Vol.79
○腹式呼吸のトレーニング
声を使うときに必ず言われるのは、腹式呼吸です。しかし、これほどやっかいなものはありません。なぜなら、腹式呼吸が大切なのではなく、どのくらい声を呼吸でコントロールすることができるようになっていくのかどうかが問われるからです。
腹式呼吸は、特別にそういう呼吸法があるのではなく、誰でもやっています。あおむけに寝ころがって息をすれば、そうなっています。しかし、それが、いつもの声に応用でき、声を出したときに腹式中心にコントロール(常に腹式と胸式は共存するのですが)するのは、大変なことなのです。
まずは、ブレストレーニングからやってみましょう。
よい姿勢をキープしたまま、息を吐いてみましょう。のどがカラカラとかわくような吐き方でなく、お腹の底から楽にゆっくりと吐きます。喉はしめず、深く絞り出すようい吐いてみましょう。吐き切ったら、少し止め、そしてゆるめます。すると、自然と息が入ってきます。
これを、体の動きとして意識します。口で息を吸っているのでなく、息が体に入ってくるように感じてください。
首を回したり、肩を動かして、常に緊張を解きほぐしておきましょう。肩と首の間、胸とわき、肩との間の筋肉は、もみほぐしておくとよいでしょう。
上体を前屈させると、お腹の前のほうが押されるので、背筋や側筋が使いやすくなります。息を何回か吐いてみましょう。横隔膜は、肺の下にお椀をふせたような形でついています。前腹を鍛えるのでなく、胴回りを均等に動かせるようにしていきます。使いにくい背筋や側筋の動きを加えていきましょう。
- 息を吐くトレーニング
1.ゆっくりと息を出し、出し切ったら、2~3秒止め、自然と息を入れる(10回)
2.息を(ハッハッハッハッ)と犬が走り終えたときのように速く吐きつづける(30秒)
3.時計をみながら、5秒、なるべく速く吐き、5秒休む(30秒)
4.全く均等になるように意識して息を吐き出す(10回)
5.少ない息から、少しずつ吐く量を大きくしていく(10回)
6.まっすぐすくっと立ち、上半身を中心に大きく体を動かしながら、息(声でもよい)を出す(オイチニイ、サンシ、ゴー、ロク、シチ、ハチ)
最後に息をコントロールして、一定に吐いてみましょう。「Si(シー)」でチェックしてみましょう。
○腹式呼吸とは何か
深い呼吸は、健康の証拠です。お腹の底から発された声は、おのずと説得力があるのでしょう。
お腹からの呼吸を、腹式呼吸といいます。これをうまく使うと、息をうまくコントロールして声にメリハリがつけられ、話の調子をつくり出せます。意味のまとまりを語勢につけ、話を力強く展開していくことがしやすくなるのです。
しかも、あがりからくる緊張などの影響をあまり受けません。
あがると、声が細かくふるえたり、声の大きさがうまく調整できなくなります。ひどいときは裏返ります。心臓がドキドキして呼吸が浅くなり、お腹で支えられなくなるからです。
しかし、腹式呼吸が中心なら横隔膜で支えるため、のどに負担がかからず、よい声が持続して出せるのです。
そこで、日頃から腹式呼吸を意識して身につけていくことをお勧めします。
話すとき、歌うときには、腹式呼吸が、大切なのです。
○深い声と共鳴(ひびき)の確認
日本語がとても浅い息で発音できる言葉であるため、また、日本人の生活の慣習もあって、体や息を使った発声があまり習得できていません。日常の言葉の発声のひびきにおける外国人との大きな差を感じる人もいることでしょう。腹から、胸から、声が出しにくいのです。
そのため、日本人の多くは、しっかりした声にせずに口先や口内でこもらせています。その結果として、声量や声域がなく、くせはあっても個性的な声も出にくくなっています。
ヴォイストレーニングといっても新しい声をつくるのではありません。まずは自分の本来、機能としてもっている声を最大限に発揮できるようにしていきます。それには、今のベターの声の発見と、それを常時、使えるようにするためのトレーニングが必要です。
○ことばのひびき
多くの人が、ひびきというと歌のことを考えるでしょう。でも言葉としてのひびきも、大切です。声だけを無理にひびかそうとしても、うまくいかないものです。声は深い息で出すことを身につけないと、後々、自然に伸びていきません。
深い声で出た言葉は、しっかりと相手に伝わります。日常的に出している声が魅力的になるので、すぐにわかります。
少し大きく出して、のどの、どのあたりがひびくかチェックしましょう。のどがビリビリというのは、よくありません。
胸の中心にひびきを集めてみましょう。言葉としては、「ハイ」がやりやすいようです。子音で強い息でも、出せるからです。
肋骨、背骨、尾てい骨に手を当てて、チェックしましょう。体の下のほうまでひびいているほうがよいのです。うまく均等に、結果として、ひびくイメージをもちましょう。あご引いて、首や肩、舌などの力は抜くことです。
○声のひびきを確かめるトレーニング
1.んアーんエーんイーんオーんウー
2.んガーんグーんギーんゴーんグー
3.ナーネーニーノーヌー
4.マーメーミーモームー
5.んーアーん、んーエーん、んーイーん、んーオーん、んーウーん
○ミラートレーニング
鏡を使います
口もとや、顔をくしゃくしゃにして、自由に動くようにしましょう。
黒目はまん中にくるようにします。上目、下目、横目づかいは悪い印象になります。
○声の高低、強弱、メリハリ、テンポ(ペース)
話を聴いている人は、話に心地よいリズムとテンポ、声に流れと心地よさを求めています。話が単調に続くと眠くなったり、飽きてしまったりすることもあります。
話し手は、話の伝え方に注意しましょう。内容だけでなく新鮮なパワーを入れなくてはいけません。
自然にリラックスしていて気持ちのよいことと、パワーやインパクトの、どちらを優先させるかは、その人のスタイルにもよります。この二つがよいバランスで整うと、聞きやすくなります。つまり、聴き手に努力を強いない声になり、耳に残るのです。
あなたが主役の立場であれば、厳かにゆったりと話し出しても、耳をそばだてて聞いてくれるでしょう。しかし、そうでなければ、人をひきつけるためには、出だしに声のインパクトとパワーをもたせ、高いテンションで切り出しましょう。話す人が熱意にあふれていてこそ、その声は人の耳に届き、人の心をひきつけるのです。
○声量を変えるトレーニング
1.(大きな声で)
「おーい、誰か、呼んでくれ。高波が来るぞ。」
「そこの人、おーい、早く出なさい。」
「波が来るぞ。おーい、すぐに出なさい。」
2.(小さな声で)
「これは誰にも言わないで。本当はあの日、行かなかった。だけど、そんなことになっていたなんて」
3.(大きな声と小さな声を組み合わせて)
「いったい、どうした。これ。」「えっ、なぜ泣いているの。」「誰も知らない。いなかった。」「今まで放っておいたわけ、いったい。どうして、本当にまったく!」
○感情をとり出し、表現にメリハリをつけるトレーニング
次のどちらかの言葉を選び、( )内の感情を込めてニュアンスが伝わるように表現しましょう。
1.(意外そうに)
「どうしてここにいる? 実家に帰っていたんじゃなかった。」
2.(びっくりして)
「まだ帰ってないの?」
3.(驚いて相手を見る)
「いったい、何があった」
4.(おづおづと)
「怒っているの?何か悪いことを言った?」
5.(いらいらして)
「いいかげんにして、もう!つきあっていられないわ。」
6.(ムッとして)
「それは、どういう意味ですか?」
7.(反抗的に)
「知りません。なんですか」
○テンポに変化をつけるトレーニング
読む早さに変化とメリハリをつけてください。
1.(ゆっくりと やさしく)
「おばあさん、大丈夫ですか。荷物をお持ちしましょうか。同じ方向ですから、気にしないでくださいよ。」
2.(急いで あわただしく)
「すみません、どいてください! …もう、時間がないっていうのに。どうにかならないの?どいてください! ああっ、もう間に合わない」
3.(緩急組み合わせて自由に)
「おーい、まってくれー。忘れ物。早く早く、行かなければいけないんだから。ああ、よかった。もう」
○強調の方法
言葉の意味を強調するには、次のような方法があります。
1.高くする 低くする
2.強くする 弱くする
3.のばす 切る
4.速くする ゆっくりにする
5.間をあける 間をかえる
「久しぶり、何年ぶり、少しもお変わりありませんね」
強調したい言葉で、高く、強く、大きな声にします。その逆もやってみてください。
○抑揚と強調のトレーニング
「じっと している だけで は よくない」
これをいろいろと語調、語気、語勢、間を変えてやってみましょう。
1.語調 高低
2.語気 強弱
3.語勢 緩急(テンポの変化)
4.間 その前後の音の高さに気をつけましょう。
そこで、言葉のニュアンスを発見し、感じてください。
言葉の一つひとつに、いろんな情感(エモーション)が入っていて、それが伝わることが大切です。そういう表現ができるためには声、言葉に関心をもって、いつも感じてみることです。こういった音の世界の動きを、感性で快さとして捉えていくことが目的です。声の魅力に親しみましょう。
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