第49号 「プロとトレーナー」
○トレーナーは相性より使い方
ヴォイストレーニングは、どこかで目的を決め、その後も絞り込んでいくことです。それによって、トレーナーをどう選ぶか、トレーナーに何を望むかも違ってきます。
私がみるに、トレーナーとの相性よりは、方法とのミスマッチ、内容について目的にそっていないのが問題です。それでは、目的とする効果はのぞめません。トレーナーを変えるのでなく、トレーナーの使い方を変えるのです。
たとえば、ヴォーカルの場合、
目的……プロになること
効果……声域・声量がつくこと、歌がうまくなる
これをよく考えてください。果たして、この目的に対して、目指すべき効果がこれでよいのでしょうか。
はっきりいうと、この効果は目的にさほど必要なことではありません。これが初心者のうちは、わからないことです。
あなたが初心者なら、歌も声もわからなくてもよいでしょう。しかし、声や歌はわからなくとも、自分の目的の設定を間違えてはいけません。そのためにトレーナーがいるのです。多くのケースでは、トレーナーが気付かずに間違わせてしまっているので、始末が悪いのです。
○トレーナーが勘違いしやすい理由
トレーナーをやらせてみると、トレーナーとしては育ちます。それを歌の力がついたと勘違いする人もいます。その実績で歌手としても通用すると思うのです。
トレーナーに歌を習いにくる人は、大体はそのトレーナーより歌が下手な人です。ですから、少しでも歌った経験のある人なら、先生として通じてしまうのです。
日本では、1.長くやっている 2.海外でやった 3.偉い人についた 4.知名度がある
そのくらいで、お客さんは、わからなくなるのです。肩書きで評価します。
1.学会への所属 2.他の権威の利用(特にアメリカとか海外の人や学校) 3.有名人の名の利用
権威をたてに仕事を得ている人は、問題外です。
英語がぺらぺらにしゃべれる外国人が、日本人にとってすぐれた教師とは限りません。一流のスポーツ選手が、高校生に教えるのにもっとも適任とは限りません。カウンセラーなら精神面などに高次のアドバイスはできるでしょう。歌を教える場合、ヴォーカルアドバイザーと名のる方がよいと思います。
○プロがつくトレーナーを選ぶ
本当のトレーナーとしての力は、歌や伴奏や編曲の能力ではありません。その技量は、自分よりうまい人、すぐれた人、プロとして長年やってきた人に通用しなくてはおかしいのです。イチローや松井のトレーナーは、彼らに試合の打撃成績で勝ることはありません。しかし、彼らが頼る的確なアドバイスができます。
アマチュア相手の経験しかないトレーナーは、お金をとっていても、プロのトレーナーとはいい難いのです。プロに頼りにされてこそ、専門職は成り立ちます。これは、ヴォーカリストでも同じです。
○トレーナーにつくということ
ヴォーカルに譜面を読む力はいりません。人並みにできなければ、そこから入るのもよいでしょう。
役者などと違い、10代で芽が出なければ、かなり遅いのです。そこまで生きていて他人よりうまくできないなら、よほどの奇跡を起こさなければ、ヴォーカルとして食べていくことは不可能と、知ることです。
これは、これから、やろうとする人を絶望させるために述べているのではありません。他の分野なら絶望的なことを、学校へ行ったり、トレーナーについたくらいでプロになれるなど、甘くみるなということです。
つまり、奇跡を起こすトレーニングを目指さなくてはいけないのです。
たとえば、
・2~5オクターブ出る
・ハイトーンを出せる
これらのことは、歌の上達やプロへの道に関係ありません。よほど気をつけないと、欠点をフォロー(ごまかす)だけになりかねません。まして、それを第一に掲げるトレーナーはどうなのでしょう。
・誰でも一流に育てます。
・やさしく指導します。
・楽しみながら上達しましょう。
というようなセールストークも、本物志向の人なら度外視すべきでしょう。
「1.ヴォイストレーナーの選び方」カテゴリの記事
- ブログ移動のお知らせ(2023.07.01)
- 「歌の判断について」(2021.10.30)
- 「声道」(2021.10.20)
- 「メニュ」(2021.10.10)
- 「感覚について」(2021.09.30)