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第33号 「日本の音声と指導について」

〇トレーナーの探し方

 

「東京にはよい先生がたくさんいるのではないかと思います。よい先生を確かめたいと思っているのですが、どうすればよいですか。また、どういう生徒がよいのでしょうか」というメールをいただきました。

私も十代のときに、全国の先生を探し回りました。その結果、クラシックの方に行くしかなかった。今も、そう変わりないと思います。ポップスのトレーナーも人数が増えただけのように思えます。納得のいくまで、大いに探してください。あなたに大切なことならあたりまえでしょう。一生、信じるに足りる声とは、そう簡単にめぐりあえません。めぐりあっても、それは自分のものでないうちは、意味はありません。

 

○日本の音声教育の現状と対策

 

私がアドバイスできることは、「他人にノウハウやメニュを教わろうと思わない方がよい」ということです。もっと大切なことを学んでください。

第一に、多くの音を聞き分ける耳を持つこと、そういう人は少ないです。歌での声とオリジナリティの作品への評価と、それをよくするための方向を与えてもらうことです。長期にかつ高度な経験のあるトレーナーが必要です。

第二にトレーナーの声をよく聞いてください。大半は、話し声さえも普通の人と大して変わらないでしょう。歌がよいのと声がよいのは違います。日本人の音声に対しての意識がいかに低いかということがわかります。(すぐれたトレーナーには、惚れ惚れする声をもつ人もいます。欧米のトレーナーの声を機会があれば聞いてもらいたいと思っています。)

第三に、だいたい、何もわからないというのが、可能性です。だから、一途に突っ走れるのです。今の日本人の場合、芸事の経験や、そういうものにとりくむ基本の考え方がありませんから、そのままでは難しいでしょう。まずは、目的と、そのプロセスをはっきりさせていきましょう。

 

〇信じることと依存

 

こういう世界は独学がベースです。どんな先生についても、24時間一緒にいるのではありません。

何事も、信じる分には、効果は出ます。だから、とことん迷っても、決めたら、相手を信じ切った方がよいでしょう。

私は、最初から一方的に信じてくる人は、どちらかというと敬遠します。信じるということは、効果を出すための条件ですが、責任を相手に任せるだけの依存症に陥らせることも多いからです☆。創造や表現が目的なら、これは、もっともよくないのです。

 

○人を選ぶ能力、使う能力

 

何事もノウハウやマニュアルの効力というのは、個人に帰すものです。たまたま、他の人がまねてうまくいくことはあるかもしれませんが、本当に成功するとしたら、それは使う人の能力によります。

一流になる人は、一流の人につき、そうでない人はそうでない人を選びます。やれていく人は、やれる人に、やれない人はやれない人につく。ここで本質を観る眼、選択眼もまた、才能です。

同じ人についても、その人の能力をどこまで生かすかは、人によって千差万別です。同じ時間とお金を費やしても、得られるものは全く違います。私が思うに、すぐれた人は、相手のもっとも高い才能を自ら引き出していくものです。

 

〇始めてから見失うこと

 

多くの場合、最初に見えていたはずのものが、渦中に入ると曇ってくるものです。青い鳥を求めるように、どこかに正解があると、それを探したがるからです。相手にそれを求めるのです。日本人は、殊にそれを他の人のもっているものへと追い求めます。追う間は、自分を見ない、見えないのです。この状況のままでは、何事も実現不可能です。

師とは、何かを成し遂げる人が自分自身を知るためにいるのです。いるだけでよいのです。

トレーナーと同じようにやりたがる人が多いようです。何をやってもよいのですが、もし間違えというのがあるとしたら、そこが唯一の間違えなのかもしれません。

 

○真の指導とは

 

真にすぐれた指導というものは、本人さえわからないうちに、本人に努力を強いている結果、本人の力でものごとを成し遂げさせます。そこで感謝もお礼も求めません。やれる人は自分の力と信じてやっていくからです。

本人がひたすらやりつつ、工夫しつつ、成功するまで続ける。そのようにしたら、その邪魔をトレーナーがしないことです。信じて待つ、見守るしかないのです。技術よりも精神的なことや思想の方が、ずっと大切なのです。

ところが、日本人というのは、類に交わり赤くなります。写しとることを上達を思うから、教え上手にいわれる人について、早く教えられて、教わったことに満足して終わるのです。もったいないことと思うのです。

 

〇カウンセラーとトレーナー

 

結果を早く求めるとうまくいかなくなり、一緒に悩んでくれる人を求めます。トレーナーがそういう対応をすると、そこに情を感じ、親しみを感じるものです。それが本当に自分のためになることと混同してしまいます。そういう人には、トレーナーはただのカウンセラーになってしまうのです。そうしないトレーナーをわかってくれないと遠ざけることになるからなおさらです。

教えたがりの先輩を選ぶか、師を選ぶかは、その人の精神度と成熟性にかかっています。こればかりはどうしようもありません。その人の器(と将来)ほどに、人は自分の意思として選ぶからです。

 

〇同じパターンから抜け出す

 

これまで、やり方よりも選び方が悪かったこと、学び方よりも生かし方が悪かったこと、それを省みず、さらに最悪の選び方、生かせない道を、その人がその人の判断ゆえにしてしまうのです。

私が、こういうことに気づけたのは、私よりも人生経験を積み、判断の適確な師やアーティストに会えたおかげです。他の人は、私ほどにそういう人たちを活かせなかったように思います。

ですから、私は本人がトレーナーを選ぶよりも私自身がその人に必要と思うトレーナーをお勧めしているのです。もちろん請われたらのことですが。

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