第25号 「メリハリをつける」
○歌での感情表現は、ブレスで構成する
歌の音楽的構成での見せ方についてです。ここでは無駄な感情移入や雑な表現は整理しなくてはなりません。ドラマの起承転結のように、多くの歌は、4つに分けていくとわかりやすいでしょう。(4ブロック、4フレーズ×4)ピークに対しても、歌い手の感情を入れるのではなく、聴く方の感情に訴えるように展開し構成するのです。心をもっていきながらも、音楽の規則性(リピート、コード進行、グルーヴ)を最大限、利用します。最終的に、一曲を一本につなぎます。
といっても、1コーラス、あるいはAメロ、Bメロ、サビと、ブロックごとを一本に通すことができたら、かなりのレベルです。
テーマを表現し切るクライマックスは、その作品を決定していくピークにあたります。このピークに対し、どのようにフレーズを組み立てていくのかを考えることが、歌の構成、展開上ではとても大切です。
○感情より、魂、心を
歌が感情表現を必要とするとは限りません。歌を音楽的に捉えるなら、バイオリニストやピアニスト以上の感情は、投入すべきでないと思います。声はただでさえ、感情的なものだからです。しかし、発声技術や音楽性に乏しいヴォーカリストでも感情の伝わる声や感情移入でもたせることができるのは確かです。私としては、感情というより、魂(ソウル)や心(ハート)、せめて気持ちと呼びたいのです。感情ということばは誤解しかねません。
○シャウトして歌うには
日常生活でできていないものは、日常生活で得ていくのがよいというのを知った上で、効率的に早く得る、より多くを得るためにトレーニングがあるのです。
外国人ヴォーカリストがシャウトするときに使っている声は、とても深く、喉に負担のない発声をしています。子音中心の言語ということも、高音には有利です。
それに対して、私たちの叫ぶ声は、喉にかかります。体や息が充分に使えないまま、無理に浅い声で出そうとしているためです。日本では役者のトレーニングで役者の声の条件を得ていく方が早いように思います。
○日本人のシャウト
日本人のヴォーカルのシャウトは、上にあてて抜いたものか、生のまま、大声でがなったものが多く、前者はインパクト、音色・個性に欠けたクセ声か弱い響きの声、後者は生声、喉声で喉をつぶして、再現できなくなりがちです。まだミュージカルにみられる、クラシックの唱法をポピュラーにもっていったシャウトの方が、ましです。ただし、これは母音共鳴のシャウトなので、リスクも負担も大きいです。
あこがれから入ったまま、形だけをこなし、実のところにベースを置いていないことが、今の日本の歌の説得力のなさに見えてなりません。自分の声でのデッサンをしていくことです。
○一本調子を解決する
その曲を音楽たらしめているものがわかるまで、解釈しましょう。メロディ、ことばがひとつに溶けて、リズムの動きで流れてくるまで聞き込むのです。そことあなたの感覚をさらに融合するのです。次にどこで盛り上げて、どこで語りかけるかなどといった展開、構成を、徹底的に考えておくことです。強弱やテンポなども、あらかじめ決めて歌っては自分に合うように修正していきましょう。
これも、自分の声の音色、そして歌の音楽としての奏法を自ら見つけていく必要があります。自分の音と奏法を見つけるのが、アーティストなのです。
ヴォイストレーニングで、今まで意識していなかった普段の声もよくなることがすばらしいことだと思います。トレーニングとその成果には、タイムギャップがあるので、効を急がないことです。
○メリハリをつけるには
呼吸と声での表現が一つになるまでしっかりとつかみましょう。その表現力を決して損ねず、パワーアップして歌に持ち込みましょう。自然にメロディを処理していくこと、日本のミュージカルのように音程を歌うのはさけたいものです。
次の各要素に注意して、曲を聞いたり歌ったりしましょう。
1.テンポ、リズム、グルーヴ
2.発声、ことば
3.表情、表現、動作(フリ)
4.フレーズ(スピードの変化、音の強弱変化、メリハリ)
5.音色、ニュアンス
6.フレーズ間の動き、イメージ
〇絶対音感のメリット
私は幼いときに、ピアノを習っていたためと思いますが、絶対音感があります。弾いている音の高さが音名(固定のドレミ)で聞こえてくるので、原調(そのままの高さ)の楽譜が書けます。人の歌っている歌に、音を付けることができます。自分が歌うときに、導く音(ピアノなどのコード)がなくても歌い出せます。これらのことは少し便利なことであっても、大して必要なことではありません。仕事場には大体、楽器があるのですから。
便利なのは、カラオケスタジオや体育館やセミナー会場でアカペラでのチェックをするときくらいでしょう。これも、小さなキーボード一つあれば解決します。
〇絶対音感のデメリット
絶対音感のデメリットもあります。音の高さとは、その基音となる「ラ」(440Hz)が435-444Hzあたりで、演奏者が決めているくらいあいまいであり、演奏上の一つの音での絶対的な高さというのはないということです。相対音感があれば、充分なのです。絶対音感があると、却って合わないと微妙に不快感が出ることもあります。また電子ピアノなどで、トランスポーションという機能で半音の移調した音を出すときに、混乱する人もいます。絶対音感があっても気にならない人、スケールとして弾ける人もいます。
〇絶対音感不要論
絶対音感教育を指導しているところもあります。最上葉月さんの書物「絶対音感」が大ヒットしたように、日本人はこういう基準に頼りたがる人が多いです。ビートたけしさんなどでさえ、「絶対音感がないから、すぐれたミュージシャンになれない」というような誤解をして、それに基づく発言をする文化人、芸術家が日本人に多いのです。絶対音感神話みたいなものをつくりあげています。
世界中に絶対音感のない一流のミュージシャンや作曲家、歌手はたくさんいます。
小さい頃に、音楽教育で身につく一つの能力にすぎず、それをつける努力の必要もないし、また絶対音感をもっているからといって、何ら誇るべき価値はありません。バイオリニストで論客でもある玉木宏樹氏などと同じく、私は先の著書の論には、否定的な立場です。
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