第20号 「喉をあける方法と音楽的日本語」
〇あごをひく
ほとんどの人は、あごがまえに出ているので、斜めうしろにひくことです。胸の位置を少しあげてからひくと、首や喉を圧迫しません。親指であごを強く押してみてください。この状態で声を出すとよいです。
耳のまえにあごのちょうつがいがあります。これは、しゃべったりやわらかいものを食べるときは、動きません。
しかし、大きいものを口をあけてくわえるときや、固いものを噛むとき、下あごのつけ根のところは下がります。あごと舌の余計な動きを抑えるために、エンピツやワリバシをくわえて発声するトレーニングもあります。力が入るときは、あごを左右や前後に動かし、楽にしましょう。
〇舌は平らにする
喉がつまる原因の一つに、舌が固くなることがあります。舌根(舌の奥の方)が盛り上がると、口の中が狭くなり、変に共鳴した、つめた声となります。すると、音色も発音も不安定になります。舌が平らになった状態を鏡で確認して声を出してみましょう。
声楽家の歌っているときの舌の状態は、ぺたっと平らにくっついています。舌が平らになって、舌先が下の歯の裏についている状態に保ちます。このとき、喉仏が下がっています。
強い声を出そうとして力を入れると舌がひっこんで、喉のじゃまをします。それで、喉仏があがり、喉声になりやすいのです。
舌は、実際はかなり大きなもので、喉の奥深くまで届いています。そして喉頭につながっているので、舌を前後に動かすと、喉仏が動きます。
どうしても力が入るなら、一度、舌を口の外へ大きく出して、ひっこめてみましょう。ろれつがまわらないとか、舌やあごに力が入るなどということは、舌を回したり裏返してみたりするトレーニングで、ある程度解決できます。
根本的に直したい人は、そういうところで左右されないように声を深く使うことをイメージや感覚から変えていくことです。
〇喉のあけ方
[この項目は:『「医師」と「声楽家」が解き明かす発声のメカニズム』萩野・後野(音楽之友社)2004年より引用、一部省略]
歌謡曲やミュージカルなど、語りと同じ感覚で歌声を出すと、声が“前歯に当たる”感じになります。喉はやや上がり気味で狭くなります。下あごは上げ気味になって、浅く平たい印象を与える声が出ます。口は横に開く感じです。)
「喉を広げて声を出す方法」=欧米人的(イタリア人的)な声、日本人でも、少ないながらこのような声をふだんから出している人もいます。声が“胸に当たる”もしくは“うなじに当たる”感じで、深みのある、歌唱では丸い感じの声になります。喉は下がって広くなり、下あごが下方に開いて首と近づきます。口は縦に開く感じです。
ついでに、この本には、「従来行なわれてきた『頭から声を出す』『顔に声を持ってくる』『軟口蓋を上げて声を出す』『頬を上げて笑ったような顔で声を出す』『重心を前にかける姿勢で歌う』などのよく正しいといわれている方法は、日本人によく見られる、いわゆる喉を狭くして発声するという習慣が、より強調されてしまう場合があるという指摘があります。)
○日本語で歌うときの問題☆☆
日本語を深い声で歌おうとすると、かなり意識的に努力することが必要になります。そこで、やわらかく浮かして、響きでまとめ、マイクを前提にした歌い方を取り入れてきたわけです。音響加工が加わると、本当は表現として成立していないのに、通じてしまうので、わからなくなるのです。
日本語そのものを日本語として歌いこなすノウハウは、演歌のなかに、含まれています。
ポピュラーでは、歌詞を工夫して、(感嘆詞やカタカナのことば、英語を多用など)リズムでこなし歌いやすくしていますが、根本的な解決にはなっていないようです。
〇ミュージシャンと役者
センスのよい人(声を音楽的に扱える人)は声が浅く、パワーや個性(=音色)に欠けるし、声が深くパワーのある人は、音楽的な扱い(リズム・グルーヴ感、音楽的な構成力)に欠くことが大半です。前者はミュージシャン型、後者は役者型、両方兼ねそろえた理想のヴォーカリストは少ないのです。日本人ラップも、メッセージ重視の生声と、リズム・音楽重視の浅声に分かれているようにも思えます。
原語で歌って、歌のなかでのフレーズでの声の動きをとらえた上で、日本語詞で歌ってみてください。随分と違いがはっきりとわかると思います。そのギャップを埋めていくトレーニングをすることです。
外国の歌を日本語で歌うためには、いわゆる日本人の自然なままの声ではなく、日本語を音楽的言語として深めたところでの音楽的日本語(しっかりと体から出せる声の上にのっかった日本語)を使っていかなくては難しいと思っています。外国人ヴォーカリストが日本語の歌詞をつけて歌ったものを聴いてみると、イントネーションなど、おかしいところはありますが、日本語としても充分に自然に聞こえるのです。これは、音楽的に日本語をこなすヒントとなります。
〇トレーニングの効果
トレーニングの効果というからには、素人離れするもの、絶対的な力のつくものとしてみています。一声で違いがわかるということです。そうでないと比較もできないでしょう。つまり、体の条件レベルで大きく変わるということです。
仮に、野球でイチローを手本とするなら、彼のようなヒットが一本だけ偶然に打てるようにするのでなく、そのヒットを確実に生み出す彼のような体や感覚を得るためにするのが、トレーニングです。トレーニングということは、長期的ということで考えることです。
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