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90号 「なぜ日本からは声で世界に出られないのか」

○日常の声の使用量の不足

 

 日本人の生活や文化は、特に耳で聞く声よりも、目でみる視覚に多くを負っています。私はその考察のための材料をたくさん持っています。しかし、ここでは日本語が「聞く話す」よりも、「読み書き」にすぐれていること、日本発の文化はビジュアルがメイン、J-POPさえ、声や音よりもビジュアルで世界から評価されていることをあげるに留めます。

 日常レベルでの音声の必要のなさが、声の使用頻度の少なさになっています。量も強さ(大きさ)も他の国の人の何分の一かになっています。この傾向は、今世紀になってますます強まっています。

 聴き手の耳の変化で、声の強い表現力を拒むようになってきていることが気になります。

 

○声の弱化

 

 私の企業研修のテーマが以前は、「大きくはっきり伝える」だったのに、最近は、「感じがよく伝わる」ような声を求められるようになってきました。上司の大きな声だけでパワハラに近いと思われる、そのようなことが現実にあります。

 日常の声レベルは基本ですから、そこでの差はハンディキャップです。そのままではオペラもポップスも邦楽も噺家も成立しないのです。歌については、音響とレコーディング技術の進歩と、聴き手の耳の変化が支えているのです。ここでは日常で1時間声を使えない人が、本番で1時間、声を使えるわけがないという常識を掲げておきます。

 

○体を元に考える

 

 今のポピュラーのヴォイトレというのは、高い声で出す、そのために喉声を回避します。喉声ゾーンを避け、喉の息をあけ、頭声にひびきをもってきます。ほとんどこれだけのノウハウです。日本の声楽も高音域獲得のために、同じことをやってきました。頭声から入って、小さな声しか使わないことでカバーします。リスクはなくなるのですが、形だけのノウハウです。声を調節するだけでなく、声を鍛えてまで変えるという考え方をとっているものは少ないのです。ですから体が使えないのです。私のヴォイストレーニングに胸声、頭声を加えて全体像としてわかりやすくしました。

 

○調整メインのヴォイトレ

 

 鍛えない理由の一つは、欧米のメソッドの輸入です。外国人は、すでにこのレベルの声が日常生活でマスターされていて不用です。もう一つは日本人のトレーナーの大多数が、のどが小さく、高めが出しやすい人なのです。あまり日常の声のよい人はいません。本人自ら、話す声がよくないと述べている歌い手やトレーナーがとても多いのは、日本の特徴です。欧米のテノール歌手にもそう言う人がいますが、日本人のトレーナーほど悪くはありません。

 そういうヴォイトレは、声をよくするのでなく、高い声を出せるようにすることが目的です。元からそういうことのできた人ですから、同じような人にしか通用しないことが多いのです。やり方自体は、間違いではありません。高い声は高い声を出しているなかでしか出てこないのです。それはどんなに喉のしくみを知ったところで同じです。

 

○「のどを鍛える」ということ

 

 声帯を鍛えるという考えの人には、アナウンサー、役者、声楽家の一部では、確かな音源として、息を強くして強い声にしようとしている人もいます。ひびかせるにも、声になっていなければ仕方ないので、一理あると思います。私は、低いところでのどの開きをキープするため、軟口蓋を感じる音としてガ行を使っています。

 ほとんどのトレーナーが否定するのは、大声トレーニングです。特に大声で高い声を出そうとすることです。喉で無理に声をつくった人のなかに、あとで脱力したやり方を知って、自分は方法を間違えていたと思う人が多いからです。もしその後、その人が発声をマスターしているのであれば、この無理、無駄なようなトレーニングが、実のところ、効いたのかもしれません。ここは微妙な問題なのですが、誰しも今の肯定のために過去を否定したがるのです。そして、そういう人は他人に苦労させたがらないのです。

 

○間違えとう間違え

 

 声を正しく使う前に、声を使う段階がいるのです。フルマラソンを走るまえに、ジョギングの期間が必要かといえば、あたりまえでしょう。

 走りすぎて痛めたから、やり方が間違っていたとして、やり方さえ正しければ、もっと楽に早くできたと思い込む人が多いのです。その人が今、前よりもよくなっているのなら、役立った可能性は否定できないのです。

 発声が楽になったことだけでいいと思う人が多いのです。これも問題です。表現レベル、心が息で伝わるものになりましたか。日常の声から変えていくことで私は声をみているのです。

 

4つの喉

 

 一人ひとり違う喉があり、育ちがあり、その上でもっともそれを活かせる使い方があります。次の4つを一緒くたにして考えないことです。

 

1.自分の喉そのものの形態

2.自分の喉の育ち (喉のもつ条件、過去歴、鍛えられ度)

3.自分の喉の今の状態 (今の使われ度)

4.自分の喉の使い方

 このうち今のヴォイトレの大半は、34が中心です。

 ギターで例えると、1はギターの素材やつくりそのもの、2はつくられ方やなじみ方、3は弦の張り方や手入れ、4は演奏の仕方やその腕前となります。

 トレーニングは、将来に対して基礎となる条件を変えていくことです。4の前に3があります。これは最近の練習にあたります。高い声を出すと、高い声が出やすくなるとか、喉の使い方に対応して、およそ23ヶ月から半年単位で、喉の筋肉のつき方も変わります。そこは2に関わっていきます。このあたりがレッスン、トレーニングでの位置づけでは、12年の効果にあたります。

 

○条件を変える

 

 日常の声まで、その条件を変えるなら、2(一部は1)に踏み込んで、35年は最低限要するでしょう。そのつど、4は調整しなくてはなりません。

 

1.喉 2-12-2

2.喉の育ち、条件 1-22-1

3.喉の今の状態をよくする 1-11-2)~2-23-1

4.喉の使い方 1-13-2

 

 このときに、胸部を補うのに一時、2-23-2を強化しようというのが、役者声、外国人声としてのレベル、その条件づくりを日常声とする私のヴォイストレーニングです。

 これらは発声法(方法論)としての正誤でなく、目的によるトレーニングの重点の違いにすぎないのです。どんな方法でも、どう使うかが大切です。

 

○日本人のヴォイトレの欠如

 

 私は正誤の議論をしたいのではなく、日本人の、特に浅い声の歌手、役者、トレーナーに対して、欧米を含め、世界中の民族が共通して持つ条件の欠如を指摘してきました。芯のない声にひびきをつける(低音のない高音)のは、根のない茎のようなものです。いつまでも大きな花はつけられないということです。

 生まれつきとか、喉が強いとか、鍛えられているから、凄い声が出るのではありません。育ちや日常レベルでのしぜんな鍛錬(というのは、年月が長いと無理しなくとも、必要条件が宿る)によるものです。それこそが本当の意味で、日本人のヴォイトレの必要性です。

 

○ヴォイストレーニングの意味

 

 トレーニングというのは、もともとふしぜんに無理なことを行なうことです。同じ日本人でも20年生きて、歌い手や役者に耐えうる声を育ちの中で得てきている人と、全く使わずにきて、トレーニングが必要な人がいるのです。なかには、声を長時間出す。大きく出す、長く出すなども難しく、喉そのものを鍛えなくてはならない人もいます。

音声ですぐれた国のトレーナーや歌手になれた人、日本でも小さい頃から声を使ってきて、すでに声の鍛錬が日常での育ちに入っている人には、わからないところです。

 

○自然派

 

 トレーニングで喉を壊したり、悪化させた後に、それをやめて頭声での共鳴をつかんだ人は、それまでの過去(喉や胸声のトレーニング)を全否定してしまいがちです。こういう人は、私の理屈通りに実践していながら、他人に教えるときは、それを否定します。そして頭声の発声だけにしたり、ヴォイトレはさせず、呼吸法だけ、あるいはそれさえも害として、発声はしぜんに習得できるというような方針をとりがちです。私はそれを自然派とよびます。

 日本の業界には、多く、海外の方法などを学んで、さらにその傾向を強めます。その人ほどにも声の出る人を一人も育てられないことが多いです。

 

○声楽のテクニック

 

 ジラーレ、アクートなどの声区での変化、融合、ミックスヴォイスについて、またファルセット、裏声、地声、頭声、胸声、ビブラートなどは本来、個々に取り上げる必要のない問題です。

 

 喉のところで出している声を喉の奥をあけて共鳴を集めます。そのために鼻やほお骨、ひたい、眉間、頭のてっぺんまで持っていくのですが、そこにいろんな共鳴の体感イメージがあります。私は縦の線上というイメージを与えています。顔の表面でも、のどの奥から両眼の間でもいろんな線が引けます。いろいろ試して変化させていけばよいでしょう。いろんな教え方や感じ方があります。どれと決めず、自由にしておいてよいと思います。

 高いところで、C3C52オクターブを考えてみると、12箇所、声区のチェンジのポイントが出てきます。mnなどの発音を使用することが多いです。これを教わるか、しぜんに待つかです。しぜんといっても勝手にはできないのです。

 

○胸声と頭声

 

 胸声部も高い声と同じで、縦の線上でイメージしていきます。喉から下の方へ胸の真ん中あたりに出口を感じます。喉が離れにくいので、頭の方へのひびきを一度除くとよいでしょう。首から上では音をひびかせないという感じにするのです。ここは、先のC4から下の1オクターブ、歌では、あまり使いませんが、話声区と、さらに低いところとなります。

 そこで得た胸声をキープしつつ、ハミングなどを通じて頭声へ共鳴の切りかえができると、多くの問題は解決します。つまり、上下2本キープしておき、縦の線をイメージして、共鳴はその線上で行き来を、自由に扱えるようにするのです。低声部を先にマスターしていくのもよいと思います。

 

○「ヴォイストレーニング基本講座」の発声理論(Ⅰ)

 

感覚では、裏声、ファルセット 1-1(~1-2

頭声、1-11-2

(喉声 2-12-2

胸声、2-23-2

 

 これは、トレーニングの発達段階でいうと、2から、1へ伸びるとともに34へ伸びるイメージです。

つまり、素人 2-12-2

アマチュア 1-23-1

プロ 1-13-2

一流のプロ 0-14-2

 イメージですから、実証はできませんが、体感として、縦に伸びる方向にしておくのです。

ベルディング唱法は、3-11-2くらいです。2-1でつまる人がいます。そこで否定されるのでしょう。

初心者は、1-23-1を別々に意識して、そのうち結びつくと思えばよいのです。

3-2(~4-2)が芯(1-11-2)が天井と思うのです。その中でどのような線を引くかが、発声トレーニングです。体、声づくりとしては、1-13-13-2)を埋め、自由に扱えればよいのです。

 

○「ヴォイストレーニング基本講座」の発声理論(Ⅱ)

 

 日本人の歌手や声楽家には、1-11-2だけで勝負しようとしているように思えます。頭声と同じく胸声も、あてたり押しつけたりすると、2-12-2のひびきを増幅させ、拡散させてしまうだけです。

 上(高い声)の線で下(低い声)の線との折り合いをつけるのは、民謡など邦楽でも共通のことといわれています。名人は、上だけのひびきだけの歌唱を批判しています。

 声区のチェンジがグラジュエーションのように、なめらかになるには、(2-12-2)を使うのでなく、上のときに下で支え、下のときにも上で響きを感じていることが必要です。

 

○「ヴォイストレーニング基本講座」の発声理論(Ⅲ)

 

 日常の声は、日本人は2-12-2、 欧米人は、1-23-1、 ロシア人あたりには、~3-2もいます。

ここから歌う声を、日本人は、2-23-1の胸声の支え(戻れるところ、感覚=芯)をもたずに、1-12-1で勝負しているのです。ボーイソプラノがそのあたりです。

また、2-12-2を入れて、ハスキーにしている人もいます。どちらも、2-23-1に、話しているときほどにも落ちないのです。

なお、4-2で内股への緊張の感覚は、低い声(4-1)よりも、高い声(1-1)の支えに起こります。正しく発声を学んでいると3-2に集めた瞬間、1-1のひびきが同時にとれる(あるいは、移行する)、これを私もベルカント(よい声の)唱法のマスケラと考えています。

 

 

Q.プロデューサー、ディレクター、演出家など、他の人からの評価やアドバイスをどのように受けとめたらよいですか。

 

A.他人の評価については、自分にプラスに活かすことだけを考えてください。

ほめられたら、身を引き締めるようにし、批判されたら、直すべきことは直しましょう。それ以外は課題にするか、忘れるかです。ノートに記録しておくとよいでしょう。

誰がどういう立場でいったかによって、意味はかなり違ってきます。それに応じられなければ、仕事がなくなるようなケースもあるでしょう。

相手のものの見方や価値観、好き嫌い、コミュニケーションの取り方、自分との関係やこれまでの流れ、その人の関わるところ、私的事情と、みえないものはたくさんあります。それをすべて察するのは無理なことです。全てを正しく受けとめられると限らないからです。

何人か複数に聞くと、少しは客観的に理解できたり、わかりやすくなることもありますが、だからといって、何でも第三者に解釈してもらうのは危険です。ここにもよく先生やまわりにいろいろといわれたという人がきます。「まわりのいうことはあまり気にしないようにしましょう」というアドバイスもします。

 

〇アドバイス

 

 声や歌については、私のいうことの方が信用してもらってもよいでしょう。私も長くやってきたので、相手をみて、コメントは加減します。レッスンやトレーニングは、時間をかけて変わればよいのですから、よほどのケースを除いては、ズバッと悪いことだけをいうことはしません。それがトラウマになるリスクで、レッスンもやりにくくなるからです。

 他のところで評価が甘くて、厳しさを求めにきた人に対しては、具体的にとことん伝えます。感想や感じでいうのでなく、そう感じるのは「ここがこうなっているからで」「ここがこうなればよくなる」、そのために「こうすればよい」というところまで述べます。

 

〇アドバイス(Ⅱ)

 

 トレーナーに何かをいわれてきてわからないという人には、その意味を具体化して、伝えます。原因と対処法をその人に対して与えます。それを直す必要があるか、直らないときにはどういう対処ができるかを伝えます。

 ケースによっては、まねして、欠点として相手にわからせ(やや誇張してみせる)、直した形をみせます。目的によっては何が足らないのかを示すこともあります。

トレーナーにはできても、その人のできないことについて、すぐにまねさせてやらせることがよいのかどうかは、難しい判断です。問題にもよります。なかなか深い世界なのです。

 

 

 

「世界に通用する声にするためのレッスン」

 

○声だけの力

 

 声は声で、ことばやメロディをつけなくては通じないわけではありません。歌手は歌に使っている声で歌っているし、噺家や役者、声優、アナウンサーなどは、ことばに使っている声でしゃべっているともいえます。

 この場合、声はツールで、歌やせりふとして問われているのです。

 しかし、私が考えるのは、声だけの力であり、歌やせりふにしなくても通じる声の力の養成としてのトレーニングです。

 

○本当のギャップ

 

 声自体の力が、海外の歌手や役者と比べて大きく劣っているのが、日本の歌手、役者です。日常レベルでの差を、一般の人で比べても明確です。

 私は最初から、外国人の一般の人のレベルに、日本人は何とかベテランの役者レベルで追いついているくらいと述べてきました。極端に言うなら、「ワーッ」と叫んだときの声の差です。そこを解消しないと、本当のギャップは埋まらないと思っています。

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