第32号 「トレーナー間を移ること」
○組織としてのメリット
研究所では、かなりの部分について、他の人に任せるようにしてきました。私がすべてをやってしまったのなら、発展がありません。いろんな人がくるので、相手によっては私よりもうまく対処できる専門家やトレーナーをみつけたり育てることも必要です。また、私も含めそれぞれのトレーナーが、専門を深める研究や勉強をすることも欠かせません。声楽家やヴォイストレーナーには、ずいぶん会いました。今も毎年、何人かと面接しています。そのことも私や研究にとても役立っています。
〇他からいらした人への対応
レッスン受講生のなかには、他のところのトレーナーについて学んできたあとに、あるいは、そこで学びながらここに来ている人がたくさんいます。
他のところをやめて、新しくトレーナーにつく人は、自分の判断の正当化を求めています。自分をわかってくれるトレーナーを探し、これまでのやり方で納得できないことを確かめにきます。そこで、トレーナーがその人の不満にすぐに合意したり、一緒に前のトレーナーのやり方を批判したら、信用を得て、さいさきのよいスタートが切れます。トレーナーが自分のやり方で進めるのには、やりやすいでしょう。しかし、考えようによっては困ったことです。それまでになにがよくなかったのかも知っていくことなのです。
〇これまでの学びを活かす
他からいらした人は、当人はリセットしたい、トレーナーもその方が楽だから、ゼロからスタートしたがります。心機一転、最初はそういうスタートでもよいでしょう。しかし、どこかで、考えてほしいことがあります。
このことは当人一人でできないことだからこそ、トレーナーが知って、少しずつ伝えていくべきことです。前のところで前のトレーナーで伸びた人もいたのです。相性ややり方だけではなく、自分の判断の仕方、学び方など、トータルにみて、どこに問題があるのかということを知ることは大切なことです。
前のところを辞めて次にいくなら、トレーナーややり方のせいでなく、自分の問題として捉え直すことです。そうでなければ、最初はよくても、また同じ轍を踏むことになります。習うべきことをマスターせずに、トレーナーを、二転三転としている人は、特に注意することです。やったことは、どんなことでも意味があるのです。ただ、多くの場合、レベルが違うので、レベルが上がれば消化されていくのです。
〇トレーナーを替える
トレーナーもまた、学ぶ力こそが、もっとも大切な能力です。他のトレーナーのトレーニング法が自分のやり方や評価の仕方と違うものなら、よくないといいたいのはわかります。だからといって、どこでも学ぶべきものはあります。
やめた人がいうことは、必ずしも信用なりません。なぜなら、そこでうまく吸収して伸びた人もいただろうに、それができなかったともいえるからです。
〇学ぶ力をつける
経験がどう生かされるかというのは、あとにならなくてはわかりません。合っていないようでも、長い人生においては、否定できることはそうありません。人生には何一つ無駄がないのです。それに投じた時間とお金を無駄にしないように、頑張ってください。
何事であれ、一所懸命やることです。そして次の場でも、今まで一所懸命やったものをどう生かせるのかの方が大切です。そうしないと、何でも無駄になります。安いから、自分にわかりやすいから、合っていると思うから、よいとは限りません。何事も生かすも殺すも自分次第なのです。学んだことより学ぶ力をつけることこそが、レッスンの役割です。
〇トレーナーに盲目的につく人
私からみると、やめた人がいうことを一方的に信じるトレーナーは、勉強不足です。多くは、自らの生計のために、生徒が欲しいから迎合します。あるいは生徒の先生になりたいのです。
それに気づかない人は、生徒としてトレーナーに隷属したいのでしょうか。トレーナーでなく、アートに仕えるべきではありませんか。
気分よくやれることと、実力のつくことは、違います。
トレーナーのせいにしている限り、本当には伸びません。甘く、優しいトレーナーを見つけて、そこでほめられ、自己満足に終わります。
〇ついたトレーナーの先をみていくこと
何年かたてば、世の中で自分が声の力でもって、やれるようになっていかないという現実で、わかるはずです。
トレーナーと慣れ親しんで、そういう判断さえしなくなるでしょうか。もしくは、それまでに限界を悟り、やめてしまっているでしょうか。トレーナーがそこをカバーして、みえないようにしてしまうことがもっとも多いように思います。 つまり、そのトレーナーの下でしか通用しない力でおわるということです。
やめた人より、やれた人。
始めた人より、続けている人。
やっている人より、その実力。
もし、本当に実力をつけるのなら、1000人で1人しか続かない世界に、その他999人の1人でしかない今の自分やトレーナーの判断を、もち込まないことです。それが、あなたが、すぐれていくために、もっとも改めることであり、根本的に大切な考え方です。
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