〇自分の声の弱点を知る
顔や服は、鏡を見て、おかしなところを直しますね。声はどうでしょうか。
「なぜ声の使い方が苦手なのか 」というなら、それは、声を意識して使ってこなかったためです。人に注意されることも少なく、再生で聴いたときも違和感をもったのに直したりしてこなかった、そして、そこからよくするためのトレーニングをしてこなかった、そうならば、あたりまえのことなのです。
まず、自分が今、関心のあることについて話してください。それを録音してみましょう。
次に、新聞のコラムなど、文章を読んで、同じようにしてみましょう。
どうだったでしょうか。即興で話すのは、内容を考えながら話すのですから難しいでしょう。しかし、他人の文章を読むのも、その内容が頭に入っていなければ、よほど読み慣れている人でなければ、簡単ではないはずです。
どちらがやりやすかったですか。録音を再生して聞いてみてください。たぶん、どちらもとても聞いていられないかもしれません。でもそう思うなら、正すべき基準があるので、何回かくり返すとかなりよくなります。しかし、そのまえに何が悪かったのかを自分で考えてください。思いつくかぎり書き並べてみましょう。
次に3回、繰り返し練習して、4回目に録音し、チェックしましょう。だいぶ、よくなるはずです。
でも、私たちは普段、テレビやラジオで聞いているプロの話し方に慣れているので、自分のは、あまりうまく聞こえないかもしれませんね。そういうことがわかったら、ステップⅠクリアです。
○自分の声をチェックする
次のような基準でチェックしてみましょう。
□声は、安定して聞こえるか。
□魅力的で個性的な声か。
□発音、言葉、アクセント、イントネーションが正しいか。
□つっかかったり、言い間違えたり、流れが滞ったりしていないか。
□わかりやすく伝わるか
□インパクトや説得力があるか。
□感情のこもった表現か。
□もれなく内容が伝わっているか。
□余計な言葉、無駄な言いまわし、言いよどみなどのミスがないか。
□相手の心に働きかけたか。
○人前で、いつでもうまく声にすることをめざす
台本を見なくとも、人に伝わるように表現したいものです。そのとき頭に浮かんだことを話すのですから、何十回も同じことを練習している間はありません。
大切なことは伝えることであって、読むことではありません。文字を棒読みしているだけでは、誰にも伝わりません。そうかといって、効果を計算したり、感情を移入しようとすると、わざとらしくなります。結局、基本の力がないと、何十回読んでも、プロのようには聞こえないのです。
その力をつけるためには、いろいろなトレーニングがあります。さあ、がんばって始めましょう。
〇よい声と悪い声
誰もがその人特有の声を使っています。そのなかでも、よい声や悪い声といわれる場合があります。でも、多くの人の声は、それなりにくせがあっても、ひどい声ということはないはずです。それは、どう違うのでしょうか。
使える声と、そうでない声はどう違うのでしょう。声と声の使い方とどういう違いがあるのでしょう。プロといわれる人の声での表現を聴き、その違いを理解してみましょう。
一般的に、日本人は、決して声やその使い方について恵まれているとはいえません。それに対し、外国人の声は、声そのものの魅力や表現力の点で優れています。ですから、参考にするとよいでしょう。言語としてのことばの意味がわからないからこそ、声のことがわかるとも言えます。違いは、体格や言語の差だけではありません。彼らは、声や声の効果に関心を払い、幼い頃から人に声で働きかけるトレーニングをしてきたからです。
まずは、そういった体から自然と楽に出ているくせのない声をよい見本として、たくさん聞くことです。それとともに、多種多様の声の魅力を感じとっていくことです。
ただし、自分にとって出すのに無理な声は聞くだけにとどめて、まねしないようにしましょう。
最初は、自分にとっての最も自然でパワフルな声を掘り出していくことを優先しましょう。
○プロの声を聞いてみよう
□俳優、声優
□歌手(オペラ、ジャズ、ゴスペル、ポピュラーなど)
□声優、アナウンサー、タレント、ナレーター、DJ
□外国人の声
□年齢の違う人の声
□異性の声
□住んでいるところの違う人の声
□物売りの声
□感情をあらわにしている人の声(怒っている声、笑っている声)
□特別な職業の声(居酒屋、寿司屋 コンパニオン、アナウンサー)
○声のマップをつくろう
声について、自分の抱いているイメージを書き出しましょう。
最も声のよいと思う人(どうして)
声が悪いと思う人(なぜ)
声が変わっていると思う人(どのように)
音声の表をつくり、自分の声や他人の声を、位置づけてみましょう。
声の種類の中から、あなたが気になるような人の声をチェックしてみましょう。
次に、自分の声に当てはまると思うものを選んで、黒マルをつけてみましょう。
<音声の表>
1高い声-2低い声/3明るい声-4暗い声/5細い声-6太い声/7軽い声-8重い声/9柔らかい声-10硬い声/11やさしい声-12きつい声/13ひびく声-14こもった声/15上品な声-16下品な声/17ていねいな声-18荒っぽい声/19澄んだ声-20くすんだ声/21深い声-22浅い声/23濁りのない声-24濁った声/25ダミ声/26頭のてっぺんから出る声/27地の底から出る声/28黄色い声29キンキン声 30かん高い声 31ど太い声 32ドスのきいた声/33のどのあがった声/34さわやかな声-35不快な声/36効率のよい声-37息もれする声/38芯の通った声-39芯のない声/40生き生きとした声-41死んだような声/42鋭い声-43鈍い声/44のびのある声-45のびのない声/(46浮いた声)-47押しつぶした声/48すがすがしい声 49まろやかな声 50張りのある声/51かすれる声 52なめらかな声 53割れた声 54ねばっこい声/55鼻につまった声-56鼻にかかった声-57鼻に抜けた声/58はつらつとした声-59震える声 60しわがれ(しゃがれ)声 61甘えた声 62あたたかみのある声 63どっしりとした声 64朗々とした声/65ボソボソした声 66重厚な声/67老けた声-68若々しい声/69円熟した声-70キャピキャピした声/71ゆったりした声-72ヒステリックな声 73よく響く声 74おだやかな声 75つやのある声 76セクシーな声 77ハスキーな声 78蚊のなくような声 79えいえい声 80おろおろ声/81金切り声 82きいきい声 83とがった声 84甲声/85玉の声 86甘い声 87かわいい声/88パワフルな声 89迫力のある声 90元気な声/91含み声/92美しい声 93きれいな声/94われ声 95ガラガラ声/96くぐもり声 97塩辛声/98湿り声 99洒落声 100なまめいた声 101うわずった声 102沈んだ声 103忍び声 104なまり声 105いきみ声 106 ねぶり声 107つまった声/108胴間(張)声 109どら声/110透明感のある声/111ウィスパーヴォイス/112ミックスヴォイス/113裏声(頭声)114地声 115粋な声 116ストレートな声 117もごもごした声 118聞き取りにくい声 119子供っぽい声 120落ち着いた声 121かすれる声
○自分の声は、どんな声なのか
「あなたは自分の声をよいと思いますか」この問いに、「はい」と答えられる人は、日本人には少ないのではないでしょうか。スマホなどで、今ほど自分の声を簡単に自分で聞くことができ、あるいは、そういう機会が多いことは、かつて、なかったでしょう。そこで聞く自分の声は、慣れ親しんでいる自分の声とは違うでしょう。いつも違和感があるはずです。
しかし、この「何か変?」という違和感のある声の方が、他人に聞かれて、あなたの声として通用しているのです。これでは、たまりませんね。前を隠してお尻を見られているみたいなものです。
大半の人が、「自分の声は嫌い」、「できたら聞きたくない」、だから聞かない、それで直らないという悪循環を繰り返しているのです。
顔は、鏡を見て直すでしょう。化粧もしますよね。なぜ、声は裸のままで、人前に無防備にさらすのでしょう。あなたの魅力も、人柄も、能力も、そこで大きく判断されているのに。ここらで一度、しっかりと自分の声に関心をもち、本当の姿を知ることです。
録音再生した声と自分の感じる声は、確かに違うといえば違うのです。自分の声は内耳、つまり内側からの骨伝導で主として聞いていて、それに対し、他人の声は、空気中の伝導で聞いているからです。しかし、再生した声は、誰が聞いても、あなたの声とわかるのですから、それは大した誤差のない範囲での違いなのです。
〇声の個性って何?
声の判断を、いくつかの基準で具体的にしていきましょう。
自分の声というのは、わかりにくいので、まずは他人の声に関して、声のマップづくりをしてみましょう。先の音声の表を使ってください。)
「あの人の声」といわれて、思い浮かぶ人を4人くらい(A~Dさんとします)を設定してください。
最初は、声の大きさです。
大きい方から小さい方へ、1~5とか◎○△×のレベルで刻み、そこにA~Dさんを配置してください。
次は、高さです。これで2軸(マトリックス)ができます。
太さや明るさを、声がひびいているかどうか、声がかすれているかもチェックしましょう。
さいごに自分の声について、みてみましょう。できたら録ったものを聞いて、できるだけ客観的に判断してみてください。
わからなければ、他の人にやってもらうのもよいでしょう。
Aさん Bさん Cさん Dさん 自分
1.大きさ
2.高さ
3.太さ
4.明瞭さ
5.ひびき方
6.かすれ方
○悪声も使い方しだいで魅力的になる
私は、あなたにきれいで美しい声になることを勧めているわけではありません。むしろ、あなた自身がもっているなかで、もっとも魅力的な声を知ること、それをとり出すことです。さらにそれを少しメイキャップするだけで、ずっとよく聞かせられる声になるということを伝えたいのです。
それは、今、流行の髪型や服に合わせるようにするのでなく、あなた自身に合ったものでありたいのです。ですから、今、とてもひどい声と思ったとしても、がっかりしないでください。
多くの場合、それはあなたの思い描いてきた自分の声とのギャップに慣れていないだけです。生まれてずっと、その声を使ってきたのですから、あなた以外のまわりの人は、すべてその声に慣れています。決してあなたの声を変な声として聞いているわけではありません。まわりの人で、とりかえたい人はいましたか。
ということは、あなたも他人の声をそんなにしっかりと聞いていないのです。だから、ここまでの問いも、思ったよりも難しかったでしょう。
そこで今度は、身近な人の声をしっかり聞いてみてください。よく聞くと、案外と変な声をしていることに気づくはずです。テレビの出演者などにも、そう思える人がいるでしょう(ただベテランは、慣れているし、それなりに反省して直しているので、うまくなっていくのです)。それがその人の魅力、個性となっているのもわかることでしょう。
〇語る力 説く力
話すことに一所懸命になって、話すことにのみに専念している場合は、その意志に反して、案外と伝わらないものです。これは、伝えることを忘れ、自己陶酔した下手なカラオケと同じようなものです。
声は、ただ出せばよいのではありません。聴き手の心に伝えることが必要です。そこには、伝える努力が必要です。声にあなたの気持ちが入っていなければ、うまく伝わることはありません。
会社の社長さんにも、声のよい人もそうではない人もいます。しかし、概して聞いている人にうまく伝わります。それはどうしてでしょう。きっと、いつも自分の考え、伝えたいことがあり、それを伝えようと苦心して人に話をしてきたからでしょう。その熱意がなければ、人は動かないし、会社もうまくいっていなかったでしょう。
つまり、こうして、相手に伝わることが、声の使い方がよいということです。これは話す力というよりも語る力、説く力というほうが適切かもしれません。
〇律する
私も、たくさん早く話せば多くのものを伝えられると、のべつまくなしにまくしたてて、自己満足をしていたときがありました。これは聞く人に労を強いることになります。今、そのときのを聞くと、自己嫌悪に陥ります。
話せたかではなく、伝わったかどうかでみることです。
聴き手は多くのことをそそくさと聴いて、自分の頭を混乱させたり疲れさせたりしたいのではありません。多くの人は、楽に心地よく、わかりやすい話を最小限で聴きたがっています。できるだけ短く、時間をかけずにということ、です。
最新の情報や知識の獲得が目的というときは別でしょうが、その場を楽しみたいということが多いからです。そこに気を配らなくては、どんな話も受けません。だからこそ、声が大切なのです。
話しすぎて失敗するのは、最悪のパターンの一つです。聴き手への思いやりがないということにおいて、話の内容や話し方のうまいへた以前に失格です。声でいうと、大きすぎる声はよくないです。もっとよくないのは、聞こえない声です。
たった一分間でも、聴き手は人生の大切な時間を、あなたの話に捧げるのです。そこで、聴き手を思いやらずして、話も声もありません。
聴き手のことを絶えず考えながら、自分の話を律しましょう。その感覚が、声をコントロールするのにもっとも大切なのです。