Vol.80
○プロミネンス(prominence 強調)
プロミネンスとは、表現を相手に強く伝えることです。強調してはっきりと伝えることを示します。全ての言葉を強く言うと、均等化され、平坦になります。
それを避けるため、特に意味をもつ大切な言葉だけを強調します。ただし、大きく言ったために、発音が不明瞭になったり、何を言ったのかわからなくなるようでは、本末転倒です。
文のなかでは特に伝えたい言葉があれば強く言うのが原則です。強く言うと、大きく高くなりがちですが、結果的に、しっかりと伝わればよいのです。
ですから、大切な言葉をゆっくりいうとか、太くいうこともあります。短くはっきりというのも、表情や方向を変えていうのも、プロミネンスです。そのために、その言葉の前後を弱く言うとか、前後に間をとることもあります。
つまり、プロミネンスとは強弱アクセントではなく、語や文章そのものを強めるということです。
○強調のトレーニング
(1)低く、弱く読む
強調したい言葉を、声を低く弱く、小さな声にして読みましょう。カタカナの言葉の意味を強める気持ちをこめて音読します。
1.音もなく スゥーと 消えたんです。
2.教室で シズカに 自習をしましょう。
3.ここに置いたはずなのに、ナイなんて おかしい。
(2)伸ばして読む
一つの音を長く伸ばすと、その言葉の意味が強調されます。
広い海岸→ヒローイ海岸 小さな子供→チーサナ子供
長い坂道→ナガーイ坂道 冷たい雨→ツメターイ雨
言葉の一つ(形容詞、副詞)を長く伸ばしましょう。その言葉の意味を強める気持ちをこめて音読します。
1.オーキイ 犬がいたら注意してね。
2.ぞうさんは、 ユックリと 歩いていきました。
3.ほら、チャント あなたの本もありますよ。
4.そんな オカシナ話があるものですか。
(3)速く読む
言葉を、声を速めて、つまり早口で読みます。言葉の意味を強めるため気持ちをこめて、しっかりと音読します。
1.そうじを テキパキと 終わらせる。
2.めだかが スイスイ 泳いでいるわ。
3.幸い、わたしの勘が ピタリと 当たった。
(4)間をあけて読む
間をあけて言葉の意味を強調する方法があります。いろいろな間のあけ方とその効果を学びましょう。
「わたしは、あの人が、だいすきです。」の文で考えてみましょう。次に読点(テン)のところで間をあけて読むことにします。その変化による意味の伝わり方の違いを感じてください。
1.わたしは、みんなが、だいすき、です。
(「だいすき」の上と下で間をあけて「だいすき」と速く読む。)
2.わたしは、みんなが、だ、い、す、き、です。
(「だいすき」の一つひとつの音をゆっくりと間をあけて読む。)
3.わたしは、みんなが、だーい、すき、です。
(「だいすき」の上と下と、中間で間をあけ、「だーい」と伸ばす。)
4.わたしは、みんなが、だいっ、すき、です。
(「だいすき」の上と下と、中間で間をあけ、速く読む。)
○ポーズ(pause 間)
話のなかで音声がない空間、時間を間といいます。そこでは話が休止したり、終止したりしているのではありません。間は、言葉を生き生きさせ、伝えるために、大きな働きをしているのです。
間のない読み方をしてみてください。あなたがどんなに饒舌でも、早くなるほど、聞いているほうは、疲れるでしょう。聞きづらい人、飽きさせる人は、間をうまく活かせていません。間は短すぎても長すぎてもいけないのです。間は、状況に応じて選択しなくてはなりません。
間をおくにも、間を破るにも、呼吸の力が必要です。呼吸が間を決めます。
緩急、強弱といったメリハリのなかでの一方の極が、間であるといえます。
時間、空間、そして、人間、すべてに“間”という字が入っています。間は魔であるといわれます。それだけ重要なことなのです。
○声を伝わりやすくする「間」の使い方
間のおき方によって、聞いている人にわかりやすく伝えることができます。間をうまくとるとわかりやすく聞こえます。
間のとり方を間違えると、伝えることが伝わらなくなったり、意味が変わることもあります。
間は、息つぎにも関係してきます。体の状態のよくない人の言葉は、とても聞きとりにくいものです。声を送り出す息や間が、聞こえないからです。
このように呼吸は、表現を伝えるために、とても大きな働きをします。呼吸の合っていない言葉は、とても聞きにくいものです。聞いている人も呼吸をしているからです。息の流れを無視しないことです。呼吸や息つぎをうまく利用することによって、声に大きな表現効果をもたすことができるのです。
間は、プロミネンスと切っても切れない関係にあります。「うん、そうか、あのね」と「うーん…。そうかぁ…あのね」とでは、全く違うのです。
○間の練習
間は多くの場合、「こっちを向いてください」「私をみてください」「これから、大切なことを言いますよ」というような意味合いをもちます。間をとるためには、どこかをより速く言わなければならなくなります。全体の流れ、リズムがあるからです。こういうことにも、慣れていくことです。
1.言葉の緩急
/のついているところまで速く、//のついているところまでゆっくり言ってみましょう。
わたしの姉は、/ここからずっと離れたところに//引っ越しました。
2.間合い//で、適当な間をとってください。
まあ//あんた//どこへ行ってた
プロミネンスのためのポーズです。ここでは、ブレスをしないことも多いのですか、間をおくことで、次の言葉を際立たせます。つまり、声をとめることによって、次に口から出てくる言葉を目立たせるわけです。
3.「わたしは、この人が好きです。」
これを、「この人が」にプロミネンスをおいて、大きな声で強調すると、まるで何か事件があって、皆のまえで訴えるようになってしまいます。親しい人に「この人が」と伝えるのなら「わたしは」のあとに、きっと間を入れることでしょう。「この人が」を小さく、ゆっくりと言うことによって強調することもできます。意味を正しく伝えることだけではなく、言葉に意味をしっかりと含め、言いたいことを際立たせるために、間が使われるのです。
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