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2019年9月

第78号「時間とトレーナー」

○時間がかかる

 

 ここでは、複数のトレーナーにつくので、いろいろと迷うこともでてきます。しかしそのために自分の声についても早くわかるのです。

 代替や継続のためにも、あなたのことがわかるトレーナーは、何人かいた方がよいと思います。プロセスがわかるトレーナーということです。

 状態(声の状態)だけでみないで、条件でみることが、重要なことです。そのために長くみることが必要です。

 トレーナーにとっても、他のトレーナーがつくと、自分勝手にやりにくくなるところもありますが、それもお互いによいことです。めんどうだから、考えなくてはならなくなるから、です。

 

○判断留保

 

 トレーナーも一人で教えると、自信過剰になりがちです。信用のないうちは、トレーナーとしての実力を認めさせるために尽力するからです。そのため、断定的な口調で白黒、正誤をはっきりさせすぎるきらいがあります。

 初心者や素人にはそういうトレーナーの方が自信があり、信用をおけるようにみえるからです。トレーナーである限り、相手を前にして迷ったり、悩んだりしにくいでしょう。

 しかし、私は、正直にどういうところで判断つかないのかも述べています。話をそらしたり知識をひけらかすよりも、問題として共有します。お互いにその人が判断力をつけていくプロセスを歩めるからです。

 

○タイプと期間

 

 トレーナーとしては、自ら声を習得していることが望ましいです。声ですから、聞いたらわかるわけです。経歴もプロフィールも不要です。高齢のためや医者のような補助的なサポーターなど、例外もあります。楽器のようにモノ対象の扱い方ではないために、自分が優れた音色で演奏ができれば、すぐに他人も教えられるわけではありません。

ベテランの歌手は、ヴォイストレーナーの条件の一つは満たしていますが、歌唱のアドバイザーという方がよいでしょう。恵まれたのどや声をもつ人は歌手や役者になればよいのです。トレーナーとしては、そうでない人を多く相手にしなくてはいけないのです。恵まれてなかったのにトレーニングで声を克服したり、鍛えて変えたという人のほうが理想かもしれません。

 

○フィードバックの経験

 

 トレーナーは、いろんなタイプの他の人を教えて、結果をフィードバックする経験をつんでいることです。

 他の人を教えても、教えっぱなしではなりません。

 一人ひとりののどが違う点で、多くの人といっても、多くのタイプの人(年齢、人種、性別、期間、目的、レベル)を教えているキャリアが望ましいでしょう。しかも一人ずつ、できるだけ長くみている経験を求めたいです。経験をつんで、そこから多くのことを学び、新たに応用できるスキルに落とし込んでいるということです。

 

○無力を補う

 

 私はしっかりした声や大きな声が出なかったので、トレーニングで声を獲得してきました。10代からそれを計画し、体作りから取り組み、すごくトレーニングをしました。そして、20代で仕上げていきました。そういった点で、自分のようではないタイプの人に対しては、他の人に学ぶことが大きかったです。

 トレーナーはしばし、自分に与えられている条件をもっていない人に対し、無力なことがあります。とくに才能に優れた先生や声楽家タイプには、素人や初心者にうまく伝えられない人もいます。しかし、そういう天性のあるトレーナーでないと今度は高い目的地へのイマジネーションを与えられないこともあります。

 プロや一流の人を教えていないトレーナーは、初心者に優しく、ていねいということで受けがよいのですが、真の目的に歩ませず、結果として自分以下のレベルしか育たないレッスンになりがちです。しかし、自分のレベルに合わせて師、先生、スクールを選ぶのですから、それはそういう人にはよいともいえます。もし、足らなければ次を求めるようになるのでしたら。人を選ぶのもまた本人の実力、才能です。

No.337

倫理と道

命懸け

信念

正確無比

土台

芸風

力強さ

腰を折る

安定

圧倒的迫力

こせこせした芸

目立つ芸

でしゃばった芸

背後

区切り

間拍子

不世出

合掌

唯一無比

得意失意

非才

ヘベレケ

一事万事

当惑

不謹慎

申し合せ

重厚

軽妙洒脱

使命

 

第77号「学ぶ対象のあいまいさ」

○今に学ぶこと

 

 トレーニングやレッスンは、トレーナーが学ぶ経験を積むに従って、発展してくるものです。即ち、トレーナー自身がどこまで自分の理論(仮説)を多くの人との実践の経験で、フィードバックできる能力があるのかが問われます。

私は早くから、個人レッスンから複数のトレーナーで組織的に内部結果をフィードバックするシステムをつくりました。研究誌の発行や声の分析など、外部の専門家とも協力して研究をしてきました。

 相手の要求や声の基準は、時代と共に変わります。人の心身さえ同じではありません。今の若い人とは、今の4050代の若いときと違うのです。

 

○新たに学ぶこと

 

 次のようなことは、常に新たに学んでいかなくてはなりません。

1.人間としての心身

2.時代で変わる心身と発声器官

3.とりまく環境と状況

4.表現とスタイル

 

○生まれと育ち

 

 たとえば、単純な大声トレーニングでも、かつては、多くの人に有効だったのに、今では多くの人は害になります。

 トレーニングは、人間として、共通の体を前提に行ないますが、赤ん坊から大人に至る課程に、生まれと育ちという2つの大きな因子があります。

 生まれは赤ん坊の時点での違いです。遺伝的要素は、赤ん坊として生まれたときから個人差として生じていきます。育つにつれ、差は大きくなります。人種間での違いもあります。もっとも大きく違うのは、性別です。

 育ちからの差となると、もはや分類しきれません。成長とともに、発声発語器官そのものも変わります。後天的な違いで大きく違うのは、言語習得からの差です。聞こえてくる言語によって、耳での音の捉え方から、発声器官の使い方も大きく違ってくるわけです。

 

○トレーニングの日常の不可分な関係とあいまいさ

 

 最も難しいのは、声の場合、日常の発声発語とトレーニングとが明瞭に区別できないということです。声帯を中心に発声の楽器が体内にあります。歌唱や発語は、歌手や声優など専業を目指す人でなくても、相当のレベルにまでマスターしているからです。

 日本で生まれた日本人にとって、日本語を使えるのが当たり前のように、ほとんどの人間において、発声発語は、生活の中で習得されています。そこから歌唱、せりふという舞台表現に要求されるレベルとのギャップは、個人差が著しく生じているのです。

 歌や演劇は、専門のトレーニングをしなくても、こなせる人がたくさんいます。専門のトレーニングを必ずしも受けていない人も多いのです。となると、専門トレーニングとは何を意味するのかも、あいまいです。ヴォイストレーニングもその点では、一般的には、とてもあいまいになっています。

 

第76号 「声をこわさないことと統合力」

○トレーニングで声を壊すリスク

 

 日常でも過度にのどを使う、ホコリの多いところで声を出すと、のどを痛めます。カラオケで歌いすぎたり、飲酒で騒ぎすぎても同じです。どんなトレーニングでも、やりようによっては、いやトレーニングをしなくても、のどの状態を損ねる危険はあります。声を壊すといってもいろんなケースがあります。

 ヴォイストレーニングもやりすぎると、のどによくありません。どんなトレーニングでも、時間の長さ、休息の少なさ、健康心身状態などによっては、のどを悪くするのです。体調によっては、トレーニングをさけた方がよいときもあります。その上で、どんなに続けても、のどの状態が悪くならないようになれるのが、ヴォイトレの基礎クリアーといえましょう。

 のどそのものがよくない、のどの状態がよくない、こういう場合、トレーニングができるかどうかを適確に見極めなくてはなりません。そういう力もヴォイトレでつけていくのです。

 

○のどの個人差

 

 私共のところにも俳優、芸人や声優の養成所やスクール、他のトレーナーの個人レッスン、自主トレーニングなどで声を痛めている人がいらっしゃいます。そういうときは、何事も無理は禁物、休めることが第一です。喉の状態を踏まえて慎重に対処します。個人差もあり、体調やのどの調子にもよります。ともかくよくないときは、発声は少なめに、のどを休めることが急務です。ときに音声医を紹介することもあります。

 同じように(同じ年月、同じところ、同じ方法で)トレーニングした人でも、一方はとても上達し、一方はのどを壊すということもあります。のどには大きな個人差があるのです。自分の限界を知り、やりすぎないことと、途中に充分な休憩を入れることが大切です。

 本を読んでトレーニングすることで声を壊す人の多くは、続けて長くやりすぎています。次にトレーニング方法(イメージも含め)の誤解によることが多いです。最速で最大の効果を求めようとして、大声に高い声で無理するからです。

 

○声の管理の注意とアドバイス

 

 何時間も声を出し、とても熱心ゆえに声の調子を悪くする人もいます。

研究所は一人ひとりに目が行き届く個人レッスンですので、安全安心です。

 声が出にくくなったら、それは注意信号です。トレーナーは、そのリスクを避けることを最大限考慮します。危険なときは休ませたり、レッスンを中断し、カウンセリングをします。

 レッスンというのは、一年365日、つきっきりで行えるわけではありません。ですから、自己管理が必要です。研究所では、メールで、担当トレーナーに声の管理に関するアドバイスを求められるようにしています。

 

○声をこわす要因

 

 声をこわす主な原因は、次のようなものです。

1.限度を超えて声を出した(大声、ハイトーン、連続)

2.休めたり水分補給するなど、体調とトレーニング時間での配分を考えなかった

3.自分の合わない方法やイメージを用いて誤用した

 

○役者の基礎の大声

 

 劇団などの大声発声練習は、声楽やポップストレーナーの立場から、ほとんど否定する人が多いです。ですが、私は一理あるのと、人によって効果も違うということで、現場と相手を見ずには否定していません。

 一流の役者が、そこで確かに声が鍛えられたという実績のあるもの、そういう人がそれで身についたと思い、そういう指導もしているところに、第三者としては、介入できないからです。

 そこが合わなくてここに来る人もいます。他人の行なっているヴォイストレーニングは、単純に肯定も否定もできないものです。長期的な基礎づくりに目的をおいているものは、効果がみえにくい時期もあります。悩まれている人が多いと思いますので、それぞれの問題については、個別にアドバイスを求めにいらしてください。

 

○合わないという嘘☆

 

 本人の感覚、もしくはトレーナー、声楽家の判断や理論を元に、ヴォイストレーニングが間違っているという人もいます。これは、「自分には合わなかった」「自分ではうまく取り込めなかった」ということとどう違うのでしょうか。効果をあげるように使えなかったということです。それが本当にあるかどうかは、決定はできません。

 他のトレーナーがそのように教えなかったり、それを否定したからといって、継続的なトレーニングをしてもいないのに、それを根拠にするのは一方的です。

 その偏狭さのためにどこでも、まっとうな人材は育たなくなって久しいのです。小さくまとまったうまい人は多くなったのですが、まっとうな大スターは不在です。

 間違っていないし、うまいけど面白くともすごくもない人ばかりになったのです。日本のJ-POPSも、ミュージカル界も声楽も似ています。海外のステージ、ブロードウェイやオペラを見ればわかることなのでしょう。

 

○研究と面談

 

 私のところでは、およそ8つの音楽大学で指導を受けた声楽家がいます。偏狭な考えでは、共同研究などできません。日本や海外から発声に関するあらゆる教材を集め、ときには、直接伺って学ばせていただいています。

 

 ヴォイストレーニングの方法の誤用は、日本人のベースの声のなさにまでさかのぼります。あたりまえのことがあたりまえになっていないことに、問題をくみとることです。なかには、まれにヴォイトレの必要のない人もいます。そのためもあって、私は、必ずレクチャーをしてから、いろんな意味で可能性からその可否をみてレッスンを引き受けるようにしています。

 

○声と統合

 

 最初は、基礎2年間を必修として受け付けていました。やがて、グループで基礎をマスターさせるには、個人差が大きすぎることと、声だけの育成の場で、あまりに音楽性のなさを目にして、早く作品から入れていく必要を感じました。そのため、発表やライブの場を与えつつ、音楽的感覚を習得させるのを優先しました。

 私が声づくりそのものを受け持った人は、かなり限られ、大半はグループでの音楽的感覚、フレーズ感のコピーレッスンがメインでした。

 次に、私はプロデューサー的感覚で、声よりも歌について、判断せざるをえなくなってきました。90年代以降、歌と音楽の傾向が変わって、アレンジ面でのトータルサウンド的な作品、つまり、声のオリジナリティが、体からの肉声での表現でなく、歌手としての高い声をもつ人の歌唱中心になってきたからです。

 12については、私の基本マニュアルであった、シンコーミュージックの「基本講座」「実践講座」をお勧めします。注意を細かく加え、大幅に増補して出したので、読んでください。

No.337

<レッスンメモ>

 

「感じる力」

 

感じただけの話や文章と責任をとれる話や文章の違い

パワーポイントのデメリット

じっくりとものをみて、深く考えること

バーチャルにない存在感をもつこと

確信がなくとも選び取る力がある

理論ではなく、共感で決まる

ことばは、それが何なのかを確定してしまう

自分自身の問題を解き明かすこと

 

「発声について」

 

発声 歌唱 表現は、別に考える

日本人と外国人の相違点をみる

風土、文化、国民性

叫びと動作、謡と舞

心と体と声の関係

鼻→気道 口→食道

表情筋30くらいあるが、10を使う

喉を開ける 顎を引く

ピアニシモの裏声 細くてよい、ハミングへ

ベルカント

ドイツ唱法(吸気した腹部のキープし、へこませない)

自然を目指すこと

体のバランスチェック

非常時の胸式呼吸

呼気を伸ばすのはふしぜん、

息苦しくなることも多い

換声区

母音の形

言語で発音をするために失われ、くせがついた発声

ことばは、発声でなく、せりふや歌唱で習得する

鼻歌と副鼻腔

均等にする

足の長さ(仰向け)、足先の開き(仰向け)のズレを知る

目を閉じて両手の人差し指の先をくっつける

眼を閉じ足踏みで同じところにいられる

仰向けで腰の隙間のチェック

壁に背中、頭、肩甲骨、尻、かかとがつくか

No.337

<レクチャーメモ> 

 

「世界言語」

 

世界中の言語6千~7千、国連加盟国数192ヵ国

各国語一言特徴

スペイン語のvはヴよりバ行の方がよい。35千万人、母音5つ、巻き舌のラ行

bとvを区別しないでよいvaca(雌牛)バーカ

ポルトガル語、鼻母音がフランス語より多い、不定詞(動詞に名刺の働きをさせたもの)に語尾をつけ主語を表せる。

イタリア語、母音が日本語とほぼ同じで単語も母音で終わるのが多く、日本人が親しみやすい。

オランダ語、ありがとう ダンケ()、ダンキュー()Gogh(ゴッホ)はホーホ、ラ行の子音がない。

ドイツ語、メッチェン()、シャン(老人)など、日本人好み。

インド英語 rはイタリア語、ロシア語と同じく巻き舌、thはタに。

ベトナム語、ハノイでは、6つの声調(広東語も6)

ウィグル語、母音8つ、子音23、口蓋垂での発音があり、そこはアラビア語と似ている。

チベット語、声調4つ、膠着語、敬語

韓国語、母音8つ、子音は平音の他に息をあまり出さない濃音と息を強く出す激音

日本語、母音5つ子音、13くらい、動詞は5段活用と1段活用、例外は「する」「来る」

 

「日本語の特徴」

 

日本語の音節は100くらい、開音節

一音節のことばが少なく、二音節のが多い

二音節で安定させる2文字の組み合わせが多い

昭和21年まで同音2字が3種あり「イ、ヰ」「エ、ヱ」「オ、ヲ」

音を軽視して文字を重視した

同音異義語多い

漢字は、表意文字というよりは表語文字

上田萬年 日本語 明治30年代音標文字化

フランス語化を唱えたのは、志賀直哉などがいます。

外国語で鼻濁音になるもの

日本語のように使われているもの、プログラム、イギリス、タンゴ、ベルギー、ジャングル、エネルギー

役に立ち、褒められ、感謝されるように振舞いましょう。

志村正順(NHK スポーツアナ 野球解説殿堂入り)

第75号 「方法と実践」

○ブレスヴォイストレーニングと声楽

 

 声楽は、オペラの基礎づくりです。それに対し、ブレスヴォイストレーニングは、話し声から歌まで含めた人間のコミュニケーションのための音声の基礎づくりです。広くは、叫び声、泣き声、怒り声なども含めます。

 ブレスヴォイストレーニングは「アー」や「ハイ」の一声から、母音やシャウト、レガートなど、フレーズでの統一音声レベルでの解決をめざします。声楽はかなり広い声域、ハイトーンまで、しかもかなりの声量を体から歌唱するためにトレーニングを必要とします。それは呼吸から発声、ビブラート、ロングトーン、ヴォーカリーズ(母音)、歌唱フレーズでの共鳴統一のための基礎練習です。

 

○声の日常とドラマティック

 

 オペラが非日常なものに対し、ブレスヴォイストレーニングは日常ですが、区分は、あいまいです。もともと舞台は、非日常とはいえ、日常のハイテンションでの集約に過ぎないともいえるからです。

 日常生活の中でも、ときにはドラマ以上に、ドラマが起きることがあります。いえ、しばしば、ドラマにもできないほどのドラマが成り立っています。そこで発される声や歌は、ドラマティックです。

 

○深い声と高い声

 

 声楽は日本人の場合、多くがテノール、ソプラノ中心なので、ハイトーンと頭声共鳴が優先されているのは否めません。

 私はそれを逆手にとって、日本の声楽をJ-POPSなどのハイトーン、ファルセットの習得に利用しています。ポピュラーの本人しか通用しない、中途半端な発声をまねたトレーニングよりは、声楽は多くの人に通用してきた実績のある分、万人向けということで、安心かつ信頼も高いからです。

 

○組み合わせる

 

 ブレスヴォイストレーニングと声楽の組み合わせで、相互の弱点を補完することもできます。共に、イタリア人のような体からの深い声を得るのが目的です。

 バスやバリトンの人には、ブレスヴォイストレーニングと同じことを声楽で行っているようなものです。ことばは、レガートでなく、スタッカート気味な歌唱の一つと大ざっぱに捉えたらですが。

 

○遅れている

 

 声楽の中にも、いろんな考え、価値観、方法論、適用の仕方があります。優先順、重要度も異なります。とはいえ、百年を超える歴史の中で、オペラの伝統と権威ゆえか、お山の大将も多数いらっしゃいます。

 ポップスや役者声、ふつうの人の日常の声に偏見をもち、本人独自の声だけをよしとする人、それを教え方一辺倒のまま人も少なくありません。学生の頃、習ったことをずっと受け売りしで、続けている人もいます。共同研究や最新の科学技術を用いた解析などが遅れているように思います。

 

○方法の差異について

 

 私がいえるのは、ヴォイトレに特別な方法などというのはないということです。言語を発声として、幼いときからしぜんと習得していっているのが人類です。そこで楽器のように人工的につくられたものへのマニュアルなどあるわけがない。大切なのは、こうした原点をきちんと押さえた判断です。

 その上で、一流の人は、日常の中でより強度に、かつ短期に身につけた人のプロセスを効率化し、質を高めたものとして使って、自分を高めて(深めて)いくのです。

 同じ方法も相手やそのレベル、使い方によって毒にも薬にもなるし、方法の違いよりも、どう使えているかの方がよほど違いが大きいのです。ですから、方法論を議論しても仕方ないのです。

 研究所では、私も他のトレーナーも、相手によって全く違う方法を用いています。相手による違いの方が、他のトレーナーの方法との違いよりも大きいといえるくらいです。☆

 ヴォイストレーニングを行わなくても、声をしぜんの中で相当レベルまでマスターしている人もたくさんいます。しかし、そういうプロセスを取れなかった多くの人のために、ヴォイトレはあります。シンプルに絞り込んで、感覚を鋭くし、丁寧にコントロールし、体(呼吸器官や筋肉など)を強化、柔軟に調整していくということです。

 

○方法を工夫する☆

 

 特別なやり方があって大きな効果がすぐあがるというのもないことですが、間違ったやり方があって、それでのどをつぶすと捉えるのは、さらなる誤解です。

 ノウハウとは、役立つように使うためのものです。それを役立たぬどころか、ダメにするように使うというのなら、おかしいのです。与えられたものを役立つように変え、工夫すればよいのです。

 方法も道具も、思想や考え方も使い方しだいです。使って役立たない、毒だというなら、工夫して変えればよいのです。そうして人間は独自のものを編み出していったのです。変える力をつけていくことです。

 

○叩き台として☆

 

 声楽もブレスヴォイストレーニングも、変える力をつけるための叩き台にすぎないのです。私の示している方法やメニュ、考え方もすべては叩き台です。問いにすぎません。

 話を聞いて、納得できない、やってみてうまくいかないと、人のせいにするのでなく、自分が活かせるように学ぶことです。活かせるところがないのなら、ないというところから学べます。すべては、その人次第です。

 誰もがその通り、同じように、同じ期間で、同じようにできるようなものに価値はないでしょう。もちろん、やらないよりはやったという価値はあります。しかし、真の価値は、やっている人のなかで問われるのです。そうなると、方法などというものほど、つまらないものはないと気づくことです。

 

 

Vol.78

〇大声と声のトーン

 

 話は、声を通じて伝わります。話において声がとても大切なことは、今さら言うまでもありません。

 まずは、声量です。音声は、届かなければ働きません。小さすぎる声では、どんなによいことを言っていても、伝わりません。反対に、やたら大きな声を出せばよいというものではありません。大きすぎる声は拒まれますので、大声でなく、通る声を目指しましょう。声は声量でなく、メリハリとスピードといった変化でうまく伝わるものとなるのです。

 次に大切なことは、声の調子です。その声の高さやトーン、やわらかさ、心地よさです。

 そのなかでも、声のトーンは、とても大切です。話の動きの部分、リズム、メリハリ、ノリのまえに、第一声のもつトーンによって、私たちはその人の話を受け入れるかどうかを感情として決めてしまうからです。

 たとえば、怒ってヒステリックになったときのトーンでは、誰もその人に関わりたくないと思うでしょう。同じ人でも、そのトーンを変えただけで他人に受け入れられなくなることもあります。

 

〇声のトーンからメリハリ

 

 話のなかで、最後までずっと伝達のベースを支配するのは、声のトーンです。声のトーンによって、話を聞きやすくするばかりか、聞き終えた後の印象まで左右します。そのためのヴォイスコントロールが必要です。これはもっとも注意すべきポイントです。

 

EX.トーン別に使い分けてみましょう。

 自分の声を、

1.しぜんに

2.悲しげに

3.怒りを含めて

4.楽しそうに

次に大切なのは、一本調子にならないこと、つまり、メリハリです。

メリハリのトレーニングをしましょう。

 高低、緩急、強弱、音質、音量の変化を自分でコントロールしてみましょう。

1.ものまね、模写、口まねをしてみる。

2.擬態語での象徴を使う「グーッとよった」など。

誇張して感じを出す。

 つくり声、甘えた鼻声は、品が悪いので、やめましょう。

 

〇若い人の声が出ない

 

 最近の若い人は、あまり大きな声を出さずに育ってきたためか、声をしっかりと出すにも、なかなか大変なようです。

 息もあまり吐けない人、吸えない人も増えました。浅い胸式呼吸になっているのです。

声のトレーニングというと、広いところで声を張り上げて鍛えることのように考えている人が多いようです。しかし、応援団ばりの大声トレーニングでは、のどを痛め、声を壊すだけです。じっくりと時間をかけて、少しずつ声をよくしていくのなら、誰でもどこでもできるでしょう。

 声に求められる条件とは、結果として自分の伝えたいことをしっかりと伝えられることです。そのためには、鋭く、柔らかく、練れた声が求められます。それを目指して、声を使いやすくしていくのです。

 

○無理せず身につける

 

 基本的なトレーニングでは、無理せずに確実に呼吸から発声を身につけていきます。すると、誰でも声は、かなりのところまで無理なく出るようになるのです。よくなると、より大きく強く高く(低く)も出せる可能性が広がります。声がしっかりと統一されていくにつれ、かすれたり割れたりしなくなります。

 さらに、長時間、声を出しても異常をきたさず、体調の悪いときも(たとえ、風邪などをひいていても)、表現を保つのに充分な声が確保されるようになっていきます。不調のときにどうすれば声の調子を整えるのかがわかってきます。そこでコントロールできるなら、プロレベルです。

 人前で声を使うときには、声の調子を万全に整えて挑まなくてはいけません。そういった声の管理方法も学びましょう。

 

○発音をチェックしよう

 

 聞きづらいのは、声が大きくないからだけではありません。声が聞こえても何を言っているのかわからないこともあります。外国語の映画を字幕なしで見たら、多くの人は理解不能でしょう。そう、言葉がわからないということです。言語がわからない人が相手なら、一方がどんなに努力しても、内容はうまく伝わらないでしょう。幼児相手には、かなり使う言葉を選ばなくてはなりませんね。トーンやピッチも受け入れられやすいように変えるでしょう。そのくらいのヴォイスコントロールは、相手が誰であれ、それなりの人ならやっていることなのです。

 これは、日本語でも起こります。TVの番組でお年寄りのことばがわかりにくいときは、テロップが出ますね。

 J-POPの歌、あなたはどのくらい聞き取れますか。テレビのなかのせりふは? タレントの言葉も、速すぎたり、はっきり発音されていないと聞き取りにくいでしょう。日本語なのにテロップがついています。

 日本語は同音異義語が多いし、語頭と語尾が聞こえないとわからないため、やっかいなことばです。これは、発音、アクセント、イントネーションの問題だけではすまないのです。

 

 次のところに気をつけて発声しましょう。

1.声量

2.発音、イントネーション

3.言葉の出だし

4.語尾

  1. テンポ
  2. トーン
  3. ピッチ(音の高さ)

 

○人前での声の使い方について

 

 話し始める前には、ニッコリと微笑んでおきましょう。ほおをリラックスさせて、そして、ゆっくりと相手(複数のときも)の前にでましょう。相手をながめ、ときには、そこで相手を飲むのです。わざとらしいふるまいは、なくしましょう。相撲取りのようにホオをピシャっと気合いを入れては、やりすぎです。気合いを入れるのは、控室かトイレで済ましておきましょう。

 人前で話すときは、一呼吸おいてニッコリする。マイクがあれば、おもむろに小さめの声で話し出す。これが最初に、人の耳を捉える秘訣です。

 

○話のスタンスづくり

 

アイキャッチ、目の焦点の合わせ方は、一人にピタッと合わすところから始めましょう。最初は気のよさそうな人や、よく頷いてくれる人に合わせます。お勧めは、品のよい(ものわかりのよさそうな)中高年のオバさんというのが定説です。

話のコツとして、ほほえんでいて、すべての話に頷いてくれる人を捜せといわれます。ターゲットが絞られると、落ち着き、早く自分のペースにもっていけます。

 なるべく多くの相手が自分を見てくれていると思えるように視線を使います。だからといって、キョロキョロしたり、全員を見る必要はありません。前後、左、右と三方向に目を配れば、充分です。上達してきたら、難しい顔をしている人に挑戦しましょう。

 聴いている人は動けないのですから、あなたがその代わりに動くのです。死角をなくしましょう。

あなたの動きに、視線がどのくらいついているかで、話にのれているのかをチェックすることもできます。

 

○気力を充実させよう

 

 人と話すときや電話のときに、「声が届かない」とか、「何度も聞き返される」だから「声に問題があるのでは」といった相談をよく受けます。

 そういうときの大半は、声が届いていないことより、その人自身に伝えるのに必要な気が満ちていないためです。いわば、集中力を高めて、主体的に切り出し、相手を真剣に聞く気にさせていないのです。

 声はコントロールするものですから、気力や集中力は、必要です。オペラ歌手などは、一流のスポーツ選手なみのパワー、反射神経をもち、超能力者さながら、声を気とともに発しているといってもよいでしょう。

 人前に立って人様に自分の体一つで何かを与えようとするには、何であれ、体力、集中力、気力は不可欠なのです。声も、その例にもれません。

 次に伝わらない原因として考えられるのは、声の出し方のスタイルです。話そうとするのでなく、伝えることに真剣になることです。そのためには、相手をきちんと捉えて話すことからです。その人なりに話し方のスタイルというのが出てきます。それを、よりよい方向へブラッシュアップしていくことを、学んでください。

 

○姿勢をよくしよう

 

 畳文化で猫背になりがちな姿勢をとってきたせいもあって、日本人の発声は、のどを圧迫し、こもったり、しゃがれたりしていました。また、そういう声を小さいときから、たくさん聴いていると、そういう声になっていきます。しかし、本当に機能を充分に発揮しやすくしたところの体の理にかなった発声は誰でもできるようになるのです。

自分が一番かっこよいと思う姿勢で、キリっと立ちましょう。原稿に目を移しながら声を出すと、前かがみになりますので、これはあまり、よくありません。のどの力を抜くために、肩や首をほぐしましょう。

 声の出しやすい姿勢については、胸を張り、少しやや上に向けて、もちあげるとよいでしょう。すると、腰のまわりに少し緊張を感じるでしょう。そこの筋肉(背筋、側筋)が、声を自在に扱うためには大切です。

 表情を豊かにしましょう。それが、声のトーンをつくります。

 聞きやすい声は、伝えようとする気持ちと、そうした表情から生まれます。そのためにも、姿勢を正すことです。

 

○姿勢のチェックリスト

 

 まず、本当に自然な声にするために必要な、声を出すのにふさわしい姿勢を習得しましょう。

次のチェックリストで確認しましょう。

□自然でゆったりした楽な姿勢にする

□顔はいく分、上向き

□目はしっかり見開く

□視線はまっすぐより少し上に

□舌先は前歯の裏 舌の両側を奥歯につける

□後頭部はやや後ろに

□あごは少しひく(うなじを伸ばす)、上あごより前に出ない

□肩、首に力を入れない 首は少し後方にひき、まっすぐおとす

□首はまっすぐ立てる

□胸をはり、やや上方に広げる 胸は広げたまま高く保ち、おとさない

□腕はだらっと下げる

□背筋は張っている

□お尻の筋肉を肛門の方向へ締める

□骨盤を前方に少し出す

□かかとは、こぶし一つ開く

 

姿勢のイメージトレーニング

1.映画のスターを気どってみる。オペラ歌手やヴォーカリストでもよい。

2.自分で一流ホテルの高級レストランで食事をするつもりになる。礼服を着ているつもりで。

3.モデルやタレントの姿勢を意識してまねる。

 

第74号 「トレーナーの条件」

○表現と歌の声

 

 ヴォイストレーニングを表現からみたときに、どのような表現を目的にするのかは、とても難しい課題です。

 オペラであれば、まだわかりやすいでしょう。オーディションやコンクールの基準が参考に、一流のオペラを徹底して聴くこと、その上で日本でなら二期会や劇団四季の主役あたりを想定するのも一つでしょう。

 しかし、ポップスでは、一流の歌手でも、その方法論を本人以外で通用させられるとは限らないのです。アマチュアのサークルなら、ピアノがうまければピアノを弾いて自慢でき、少し歌えれば歌って教えることができるでしょう。しかし、プロには、プロもいろいろいますので、百戦錬磨のプロに対しては通じません。自己流で自分にしかあてはまらないようなものは、無力どころか、邪魔や害になりかねないのです。

 

○自分だけで診ないこと

 

 トレーナーは、医者のように、のどの手術はできなくてもよいが、声に対し適確な判断力をもって処方できることが大切です。できたら将来の可能性に対してということです。それには

1.声の育つプロセスを理解し、自ら実践できること

2.個人差に対応できること

3.自分の力量の及ぶ範囲かどうかの判断ができること

4.そうでないときやもっとふさわしい人がいると思われるときには、そのスペシャリストに紹介できるネットワークをもっていること

 これらは、まだまだ日本では十分ではありません。

 

○トレーナーは才能を求められる

 

 一流のプレイヤーは、大体一流の教師となります。しかし、一流の歌手が一流のトレーナーとなることはあまりありません。歌手が歌手を育てないのは、そう簡単にできない事情があるからです。ダンスやゴルフのレッスンプロなら、プロになれなかった人が教えたらよいのですが、ヴォイストレーニングはそんなに単純なものではないのです。

 人間に対する知識や体験、体だけでなく、教えることに関することも含めて望まれます。芸や芸術だけでなく、ビジネスやコミュニケーション心理などについても、相当のキャリアが必要です。

 この研究所には特に多彩な人が来るので、私自身では、まかないきれません。私は一人で行う限界を早くから知ったので、組織化して、客観性を高める方向をとってきました。

 

○外国人トレーナーのロス

 

 一流のヴォイストレーナーには、10歳くらいで世界に名の通るほどのプロとやっている人もいます。そんな芸当は、日本ではできません。日本のトレーナーだからできないというのではなく、そういうプロ歌手は、勘も体もセンスも特別にあり、トレーナーも楽とはいいませんが、トレーナーに求められる才能がまったく違うのです。

 私も外国人のトレーナーを日本人向けに使ってきました。日本人と外国人との間の声に関する根本的問題については、彼らは気づくことがなく、そのアプローチもできません。絶対音感のある人が、ドを出せない人をどう直せばよいのかわからないように、です。ピアノのレッスンでは、こんな問題は起きません。弾くレベルの差がすべてです。誰でもドの鍵盤を押せば、ドは出るからです。

 

○大声トレーニング

 

 私が他のところからもっともレッスンで求められてきたことは、タフな喉、強い声、通る声でした。現場や養成所などで声量不足を指摘されている、声優や俳優、芸人が要求されることです。昔ながらの大声トレーニングが行われているのも、廃止されたのも両方とも問題ありです。今の若い人ののどの弱さや体つきの変化などに、まったく無頓着なのは、驚く限りです。

 自分たちのやり方で、次の世代が育たなくなったことに気づくのが早かったのは、いつも同じ演目をやる落語、コーラス、歌劇団、ミュージカル劇団、邦楽の歌い手です。そういうところからいらっしゃると、うまくここのヴォイストレーニングや声楽を活かしています。その処法については、最初は混乱のなかで直しつつ試行錯誤でしたが、今はおおよそ、誰(どのトレーナー)がどう指導したらよいのかが、わかるようになりました。

「声を聴くこと」 No.337

 声に限りませんが、感じ、フィーリングというのは、言葉にしにくいから、説明や教えることから抜けてしまいがちです。それだけでは好き嫌いなどの主観と分けられないので、“一般的に”学ぶことにつながりにくいです。

そうしたものの分析や論理的な把握には、経験の積み重ねや教養がいります。ここで教養というのは、学校で学ぶようなことではありません。アーティストでも一流になった人のもつ、聴いた経験量と聴き方と自分自身の創造の蓄積のようなことです。ですから、“個別に”“はまって”吸収していく潜在期のディープさが問われます。

 

創造することをシンプルにいうと、閃くことと、そのあとに詰めるという作業がいります。左脳を使います。 歌であったら音色を耳で聞いて入力し、声で出力しているのです。ただし、日本において歌の声に関しては、相当に甘く未熟と思わざるをえません。

 音楽は、音でなく、音の構造です。語法も語感もあり、言語にも近いです。音楽が、必ずしも、すぐにわかるものではないのは、最初からジャズやクラシックが本当に好きな人がさほどいるわけではないことでもわかります。

歌に限っていうと、声のスキャットでなく、ほとんどの歌に詞があるわけです。詞が意味内容を具体的に伝えられる反面、音楽的には、ほどよいノイズとなります。

オペラは、音と声で、演奏として楽しめます。それゆえ、国を超えます。しかし、せりふで展開する演劇では、特殊なケースでしか外国人には通じにくいでしょう。ミュージカルなら、筋が少しわかっていたら、わからない外国語でも見ることができます。

そもそも音楽と踊りは、国を超えて感動できるもの、何よりも原初的なものです。サウンドやヴィジュアル、パフォーマンスの比率が高いものほど、そうなります。

ところが、どうも声のなかの音楽と踊りの要素が徹底して欠けてきているようで、この先、心配です。日本人の声はメールで打てるようなことしか伝えられない声ばかりになってきたように感じるからです。

どう学ぶのかを学ぶのに、ここを利用していただけたら、ありがたいです。

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