第53号 「私的トレーニング論」
○声が悪いことの解消策
一般の人は、「声がよくないので直したい」という理由でよくいらっしゃいます。しかし、あまり心配しないことです。その原因は、
1.まわりに声に厳しい人がいる
2.コンプレックスが声に向いている
3.自意識過剰
などが、多いからです。声の心配症、ヴォイトレ依存症にならないようにしましょう。声の悩みは、誰でもあります。それを一つずつ解決していくことで、必ずよくなるものです。
○本当に身につけるということ
「前のところではまったくうまくいかなかった。ここはわかりやすい。いろんなことが身についた」といってくださる人がいます。その喜びに水をさすつもりはありませんが、「身についたということは、世の中に通用しているということでみないと、自分自身で、誤解してしまいます」と言うことがあります。そして、「前にあなたがいたところでも身についた人もいるし、ここでも身につかなかった人もいます。」と加えます。結果というのは、少なくともまわりの評価が得られていくこと、そして、本当はプロの人の評価なのです。
トレーニングは、相性もタイミングもあれば、その人自身の取り組みや努力にも大きくよるからです。それに「一通り学んだら、『ここでは身につかない』と次のところへ移り、そこでまた同じことを言うかも。」と思うこともあります。
私は、それを悪いこととは思いません。身につかないというのは、本当にだめなときもありますが、あなたのレベルがあがって、高いレベルや、より絞られた目的のレッスンを求めるようになると、必ずそう思うようになるからです。そうしてこそ、また多くを学べるし、その必要に応じて学んでいけばよいからです。
私は、プロの活動を30年以上やってきている人までレッスンしています。彼らは私を使えているから、続けているのでしょう。それだけのことなのです。反対に私と合わないが、ここのトレーナーと合うという人もいて、おかしいことではないのです。
〇プロの考え方
本当に世の中でやれている人は、身につくとか身につかないなどというようなことでは、語らないのです。つまり、自らやるからやれているのです。
そこに自分が足らないものに気づき、そこを補うために、その才能のある人を使うのです。目的がはっきりしているから、人を選ぶにも間違えません。だからプロになれたし、プロであり続けられるのです。こういう考え方をもつことが、身につけていくのには大切なことなのです。
トレーニングが目的のうちは、身につくとか、つかないとかで、バタバタしてしまうものです。世の中でやっている人は、身についていようが身についていなかろうが、やっています。
充分に身についていないことを知っているから、学び続けています。というよりも、そこでやり続けられている人こそが、身につけていくということなのです。
そういう人は、何も言いません。そんなことは問わないです。問うても仕方のないことだからです。やっている、やれている、現実がすべてです。
長くやっていくために、自らトレーニングするのです。ノウハウとかマニュアルをあれこれ言っているのは、人生の浪費です。
○どう才能を見出すか
どうすれば、ヴォーカリストを教えられるか、という点で、ポピュラーというのは、本当は形がないから、教えることが成り立ちにくいのです。クラシック、ジャズ、ラテン、シャンソンなどなら、表向きは経験を積んだ人が何とかスタンダードを伝える形でのレッスンとすればやりやすいでしょう。
教えるとなれば、ヴォーカリストとしての理想像や上達した姿、目標とする歌というのを共有しなくてはいけません。
トレーニングは、何に対して効果をあげるのかを都度、明確にしなくてはいけません。成果をあげることを目的にするものだからです。そのために分担もし、方法論もとり入れます。そうでないと、相手に応じて具体的に対処しにくく、プロセスもあいまいになりやすいからです。
これには、大変な努力を必要とします。初心者に対し、その人がヴォーカリストとして通用する価値の部分を認めて、育てていくとしたら、教える人に、相当、高度なものが要求されます。
発声と歌(これは歌い方でなく、表現としてのオリジナリティ)と、両方みるのも大変です。発声以外には関わらないというトレーナーもいます。すると、声楽の発声が第一の基準になりかねません。それでは全くもって足りません。大半の人に足りないのは、自立心、自分の音楽、歌の世界観というものです。
○トレーニングの期間について
私は、一般的レベルで声を使うのに、毎日トレーニングしても最低二年はかかるという立場を明確にしています。これでも早すぎると思っています。三ヵ月や半年でできるヴォイストレーニングは、調整にすぎないと思っています。そのくらいの期間で、何かが身につき、しかも他人に働きかけられるなどということは、考えるだけでもおかしなことでしょう。それなりに確立された他のどんな分野でもありえないことでしょう。
役者さんや学校の先生など声を使う職業に関しても、最近は声をうまく出すことができない人も多くなりました。現場では多くの問題が引き起こされています。プロとして声を使うには、それなりにある期間に鍛錬を継続することが大切です。そこで安定もし、再現もできるようになり、+αに声を応用して活かせる基本ができていくのです。
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