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2019年7月

第69号 「イタリア語とカンツォーネ、イタリア歌曲を使う」

○イタリア語使用の意味

 

 日本語はベースですがその他に、英語よりもイタリア語を発声に使いたいと思ったのには、いろんな理由があります。第一に日本語よりも発声に使いやすい、特に日本語でのトレーニングで行きづまった人には効果があります。第二に意味のわからない、これがとても好ましいのです。

 音声を楽器レベルで使おうとするのがブレスヴォイストレーニングです。歌詞やストーリーにあまりに重点をおくと、音色とフレーズのデッサンという音楽的奏法への関心が失われます。ただでさえ、日本人は詞、ことばの方に傾倒しやすいのです。そのうえ、欧米から音楽が輸入され、そのコピーを身上としてきた経緯もあります。つまり、歌では音色での表現があまりにも問われなかったのです。

 

○カンツォーネ歌唱の意味

 

 私がレッスンに取り入れたのは、大曲(声域や声量において、素人離れした歌唱力を要するもの)でした。コンコーネ50といった発声教本とともに、イタリア語歌曲集、さらにナポリ民謡、カンツォーネでした。その後、声の音色やリズムとしてシャンソン、ファド、ラテン曲の使用へとつながります。

 日常レベルを超えて、2オクターブを全身からの声で歌い上げるところに、プロとしての体やのどの条件をもってくるのが、トレーニングで鍛える声のあり方として、わかりやすかったからです。

 

○音大生の歌唱にみる感覚と体づくり

 

 日本の音楽大学は、日本の近代的歌唱の入り口でした。音大生は、体や感覚の条件を国際レベルに変える努力をして、発声をマスターしていきます。私にとっては、よき実験台として存在していたのです。

彼らにも日本語での歌唱は難しく、イタリア語の方が楽に、声が声域、声量ともとれるというのですから、そこに声づくりのベースをおくのも一理あるのです。

 日本人の一流のオペラ歌手は、日本語での歌唱を原語よりも苦手としています。ヨーロッパの現地では、よく声が響くのに、湿潤な日本では、のどの調子を壊しやすいのです。このあたりは、木製楽器の管理の難しさと似ています。

 

○イタリア歌曲の歌唱のメリット

 

 音声、楽器演奏面からアプローチするのなら、イタリア歌曲の歌唱は、次の面で導入として最適です。

1.日本人の感覚を切れる

2.日本人の体、呼吸、声、発音を切れる

3.西欧音楽の歌唱にストレートに入れる

4.クラシック、声楽の方法がそのまま使える

5.全世界で、教育の成果あげている

カンツォーネになると、

1.ポップスの感覚(メロディ、リズム、コード、進行展開)が入る

2.オペラに比べ短く、歌のエッセンスが入っている(構成、展開、詞)

3.親しみやすく、わかりやすく、覚えやすい

4.日本語詞が比較的すぐれている(内容、歌唱のしやすさ)

5.原語同士や日本語歌唱と比較ができる(同曲異唱)

 

No.335

注文

淡々と

妙味

乗り移る

悟り

真髄

平然

微動

心の剣

真実

幻想

常人

怖い

凄い

強情

心に沁みる

道外()

忍耐

天性

手引き

口伝

地味

単調

天恵

虚心

再生

芸の型

反応

 

第68号 「新しき声道」

○今のヴォーカルのヴォイトレ法

 

 ヴォーカルの声はしだいに浅く、小さく生声になり、かつてのように、話す声、地の声でプロとわかるどころか、素人以下になりつつあります。第一の原因は、誰もが無理にハイトーンへ音域を伸ばしてきたからです。そういう要求に、すぐに対応してしまうトレーナーが増えました。そういうヴォイトレ法が主流となりました。

 今は、トレーナーがリスクを避け、のどに安全な方向にだけ導きます。それゆえ何ら声として鍛えられないのです。声のトレーニングなど、形だけで眼中にないトレーナーが多くなったのは、残念なことです。そのトレーナーの声か、その人を教えた人、その人に教わった人の声を聞くとわかります。

 

○なぜ声優、役者に使えるのか

 

 ブレスヴォイストレーニングは、役者や声優の荒っぽい大声づくりで、声を損ねて悩んでいる卵たち(やプロ)に、特に使われています。歌手では本格志向の人が中心でしょう。お笑い芸人が多くなったのは、歌手よりも地として強く、太く、インパクトのある声が求められるようになってきたためでしょう。

 

○リスク回避のための音楽的感覚の必要

 

 私は当初、声そのものを鍛えるためにブレスヴォイストレーニングを提唱していたのです。ところが、歌手なのにあまりに音楽的感覚の不足から、声を損ねる人をみました。そこで、音楽フレージング感覚を吸収できる方法をメニュに入れたのです。

さらに、声楽家と組むようにしたのも、安全安心配慮のためだったのかもしれません。大きく効くものは、誤用に暴走しがちだからです。

トレーナーには、次のような観点を与えています。

1.自らの声やその成長プロセスをすべて理想としないこと

2.違うのどやタイプに対しての方法の限界を知ること、他の方法にも可能性を探ること

3.どんな方法であれ、できることを深めさせていくこと、判断力をつけさせること

 

○基礎のトレーニングとは

 

 表現のためのヴォイストレーニングだったのですが、ヴォイストレーニングそのものを目的とする人が多くなってきました。本当にそれでよいのかと思うこともありますが、一方で、それほどすばらしいこともないと考えることもあります。声は何かを表現するツール、歌やせりふの基礎としてきました。しかし声そのものを目的として簡潔させるのもありでしょう。私は声道として掲げることにしました。

 

6つの違い

 

 基礎トレーニングとして使うのなら、さまざまな目的、レベル、プロセスを踏まえて、考えていかなくてはなりません。私のところにいらっしゃる方でも、いろんな違いがあります。少なくとも1~5について考える必要があります。

1.体、のどの違い、民族の違い

2.育ち、成長の違い、時代の違い

3.言語、発声の違い、母語、リズムの違い

4.日常レベルの声の違い

5.歌唱での声の使い方、優先度の違い

6.音響(リバーヴ、マイク、会場、レコーディング)環境の違い

No.335

四諦(苦楽滅道)

求めるから苦行

土壇場、正念場と思えるか

何かをつかんで進んでいくこと

一切皆苦、思い通りにならない

権力欲も美顔欲も他人に依存していること

心と体

(意識と脳)

唯識説

No.335

Jポップっぽさ

 

Jポップの発祥は、およそ1988年から、1990年代後半から2000年初頭がピークといわれます。

その特徴は、ことばを重視しているのですが、歌謡曲のように詞としての世界よりはリズムやテンポも加味したものでしょう。それゆえ、ラップに近づいていったのでしょう。

Jポップっぽい文」というのがあります。キラキラネームではないのですが「永遠」を「とわ」と読んでいた延長線上に変化していったようです。「未来」を「とわ」と呼んだりするわけです。そこは、けっこう幼い、雑、稚拙、単純、中学生っぽい感じという印象を受けます。

ヒットしたり売れたりするのは、今の若い人の心を捉えてきたからですから、そこに今の若者の感性が読めます。

キーワードとしては、自分らしさ、ありのまま、傷つく、存在、孤独、世界、空、絶壁、希望などでしょうか。

 

○浪花節と浪曲

 

1998年阿久悠は、「ソングはない、ことばがない」と言いました。

短調、叙情、唸り、説教、浄瑠璃。浪曲が消えてきます。

浪花節() 身もだえの話 春野百合子

一に声、二に節、三に啖呵といわれたのが浪曲です。

親鸞の聞法 (もんぽう)、和讃 (やわらげほめ)、ざんげ

瞽女 (ごぜ )、三味線の世界でした。

 

○オンチとプロ

 

グレン・グールドとジョン・コルトレーンの音痴

コンマ何秒 タイミングタッチ

音をつかむピアニストがつっこんでいく鍵盤

異なる分野のコピーをしてみる

拍は「タ」、弱拍や休符は「ツ」で口で言う

クローズド・ボイシング(1オクターブ内にハーモニ)

集中力と気力

第67号 「発声の最大の問題」

○レッスンの日数

 

 どのくらいのレッスンが必要なのかと聞かれることがよくあります。人と目的、レベルによるので即答できないのですが、「一般的に」考えてみて、最初は週2回、月8回くらいが、身体運動を伴うものに関しては最低限でしょう。できたら2日に一度というのが理想でしょう。身につけるということなら、最初の2年間は、とても大切です。

 

○出せているから難しい発声

 

 発声というのは、日常化しているがために、スポーツや楽器の練習などと簡単に比較できないのです。トランペット以上に、ひと声を出すのが難しい。出すということでは、すでに出せているために、トランペットよりも難しいのです。トランペットはまともに音が出てから、自分の音を導くのに大変ですが、声はいろんな加工があまりに自由なために、判断が難しいのです。

 

○発声の始点と終点☆

 

 声における最大の問題は、今のスタンス(立ち位置)を知ることや目的(自分にとっての理想の声)をイメージすることです。そして、始点と終点が共にとてもあいまいなことにあります。

 そこに第三者のトレーナーが、その両方を定めきれない、というのは、トレーナーによって違うばかりか、最初から必ずしも正しくつかめるものではないからです(特に終点に関しては)。トレーナーが一方的に教えられるものではなく、共に理解し研究していくべきものです。最初から本人がわかっていることがめったにないからです。

 

○一声十年

 

 声の弱い人が人並みを越えて、それなりの声と思われるようになるには、十年以上はかかるでしょう。陶芸のろくろ一つでも、その道で人並みになるには十年、プロスポーツ選手でも、10代からおよそ十年かかります。ものごとが成立するには、十年間、およそ一万時間が最低限の目安でしょう。

 陶芸で、23日で一人で湯飲みがつくれるようになったというレベルと、プロといわれる二十年、三十年のレベルとは、簡単に比較や言及できないのです。ちなみに一万時間とは、毎日3時間で十年です。

 

○ブレスヴォイストレーニング法の確立

 

 私自身は声については、元が最低の部類でしたから、私の十年があれば、45年で才能のある人は、最低レベルには到達できると考えたのです。そこで提唱したのがブレスヴォイストレーニング法でした。

 十年以上、試してきた結果として、私自身だけでなくとも、意図的にトレーニングという負荷を課し、声を変えることが可能ということがわかりました。7割にはスムーズにいったのですが、あとの3割は(特に声帯が小さくて、高く、細い声が特徴の人)、声楽併用が有効であったという感触でした。それでそのように改革しました。

 

○ブレスヴォイストレーニング法の誤用

 

 ブレスヴォイストレーニングに対しては、23年くらい、しかも私の指導下でなく、それまがいの方法でやったけど効果がないとか、のどを痛めたなどという人もいます。このような複雑かつ、個人的に状況も条件も差が大きい問題を、単純に正誤の二極だけで考える理屈がわかりません。私の方法は、私独自のものというより、人間の言語音声習得のプロセスを後追いしています。そのようなことがあるなら、急ぎすぎか、無理強いをしたためでしょう。方法よりも判断がよくなかったということです。

 

○改訂し、改善改良しつづける

 

 私は、初期のテキストからたえず、表現に対して、声は10分の1だから、常に音への感覚を磨きつつ、トレーニングしなくてはいけない旨を繰り返し述べてきました。どの本にも、声やのどを痛めることには最大の警告を発してきました。私ほど、こういう注意をしてきたトレーナーはいないでしょう。私自身、ポリープも結節もできたことはないし、のどを痛めたこともありません。本については、研究所内外の実践から注意事項を追加して、誤解のないように改訂しつづけています。

 

第66号 「改善より変革のために」

どんな人からも学べます。まして、自分よりもやっている人なら、学べることはたくさんあります。研究所からも他の人の十倍、百倍盗っていった人もいれば、ほとんど盗れなかった人もいるかもしれません。

 多くのものを盗れる可能性のあるトレーナーやマニュアルほど、盗れる人は限られています。盗ろうとしないととらないで終わるものだからです。

 一方、やさしく丁寧に教えてくれるトレーナーやマニュアルは、できる人の半分の半分くらいの力に早く、同じようになれますが、それゆえ、そこで頭打ちとなるものです。アーティストの育成は前者、学校教育は、おちこぼれをなくすためもあり後者と考えてもよいでしょう。

 学ぶというイメージが、学校の延長にある多くの日本人には、前者のようなところで学ぶことが難しいように思えます。日本では、先生が教えるとおりにやらないと認められませんが、向こうへ行くと、「あなたの思うようにやってごらん」といわれます。そこで多くの日本人は、面くらうとはよく聞く話です。

 アートは、自由なものなのに、自ら不自由になりたがる人たちの気がしれません。そういう人は自分たち以外の才能を認められなくなるのです。このあたりは、受けてきた教育の問題も大きいですね。

 

○考えるよりも味わう

 

 楽譜を大切にするのはよいのですが、もっと大切なのがみえないのは、困ります。私が、サンプルとして聞かせると、「曲名、歌詞、楽譜、アーティスト名を教えてください」といわれます。それを知ること、覚えることが基本だと、思っているのですね。そのまえにきちんと全身全霊で聴くことに集中することです。効率を求めることで、その場をおろそかにしないようにしましょう。

 本当の基本はもっと基本としてみえないところにあるのです。そういうふうにしか学んでいないからこそ、そうでない学び方をして欲しいのです。何を言っているのかわからないような声、ことばのない声からもっと大切なことを学んで欲しいから、私はできるだけ何も言わないのです。

 

○インプロ

 

 以前、黒人トレーナーとワークショップを行なったことがあります。そのとき、彼は、インプロの即興劇から入りました。勉強して、歌いこなすためにステージに立つという日本では、インプロの大切さは、気づきにくいということなのでしょう。今はプロでも、カラオケを歌う人と同じように、歌をこなすだけになってきました。

 いつでも、そのまねをするのではなく、そこに自らのものを入れて返すことです。

 

○会話のレスポンス

 

 会話を考えてみましょう。ずっとうなずいているだけの相手とは、よい関係は続きません。同じことが繰り返されると心地よくなっても飽きてきます。ですから、その前に「展開(転回)する」のです。しかし、繰り返しが短すぎたり、少なすぎると、基調がつかめず、展開部の意味が強まらず、あいまいになります。リピートと変化のバランスをよく感じてみてください。もっと深くリアリティをつかんでおくことです。

 

○自分を省みる☆

 

 理解できない、考えられない、感じられないと不満を抱く人がいます。自分の偏狭な考え方を認めず、他人と交わるのは、自分の存在をも揺るがせかねないという人がいます。ありのままの自分を認められない人には、不快かつ、我慢できないこともあるでしょう。偏狭かどうかも誰がどう決めるのか、ということでしょう。

 結論からいうと、もっとすぐれたレベルになった自分(そうではないから、そこからくる直感)から判断せざるをえないのです。要は、イマジネーションなのです。そこにトレーナーのレッスンをセットする必要があるのです。

 具体的手腕をトレーナーに問いたいのはわかります。しかし、本当は自分の可能性へのアプローチを示してもらうのが、もっともレベルの高いトレーナーの使い方です。

Vol.76

○好きな声と使える声とは違う

 

 声をよりよく使えるためには、自分も含め、いくつかの分析が必要です。声の使われる状況や目的(求める効果)をつかむことが大切です。なぜなら、服装などと同じく、声も使われる状況によって、求められるものが違うからです。

 たとえば、看護士さんと魚市場のセリのおじさんに求められる声というのは、違うでしょう。あなたがスポーツの応援で声をあげるときと、病人も見舞うときも違いますね。

 声を演じ分けているのが、ヴォイスアクター、声優さんです。しかし、彼らもムリな声やアニメ声で声を痛めることがあります。それは不自然な音声で話し続けるからです。

 自分自身の声をうまく使うには、発声体である自分のことから、知らなくてはいけません。

 ソプラノの人がアルトをやったり、バスの人がテノールをやるのは、無理があります。

 好きな声と使いやすい声とは違うということです。それらと求められる声も違うので難しいのです。もちろん、自分の声はどうあれ、自分の好みの声というのを明らかにするのは、大切なことです。

1.あなたの好きな声とは

2.その理由は、どうしてでしょうか

3.その声に似ている人は

4.自分の声に似ている人は

5.自分の声のなかで好きな声と嫌いな声は

6.それは、どういうときに使っていますか

 

○一声で相手の心を捉える

 

 実際のところ、聞き手は、あなたの最初の一声で、話し手としての実力や慣れといったものを瞬時に判断しています。第一声だけでほぼ、その人の声の印象からの信頼度を定めているといってもよいでしょう。見た目ばかりが気にされていますが、声の第一印象も大切なのです。

 トータルのイメージも声の印象も影響します。それぞれ、自分でチェックしましょう。そののち他の人にチェックしてもらうとよいでしょう。

(自己チェック)    (他の人のチェック)

1.服装

2.態度

3.表情

4.話し方

5.声のトーン

 

 話はすべて聞いてからでなく、出だしでのひきつけで決まるといえます。そこで聞き手の態度が形成されるからです。話しだすときのイメージがよければ、それだけ、話は伝わりやすくなります。悪ければどこかでイメージを変えて挽回するしかありません。

 困ったことに、聴き手は頑強に最初に抱いたイメージをもって、その自分の思い込みを確信する方向で聞いていきます。出だしで一度、失った信頼は取り返しにくいのです。そういう状態でいくらジョークなどを言っても、場をしらけさせるだけです。

 つまり、最初の一声でアピールする能力は、是非とも欲しいところです。声があれば、第一声で相手に効くのです。

 

一声で相手を捉えるには、あらかじめ、深呼吸をしておきます。咳をしてはいけません。おもむろに、ゆっくりと少しテンションをあげて、最初の言葉を切り出しましょう。

 

○声は、その人の歴史

 

 あなた自身の声のよしあしは、生まれつき決まっていたのではありません。むしろ後天的に大きく変わってきたものです。長年の使い方の結果です。その上で状況や目的によって使い分けられることが大切です。そのために、自分の声がどうであるかを知ること、何よりも、実際にどう使っているかを自覚することです。

 多くの人は、声を無造作に使っています。無神経に粗雑に扱っているといってもよいでしょう。そのことを自覚しているかだけでも、かなりの違いとなるのです。

 日本は声の後進国です。皆がスッピンの声でいるようなものです。少し化粧のポイントを知り、効果をつけるだけで秀でるのも、それほど難しいことではありません。少なくとも、声に薄化粧くらいする神経を、すべての日本人に、もって欲しいと思っています。

 今のところ、それができているのは、声を職業とする人たちの一部と、社長さんや営業マンのように、人に働きかける必要があって声の力をおのずと意識してきた人くらいでしょうか。

 どちらにせよ、経験と勘だけが頼りで、声に対する態度や判断基準は、かなりあやふやです。それをきちんと補っていきましょう。

 

○声上手、声下手の違い

 

 声上手という人がいるのなら、それは、自分の声の使い方のポイント、タイミングを知っているということです。 

たとえば、一つの部屋に聴く人が50人いるのと、5人しかいないのでは、声の使い方は違わない方がおかしいでしょう。

50人いるときは、一番うしろの人に届くことを意識して発しましょう。そのためには、自分の声の届く距離を知っておく必要があります。そして、声の大きさや強さを調整します。さらに、焦点、フォーカス合わせ、絞り込みも必要です。

 外国人からみて、声がたいして大きくないはずの日本人ツアーが海外旅行でうるさいと言われるのは、こういった調整感覚が欠如しているからです。私も、バスや電車、土産物屋や美術館などで、日本人の大声には閉口させられます。最近は韓国や中国の人が目立つようですが。

耳の遠い人やヘッドホンをしている人がしゃべると、声は大きくなります。つまり、よく聞こえていない、聞いていないから、そうなるのです。

 

自分の声の使い方を、TPO別に意識しよう(TPOとは、Time, Place, Occasionのことです)

1.相手との距離

2.焦点

3.方向

 

○表情パフォーマンスのトレーニング

 

 日頃から手を動かし、外国人のように大げさに体を使ってしゃべる習慣をつけておくとよいでしょう。体で大きく語りかけると、声も広がり、聞きやすくなります。

 

○表情の動きをよくするために

 

  • ひびきをよくするトレーニング

 体の筋肉が硬直していては、声はうまくひびきません。顔も同じです。日頃から表情を大きく動かすトレーニングをしておきましょう。表情豊かなことが、表現力を高めるのです。

 

1.口を大きく開ける

2.あくびをする

 

1.唇を閉じて、パ・バ・マを発音します。パピプペポ・バビブベボ・マミムメモを繰り返す(これは、呼気圧の高い順です)

2.唇を閉じて、上唇と下唇を交互に前に突き出す

3.歯を合わせたまま、歯並びがすべて見えるように開き、閉じる

 

1.両頬に呼気を送り、ふくらませ、その後、両頬を吸い込む

2.頬の左右、上歯茎の上方、下歯茎の下方と4方向を部分的にふくらませる

 

1.鼻穴を両方大きく広げる

2.鼻から息を後頭部のほうへ送るように吸う

3.匂いを嗅いでいるときのように鼻を動かす

 

1.力強く眼を閉じ、開く

2.眼を左右、上下、左回り、右回りと動かす

 

眉毛

1.思いっきり眉毛をつりあげる

2.しかめっつらをして、眉毛を下げる

 

 自分で組み合わせて、オリジナルメニューをつくってみるとよいでしょう。ジェスチャーのトレーニングや、手話のトレーニングも有効です。

 

○声の効果は聞き手の状況、状態で変わる

 

 自分の声の良し悪し、使い方の良し悪しは、あなた自身の好き嫌いや良し悪しでの判断するのではありません。全て聞いている相手の主観、気持ちに委ねられます。これが自分の声の判断を自分でするのに難しいところです。声の判断は自分でなく他人によってなされるのです。

 それは、カラオケの歌とプロの歌との違いのようなものです。一人よがりでも気持ちよく声が出て、歌い終えればよいカラオケと、人に伝わり、その心を動かしてなんぼのプロの歌とは、判断の基準が全く違います。誰かがもう一度、聞きたいと思わなければ、プロの歌としての価値はないのです。しかもその評価は、聞く人がするのです。

 ある程度は、多く人の好む声や使い方が求められるでしょう。しかし、そこから、自分の前の相手、その状況、状態によって、声の使い分ける必要が出てくるのです。

これは、そんなに難しいことはありません。あなたも、上司と友人と赤ちゃん相手に、自然に望まれるように三通りの声を使い分けているはずです。

 まず、相手の状況設定をイメージします。相手が自分に求める声を汲むことが第一となります。

 たとえば、よく知らない人とのドライブで、車のステレオをスピーカーで聞くときさえ、どんな曲をどのくらい聞くのかを決めるのは、難しいでしょう。曲目だけではありません。音が大きすぎても小さすぎても、不快にさせてしまうでしょう。

 人通りのあるところで大声で女性をくどくような男性は、間違いなく嫌われるでしょう。まわりに聞かれたくない話を小さな声でできない人も、同じでしょう。まわりが騒がしいのに、小声でしか話せない人も困ります。

仲のよい人と、ビジネスの相手とでは、使う声のトーンや大きさも違ってくるでしょう。総じていうと、聞き手のTPOに、声は、従うべきなのです。そこへの気づかい、心づかいあって、声が働くものだからなのです。

 

声の状況を知る

1.まわりの音の状況(うるさい-静か)

2.相手との距離(物理的、遠い-近い)

3.相手との関係(心理的、遠い-近い)

4.話の内容(他の人に聞かれて困ること-困らないこと)

 

○毎日一題、一分間スピーチをしてみる

 

 話は、伝える内容をつくり、音声で他人に対して表現してはじめて成り立ちます。話がうまくなるには、内容づくりと表現の実践練習の2つを欠かさずやることです。

 毎朝、朝礼で、社員に三分間スピーチをさせている会社もあります。人前で自分に話をするチャンスがあるのは、幸せなことです。ただ残念なことに、多くの人は話す内容ばかり考えています。どう伝えるかという表現面から考えている人は少ないようです。どんなにおもしろい話材であっても、伝わるためにはどうすればよいのかを考え工夫しなくては伝わりません。自分で練習するときは、1分間くらいの話でも充分です。

 ここでは相手に伝えるためにやや大きめの声で、文章を見ないで言ってみるトレーニングをしましょう。正しく読むのでなく、間違ってもよいから伝わるように言うことです。

 忘れたところはその場で補って、話としてまとめればよいのです。めんどうなら、さっと読んで、頭に入ったことを中心に、話としてとりつくろってしまうのです。 そのまま読み上げるのではなく、話として伝わる声、スタイルに変える工夫をしましょう。

 私もいつも与えられたテーマや質問を考えて話す毎日を送っています。そのために、次のような作業をします。

 

1.自分がその場で感じたこと、思ったことは何か

2.その事例からとれることは何か

3.それはどう自分の行動や考えに結びついているのか

4.そこから思いあたる話はないか

5.それをどうまとめたら相手に伝わるのか

 

○正しく読むことから脱する

 

 アナウンサーと一緒のスピードで読んでみましょう。彼らのあとをつけて、おうむ返しにまねてみます。

 次に、時間をはかりましょう

1.ゆっくりと正しく読む 分

2.普通に読む  

3.もっとも早く読む   

4.充分に感情表現を込めて読む 

5.暗記してから自然に読む(暗誦)     

 

60分くらい話すには400字詰めの原稿用紙20枚くらいの分量がいります。それだけの内容を毎日用意するのは難しいことです。ですから最初は、内容をどこかから借りて、読むとよいでしょう。

 しかし、相手の心に伝えるときには、原稿を読むスタイルでは、メリハリがつきにくいです。

 原稿から目を離さないと、原稿を読むことが中心になって、伝える力を半減してしまいます。これでは、内容がよくても、聞いている人には、単調な話となります。

聞き手を見なければ、その反応を感じながら、ペース配分を変えたり、気持ちをうまく活かすこともできなくなります。

 できるだけ、見ないで話すように心がけましょう。

 何よりよくないのは、あなたの生き生きしたリアルな表情が、出なくなることです。それなら、原稿に頼らず、間違ってもよいから、全身で語るほうがよいのです。視線を上げ、メモはポイントだけをみて話すことです。

 そのとき、そこで人と出会っているという、一期一会を、その喜びをもって、何かを与えようとする新しい自分に、出会えるのです。

 原稿はあってもよいのですが、そこであなた自身が演じた話だけが、あなたの呼吸や声を通して命を吹き込まれた“話”だけが、まさに生きている話となることを知ってください。

 

○録音を再生してチェックしよう

 

 自分の話をヴォイスレコーダーや動画で録ってチェックしましょう。

プロの話も聴きましょう。動画や音声でトークショー、レクチャーなどを、積極的に見てチェックするとよいでしょう。

 

  • 話し方のトレーニング

1.ラジオ番組に相談をもちかけてみる(1分間)

2.駅から自宅への道順を説明する(1分間)

 

(参考)声や話し方のための教材

 

○落語や漫才がお勧めです。

 

古今亭志ん生「富人」「黄金飴」「火焔太鼓」「風呂敷」「氏子中」「芝浜」「鰍決」

立川談志、桂文楽、柳家小さん

爆笑王アンコール 横山やすし、西川きよし

桂米朝

 

TPOに応じる声の使い方

 

 ビジネスのシチュエーションで求められる声を知りましょう。

 

◇電話応対

 高め、明るめに入るのが、日本人同士でのビジネスコミュニケーションの基本です。ていねいにへりくだって言う気持ちを表わしましょう。

 

◇クレーム

 早口にならないように、相手のペースに合わせることです。まくしたてるような人には、ソフトにゆっくりと応対しましょう。そのテンションにつられて感情も上がってしまいます。おろおろせず、毅然とした態度を保ちつつも、声はやさしく心地よく感じさせられるように落ちついて対応しましょう。

 

◇謝る

 謝意をもった姿勢や表情が、それを伝える声を導きます。声はややこもり、低く落ち着いたトーンとなるでしょう。テンポはゆっくりめに、早口は禁物です。言葉で伝えようと思わず、声のトーンで誠意を示そうとした方がよいでしょう。

 電話などで頭を下げて謝っている人がいます。一見、意味がなさそうですが、声はそのように変化し、その気持ちはストレートに伝わるものです。頭を下げると首が曲がり、のども圧迫されます。そのときの声をイメージしましょう。

ふんぞり返っていては、謝っても誠意のそぐわない声になるでしょう。態度や姿勢は、声に表われるのです。

 

◇主張、説得する

 あまりよく思われない姿勢や態度も、慣れているうちにそうなってしまうものです。いつも、猫背でうつむいては、声も弱々しく自信なさげにみえてしまいます。あるいは、狡猾に見えることもあるでしょう。

自信をもって堂々とした声を使いましょう。胸を張った姿勢は、威厳をもつとともに、自信のある態度にみえます。そこでは張りのよい声が出てくるでしょう。その話し方や声のトーンに、相手は信頼を感じます。こうして、説得力をもってこそ、あなたの主張が通りやすくなるのです。

 

◇セールス

 セールスマンは、目的のために声を自由に応用して使えなくてはなりません。以前は高く、元気のよい声がよいセールスマンの声でした。最近では、それだけでは安っぽく、うさんくさいように聞こえなくもありません。

もちろん、商品やサービスによっても、店の格や売りものによっても、違います。なぜなら、それぞれの客が期待するものが違うからです。

 人間の社会は、さまざまな人で成り立っています。露店でイミテーションのものを買う人と、ブランド店で高級なものを買う人とは、接する店員も、そこで期待される声も違うでしょう。ですから、より細かく声のTPOを知っていくことです。現場で売れているセールスマンの声に学びましょう。

 人は、商品、サービスとともに、セールスマンを信頼したいのです。そこで元気な声、明るい声を求めているのは確かです。

 

◇面接試験

 あなたが試験官なら、どう考えますか。服装や話す内容はともかく、どういう声を好ましいと思うでしょう。熱意や誠意のみえる声では、ないでしょうか。

 どんなにはりきって自分をよくみせようとしても、声は案外と、その人の性格や能力、姿勢を実直に表してしまうものです。口べたでも、素直に朴とつに語る人には好感がもてますね。そこで何の能力が求められるかということにもよりますが。

 

◇研究発表

 人柄や気持ちよりも、正確に内容を伝えられる声が大切な場や仕事もあります。意味を伝えたいところでは、声を強調しましょう。情報量が多いと、スピードが速くなりがちなので、前もって時間を計算しておきましょう。

 相手をよく考えて、テンポや言葉を選びましょう。専門用語やわかりにくい言葉は、使わないか、ゆっくりとしゃべります。全般的に声は明瞭に聞きとれないことのないように気をつけましょう。

 

◇イベント、コンパニオンの声

 これは、明るく爽やかで高い声が多いようです。アイドルなどと同じ効果を狙ったものといえましょう。日本ではテレビやラジオでも、このカン高い声があふれています。とても上品な声とはいえないのですが、幅をきかせています。元気さを声にあふれさせることが第一でしょう。

 

「大声の桃太郎☆」 No.335

桃太郎の話が、最近では、鬼を退治せずに、大声で威嚇したら降参したということに、一部では変更されているそうです。ボコボコにしないのは、暴力反対の教育上の見地からと思われます。

殺戮→暴力→大声→話し合い、こんな順で、平和的なストーリーになっていくのでしょうか。

大声もまたパワーであり暴力というご時勢ですから、次に桃太郎は、大声を抑えて和平交渉に行くとなるか、メールを打つだけで出かけなくなるでしょう。現れるだけでも威嚇、パワハラとなりかねませんから。

日本ですから、「遺憾である」などと声明を出すだけにとどめるか、弁護士の通達になりそうですね。

そういえば、秋田のなまはげもやさしくなったと聞きました。幼い頃の体験が、トラウマになっては困るからでしょうか。

やさしさだけになることは、もっと怖いことなのに。

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発声と音声表現のQ&A

ヴォイトレレッスンの日々

2.ヴォイトレの論点