Vol.69
〇人前で話すことへの自信
「話すとドキドキする、緊張する、だから楽しい」などと思える人は、日本人にはほとんどいないでしょう。実際のところ、「声がふるえる」「スムーズに声が出ない」というのが、大半ではないでしょうか。
このことが生きている証しだといえるのなら、人前で声を出して話すことも随分と楽しくできるに違いありません。そんな人は、そのままで夢を実現していける幸せな人なのでしょう。でも、そんな人は、めったにいないはずです。しかし、このことをどこか念頭に入れておいてください。私はそれが、声がよくなる一番の秘訣であると思うからです。
「いろんなことが起こるから、声も人生もおもしろい」、そう考えてみるのです。
〇人前でうまく話す条件
人前で、うまく声を出し、話すことができるかどうかについては、こうすればよいということは一言で言えません。いろんな要素があります。しかし、こうしてはいけないということは、いくつか言えます。
第一に、声は、相手に聞こえなくてはいけません。最低限、必要な声量が必要です。相手が高齢者や耳のよくない人なら、なおさらです。これは、発声の問題です。
第二に、相手のわかる言葉として発されていなくてはなりません。ここに発音の問題が含まれてきます。これは、声の使い方です。
第三に、話し方、話す内容、そして伝える意志が問われます。人に伝えたいとか、わかって欲しいという意志の通っていない声は、他人に働きかけません。どんなにうまく話したつもりでも、「伝わるわけではない」のです。
たくさん話したのはAさんだったのに、あとからBさんが一言、説得力のある声でつけ加えて皆が納得し、結局、すべてBさんが考えて伝えたような印象になったということもあります。
つまり、人前で話すには、何よりも自信をもった声で自分の考えを主張するということが、第一の条件です。堂々と声にするという覚悟ができたら、うまく声を使うための問題の半分は解決したも同然です。うまく話せるということは、自分の伝えたいことをいかにしっかりと伝える覚悟をするのかということからです。
〇人前で意識することは
あなたは、伝えた結果、どうなるかとか、こういうと人にどう思われるかなどばかり、気にしていませんか。その場で言いながらも、まだ考えているということも少なくないようです。
しかし、そのことは、そのときまでに考えることです。話した結果に対して責任をとる覚悟がないと、声に説得性が出ません。
人前に立ったときは、いかにうまく伝えることに全力を投じられるかなのです。歌い手がステージに立つときに、その選曲のことを考えても仕方ないでしょう。それと同じです。
うまく話せないから声に自信がない。すると自信がないから、声がしっかり出ないという悪循環になります。これは、たくさんのことを言おうとしすぎるからです。
あなたは、期待されている役割を演じればよいだけです。多くの場合、すでに話す内容も整っているはずです。それをできるだけ短く整理するのです。どちらにせよ、まず声をしっかりと出さなくてはなりません。
意識すべきことは、誰でもあたりまえに話せることを、いかに皆にわかりやすく、うまく伝えるかということなのです。
ここでもつべきものはサービス精神といえます。どうせ話すなら、相手の心を動かし、そのように話す自分を楽しむ、そのためにどうするかが声に問われるのです。
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