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第35号 「声楽家のトレーナー」

○声楽家のトレーナー

 

声楽を学んできた音大卒というキャリアで教えている人にも、問題は少なくありません。私自身は、声楽の発声も、声という点では同じであると思っています。ただ、表現のスタイルと、それぞれの要素の優先順位、重要度が違うのです。

特に声域を絶対優先にした高音獲得競争は、キーを自由に移動できるポピュラーには、害になりかねません。その人に理想的な発声の追求が、地力とコントロール力をつけることで、声量や声域を拡げる結果となることにおいて、高音獲得も意味があるのですが。

しかし、高音を求める人にはポップスのトレーナーにつくより、声楽家がお勧めです。そこで私も協力いただいています

クラシックは、理想とする大歌手の歌や声を手本に鍛錬していくのですが、ポピュラーには見本がありません。お手本は、教わる人自身の中にある最高のもの(オリジナリティ)です。その個性を殺しては、何にもならないのです。ですから、声楽家を使うなら、その人をプロデュースできる判断力を持つ人が必要です。

 

〇声楽の本当の活かし方

 

オペラの歌い手、あるいはジャズ、ソウル、ロックでも、本当に力のあるヴォーカリストの声は、体から泉のように滞りなくあふれ出てくるかのようです。そのくらい声が自由に出れば、歌うのに苦労しないし、歌っていても気持ちよいと思う声を目指すというのが、ヴォイトレでの声楽のメリットです。

声楽はなまじ中途半端に学んで形にはならず、やる以上は、ある時期徹底してやることです。

ただし、声楽家は、一つの方法に固執する傾向が強いようです。ソプラノならソプラノ、しかも同じタイプしか教えない人が少なくないからです。とはいえ、例外もあります。

メリットとしては、声楽家は、ポップスから離れているから、歌の好みに偏らず、発声そのものに限られる点でヴォイトレに適任ともいえます。

 

○音大生のトレーナー

 

私がトレーナーで採用するのは、100人に1人くらいでしたが、今は推薦でだけ受けつけています。

オーディションでみられた音大出身生の特徴は、

1.ほとんどは大きな声か高い声は出るが、緻密なコントロールがない→正しい音程にこだわる、しかし、今は、大きな声がでない人が多いです。

2.頭部共鳴にコントロールされているが、パワーがない→今は、大きな声が出ない

3.リズム・グルーヴが入っていない→拍とテンポでとっている

4. ことばで、声の力と感情表現力がない

ポピュラーを手伝っていただけるのはありがたいのですが、感覚を根本から変えて、たくさんの曲を聞いて欲しいと思います。

日本や現代というのを知らず、関心も持たずして、声というのは歌えるのでしょうか。以前と違って、声だけ、歌だけでは食べていけないでしょう。

どうしてそうなったのかとみると、師の考え方からでしょうか。そこからみると、ドイツ式とイタリア式の違いなど、ささいなものです。

 

〇音大生の課題

 

ピアニストなども、私は独力でやってきたくせのあるポップスのピアニストよりも、クラシックでリズム感がある人の方が育つと使えると思っています。ですから、音大生とはよく接してきました。

声楽家も、学び始めたときから声を大切にして欲しいものです。声が未熟なうちに人に教えるのは、あまりお勧めできません。

日本人は話し続けるだけで声を痛める人が多いようです。ベテランの声楽家は別ですが、音大生あたりでは、総じてひ弱です。呼吸や発声のまえに、体力と集中力づくりが必要でしょう。

 

〇オペラ歌手の課題

 

声そのものの弱さと、表現力のなさを補うことです。

1.リズム、グルーヴ

2.声の強靭さ

オペラ歌手になりたいなら、10代からスポーツで体を鍛えることをお勧めします。三大テノールは、サッカー出身、ドミンゴは自分のチームをもち、パヴァロッティはプロ選手でした。ステージには、その運動神経や勘のよさが必要なのです。

何よりも今や音大入学を選ぶところで、保守的な気もします。昔はそれが挑戦でした。

音大を出ないとオペラのステージに立てないというのなら、それも仕方ないでしょう。専門家なら、専門家で極めたらよいのです。そこでの技術を習得したい人が、習えばよいということです。

 

〇オペラみたいな発声

 

よく「声楽をやると、オペラみたいな発声になりますか」と聞かれます。

この“オペラみたいな発声”のイメージを、日本人の中途半端なオペラ歌手が助長してしまいました。

私はダンスでコンテンポラリーをやる人に、クラシックバレエが基本となるというような次元で、声楽を学ぶことを勧めています。そこからみると、あまりに低次元の問いです。

ヒップホップ、ラップをやりたい人は、「クラッシックバレエをやると自分のダンスが『白鳥の湖』のバレエみたいになりますか」とは聞きません。変なイメージのついたオペラの発声を声楽とみるのでなく、クラシック(基本、原理)と捉えてください。

 

〇声楽を活かす

 

「声は強くなるのか」というのも、大体において、強くなると思ってよいでしょう。それを共鳴の技術でカバー、コントロールするのでなく、それだけで歌にしようとしたところでおかしくなってきたのです。

声楽は土俵がはっきりしているため、評価の基準がわかりやすいのです。私もときに「声楽でいうなら」という言い方をとることがあります。またトレーナーとして、声楽家をお勧めすることがあります。そのケース例としては、

1.表現力、演奏力(オリジナリティ)

2.発声と共鳴(技術)

3.声のよさ(素質)

日本では、1が欠けているといわれるそうです。ピアニスト、バイオリニスト、指揮者の世界での活躍をみると、世界にひけをとらない耳が日本人にもあるのです。がんばってほしいものです。

 

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