第27号 「歌やCDやレッスンからの学び方」
〇声と歌でなく伝える
ヴォーカリストは体ひとつですべてを表現する声の演奏者です。トレーニングから目的を定めるなら、ヴォーカリストとしての体(声、感覚、歌)ができていくことが、第一歩です。さらに歌は芸ですので、客を魅了する力がいります。しかし、その答えはあなたの中にあって、その器の大きさを決めるのもあなた自身です。
ヴォーカリストが表現するということは、声を殺して歌を生かすこと、さらに歌を殺して心を伝えることなのです。発声法でなく声の力、歌唱技術でなく歌の力、ステージの演出でなく、あなたの心と音楽が、人に伝わる力となるようにしてください。
〇同曲異唱で成り立ちを学ぶ
大切なのは、音楽的な基本、ここでは楽理よりは、歌の中の音楽として成立する共通の要素を入れることと、あなたの声を体の原理に基づいたオリジナルなものに戻し、使えるようにしていくことです。そのためには、一流の音楽・歌を徹底して聴くことです。
同じ歌を異なるヴォーカリストで聞くこと、外国人の歌と、その日本語訳詞の日本人の歌を聞くこと、それらを比べることは、とてもよい勉強になります。(スタンダード、オールディズ、ジャズ、ゴスペル、カンツォーネ、ラテン、シャンソンなど。)
〇一流に学ぶ
まずは、一流のヴォーカリストの学び方を作品のプロセスから追体験し、しかも彼らの基準においてチェックしていくことができるようになることです。彼らが何から学んだかを追うと、やがて全ての分野をカバーしていくことになります。
フレージングのコピーは、トレーニングメニュとしても使えます。できるだけ広い分野から、一流といわれたヴォーカリストの作品を集めましょう。彼らの伝記、自叙伝などを読むのも刺激になります。
〇アンテナの立て方
実際に歌からどう学ぶのかとは、それこそ、才能というものです。同じ曲から一つも学べない人も、百以上学べる人もいます。アンテナが一つしかない人と、100以上ある人がいます。私は、レッスンはこういうことの重要性を伝え、そのアプローチを試みさせるのが全てだと思っています。つまり、アンテナ一本の人に、10本、20本のアンテナの立て方を伝えるということです。
〇デッサンフレージングを学ぶ
歌の世界では、自分の声を使って進行・展開や構成を音の線で表わしていきます。これを私は、絵画に例えて、これをデッサンといっています。いわば線を引く=フレージングのことです。そこに色=音色を加えます。
カンツォーネ、オールディズ、ラテンなどは、声で音のデッサンをどうしているかがわかりやすいため、発声・リズムグループも含めた、基本の教材として使っています。
唱歌、童謡は、呼吸と発声フレージング、日本語の勉強によいです。
演歌、歌謡曲は、日本人のデッサン情感表現のデッサンの研究によいでしょう。
声をそのまま大きく使って歌に展開していく段階では、あまりテクニックや効果のための装飾を入れず、ストレートに歌っているものの方が、材料にしやすいのです。私は音響効果が悪いため、生の声のわかりやすい1950~1970年あたりの作品をお勧めしています。
○独習の難しさとレッスン
独習は難しいというのは、より厳しい判断基準をもって行なうには、ということです。判断基準そのもののレベルアップこそが、決め手です。独習には、あなたにプロの耳が必要です。判断ができなくなれば、師につくことです。
トレーニングというのは、基本的には自分でやるものです。それをチェックしたり、新しいアプローチやヒントを授かったりするために習いにいくのです。
そこで、より深いこと、本物のこと、ある種の真理のようなものに触れ、自分の毎日行っていることの意義や効果を再確認し、そして、さらに修練を積んでいくわけです。
私は、そのようなことを自分で盗める(自主的に学べる)場でなくては、あえて学びにいく必要もないと思います。つまり、絶対に一人でやったり他のところでできないことのためだけに、レッスンを使うべきだと思っています。
〇レッスンの使い方
そこにいることで、何かトレーニングをやっているつもりになるような、安心感しか与えないところでは、楽しい、落ち着く、親しみがわく。その結果、当の目的とそれているのにさえ、気づかなくなっていきます。
何事も、学んだから必ずしもよくなるのではないということを忘れないでください。長く学ぶと、何事も学んでいない人よりもすぐれますが、世の中でどのように通用しているかと常に問わないと、必ずおごりや慢心が入ってきます。
それも含めて、本人の力次第なのです。自分でできることはすべて自分でやり、自分でできないことだけのために、トレーナーの才能をあなたが最大限に引き出して、使うことです。
参考書も一長一短があります。ことばや内容をうのみにしないことです。世の中には、そういう考え方や、そのように考えている人がいるという程度に考えてもよいでしょう。本を読み、スクールを転々としてはいつも悩んでいる人がいます。どこにも答えはありません。
〇何でも活かす
すでにあるものを習得するのでなく、あなたが創りあげるのです。正しい方法、間違った方法とか、よい先生、悪い先生とかではなく、世の中すべてから、あなたが生かせるものをよい方に生かしてものにしていくことです。私が世の中にはその逆のことをやっている人ばかりなので、そうすれば必ず、やっていけるようになるのです。
何もないより、少しでも本や教材が出ていることは、刺激にも勉強にもなります。拙書も参考にしていただければ幸いです。
○飲食物のよしあし
食べものに関しては諸説ありますが、大して気にすることはないでしょう。辛すぎるものや刺激の強いものなどはよくないという人もいます。声を出す直前でなければ、あまり関係ないと思います。声帯に直接、飲食物はふれないのに、おかしなことをいう人が専門家にも多いようです。高価なものほど、あやしいですが、信じて効果がでている人には、何も言いません。
―個人の体験は参考になっても、すべての人に当てはまらないことという顕著な例の一つです。
〇声楽家と教えている理由
声楽家にお手伝いをお願いしている理由は、J-POPSが声域を広く、しかもハイトーンが中心になってきたこと、ミュージカル志願者やミュージカルのプロの方などが増えて、早期に高音の強化を必要とされたため、そういうことを求める人には、向いているからです。
声の基礎づくりでは、声楽家は、呼吸や発声に何年ものプロセスを経て、体づくり、声づくりをしています。そのため、歌唱や演技と切り離して、声をみているのです。これは大切なことです。役者や声優や芸人などのトレーナーの多くは、声の演出(表情やしぐさ)に早くいくため、3年、5年というプロセスで、呼吸や声そのものの成長をみていません。
〇ポピュラーのヴォイトレの限界
ここに通われる役者、声優の方は、そういう人が教えているところでは、声の問題が解決しなかったからいらっしゃったのです。そのために初心者にも増して、日本人を一時、離れる感覚、体づくりを必要とするからです。
一方、ポピュラーの現役ヴォーカルなどのトレーナーでは、その人の好き嫌いや感覚に、そのトレーナーがプロとしてすぐれているほど左右されやすいのです。そのため、違うタイプは育ちにくく、似たタイプは何年たってもそのトレーナーの半分くらいの実力で終わってしまいます。ポップスのトレーナーは、一人で教えている人が多く、もともと、のどのよい人、声のよい人、器用に歌える人が多く、声を育てる経験をあまりつんでいないことが普通だからです。
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