Vol.78
〇大声と声のトーン
話は、声を通じて伝わります。話において声がとても大切なことは、今さら言うまでもありません。
まずは、声量です。音声は、届かなければ働きません。小さすぎる声では、どんなによいことを言っていても、伝わりません。反対に、やたら大きな声を出せばよいというものではありません。大きすぎる声は拒まれますので、大声でなく、通る声を目指しましょう。声は声量でなく、メリハリとスピードといった変化でうまく伝わるものとなるのです。
次に大切なことは、声の調子です。その声の高さやトーン、やわらかさ、心地よさです。
そのなかでも、声のトーンは、とても大切です。話の動きの部分、リズム、メリハリ、ノリのまえに、第一声のもつトーンによって、私たちはその人の話を受け入れるかどうかを感情として決めてしまうからです。
たとえば、怒ってヒステリックになったときのトーンでは、誰もその人に関わりたくないと思うでしょう。同じ人でも、そのトーンを変えただけで他人に受け入れられなくなることもあります。
〇声のトーンからメリハリ
話のなかで、最後までずっと伝達のベースを支配するのは、声のトーンです。声のトーンによって、話を聞きやすくするばかりか、聞き終えた後の印象まで左右します。そのためのヴォイスコントロールが必要です。これはもっとも注意すべきポイントです。
EX.トーン別に使い分けてみましょう。
自分の声を、
1.しぜんに
2.悲しげに
3.怒りを含めて
4.楽しそうに
次に大切なのは、一本調子にならないこと、つまり、メリハリです。
メリハリのトレーニングをしましょう。
高低、緩急、強弱、音質、音量の変化を自分でコントロールしてみましょう。
1.ものまね、模写、口まねをしてみる。
2.擬態語での象徴を使う「グーッとよった」など。
誇張して感じを出す。
つくり声、甘えた鼻声は、品が悪いので、やめましょう。
〇若い人の声が出ない
最近の若い人は、あまり大きな声を出さずに育ってきたためか、声をしっかりと出すにも、なかなか大変なようです。
息もあまり吐けない人、吸えない人も増えました。浅い胸式呼吸になっているのです。
声のトレーニングというと、広いところで声を張り上げて鍛えることのように考えている人が多いようです。しかし、応援団ばりの大声トレーニングでは、のどを痛め、声を壊すだけです。じっくりと時間をかけて、少しずつ声をよくしていくのなら、誰でもどこでもできるでしょう。
声に求められる条件とは、結果として自分の伝えたいことをしっかりと伝えられることです。そのためには、鋭く、柔らかく、練れた声が求められます。それを目指して、声を使いやすくしていくのです。
○無理せず身につける
基本的なトレーニングでは、無理せずに確実に呼吸から発声を身につけていきます。すると、誰でも声は、かなりのところまで無理なく出るようになるのです。よくなると、より大きく強く高く(低く)も出せる可能性が広がります。声がしっかりと統一されていくにつれ、かすれたり割れたりしなくなります。
さらに、長時間、声を出しても異常をきたさず、体調の悪いときも(たとえ、風邪などをひいていても)、表現を保つのに充分な声が確保されるようになっていきます。不調のときにどうすれば声の調子を整えるのかがわかってきます。そこでコントロールできるなら、プロレベルです。
人前で声を使うときには、声の調子を万全に整えて挑まなくてはいけません。そういった声の管理方法も学びましょう。
○発音をチェックしよう
聞きづらいのは、声が大きくないからだけではありません。声が聞こえても何を言っているのかわからないこともあります。外国語の映画を字幕なしで見たら、多くの人は理解不能でしょう。そう、言葉がわからないということです。言語がわからない人が相手なら、一方がどんなに努力しても、内容はうまく伝わらないでしょう。幼児相手には、かなり使う言葉を選ばなくてはなりませんね。トーンやピッチも受け入れられやすいように変えるでしょう。そのくらいのヴォイスコントロールは、相手が誰であれ、それなりの人ならやっていることなのです。
これは、日本語でも起こります。TVの番組でお年寄りのことばがわかりにくいときは、テロップが出ますね。
J-POPの歌、あなたはどのくらい聞き取れますか。テレビのなかのせりふは? タレントの言葉も、速すぎたり、はっきり発音されていないと聞き取りにくいでしょう。日本語なのにテロップがついています。
日本語は同音異義語が多いし、語頭と語尾が聞こえないとわからないため、やっかいなことばです。これは、発音、アクセント、イントネーションの問題だけではすまないのです。
次のところに気をつけて発声しましょう。
1.声量
2.発音、イントネーション
3.言葉の出だし
4.語尾
- テンポ
- トーン
- ピッチ(音の高さ)
○人前での声の使い方について
話し始める前には、ニッコリと微笑んでおきましょう。ほおをリラックスさせて、そして、ゆっくりと相手(複数のときも)の前にでましょう。相手をながめ、ときには、そこで相手を飲むのです。わざとらしいふるまいは、なくしましょう。相撲取りのようにホオをピシャっと気合いを入れては、やりすぎです。気合いを入れるのは、控室かトイレで済ましておきましょう。
人前で話すときは、一呼吸おいてニッコリする。マイクがあれば、おもむろに小さめの声で話し出す。これが最初に、人の耳を捉える秘訣です。
○話のスタンスづくり
アイキャッチ、目の焦点の合わせ方は、一人にピタッと合わすところから始めましょう。最初は気のよさそうな人や、よく頷いてくれる人に合わせます。お勧めは、品のよい(ものわかりのよさそうな)中高年のオバさんというのが定説です。
話のコツとして、ほほえんでいて、すべての話に頷いてくれる人を捜せといわれます。ターゲットが絞られると、落ち着き、早く自分のペースにもっていけます。
なるべく多くの相手が自分を見てくれていると思えるように視線を使います。だからといって、キョロキョロしたり、全員を見る必要はありません。前後、左、右と三方向に目を配れば、充分です。上達してきたら、難しい顔をしている人に挑戦しましょう。
聴いている人は動けないのですから、あなたがその代わりに動くのです。死角をなくしましょう。
あなたの動きに、視線がどのくらいついているかで、話にのれているのかをチェックすることもできます。
○気力を充実させよう
人と話すときや電話のときに、「声が届かない」とか、「何度も聞き返される」だから「声に問題があるのでは」といった相談をよく受けます。
そういうときの大半は、声が届いていないことより、その人自身に伝えるのに必要な気が満ちていないためです。いわば、集中力を高めて、主体的に切り出し、相手を真剣に聞く気にさせていないのです。
声はコントロールするものですから、気力や集中力は、必要です。オペラ歌手などは、一流のスポーツ選手なみのパワー、反射神経をもち、超能力者さながら、声を気とともに発しているといってもよいでしょう。
人前に立って人様に自分の体一つで何かを与えようとするには、何であれ、体力、集中力、気力は不可欠なのです。声も、その例にもれません。
次に伝わらない原因として考えられるのは、声の出し方のスタイルです。話そうとするのでなく、伝えることに真剣になることです。そのためには、相手をきちんと捉えて話すことからです。その人なりに話し方のスタイルというのが出てきます。それを、よりよい方向へブラッシュアップしていくことを、学んでください。
○姿勢をよくしよう
畳文化で猫背になりがちな姿勢をとってきたせいもあって、日本人の発声は、のどを圧迫し、こもったり、しゃがれたりしていました。また、そういう声を小さいときから、たくさん聴いていると、そういう声になっていきます。しかし、本当に機能を充分に発揮しやすくしたところの体の理にかなった発声は誰でもできるようになるのです。
自分が一番かっこよいと思う姿勢で、キリっと立ちましょう。原稿に目を移しながら声を出すと、前かがみになりますので、これはあまり、よくありません。のどの力を抜くために、肩や首をほぐしましょう。
声の出しやすい姿勢については、胸を張り、少しやや上に向けて、もちあげるとよいでしょう。すると、腰のまわりに少し緊張を感じるでしょう。そこの筋肉(背筋、側筋)が、声を自在に扱うためには大切です。
表情を豊かにしましょう。それが、声のトーンをつくります。
聞きやすい声は、伝えようとする気持ちと、そうした表情から生まれます。そのためにも、姿勢を正すことです。
○姿勢のチェックリスト
まず、本当に自然な声にするために必要な、声を出すのにふさわしい姿勢を習得しましょう。
次のチェックリストで確認しましょう。
□自然でゆったりした楽な姿勢にする
□顔はいく分、上向き
□目はしっかり見開く
□視線はまっすぐより少し上に
□舌先は前歯の裏 舌の両側を奥歯につける
□後頭部はやや後ろに
□あごは少しひく(うなじを伸ばす)、上あごより前に出ない
□肩、首に力を入れない 首は少し後方にひき、まっすぐおとす
□首はまっすぐ立てる
□胸をはり、やや上方に広げる 胸は広げたまま高く保ち、おとさない
□腕はだらっと下げる
□背筋は張っている
□お尻の筋肉を肛門の方向へ締める
□骨盤を前方に少し出す
□かかとは、こぶし一つ開く
姿勢のイメージトレーニング
1.映画のスターを気どってみる。オペラ歌手やヴォーカリストでもよい。
2.自分で一流ホテルの高級レストランで食事をするつもりになる。礼服を着ているつもりで。
3.モデルやタレントの姿勢を意識してまねる。
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