Vol.75
○発声は声量から
ここで、発声のチェックをしましょう。
まず声は聞こえなければ用をなさないです。どんなに気配りがあって、心を込めていても、何を言ったのか聞き取れなければ、意味がありません。それには、最低限の声量が必要です。
確かにTPOによっては、声量をおさえた方がよいこともあります。だからといって声で言葉が全く聞こえなくては、何にもなりません。聞きづらいのも困ります。
声量のコントロールとしてテレビのヴォリュームを数値を見ながら変え、それとほぼ同じ声量の声を出してみましょう。
○声量から発音に
伝えるべきときに伝えるべきことがうまく伝わらないのは、声量の問題だけではありません。発音やテンポなどもあります。伝えることを最優先とするなら、相手のことから考えなくてはいけないのです。
1.小さすぎる
2.もぐもぐ、こもって、はっきりしない
3.早すぎて聞きとれない
4.言葉になっていない
このように、自分では伝えているつもりでも、ボソボソと聞き取れない声で話し、まわりに迷惑をかけている人は少なくありません。こと日本人同士では、聞き返すことに抵抗があり、あいまいにしていることが多いので尚さらです。
○共鳴で通る声
次に、通る声について学びます。通る声とは、共鳴のよい声です。声がうまく振動して、空気中を伝わると、遠くにも聞こえます。これが、マイクにも入りやすい声といえます。これを妨げるのは、余計な力、過度の緊張や体や顔のこわばりです。
そこで、次の手順を踏みます。
1.リラックスする……気持ちをやわらかくする
2.テンションをあげる……伝える意志をもつこと
3.クリアに心がける………はっきりと声を前に出す
4.ブレスをしっかりする…………深い呼吸で支える
こうして自分の声、自分の声をとりまく状況が、少しずつわかってきます。そこから、声そのものの問題に入ります。
本来のトレーニングでは、共鳴するための芯のあるこえを目指します。
○声の明瞭度チェックをしよう
発声、発音に踏み込んで、実践的なチェックやトレーニングをしましょう。
声での発音の明瞭度をチェックするために、電話の交換手のテストに用いるロガトム表というのを使ってみましょう。録音機器を用意して、各語を四秒ずつかけて、読んでみます。それを書きとって、どれだけ当たっているのかチェックします。
これは、実際には、特定の人が読んだのを被験者が書きとり、聞くほうの不明瞭度を計るために使われます。しかし、このように発音のチェックにも使ってみるのです。
1.ペボ ビュギ チベ マヤ ビョバ
2.ミャド ナル ユサ ムニャ トヒ
3.アジョ リョザ フゲ ニュゼ カソ
4.イチョ ジュミ ヨケ ハロ メヌ
5.ギョヘ テモ オリュ セツ キタ
6.ノピ シュピャ ゾショ パビ ウラ
7.ニョワ ニチョ ヒャレ ポデ ゴシ
8.ヒュギャ クダ キョシャ フヒョ ピョリ
9.ジャネ エズ ギュホ ガリャ ミュジ
10.チャグ ビャコ ブキャ キュピュ スミョ
○母音発声トレーニングと語尾をはっきりさせる
「ア」 アーいい天気だ
「イ」 イーッだ イッヤッダッ
「ウ」 ウー マンボッ
「エ」 エーそうだったんですか
「オ」 オー ワンダフル
語尾をしっかりと切りましょう。
パッと切るにも「っ」がついて演説調になるのはよくありません。あまり伸ばしてしまうのも、よくありません。
半疑問 クエスチョン形 尻上がりイントネーションは使わないようにする。
○なぜ人前で話せないのか
声を出すというのは、決して特別のことではありません。少なくとも、誰かと暮らしたり、何らかの仕事に携わっていたら、一日たりとも声を出さない日、誰とも話さない日はないでしょう。そこで家族や友人、職場の人と話すのに、いちいち緊張したりあがったりする人はいないでしょう。少々、言葉が聞こえにくくても声がうまく出なくても、気にしていないでしょう。
しかし、初対面の人や目上の人、自分にとって重要な人や有名な人と話すときには、誰でもどぎまぎしたりあがったりするものです。相手のことが気になると、ますますうまくいかなくなります。しかし、相手と親しくなれたら、そういうこともなくなります。なぜでしょうか。
このことから、声がうまく出ないのは、声や話し方そのものよりも、むしろ自分の立場や雰囲気といった、シチュエーションの問題の方が大きいということがわかります。
人前で話すパブリックなスピーキングにおいても、フレンドリーで自然な状態がキープできれば、かなり楽に楽しくなるはずです。
つまり、大半は、話すことの問題、ではなく、違う人と違う場に立って何かすることに対しての経験不足です。慣れていないから、緊張し、うまくいかなくなるのです。
○日頃の力が発揮できれば、半分は解決
もう一つは日本語をパブリックに話すということです。それを平常心をもって場に立つということと同時に求められるからです。
私たち日本人のほとんどは、パブリックなスピーキングのトレーニングをしたことがありません。これが声にとって大変な負担になるのです。
カラオケであれば、全くあがらない人でも、スピーチで話すと言葉がしどろもどろになったり、声がうわずったりすることが少なくありません。意識が過剰となり、とても不自然な状態に陥ってしまうのです。
そこで、話し方教室でのトレーニングなどでは、話の内容そのものよりも人前に立って慣れる実習を重視しているようです。日頃、リラックスしているときの力を普通に発揮できたら、ほとんどの問題は解決するというわけです。幼いときから使っている言葉なら、自然に話すレベルまでは、すでに誰もが到達しているのですから。
しかし、人前では友だちに話すように話しても、そのまま通用するものではありません。ここで、問題が起こるのです。私たち日本人は身内意識で、つまり、よく知っている人、同じところで一緒にいる人といった内の側の人としか話してきていないため、見知らぬ人、はじめての人に話す術や使う言葉を、うまく使えないのです。 これは、パブリックスピーキングの経験不足が、根本的な原因なのです。まずは、それを知ることです。
○声は生まれつきのものなのか
あなたの今、発している声には、生まれつきのものと生まれたあとのものと、両方の要素が含まれます。
人の顔でさえ、ある程度の年齢になれば責任をもたなくてはいけないといわれます。その人の生きてきた道、考え方や行動や人となりが、顔に出るからです。まして、声は、機能として毎日、使わない日はないのです。しかも、自由に変えられるのですから、もっとあなたの責任は大きいといえましょう。
声帯という楽器は、生まれたときには、さして差がありません。オギャーというアとオの間の声は、全世界共通で、しかもラ(440Hzくらい)の高さといわれています。これは、オーケストラの合わせる基音(オーボエ)と同じです。
しかし、生まれてからの環境によって、声は少しずつ変化します。言葉を習得するプロセスで、配線がなされていくからです。そして、第二次性徴期で大きく変わります。その後も声は変化し続け、20代でようやく落ち着きます。そのあとも、年齢や環境によって、まだまだ変わります。
○声の使い分け
声は職業によっても変わるくらいですから、トレーニングによって、かなり変えることもできるということです。
使い方によっては、いろんな声質で声を演じ分けることも可能となります。
歌手であれば、2オクターブにわたって、声で表現します。もちろん、歌声と全く違う声を出すこともできます。
どちらにしろ、声は生まれつきのものではないし、変えられないものではありません。
顔も生まれつきのもののようでも、化粧や髪型、ファッションで大きく変わります。整形をすれば、別人のようにもなります。声も声帯を手術して、変えることができます。すでに治療としては、行なわれています。ただ、それは原則としては喉の病気や特殊な場合ですから省きます。
声は、声帯そのものを他人にさらすわけではありません。その使い方、出てきた音声で判断されるのです。つまり、トレーニングによって、少しずつよくしていく、そして千変万化に使い分けることが可能となるのです。
○自分の声を変えてみる
鏡を見ながらやってみましょう。
1.普通の声
2.笑い声
3.明るい、はきはきした声
4.暗く沈んだ声
日常生活のなかで、声がどのように変化しているかを意識してみましょう。
○話す内容を考えることと話すトレーニングを分ける
声の良し悪しの印象は、単に声そのものや話す内容だけで決まるのではありません。伝える必要性を話し手がどの程度、意識しているかに負うところが大きいのです。たとえ、子供でも、本当に心から話したいこと、訴えたいことは、とてもうまく声にして伝えることができるものです。それが、親や先生だけでなく、多くの人の心を、強く動かすこともあります。
ところが、そういう子供でも、教室で教師がスピーチを強いたら、しどろもどろになります。「一分間、好きに話してごらん」と言われても、声をスムーズに出すことは難しいでしょう。伝える必要がなく、話す意志が出てこないと、声もうまく定まりようがないのです。
自分ではっきりと捉えていないことを無理に話そうとすると、うまくいきません。これは、文章を書くのでも同じです。知らないことはうまく書けないし、話せません。つまり、知らないことや伝えたくないことはうまく話せるものではありません。ですから、上達のコツは、話の内容を考えることと、話すトレーニング、そして、それを分けることです。
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