第52号 「判断を保留する」
○やりやすく合っている方法がよいのか
今、やりやすいやり方が必ずしも長期的にみてよいとはいえません。そこを優先すると、すぐに効果がでるやり方だけになりかねないからです。すぐに効果をだすのは、本人のモチベートをあげ、トレーナーや研究所を信頼してもらうにはよいのですが、トレーニングの本質的な目標とは一致しないことが多いのです。
すぐ実感できて、やりやすい方法を否定しているのではありません。それが最初のステップとなるなら望ましいことです。初心者ならそれがよいとも思います。
ただ、そうでない方法や自分と合いにくいと思うやり方をとるトレーナーの能力を否定するのは、浅はかなことです。今まで自分の感覚だけでやってみたり、別のトレーナーについて学んできたというのなら、なおさらです。何らかの目的、あるいは問題解決のために、ここにいらしたのであれば、一度自分の判断を保留しては難しいからこそ、すべて活かす方へ努めてほしいのです。それでも自分の判断は働きます。だから、急がないで欲しいのです。
すると、どのトレーナーの方法が正しいとか間違っているとかいうことでなく、すべては自分への気づきのヒントとして、あることがわかります。
○客観視の徹底のために
私はホームページやブログや会報に、トレーナーの名や生徒の名を入れません。表現の世界ではID(その人であること)が大切ですが、研究所というのは自分研究の場です。
一人のトレーナーのいくつもの方法も一人の生徒の学び方も、年月やその人の名や属性でくくらずに、すべて均質に並べておくことにしています。できるだけ、ご自分に役立つ材料にして欲しいからです。何ら価値観(独断偏見になってしまいがち)を入れないで、そのままにみて欲しいのです。歌も、歌手名や曲名、歌詞も、余計な知識=先入観なしに、好き嫌いを抜いて聞いてほしいといっているのも同じことです。
〇ノウハウより基準と材料
私が、「ノウハウ(やり方)とメニュ」というニュアンスを、どちらかというと否定して、「基準と材料」という言葉を使ってきたのは、ノウハウ、メニュ集めになるのをやめさせたいからです。研究者やトレーナーの立場なら、確立したノウハウやメニュも必要でしょう。
トレーナーには、自分自身の勉強で、他に教わったり本で読んだメニュを自分に試してよかったから、初心者に使う人もいます。それは、けっこう乱暴なことでしょう。
“熱心な”トレーナーですが、トレーナーと初心者とは違うのです。
一つの声さえまともに出せない人にビブラートのつけ方やミックスヴォイス、ファルセットなど、○○ヴォイスなど何種類もの発声をやらせてどうなるのでしょう。
少なくとも私のところには、そういうトレーナーはいません。
すべての材料を自ら、主体的に判断するのでなく、判断の基準がアップするように使ってください。すべてを使う必要はありません。たった一つでも使えるものを最大に深めて使えるようになっていくことが基本です。私自身は、歌唱や声楽は、声を高度に応用されたものと位置付けています。
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