっともよい練習です。
とにかく「誰かのようだ」「聞いたことがある」「古い」と思われるものは、求められるオリジナリティとは違うのです。とはいえ、それぞれのスタイルでプロとして通用している皆さんは、それぞれによいのです。私でなく、ファンが決めるのですから、好き好きで、成り立っているものには、理由があるのです。
ヴォイストレーニングは、自分の声の使い方のノウハウと思われていますが、私はオリジナリティ(自分のデッサン、線=フレージング、色=音色)を見つける手段だと思っています。
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