第79号「客観視ということ」
○客観視するために
誰かに声を学ぶのは一人で学ぶよりもずっとよいことです。最初は仲間やサークルの同輩でもかまいません。一人でやるのと、比較・対象とするものがあるなかでやるのとは、違います。
録音して聴くことで、相手からの視点も得られます。作品として完成されたプロのを聞くのと違い、生のまま、ほぼ同じ条件のものに収録されると、違いもわかりやすいはずです。
先生と同じことができるレベルになることをめざして行なうと、楽器プレイヤーに比べて、声は著しく不利な点があります。一人として同じのど=楽器をもっていないからです。
噺家の師匠を弟子が同じようにしては超えられず、別の芸風で乗り越えようとしたように、守破離のプロセスが必要です。声だけならなおさら、より早い見極めと離脱に移るのが大切です。これが複数のトレーナーを勧める理由です。☆
○リスクの分散
最初から見本を一人に絞り込まず、複数に分散しておくことでリスクをさける点、複数のトレーナーをもつことは理にかなっています。一人のトレーナーを選ぶなら、最初のレベルでの相性や好き嫌いで自己制限してしまいます。それよりは多くのパターンとまねを経験するチャンスを得ることでしょう。絞り込むまえに広げておくのです。自分の好き嫌いを超えた得手不得手を見極めるためです。
師を選ぶのは好き嫌いです。多くの人が芸の道に入るのは、好きな芸、好きな人からです。それは自ずと、自己否定から、そのまま師の見本コピーへと入ってしまいます。相手がトレーナーとなると自己肯定、つまり自分の判断で選んでいくのが、絶対という人が少なくありません。
一人でやっている人は、常に自己否定か、一人よがりの両極端から抜けられません。
○根本的な問題
師はスターであり、トレーナーのこともあります。しかしヴォイストレーナーはトレーナーで、師ではありません。本人には客観視させる能力をつけさせる力が問われます。
発声法だけとして教えるのであればテクニカルコーチとして、トレーナーは最適かもしれません。しかし、そのやり方はどこに使えるのかとなれば、多くは、弱点補強にしかならないでしょう。
問題がそれだけであることは少ないです。それが根本的な問題をみえなくします。オリジナリティや長所をみつけたり伸ばしたりする妨げになることです。現実は、効果が早く出やすくわかりやすく、習う人も実感しやすいから優先されます。それが目的となることが大半なのです。
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