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Vol.67

○声の条件がよくなるには

 

 最近の若い人は、あまり大声を出さずに育ってきたせいか、声を出すこと一つをとってもなかなか、大変なようです。出せてもコントロールできません。

 本来は、声づくりは、無理せず、基本的なトレーニングで、少しずつ確実に身につけていくのが理想的です。時間がかかっても、トレーニングすれば声は必ずよくなるからです。慌てずじっくりと時間をかけて、声を自分のものにしていきましょう。

 声がよくなるとは、より大きく強く高く(低く)出せること、さらに、しっかりと統一されて、かすれたり割れたりしないということです。しかも、長時間、声を出しても異常をきたさないこと、心身の状態が悪いときも(風邪などをひいていても)最低限、必要な声の表現力が確保されることです。

 朝、起きてすぐに、しっかりとした声が使えるところまでになるには、相当のキャリアが必要です。しかし、そこまででなくとも自分の声を知ることで、声を使うときに、声の調子を万全に整えることができるようになればよいのです。

 声に必要な条件とは、自分の伝えたいものが思うままに伝わるような声であることです。繊細に丁寧にコントロールできる声のことです。

 

○ベターの声を探す

 

 ヴォイストレーニングのプロセスでの基本的な考え方は、自分のなかの最もよい声をよりよくしていくということです。もし、今までにのどに負担をかけず、体から声が出たことがあったら、その状態を自分でキープすることができるようになることからです。

 本当に声が出たというときの感覚は、案外とわかるものです。しかし、それをいつでも再現することは難しいのです。意識するからです。その声を、いつでも導き出せるようにトレーニングを要するのです。

 

 自分の最も調子よく声が出たときのことを思い出してみましょう。

 (経験していない人は、イメージするだけでもよいです。理想を満たす他の人になり切ってもよいでしょう。)

 それは、どういう状態で、どうして出たのでしょうか。

 

〇運動したあとの声

 

 よく、スポーツをしたあとなどに、体の底から心地よく声が出たという経験をしたという人がいます。これは、しぜんな発声の理にかなっているのです。

 まず、体が運動のあとで、柔らかくこなれた状態となっています。汗もかき、体内の循環機能もよくなっています。よけいな力や雑念が抜けています。さらに、息や声を適度に使い、声帯も使いやすい状態になっています。息はいつもより深く、無理なく全身からの動きで出せています。

 こういうときは、声はしぜんに出やすいのです。声を出そうとしなくとも、声が出てしまうような心身の状態になっているからです。息がしぜんと声になると、それが邪魔されずに外にひびいていきます。体と声が一体になって、無意識のうちに、声を導いているのです。

 逆に声が出にくいときは、心身の動かないときです。寒いとき、起床したばかりのとき、過度に疲れたとき、体調の悪いときなどです。こう考えると、スポーツをするような条件が、ほぼ声を出すときにも当てはまることがわかります。声は体と緊密に結びついているからです。

 

○声の出やすい状態をつくる

 

 トレーニングのときの基本姿勢について、順序立てて述べます。

 まず、胸をやや上に向けて、少しもちあげるようにします。すると、腰のまわりに少し緊張を感じるはずです。そこの筋肉(背筋、側筋)が、声を自在に扱うために大切です。これを使えるように息のトレーニングで鍛えていきましょう。

 次に、息を吐いてみます。のどがかわくような吐き方でなく、お腹の底からゆっくりと絞り出すようにします。吐き切ったら、少し止め、そして、ゆるめます。すると、しぜんと息が入ってきます。これを、体の動きとして意識してください。口で息を吸っているのでなく、お腹が呼び込んで体に入ってくるように、です。(実際のトレーニングでは、吐き切るところまではやりません。)

 体、特にお腹が固まるようであれば、軽くジャンプしたり、揺らしたりしてほぐしてください。首を回したり、肩を動かしたりして、緊張を解きましょう。肩と首の間、胸とわき、肩との間の筋肉は、特によくもみほぐしておいてください。「首やのどはない」と思うことです。体の力が息になり、そして胸の中心に口があって、そこから息が出るように感じてください。

 慣れないうちは、腰も足もつっぱってきます。適当に動かして、力が入らないようにしてください。

 

 上体を前屈させるとやりやすくなります。お腹の前の方が押されて、背筋や側筋が使いやすくなります。息を何回か吐いてみてください。

 よく腹式呼吸を、腹筋トレで鍛えてお腹の筋肉を動かしている人がいます。これは腹直筋を鍛えますが、内臓器官を圧迫するのでよくありません。横隔膜は肺の下にお椀をふせたような形でついています。前腹を鍛えるのでなく、使いにくい背側や側面を使えるようにしましょう。腹式呼吸が身についていくと、やがて腰のまわりに空気が入るかのようにふくらむのです。

 

○腹式呼吸

 

 声を使うときに必ず注意されるのは、腹式呼吸のことです。

 腹式呼吸は、寝ころがって息をすれば、誰でも自覚できます。しかし、それを声に応用して、声を出したときに腹式呼吸でコントロールするのは、難しいものです。

 常に腹式呼吸と胸式呼吸は、呼吸時に共存しています。胸式呼吸から腹式呼吸に切り替えるのではなく、声を腹式呼吸でコントロールしているかどうかを言っているのです。

 腹式呼吸で、お腹から息が出ればよいのではなく、声になって出なくてはいけないのです。そのためには、腹式呼吸のトレーニングの前に、息を声にしぜんと変えること(声立て)が必要です。

 息がしぜんに声にかわるためには、呼吸をコントロールできるリラックスした状態の体が必要です。そういう体づくり、息づくりをめざして息のトレーニングをするようにしてください。

 

 息を吐くときには、あごがあがらないようにしましょう。日本人の大半は、あごが前に出すぎています。また、体の背筋の線に対して、首も頭部もまっすぐになるように気をつけてください。あごをひくことで、のどを圧迫しては何にもなりません。二重あごになるのは避けましょう。

 足はやや開き、重心を下げ、楽な姿勢をとりましょう。運動部などが「ファイト、オー!」とやる要領です。ただし、頭が前に落ちたり後ろにも反ったりしないように気をつけます。

 こういう姿勢は、あまり慣れていないので、最初は維持するだけでも、かなり疲れるかもしれません。少しずつ慣れてください。街を歩くときも、食事をするときも、さっそうと胸を張ってあごをひいて、格好よくしてください。

 

[息を吐くトレーニング]

1.ゆっくりと息を出します。出し切ったら、23秒止め、しぜんと息が入ってくるのを待ちます。(10回)

このときに、硬口蓋(上歯とのどちんこの間の硬いところ)の上、鼻や眼の奥に息をあてるように、意識しましょう。

慣れてきたら、背中のまん中に息をあてるように吸い入れてみるとよいでしょう

2.息を(ハッハッハッハッ)と犬が走り終えたときのように速く吐きつづける(1分間)

3.時計をみながら、5秒、なるべく速く吐き、5秒休む(1分間)

4.均等に意識して息を長く吐き出す(10回)

5.少ない息から、少しずつ吐く量を大きくしていく(10回)

6.脱力して、はねながら「ハアー」と息を出す

7.上半身を前倒させたところから、ゆっくりと上にあげながら息を吸い、「ハアー」といって、また倒す

8.上半身を中心に大きく体を動かしリラックスします

 

○深いため息から声にする

 

 息が声になることのわかりやすい例は、ため息でしょう。ため息(ハアー)をそのまま声にしていくのです。これはアプローチとしても入りやすいといえます。

 息も声も少しずつ「太く強く大きくする」というイメージをもってやってください。ただし、のどに負担をかけないことです。息で強くアタックをするのは、避けてください。

 

 深い息というのは、吐くだけでも、けっこうな体力がいります。声も息も、体で完全にコントロールしていくのです。それは、すぐれた俳優やヴォーカリストのもつ息づかいだけに耳を傾けてみるとわかるでしょう。

 声を大きく出していないのに、客席の隅々までしっかりと伝わる声、それは、深い息に支えられているからです。この深い息をコントロールするとき、お腹の側筋や背筋のところを中心に、全身に支え(最初は負担)がくるのです。負担がくるからこそ、そこが鍛えられ、強くなっていきます。そして、効率よく声になるから、他のところを脱力して、より通る芯のある声となるのです。

 声も息も、一本の針金のように、細くともしっかりと芯があり、動きの線のみえるものです。だからこそ、言葉を自在にコントロールでき、遠くまではっきりと聞こえるのです。マイクにも効率よく入るのです。

 最初は、深く長いため息をお腹一杯の空気を使って何回も吐いてみましょう。充分に体が動いてきたら、少しずつ実声にしていくとよいでしょう。

 

<注意>息のトレーニングは、自分の体力、体調にあわせてやることです。慣れぬうちは、額や後頭部などが痛くなったり、気分が悪くなること、めまいなどもあります。こういうときは、すぐ休んでください。

 立ってやるときは、やりすぎて倒れたりすると危険なので、まわりに注意します。具合が悪くなったら、すわるなり、ひざをつくなり、早めに対応することです。

 強い息吐きは、乱暴なので勧めませんが、よいトレーナーの元で行うと効果的なこともあります。

 

[ため息のトレーニング]

1.(ハアーーーー)と長く息を吐く

2.「(ハアーーーー)アー」後半を「ア」で実声とする

3.「ハアーーーーー」と声を伸ばす

43回、ため息で(ハアー)といって、4回目を実声「アー」とする

5.楽に声になるところ、一番、声の出やすいところで、声を出し、息で少しずつ、大きくしていき、そのあと小さくする

 

○息とことばから声にする

 

 声のトレーニングのなかで伝わることを知るには、日頃、使っていることばの実感から学んでいくことが早いでしょう。短いことばをなるべく体から(お腹の底から)声をつかんで、ことばにします。簡単なことばで、しっかりと発してみることです。

 最初は、口形などはあまり気にする必要はありません。正確な発音よりも、体からの発息と発声を重視します。それとともに、ことばを少しでも深く捉えるようにしていきます。

 のどの調子が悪いときなどは、生じ声を出すよりも、息だけを吐いている方がよいこともあります。声帯そのものを疲れさせる のでなく、声をうまくコントロールできるように体を鍛えておくことが、トレーニングの目的だからです。

 特に、大きな声を出したことのない人は、息によるトレーニングをしっかり行うことをお勧めします。これは、時間も場所も問わずやれますので、毎日行ってください。

※ただし、息によって、のどや口内がカラカラに乾くようになるのはよくありません。これは、無駄に荒い息を使いすぎるからです。

 

○息読みのトレーニング

 

 息でことばを読んでみます。これを「息読みのトレーニング」と呼んでいます。息読みのトレーニングは声帯を使わないので、のどを痛めません。初心者が、声を出そうとすると必ず、そこに無理な力が加わります。息でなら安全だからよいのです。ただし、人によっては、その方がのどにかかる人もいます。ささやき声は、人によって喉に負担になります。その場合はやめましょう。

 

[息読みで読むトレーニング]

1.ことばを息で読んでみる

2.息で読んでメリハリをつける

3.息で読んだあと、声で読む

4.息を3回「ハッハッハッ」と吐いて、1回「ハイ」と大声でいいます(20回)

5.息で「(アオイ)」といって、声で「アオイ」といいます(20回)

 

○共鳴(ひびき)のトレーニング

 

 声帯で生じた喉頭原音は、声道で、口、鼻などを通して声としてなって出ます。それが統一されると、ひびきになります。それを調整したのが母音です。

 まずは、体の方、胸に充分にひびかせ、のどをリラックスさせる発声を生じさせることを覚えることです。そして、しぜんと充分にひびいてくるまで待ちましょう。

 

 基本姿勢として、前屈した状態で声を出してみましょう。日常的に使っている声を少し大きく出してみてください。のどのあたりがひびくかないようにチェックしましょう。

 普通は、高くするほど頭の方にひびきますが、それを、低くして胸の中心にひびきを集めてみましょう。ことばとしては、「ハイ」、「ハオ」、「ラオ」、「アオイ」などがよいでしょう。

 体のいろんなところへ手を当ててみると、声がひびくのがわかります。胸から肋骨、背骨、尾てい骨と、下の方までひびいているようにします。胴体にひびくイメージをもってください。このときも、あごを出さず、首や肩、舌などの力は抜くことです。そのまままっすぐに立って同じようにやってみてください。

 イメージですが、声の芯、声の底をつかみ、少しずつ大きくしてみてください。のどに負担がくるようならやめます。次に長くしてみましょう。さらにピッチ(音高)を高低に変えてみてください。

 声をしっかりとキャッチするというのは、とても難しいことです。そこで体を入れるとともに、余計な力を抜き、リリースするのです。

 

[声のひびきを確かめるトレーニング]

1.ハイ、ガイ、ライ、ララ、マー、アー

2.ガーゲーギーゴーグー

3.ガーヤーダー

4.ガゲギグゲゴガゴー

 

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