〇低く太い声の需要が増している
最近、業界では低く太い声が求められるのをご存知でしょうか。従来、日本人の声は、もともと高めの声でした。特に女性は、諸外国から不快に思われるほど、高くキンキンしていたのです。放送などでも、高い声が好んで使われていたものです。
これは、国際的には不思議なことで、日本にくる外国人には、「かん高い声で長時間、ニュースを読まれたら、聞く方が疲れてしまう」と言う人も少なくありませんでした。
たとえば、イギリス元首相のマーガレット・サッチャーも、モデルのシンディ・クロフォードも、アナウンサーの小宮悦子さんも、声を低くしました。
〇信頼の声
なぜでしょうか。もしあなたが、相手に本当に大切なことを伝えるときには、どういう声を出しますか。自分の言うことを聞いて欲しいとき、信じて欲しいとき、決してカン高い声は出しませんね。これは、説得力、信頼度を増すためなのです。
落ち着いた太い声は信頼の声といわれるのです。
1. 個性的で
2. 説得力があり
3. 品がよく
4. 印象がよい
そういう声が、日本でも求められてきたということでしょう。
〇求められる声も変わる
ビジネスの決め手の一つは、電話での応対の声でしょう。通信販売だけでなく、取引相手の多くは、顔がみえません。最初のイメージや印象は、声だけで決まってしまいます。ビジネスに勢いのあるとき、社員はおのずと活気ある声を出します。逆によくないことが起こると沈んだ声になります。それをうまくコントロールしないとビジネスはうまくいかなくなります。
声が元気、明るいのは、とても気持ちのよいものです。一昔前は、無理に営業用のスマイルと共に、営業用の声としてピッチ(音高)を高くしていたようです。
しかし、ここのところ、ただ明るく元気なだけでなく、落ち着いていて、ていねいであること、つまり品のよさも問われてきているような気がします。
〇口上の声の独自性
かつては、香具師(やし)といって、もの売りの声が街にあふれていました。その独特の声の口上にひかれて、皆、道に飛び出たものです。「金魚や」「さおたけー」、人に働きかける声が、街に息づいていたのです。そこでは、カン高い声からダミ声やイキミ声のように独特の説得力をもつ声も多かったようです。個性豊かな声が街にあふれていたのです。今はほとんど自動再生の音声テープになり、寂しいものです。
市場(いちば)や寿司屋、ラーメン屋、居酒屋に行く理由は、食べることはもちろんですが、元気な声を浴びて、元気になれるからではないでしょうか。その声で、食材まで新鮮にイキイキと感じられてきます。もし、暗い声の居酒屋や寿司屋だったらどうでしょう。おいしくなくなりますよね。
〇声美人になる
昔から、プロの特殊技術というのは皆があこがれ、やがて普及し一般化していきました。あこがれのスターのファッション、髪型、メイキャップ(化粧法、化粧品)などは、すぐにまねをされます。今やどこの家にも必需品のティシュ・ペーパーは、ハリウッドの化粧落としでした。それが当然のことながら、声にまで及んできたのでしょう。声美人という言葉が、女性誌などに使われるようにもなりました。
日本では、声の力への意識というのは随分と遅く、ヴォイストレーニングなどもまだ一般化までは至っていません。政治家や経営者、講演者といったVIPには必ず、ヴォイストレーナーがつき、声や話し方をレクチャーする国も少なくないというのに。
しかし、話し方、マナーとともに、声のメイキャップは、これからの必修のたしなみでしょう。
〇声優人気の先
さて、モデルにも、手だけ足だけを専門にする人(手タレ、足タレ)がいるのと同じで、声だけのモデルという人がいます。それこそが、もう大人気のヴォイスアクター、声優さんです。
声優さんは相変わらず人気が高いです。アナウンサーもモデルさんも、女優やタレントに転身して、自分の声や言葉でしゃべり出す人が多くなりました。好んで声優役をやります。声は、自分の個性の表現だからです。
誰もが自分の言葉でしゃべる、自分の声でしゃべりたいのでしょう。
私もパーティなどで、笑顔もファッションセンスも素敵な人を紹介してもらうことがあります。しかし次の瞬間、その声を聞いてがっかりすることがあります。指先、足先にまで、気を回しても、どうも声には、まだまだ無防備のようです。だからこそ、今、声を磨けばもっとも効果的なとき、ともいえます。声に対しての気配りが大きな差となる時代なのです。
そして先の読める声優さんは、今は、きれいな声、明瞭な発音よりもどんな仕事もできるように個性的な声、タフな応用力をつけるのにいらっしゃっています。
〇声を出せば力が働く
声を出すと、大きな力が働くこと、これは、皆さんも経験があるでしょう。祭でも土木工事でも、スポーツでも、「エイヤー」とか「オー」とか「メーン」とか、掛け声をかけます。重量上げ、ハンマー投げ、テニスのサーブ、バレーのアタック……、大きな声がとんでいますね。
力は、息を止め、吐くときに働きます。ためた息と力を声とともに解放する、そのとき気合いと声とは、しっかりと力と結びついています。
試合まえには、円陣をくんで、「エイエイオー」と、声をあわせます。これは、選手たちの呼吸を合わせ、心を一つにします。練習中のかけ声も同じです。
走るときの、「ファイト、ファイト」は、仲間とともに自分を励ますのです。
もっと大きな声を出すのは、祭りのときです。ミコシをかつぐときなどの「ワッショイ ワッショイ」と。そう、声は他の人と力を合わせ、より大きな力を働かせるのに役立つのです。
〇失われつつある声出し
朝、出社して会社の社是を読んだり、朝礼したり、3分間スピーチ、あいさつのトレーニングをしているところは、たくさんあります。これも、どうしてなのか、わかりますね。
このスピーチも、今や、もう1分間の時代です。時代とともに、話す速さもテンポアップしています。だからこそ、ますます声をしっかりと使う必要があるのです。
かつて日本の教育は、儒教の影響下、寺小屋などでは音読が行なわれていました。教育も、国歌や校歌を歌い、点呼で声を出し、大きな声で返事をしていた頃は、もっとしっかりと精神が安定していたような気がします。
最近、日本語を音読することがブームになっているようです。研究所にもよく講師の声がかかります。ただ正しく読むだけでなく声の力をつけるのが目的です。とても嬉しいことに思います。
〇声は、命につながる
声を聞いて、医者は健康状態を知ります。これが問診です。
人間は、声が出なくなり、息が弱くなると、身体も危なくなります。息は生きることにつながっています。息が弱くなると、声も弱くなる。弱々しい声はタブーです。
もし、そういう声を会話で使ったなら、なんとなく信頼がおけないというイメージを抱かせるでしょう。時によっては不吉な予感さえ抱かせます。子供が嘘をつくときも、語気がないので、わかります。声力がすべてを決めているのです。
親しい人からの電話の声に元気のないとき、何か悪いことがあったのでは?と疑うでしょう。親は子供を、夫婦はパートナーを、声の状態からいろいろと推測し判断します。
声は健康や体調のバロメーターなのです。
〇声はパワーだ
動物は、声を威嚇するのに使います。人間も同じです。声の迫力は、人を動かします。人間関係も、声に心酔する人、させる人のかけひきといえます。
それゆえ、歴史では、この声の力が独裁者に利用されることも少なくありませんでした。ヒトラー、ゲッペルス、ムッソリーニと、これらの弁舌たくみな独裁者に限らず、ローマ時代、いえもっと以前から、演説の声の調子が多くの人間を動かしてきました。名演説でその名を残した政治家も、たくさんいます。多くの人を救った人もいます。どれも、声が人間に働きかける力の大きさを表わしているのです。