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第36号 「声楽をポップスに活かす」

○声楽の条件

 

 

 

声楽の条件は、日本人には、過酷です。日本人の日常生活をひるがえすものです。だからこそ、おのずとトレーニングになります。

 

1.オーケストラに声が打ち消されない(声量)

 

2.遠くの観客にマイクなしに聞こえる(共鳴)

 

3.原調で歌唱、演奏する(声域)

 

 この3つを目指すと、基本の条件づくりのトレーニングまで、必要となります。その必要性の高さが最大のメリットといえます。

 

 

 

〇声楽の影響

 

 

 

欧米から入ってきたポップスやその日本調に変じた演歌は、当初、声楽と切り離せなかったのです。声楽家がポピュラー歌手になりました。これが声楽の発声トレーニングが、日本のヴォイストレーニングのベースとなったことにも影響しているのです。

 

1.日本語の母音共鳴中心

 

2.メロディ重視

 

3.発音、ことば重視(ストーリー重視)

 

ポップスは、ことばを重視しますが、声楽は、声の音色、共鳴と声量を重視します。

 

 

 

〇高音での発音

 

 

 

ピッチは周波数、発音(母音)はフォルマントが決めるので、ある高さまでは両立できても、それ以上は、ことばは声をじゃまするようになります。声楽の最高高音での発音の正しさは、望めません。

 

これを役者のように、日本語の発音(ことば)を聞きやすくすること優先というなら、劇団四季のような発声の方針もありといえるでしょう。声帯の負担は大きくならざるをえませんから、その分、犠牲も伴います。

 

 

 

〇今のポップスに求められることと声楽

 

 

 

以前と条件が違ってきています。

 

1.マイク、音響技術の進歩

 

2.ことば(発音)の必要度の低下(テロップ/ライブ化)

 

3.海外のリズム(沖縄なども含め)の重視

 

ポピュラーを歌うのに、声楽のトレーニングは、必ずしも必要ありません。

 

現にJ-POPSにテノールの発声で高い声を出している人はあまりいません。

 

しかし、体、呼吸、発声づくりに役立つはずです。

 

 

 

〇声楽に学べること

 

 

 

私は今いくつかの面で、歌手だけでなく、俳優や一般の人のヴォイストレーニングにも、声楽の有効性と必要を説いています。

 

1.声を、曲を、丁寧に扱える(ピッチ、音程、テンポに厳しい)音楽的基礎

 

2.音楽的な流れ(構成)、ベーシックな流れ(フレージング)を学べる

 

音楽的な流れ(構成)

 

3.発声のポジションが深い

 

日本語よりもイタリア語などで出しやすい(発声、共鳴、声区のチェンジ、声量、声域)

 

 特に、かなりのキャリアで限界を感じている人には、必修としています。

 

 

 

〇日本人の聞き方

 

 

 

日本人の耳は、

 

1.母音を聞く

 

2.メロディを聞く

 

3.ストーリーを聞く

 

ようにできています。歌からみると、優先順は、321、ヴォイトレでは123です。

 

 

 

〇声楽の実績

 

 

 

声楽は、確かな実績をあげています。ただ、あまりにも膨大に使われているので、一くくりで述べられるものではありませんが、

 

1.世界で地域、民族を問わず普及し、ある程度の成果をあげた(歌手やトレーナーを育てた実績)

 

2.誰もが何年かやると、それなりに声楽らしい声になる(とにかく素人離れする、一声のレベルで変わる)

 

3.日本人に、美しくひびく声はよく聞こえる(日本語に合っている)

 

トレーニングにおいて大切な目安となるトレーニングした声の獲得という結果が出やすいのです。

 

 

 

〇声楽と劇団、ポップス

 

 

 

1.日本の劇団などの養成所の発声練習に使われている

 

2.日本の多くのミュージカルでは、オーディションなどの歌唱に声楽の基準がある

 

3.合唱やアカペラ、ハモネプは、特に有効である

 

声についての悪条件の日本人が、音大にいるうちにも、とにかく声域を先にのばし、次に声量をつけるのに使った声楽の発声法は、そこで問うのなら、ポピュラーやカラオケに充分通じるということです。もちろん、声楽といっても、ピンからキリまであります。

 

 

 

〇日本人のポップスで声楽を学ぶメリット

 

 

 

1.高い声がもてはやされている、原調で下げずに歌いたい(そのままコピーしたい方が多い)

 

2.声量に悩む人が多い

 

3.上達しているという発声法、呼吸法での基準がある

 

私は多くの人に声楽をお勧めしています。子供から年配の方に、老若男女問わず、初歩的なところをやってみるとよいでしょう。

 

重要なことは、一流の声楽家の少ない日本に、一流のレベルになるように教えられる人はどのくらいいるのかということです。声楽をきちんと学べるのだろうかということです。いったい、誰に、どこで、ということです。

 

 

 

〇声楽家をトレーナーにするとき

 

 

 

ここの声楽家トレーナーの採用のオーディションでは、いつも人材不足です。

 

ここで、いくつか、声楽出身のトレーナーに思うところと、実際にお願いしていることを述べておきます。

 

まず、声楽家出身者はポップスを甘くみています。私から、声楽家にクラシックのままでは通じないからポップスを学べなどと、ヤボなことは言いません。声楽家にポップスは教えられないのは、百も承知なので、次のように考えています。

 

1.発声のしくみとその使い方を、きちんと伝える。

 

2.声楽をやれば、ポップスを歌えるとは思わない。

 

3.声楽家の歌うポップスは違う。

 

声の出ることがポップスでは必要どころか、有利な条件とも限らないということです。

 

 

 

〇声楽をうまく使うこと

 

 

 

ポップスの曲にも、声楽の要素はあるのです。藤山一郎さんや淡谷のり子さんの時代あたりまでさかのぼれば、発声一つとっても簡単に真似できないことでわかるでしょう。しかし、今はこのことの理解は難しいと思われるのです。必要も感じないでしょう。

 

声楽出身のトレーナーは、判断の基準が、次のこと中心、あるいは、それだけになっています。

 

1.発声、呼吸法

 

2.共鳴、声区融合

 

3.ピッチとリズム(テンポ)、ことばの正しさ

 

そこにステージングでの個性やノリ、音色などの魅力があまり優先されないのは、仕方ありません。その上で、声ということでは、声楽であろうとポップスであろうと、理想とする発声は同じですから、声楽は使いようによっては、たいそう有益なのです。

 

 

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