« No.338 | トップページ | No.338 »

第81号「トレーナー依存からの脱却」

○教えすぎない

 

 私自身はどちらかというと教えすぎるより、教えないタイプのトレーナーに好感をもっています。声や歌は、誰でも扱ってきたのですから、できていないなら教えられない、本人の感じ方やイメージが変わるまで待つしかないものです。今の時代、それではもたないので、対応としては、変わらざるをえないとは思うのです。

 ここには口伝の邦楽のお弟子さんも、師匠の許可をもらっていらっしゃる場合は、改めようと思ったのです。師も声の扱いは、自分の体験でしかないし、すぐれていたからこそ、他へ学ばせに行く度量もあるのでしょう。受け入れ先の私が同じでは困ることになると思ったのです。

 ヴォイストレーナーは、相手をトレーナーの好みへ沿わせようとしてしまう結果になりがちです。

 条件づけといって、初めてみたものを親と思う、生まれたての鳥のように、初めてついたトレーナーによって、その人の発声は、大きく左右されてしまうのです。それは多かれ少なかれ起きてしまうことです。自分を変えるためにトレーナーにつくのですから、よかれあしかれ、そこからスタートするのは、普通のことです。

 

○前のトレーナーの判断を知る

 

 先日も関西で有名なトレーナーに6年ほど師事した人が来ました。私のところは、長くやっているので、同じトレーナーのところから45人ほどくることが少なからずあります。すると、そのトレーナーがどういう考えやプロセスを教えているのかは、およそ、見当がついてきます。(来た人一人だけで判断することはなりません。)

 しかし、私も、私のところのトレーナーも、そこに6年どころか、12年のキャリアを感じることはできませんでした。

こういう例は、よくあるというよりも、ほとんどの場合が、そうだといえます。そのトレーナーの教え方が悪いのではなく、そのトレーナーから大きく学べた人もいるし、そうでなかった人もいるということです。

 うまくいかないから、他のトレーナーのところへ移るというケースは、当たり前です。

 うまくいっていないのに、本人やトレーナーが評価することもあたりまえのようにあります。この人は上京してきたためにいらしたのであり、そこにいたらずっとそのトレーナーについていたのです。

 

○客観化への努力

 

 私たちだけが結果を出しているといいたいのではありません。ただ、少なくとも私たちは組織でやっているので、客観的な位置づけや視点が得られやすいのは、確かです。トレーナーの方法との相性やプロセスの検証が、ある程度できるからです。つまり、研究所には、いくつもの学校が入っているみたいなものです。

組織といってもカリスマトレーナーの言う通りに、全トレーナーが同じやり方、基準でやったり、トレーナーがすべて同じトレーナーの生徒なら、私のいう組織ではありません。トレーナーの出身やキャリアが違うこと、特に皆が同じトレーナーに学んでいないことを重視するようにしました。

 

〇依存しすぎないこと

 

 なかには、あるトレーナーについたために他のトレーナーの指導を受けつけられなくなる人がいます。トレーナーといっても、それぞれにやり方や判断基準もプロセスも違います。組織やチームでやるなら、そこで統一すべきだという考え方でしょう。

しかし私は、トレーナー個々のノウハウや考え方を最大限、尊重しています。生徒が混乱してもよくない方向にいきそうなとき以外、口出しはしません。ときどき振替、代行をしてシャッフルするのです。私の経験からいうと、23年一人のトレーナーで早くよい結果をあげた人は、そのままではそのあとに伸びていきません。固まっているのです。ですから、サブのトレーナーを追加するか、一時交代させるととてもよくなります。

 

○やり方を統一しない研究所

 

 ここは、トレーナー全員が福島英のブレスヴォイストレーニング法という方法で教えていると思っている人が少なくありませんが、そうではありません。

 ブレスヴォイストレーニングとは方法やメニュでなく、それらを使うときの考え方なのです。といっても、どんなトレーナーのどんな方法でもよいということではありませんが。

 私自身、自分の本のメニュ通りに、教えたことはありません。10人いたら10通り、全く違うレッスンとなります。

 トレーナーにノウハウがあるのでなく、それぞれの人に、引き出すべき個性(違い)や能力があり、それを導くのがトレーナーだと思っています。

 

 トレーナーがいかに有能でも、あまりにトレーナーに左右されることを防ぎたいと考えています。指標を与え、ギャップをみせ、その埋め方のノウハウをわかりやすく教えるトレーナーは人気があるでしょう。しかし、そのコースは、トレーナーが一方的に引いただけにすぎません。ノウハウは、そのトレーナーのノウハウです。あなたがそれを材料に、自らの基準を高め、自らを知ることで、異なる自分独自のスキルにしなくては大した力になりません。

 

○トレーナーのノウハウ

 

 トレーナーについて一所懸命学んできた人の出す声は、そのトレーナーの半分以下の完成度もないのが日本のレッスンの現状です。腹式呼吸や声さえ、素人と変わらないことも大半です。

 考えてみてください。本当に伸びていたら、声なのですから、誰もがすぐにわかるものです。それが、変なくせや歌い方がついて、次のトレーナーがゼロから教えるよりも大変ということが、あたりまえのように起こっているのは、なぜでしょうか。

 トレーナーは自分一人で全てを与えられるなどと思わない方がよいでしょう。自分よりその人に向いているトレーナーがいると思い、知っていて紹介するくらいの度量は必要です。

 トレーナーの大半はお山の大将で、その判断さえつかなくなっていくのです。合わない人は黙ってやめるのでそういうことを学ぶ場や機会をもてなかったのです。優秀な声の使い手イコール有能なトレーナーでないということです。長年、歌の実績のある人がトレーナーとしてあまりうまくいかないのも、声の問題の特殊性でしょう。

 

○実力をつける

 

 私はトレーナーを信じてはもらいたいのですが、トレーナーがいなくては何もできないような学び方をしてほしくはありません。

マンツーマンのレッスンのよさは認めていますが、トレーナーに依存しすぎるのは、よくないことです。知らずとマンネリにもなり、お互いだけの了承下で進みます。できる人ほど早く、トレーナーの好みに声の出し方や歌い方になります。トレーナーそっくりになって、そこから抜けられなくなる人もいます。しかも、そのことに気づかないのです。それなら、歌をカラオケでまねているのと変わらないし、その方がまねている自覚がある分、ましかもしれません。

 

○長期で考える

 

 ノウハウなど、小手先のことを教えるよりも、精神的、メンタル的なトレーニングであった方が、長い眼でみると、よいとも考えます。

 私もいつ死ぬかわかりません。来る人のなかには、ここに510年以上いらっしゃることもあります。何年も経って才能が開花することもあります。担当のトレーナーや私がいなくても成立するように、私は当初から組織化しました。

 担当のトレーナーも留学したり、辞めたりすることもあるでしょう。そのときに、他にどのトレーナーを惹きつけないような実力、そして学び方をしていてはどうなりますか。

 

○基本の基本 

 

 ポピュラーや役者にまねは不用です。人が教えたり、人がつくったりすることはできません。タモリさんが自分は(故)赤塚不二夫の作品といったのは、最大の賛辞のことばにすぎません。

 基本の基本とは、声を育てたり、声を扱う体、呼吸をつくるという条件づくりです。どんなトレーナーからでも、どんな方法からでも、自らがもっとも厳しい条件を知り、そこで使えるようにしていけばよいのです。すべてを使う必要はありません。多くの場合、たった一つのメニュでも死ぬまでに充分なのです。その使い方を変えればよいのですから。

 

○トレーナーの教え方の違いと相性について

 

 いろんな本やここの会報でトレーナーのノウハウ、メニュを見ても、よくこれだけ違うと思えるほどいろんなやり方があります。

 ですから、ここにトレーナーや邦楽の師匠などもくることになるのでしょう。

 

○やりやすいのがよいのではない

 

 すべてやってみて、もっともやりやすいものから入るというのは、必ずしもよくはありません。しかし、それでもチェックができるなら、自分の中によいのと悪いのがあれば、よい方に悪いのをそろえる、そういうことになります。それをもし一人でできたら、けっこういいところまでいきます。多くは、悪い方にそろってしまうのです。そこでトレーナーが必要なのです。そこが一人ではなかなかできないので、トレーナーにつくのです。

 すると、けっこう合わなそうなやり方に出会うこともあります。自分にないものをつける、かなり足らないものを補うのなら、そうならないとおかしいのです。自分の中のよしあしを一度すべて捨ててトレーナーの体や感覚を盗むしかありません。まねても盗めないから、身につくまで待つしかないのです。

 

○合うトレーナーがよいのではない

 

 トレーナーも自分に合う人や、やり方がわかりやすく合わせやすい人が本当に自分にベストのトレーナーとはならないともいえます。ベターのレッスンとして、そういうトレーナーは、自分の悪いところを消してくれるでしょう。しかし本当に根本的に変わりたいなら、合わなくて、やりにくく、手こずるようなトレーナーやそういう方法の方がマスターできると、効果は大きいともいえます。

 ソプラノは、ソプラノの先生から学びやすいのは確かです。しかし、もしバスの先生から学べたら、もっと得るところが大きくなる可能性があるということです。パートに関わらず、性別も超えた人間の体というところの基礎で身につくからです。そう考えて、私は2タイプのトレーナーをお勧めしています。

 依存せず、主体的に自立してくださいということです。その判断をどうするか、自分ですると失敗する、トレーナーに依存できない、だからいろんなトレーナーから盗み、高度に判断できるようになるまで待つしかないのです。だから、一人より複数のトレーナーがよいのです。

 

« No.338 | トップページ | No.338 »

1.ヴォイストレーナーの選び方」カテゴリの記事

ブレスヴォイストレーニング研究所ホームページ

ブレスヴォイストレーニング研究所 レッスン受講資料請求

サイト内検索
ココログ最強検索 by 暴想

発声と音声表現のQ&A

ヴォイトレレッスンの日々

2.ヴォイトレの論点