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Vol.65

○声の気配、本音の声

 

 子どもは、動物のようなものですから、声の気配で他人の気分や機嫌、人の気持ちを読めるようになるのですね。

 ところが最近の大人は、ものわかりがよくて、本音の声をぶつけてこないのです。「怒るより叱る」のが大切というようなことを言って、リスクを冒さないのですね。

 だから、子どもは人の思いや心が読めなくなるのです。お互いがいいたいことをいわないものだから、人が嫌がっていても、わからなくなる。共感性が育ちにくくなるのです。すると自分の嫌なことだけに敏感になります。

 すると、少し強い声で言われただけで、こたえて、パニックになるのです。パワハラのなかにも、これに関連していることがたくさんありました。怒られると全人格を否定されたようにショックを受ける人もいるからです。そのことで相手を嫌いになり、憎んだり逆恨みする人は、昔もいました。しかし、今はその悪口をネットで書き込む、そういうことまで安易になって衝動的になりやすくなりました。何もかもすぐに「超むかつく」となって、一番かわいそうなのは当人です。

 

○声の弱体化

 

 一昔前には、完全に区別されていた暴力と暴言、腕の力と声の力が、同列に並べられるようになってきたのです。そこで、親にも先生にも先輩にも、強い口調がみられなくなってきました。声の暴力=パワハラとなりかねないからです。

 声に弱い人が増えているのは、認めなくてはならないでしょう。

 犯罪に巻き込まれないように、GPSで子どものいる位置を常時、管理するなど、現実に問題に対面している人の心配は察しますが、自分のところだけの防災対策では、限度があります。

 乱暴な声や暴言を肯定するわけではありませんが、強い刺激をシャットアウトしてしまうと、温室育ちの、打たれ弱く、忍耐力のない大人になってしまいます。そのリスクの方を考えないのでしょうか。

 マニュアルが通用しないところで残った力こそが、その人の力なのです。

 英語を話せるのも敬語が完璧なのもよいでしょう。でも、それでは人は動かないのです。人の心が動くのは、声の力、その声のなかに情熱、意志、熱い心が伝わるからなのです。

 

○声しか残らない

 

 本当に自分に実力があれば、単刀直入に、嫌なことには、すべて「やりたくない」と言えばよいでしょう。相手が引きあげるか、条件を再考してくるか―。そこからが本当の交渉、ビジネスかもしれません。

 あたりまえの声は、耳の通りがよいから、右の耳から左に抜けて残りにくいのです。むしろ、悪声や怒声は、ズシっと残るものです。悪役でも、格下の者は、高い声の大声で騒ぎまくります。本当のボスは一声だけ、深い声しか発しないものです。

 大きな声でしゃべったり、たくさんしゃべるのも、トレーニングです。

 肝心の一声のために、日頃のトレーニングがあるのです。ただし、調子の悪いときにハードにすると壊しかねません。

 松井やイチローが、日頃、練習で何万回も素振りしても、勝負は1ゲームでのわずか数球、バットを振るのも510回くらいで決まるしょう。

 いくらたくさんしゃべっても、その内容に説得性がないと通じません。ことばに声の力がなくては、賛同は得られないし、他人をリードすることはできません。内容のあることばを声で強調し、説得することです。そのために、対話があるのです。

 相手にたくさんしゃべらせた方が勝ちというのが、話の秘訣です。それは、ことばより声でのリード力で決まります。うなづき声も、けっこうな力を発揮するのです。

 

○男の脳、女の脳

 

「システム化する男の脳、共感する女の脳」という本がありました。しかし、何事も男女で分けるのでなく、その両方の力が必要と思ってください。両方の力を高めて、必要に応じて使い分ければよいのです。

 声とことばを分けると、初めて、声の力というものが浮き出します。ことばの力は区別、対決に、声の力は共感力の方に多く働きます。

 声そのものに論理はないのです。ノンバーバルコミュニケーションの主体となるものが声です。

 声がいかに体、ボディランゲージと結びついているかを知るとよいでしょう。

 次のような相手とは、ことばでなく、ほぼ、声の力によってコミュニケーションをとっています。

1.ことばの入手前の段階の人

 赤ん坊の喃語

2.ことばの通じない人

 外国人との会話

3.動物

4.話の内容をきちんと聞かない人

 

○声は、ことばのなかの音楽

 

 声は、ことばのなかの音楽的な側面を引き受けています。歌では、ことばの意味を消した声による演奏がスキャットです。ヴォイスパーカッションでは、声を楽器代わりに使います。声で楽器の音をまねるのです。マウスミュージックなどもあります。

 

○心底から願うと、声は変わる

 

 仕事でうまくいかないときは、仕事とあなたとの声の結びつきがズレていないかをチェックしましょう。仕事が、適切な声でなされていたら、ずっとよくなるはずです。相手にあなたの声が伝えられないのは、なぜなのかを考えましょう。

 相手によほどのフィルター(偏見、思い込み)がなければ、立場を超えて、強い想いは伝わるものです。セールス、交渉には、声の使い方がものをいいます。

 

○相手の声で状況をつかもう

 

 携帯で、かけるとき、相手に「今よろしいですか」と都合を聞きますね。「はい」と答えが返ったら、会話の開始です。でも、よいという程度をどう判断するのでしょうか。

 その人の性格やことばの使い方を基に、その人のおかれている状況は、声のニュアンスで察することができます。

 細かなニュアンスには、いつもと比べて、というこれまでの経験がないと、判断しにくいものです。

 相手の声のバックに駅のアナウンスなどが聞こえたら、聞き取りに苦労します。こういうときは、長電話の通話は避けることでしょう。

 

○間とタイミング

 

 心地よさや居心地を感じ、ゆったりと大らかに声を出してみましょう。人間、感情で動いているものですから、そういうときを大事に使ってください。

 話しているときに声が目立ってはいけないのです。声は脇役、キューピッドです。うまく合っているタイミングと、うまく合っていないというタイミングを読みましょう。

 

 

TPO別 声の使い方]

 

○敬語を美しく話すときの声

 

 語頭をはっきりと切り出します。そして、語尾までしっかりと言い切りましょう。相手との距離を考え、大きくも小さくもない声で話します。

 まわりがうるさいときは若干、大きくします。まわりに聞こえると、よくないところでは、声をひそめます。

 表情やジェスチャーも有効ですが、あまりそこに頼るのは、考えものです。

 語気が強いと、いんぎん無礼な印象になることもありますので、気をつけましょう。

 一般的には、少し高めのやわらかい声で通すのが無難です。年配になるほど、人は、高い声が聞こえにくくなりますので、ゆっくりと低めの声にすることです。

 相手を立てて、相手よりも早く話したり、たくさん話しすぎないように気をつけましょう。聞き役をつとめるつもりで接しましょう。

 敬語のことばの使い方で迷うことがあれば、丁寧語にしましょう。相手の動作に謙譲語を使ったり、自分に尊敬語を使ったりしないようにします。敬語のミスは、致命的です。

 

○電話で相手が聞きやすい声

 

 冒頭、出だしは、やや高め、明るめに切り出すのが、日本人のコミュニケーションの基本です。そのことで、丁寧にへりくだって言う気持ちを表わします。

 キィワードは、ゆっくりと大きめに話すことです。特に、日時や価格といった数字は前後に間を開け、しっかりと言い切ります。できたらもう一度、ゆっくりとくり返すとよいでしょう。

 電話には入りやすい声の高さがありましたが、最近の電話は、感度がよくなっているので、気にかけなくてよいでしょう。

 携帯電話は、受信状況が悪かったり、まわりが騒がしすぎると伝わりにくいことがあります。そのときは、ゆっくりと大きな声で話すことです。

 電話器は近い距離で声を拾うようになっています。発声が調音され、発音してクリアになるところは、少し離したところです。ですから、マイクなら、こぶし一つ離した方がよいのです。その人の発声によっても違います。近づけた方がよいときと、少し離した方がよいときもあります。

 

○会議などでの説得力のある声

 

 進行役のときは、会議を司るので、事務的ではっきりとした明確な声が望まれます。一番遠いところにいる人に届く声量が基本となります。表情、感情、個性を出さず、進行に徹しましょう。

 論が逸れたり、余談に入りすぎてしまったときには、早めのタイミングで全体の進行に戻します。そのときは、やや説得力のある声が望まれます。

 参加者として発言に充分な時間を与えられているときは、しっかりとした声で、内容をゆっくりわかりやすく伝えることに専念します。内容は充分頭に入れ、その場では伝えることに専念したいものです。自分の声がきちんと伝わっているかどうかを確認しながら話します。

 声の方向や視線にも気をつけましょう。一番メインの相手、もしくは全体に聞こえる方向を正面にして話します。体や顔の向きは重要です。

 

○研究発表のときの声

 

 研究発表で、内容本位なものでは、人柄や気持ちよりも、正確に内容を伝える必要がありますので明瞭な声を使い、ゆっくりめに話します。強調して、伝えたいところでは、声を張りましょう。スピードが速くなりがちなので、間をとります。きちんと時間を計算しておきましょう。

 相手の反応をよくみて、テンポや言葉を選びましょう。

 数字、専門用語やわかりにくい言葉は、一呼吸とって使います。

 はっきりと区切り、相手が聞きとれないことのないように気をつけましょう。

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