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第56号 「レッスンのレベル」

○レッスンは、とりくみのためでない

 

 それで何に気づくか、どういうイメージが思い浮かぶか、そして、自分が他のいろんなこととどう結びつけられるか、そのきっかけを与えるのが、レッスンです。

 レッスンのレベルは、メニュやノウハウでなく、受け手の能力、感受性によります。トレーナーのことばは、そのためのきっかけですが、正直なところ、必要悪です。

 

 たとえば、今日の課題をみんなで一緒に読んでみるなどというのは、それぞれでやった方がよくできることです。日本人なら合わせることに気をつかい、できない人は慣れるのによいでしょうが、全体の平均レベルにそろえてしまいます。

 私は、研究所ではそこでしかできないことをやるようにしています。自分でできることは自分でやることです。

 自分でやるべきことをこちらがやってあげると、もっと大切なものを学ぶ機会を失うことになります。レッスンのレベルが、とりくんだ上でのレッスンでなく、とりくみのためのレッスンとなります。

 

 それも必要と思ってもいますが、一度そこにレベルを下げると、戻りません。ずっと自主性、主体性、ポジティブに読み込む力を抑えてしまいます。しかも、教えてもらうのがレッスンだと思わせてしまう。これは最大の誤りです。しかし、そういうトレーナーやレッスンが、日本では求められる、そういうメンタリティもわかってきました☆☆☆。

 

○わかりやすく教えるトレーナーではだめな理由

 

 トレーナーは、わからないよりはわかるように教えます。わからなくてやめて来なくなるよりは続けさせるようにします。あたりまえですがやめたら先がないのでそうならざるをえません。つまり、トレーナーの仕事は、私の考える理想よりも現実重視、将来の可能性よりも現在の相手の求めるところに応じなくてはならないから、そうなります。

 それは、本当に伸びるにはよくないのです。そういうトレーナーに限って、相手のことを考え、手とり足とり教えていると思い込んでいくのです。その自己満足で、人は育ちません。無能な子分がたくさんできるのです。日本では量=人数を人望のようにあがめるから、両者とも何も疑問をもたなくなるのです。「何万人、何千人教えた」などを誇る人がどれだけいるのでしょうか。毎年300400人ほどきていた研究所でも私が教えたといえるのは十数名です。

 

 そういう意味で職務に忠実で有能なトレーナーは、お客としてのレッスン受講生に満足してもらうことができます。しかし、だからこそ、実力をつけられない、人を育てられないとなります。

 教え方がていねいで、評判のよい歌い手に習って伸びないのは、そういうことです。

 

○忍耐をショートカットしない

 

 自分は苦労したから楽させたい。だから、やり方、ノウハウやマニュアルを与えて、ショートカットさせようとします。その苦労を醍醐味として伝えません。真剣ゆえに楽しめてくるものを隠します。一人で一途に、自分の声や歌の研究に没頭する、その忍耐、努力こそ、ステージの華やかさの代償です。忍耐そのものに至福を求めるのは、大きな過ちになりかねませんが。ともかく熱意と金銭で、あたかも技術が買えるかのように思わせるのはよくありません。

 

 金も時間も必要条件ではありません。時間は才能の不足を一部補ってくれるし、お金は時間の不足を補う面はありますが、要はやる気です。

 厳しいレベルでのトレーニングは本来、1パーセントの人に10年経て本当の効果をあげる。それを10パーセントの人に5年でもたらせられる、そのためにやるようなものです。そうであったとしたら、本質を誤って、みせることとなります。もちろん大半の人には、平均点より少し上になるという効果をもって、上達といえますがそのような低レベルの成果を問わないとします。

 

○コミュニケーションと才能

 

 ヴォーカルの場合、効果や目標そのものがあいまいなことが多いです。それが迷いのなかで無駄な日々を送ることになりやすい第一の要因です。そこで、本音を言わず、というより、トレーナーと本人が共によい関係を保つために、本質や真実を見失い、現実や事実にも目が曇っていきやすいのです。

 トレーナーとの心地よいコミュニケーションで少しずつ大切な時間が失われます。やがて自分の才能がないという理由を自覚して、誰かの応援団として人生を送るに至ります。つまり、一巡して元に戻っただけです。それは多くのトレーナーのレッスンの小体験をしたということにすぎません。

 

 そうでない人は、現実に立ち還って、活動をするでしょう。その厳しい現実のために日々のトレーニングが欠かせぬはずなのに、おかしなことです。身内のまえで歌っていれば、何か成していける錯覚のなかで、時は流れます。あこがれの人が歌で偉大になったから、自分もその歌を歌っていることでよいとするのなら、成長もそこまでです。

 

○使えないノウハウ

 

 もっとも大きな誤りとなるのは、ある程度、できた人が教えるために他人のノウハウや方法を受け売りする場合です。その人は応用できる力があるからできてしまうのです。でも、それを教えられた方は、ずっと下のレベルですから、さらに未消化で、いつまでも変わらないのです。

 長くやるに従って、ヴォイストレーニング、発声コレクターのようになりかねません☆。基本づくりをせず、応用の応用ばかりやっているから、尚さらそうなります。トレーナー自身、相手が自分の程度に、いや、その半分もできたら上出来という教え方に疑いをもたなくなってしまうのです。

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