Vol.66
○主張、説得するときの声
姿勢や態度は、声にストレートに影響してきます。猫背でうつむいては、声も弱々しく自信なさげにみえます。ときには、狡猾に聞こえることさえあるので避けましょう。
胸を張った姿勢は、威厳をもち、自信のある態度にみえます。張りのよい堂々とした声が出やすいでしょう。その話し方をこころがけているうちに、相手は信頼を感じます。説得力をもった声のトーンで述べてこそ、あなたの主張が通りやすくなるのです。ただし、日本では、あまり胸を張り堂々としすぎると、偉そうにみえるので、ほどほどに抑えましょう。
○面接の時に自己アピールする声
あなたが試験官なら、どう考えますか。服装や話す内容は別として、どういう声を好ましいと思うでしょう。誠意、熱意の伝わる声を好むと思いませんか。
どんなにはりきって自分をよくみせようとしても、声は案外と、その人の性格や能力、姿勢、経験を実直に語りかけるものです。口べたでも、素直に語る人には好感がもてます。そこで何の能力が求められるかということにもよりますが。
態度、顔つき、話し方は、面接では第一印象として大きく評価に影響します。
自己アピールは、その人の個性の表出ですから、すべての人に通じるマニュアルは、本当はありません。
自分自身のもっとも自然な声を、そのまま、あるいは、やる気の伝わるように使うことです。どんな声が好まれるかは、職によって違うこともあります。しかし、性格同様、すべての人に同じように求められることはないと思われます。
声は個性の一つです。話し方も十代の半ばをすぎると、その人らしさが出てきます。面談であれば、相手の望む話し方に近づけた方がよいでしょう。面接官にも好き嫌いがあるからです。相手の口調や呼吸をみましょう。
あまりにつくり上げた声や演技した声は、うさんくさくなるので避けましょう。セルフイメージを明確にして、自分の声をベースに臨機応変に振る舞えるようになってください。
○スピーチでの声
スピーチの声を選ぶとしたら、マイクに通りやすい声となります。印象に残るには、他のスピーチする人とできるだけ異なる内容、異なる声がよいのですが、これは、あらかじめ準備したり、そこで使い分けられるものではありません。話の内容、テンポやリズムがあまりに同じでは、聞く方が飽きてきます。
最大の問題は、あがりからくる緊張です。あがってしまうと声が上がって、うわずったり、言い間違えたりします。聞く方は大して気にしていないものですが、話すあなたには、一つ間違えても大きなミスをしたように思えてしまうものです。あなたのスピーチをそのまま商品として売るわけではありません。完全無欠のスピーチは、目的からはずしましょう。どんなときも相手にわかりやすく語ろうと思ってください。
原稿やメモを使うとき、目線は、できるだけ聞く人に向けることです。下を向いていると、コミュニケーションがとれません。原稿やメモに目を落とすのは最小限の回数にとどめましょう。
スピーチもまた芸と同じです。覚えたものをくり返すのでなく、その場に応じて即興で、よりうまく伝わるような声の使い方をしましょう。他の人とできるだけ違う声、違うテンポ、大きなメリハリをつけられたら、上々でしょう。
○異性にアピールするときの声
声に容姿ほどに異性を引きつける力があるのかどうかは、かなりの程度まで相手によります。その人を好きになると、その声も好きになるということが多いようです。好きな人には、しゃべり方も似てきます。
何となく嫌いな声というのがある人もいます。生理的に受けつけない声もあるでしょう。それがどのくらい声の問題かはわかりませんが、その声に似た声で嫌な思いをした人の場合など、過去や育ちも関わってきます。しかし、そういうケースを除くと、話し方やことばの使い方のほうが大きいように思います。
声は男女で大きく異なるものの一つです。第二次成長期でのもっとも目立つ差の一つです。それはそのまま性差、異性としての魅力に直結しているといえます。
男性は、やや低く太くすると、頼りがいのある優しい感じになり、女性はやや鼻にかけた甘えた声にすると、男性にアピールするというようなことも言われます。しかし、一人ひとり、好みというのも違うのです。
自分の出しやすい声を中心としましょう。あまりに発音などに正確で明瞭な声や、落ち着きのないカン高い声では、モテないことが多いとは思いますが…。
○司会者を頼まれたときの声
声は元気に高めに明るくしましょう。しかし、メインのゲストよりも目立つのは、よくありません。司会は、補助という位置づけを忘れないことです。でしゃばって一人よがりのものにならないようにしましょう。結婚式などでは、祝福している感じが欲しいところです。忌みことばは、避けましょう。声も丁寧に、ゆっくりと、出席者みんなが楽しめるように気を配りましょう。
マイクを使わないときも、声やことばには気をつけましょう。ほどよく厳そかに、格式をわきまえます。
二次会の司会などは、参加者やあなたの立場によっては、やわらかさ、気さくさをストレートに出してもよいこともあるでしょう。
○客商売の声
声の使い方は、商売によりけりです。高級商品のときは、礼儀や雰囲気が重んじられます。そこでは格式の感じられる、信用のおけるような、落ち着いた低く深めの声が大切でしょう。
一方、安いものや即売のようなところでは、勢い、明るさや人情味など、表に出た個性や熱意が問われます。この人から買いたいと思わせる声です。なかには、声などをあまり交えない方が売りやすいものもあります。
商売は、それがどこの強みで成立しているかで変わってきます。ものがよい、安い、サービスがよい、売り方がよい、立地がよい、など。サービスや商品、自分のキャラクター、相手の客の性格、これらの要素のなかで、さまざまなケースがあるのです。
そういうなかで、声がもっとも関係するのは、応対するときです。特に電話から対面応対においての声の使い方は、顔がみえないだけに、とても重要です。声だけで信用信頼が生まれたり壊れたりするのです。
○セールスの声
セールスは、声において、これまで述べたことを総合して使う仕事です。以前は声が高く、元気のよい声を使うのが、日本のセールスマンでした。人は、商品、サービスとともに、セールスマンを信頼したいのです。そこで元気な声、明るい声を求めているのは確かです。
しかし、最近では、それだけでは安っぽく、うさんくさいように聞こえなくもありません。商品やサービスによっても、店の格や売りものによっても、使うべき声は違うでしょう。なぜなら、それぞれの客が期待するものが違うからです。
人間の社会は、さまざまな人で成り立っています。指輪一つをとっても、露店でイミテーションのものを買う人と、ブランド店で高級なものを買う人には、売り場の人の声も違うでしょう。
ですから、より細かく声のTPOを知ることが大切になってきます。何よりと現場で売れているセールスマンの声に学びましょう。
セールスマンには、最終的に契約に持ち込むためのさまざまなクロージング技法があります。それを声の使い方からも学んでみてください。クロージングには、最終的な判断を委ねたら、声をはさまない、つまり無言で間をとるというのもあります。あいづちの打ち方やイエス、バット(yes but)方式など、マニュアルとなっている例も少なくありません。ベテランとなると、そのマニュアルが消えたところで、変幻自在に声も使いこなしているわけです。ともかく話し上手よりも聞き上手の方が、おしなべて売れる勝率が高いようです。これも呼吸の問題です。
○イベント、コンパニオンの声
これは、明るく爽やかで高い声が求められています。アイドルなどと同じ効果を狙うことが多いからです。日本ではテレビでも、このカン高く、かわいく幼くみせた声があふれています。
とても上品な声とはいえないのに、ますます幅をきかせているようです。何であれ、元気を声にあふれさせることが第一ではあるのでしょう。知的な声より痴的な声を好むのは、日本人のオタクとしての感性なのでしょうか。
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