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94号

○歌唱に結びつくヴォイトレ、結びつかないヴォイトレ

 

 ヴォイトレも、多種多様です。

 歌手の指導をしているヴォイトレは、歌手が相手、アナウンサーや声優の指導をしている場合は、アナウンサーや声優が相手、もっとも多い相手が、そのトレーナーの専門、つまり出身分野になるのはいうまでもないでしょう。

 私はそれらの基本、ヴォイトレ=発声の基礎と捉えています。そのために、どこよりも多彩な分野の人がきています。歌手の先生では対応できない分野や他に行くところのない人がたくさんきています。

 私にとって、ヴォイトレは基礎の基礎、それゆえオールマイティです。声は応用すればオールカバーできます。その分、質や内容が薄くなりかねないので、他のトレーナーや専門家と組んで、フォローしているのです。

 

〇声楽家のトレーナー

 

 トレーナーは声楽家が中心ですが、それは、共鳴の専門家として言語の元となる母音レベルで行なっているからです。ちなみに「音声」というのは、単に声でなく、何らか伝わるもののある声、つまり意味、感情を伝えるという使い方をしています。

 体のメンテナンスが万人に共通するところが大きいように、声のメンテナンスとして、歌手にも、俳優、ビジネスマン、一般の人にも共通なところにヴォイトレをおいています。

 歌唱指導には、声楽家がヴォイトレとしてはもっとも有利な位置にいると思います。歌唱の表現に近いのは、プロデューサー、作曲家、カラオケの先生、歌手出身のヴォイストレーナーかもしれません。それは歌い方や歌のための声の使い方で、声そのものを育てるヴォイトレ(これは私の狭義の定義にすぎません)とは異なるでしょう。

 目的により使い分けたらよいことで、どちらの方法が正しいとか、間違っているということではありません。

 スポーツも、監督とテクニカルコーチ、パーソナルトレーナー、マッサージ師、医者など、役割が分かれています。ヴォイストレーニングにも、同じように考えています。

 ヴォイストレーナーの場合はいくつもを兼ねていることが多いし、相手によって対応が異なるので混乱しやすく、いい加減になっているのが現状です。それに対応するには独力でなく、各分野の専門家を組織するとよいでしょう。理想としては、あなたの伸ばしたい能力を分析して、それぞれにコーチをチームとしてつけるのです。

 

○ヴォイトレにおける正しい方法

 

 私は、指導を複数のトレーナーを交えて行なうことにしました。単に私の手伝いでなく、私と分担したり、私抜きにして、どのようなプロセスでどう効果が出るのかを検証したかったからです。検証するには、自分一人で自己評価しているだけではダメです。

 私のやり方を他の人にもやってもらったり、他の人のやり方でやってもらい比べてみます。

 ヴォイトレを受けてもらうのでなく、他の人に同じやり方で指導してもらうことで、検証できます。ただ、ヴォイトレでは、同じことといっても、その人なりのやり方がいろいろと加わり、変じていくものです。おのずと、人を育てることにもなります。

 正しい、間違いというのでなく、変じていく、応用されていくのです。改良するとどこかが否定されたり、落とされ、新しいものが加わっていくのですから、違うやり方のようにみえることもあります。

 試行錯誤を繰り返してきて、私がいえることは、「たった一つの正しい方法がある」という考えを捨てることが大切だということです。

 いろんな方法もあり、いろんな可能性もあり、いろんな人がいて、いろんな声もあり、いろんな唄もあるのです。

 逆にいうと、「これが絶対だ、他のは間違っている」という人のは、正しくないということです。

 

○一方に偏向しない

 

 「どの方法もよくない」「方法を使うこと自体がよくない」「しぜんのままがよい」という人もいます。これもよくある独断の一つです。

 一つの方法が正しいと思うと、他の方法を否定したくなるものです。これは歌唱において、一つの歌唱を正しいとして、他の歌唱を否定するようなものです。

 優れた人ならその危険性を知っています。他の人に習ったり、他の情報を得たり学ぶことを禁じません。振り回されるのは、トレーナーや方法を一方的に妄信してしまった人です。こういう人は、一時、はまった分、一度、嫌いになると全てを否定するから困るのです。

 トレーナーも方法も、あなたが自分を伸ばすために使うものです。それでうまくいく人もうまくいかない人もいるのです。

 うまくいかない人は、トレーナーや方法の問題でないことが多いといえます。うまく使えるようになるように努力することがあってこそ、かなうものです。

 一所懸命やると、どんなものでも何かに役に立つものです。目的をきちんと設定して、それを第一に優先するのは、なかなか難しいことです。

 

〇問題にしない

 

 仮に「ヴォイトレの正しい方法」とかいうのがあって、それをマスターしたとしても、「プロになる」というのとは違います。

 私がいえるのは、万人に共通の正しい方法はないし、万人に対して最も優れているといえるたった一人のトレーナーもいないということです。

 とてもよく効く薬は、誰かには、とてもよくても、誰かには、毒です。誰にでも効く正しい薬は、ご飯のようなものです。大して効きません。それで健康であるなら医者に行かなくてもよいでしょう。ここでは両方のヴォイトレもやっています。

 

〇正論にする

 

 発声や歌唱には、不毛な論議が多すぎるので、私はこの「トレ選」で正論というか、本音を述べています。

正論というのは、正しい論を立てるということだけではありません。問題にしたことで問題になるものは、問題にしないようにすることの方が大切です。自分の人生において前向きに、現実に実現していくことに集中するということです。うしろ向きになっていたり、時間が余っていると、人は他の人を否定するようなことばかり考えるからです。そういう人に付き合っていくと、迷走することになります。机上の議論には引き上げ、人生で勝ちましょう。

 

〇活動へのクレーム

 

Q.歌うと、批判ならまだしも、ときに中傷やいじめのようなことがまわりで起きます。プロになったり有名になると、ひどくならないかと不安です。

 

表現することは、人に働きかけるのですから、反応が戻ってきます。働きかけないと戻ってさえきません。反応があってこそ、第一歩です。自分への批判や非難は、自分の声が届いている、影響力のある証です。

 相手が人生の貴重な時間を削って自分に意見してくれていると思えばよいのです。もちろん、ひどいもの、耐えられないものもあるでしょう。自分の身体への直接的な働きかけ以外であれば無視するのは、あなたの自由です。

 匿名の批判については、オール無視してよいと思います。表現はその人の名のもとに行なうものと思っています。そうでない声を、「いつ」「誰が」の2つのことがわからないと、考えても意味がありません。反論もしません。誰がどこで何をいおうと、自由です。

 それが自分を落ち込ませたり、活動への力を削ぐというのでしたら、バカらしいことです。自分自身との戦いに負けたことになります。どんな負の刺激でも、大きいほど、見返させてやろうとがんばりましょう。そこで悪口で返すようでは同じ穴のムジナです。あなたはそれを糧に成長すればよいのです。むこうはそんなことにかまっている分、堕ちていくだけです。

 

〇あとから出る

 

 私のまわりにも一流のことや大きなことを成した人、成そうとしている人がいます。皆、あなたと比べ物にならないくらい叩かれています。あることないこと、好き勝手にいわれたり、書かれています。その多くは、ねたみ、そねみ、嫉妬からです。

 その大半は、あなたのまわりから出てくるものです。目立つのが心地よくないから、引きずりおろそうとしているのです。

 日本では、島国根性、世間というものがあり、同調圧力など、この傾向が強いわけです。自分の名も出さずに悪口を連ねるといった、大切な人生のムダ、消耗をできる人が、たくさんいます。情熱を前向きに使えば、その人の人生がよくなるのに、と思います。

 マスコミの一部もそうですね。商売や自分の利益になり、それで飯を食っている人たちもいるのです。海外と異なり、匿名というのが共通です。

 超人的な才能か実力があれば、誰もが賞賛してくれるでしょうが、多くの人は、そんなにうまく何でもできるものではありません。

 私にも万能、神のようであって欲しいと願う人は、そうでない実の私を非難するのでしょう。しかし、私からいわせてもらえば少しは自分でやれよということです。サッカーや野球選手が成績の落ちたときの、ファンの身勝手さにいたたまれない気持ちもわかります。反論しても仕方ない、よい結果を出すしかないのです。

 

〇一人のファン

 

 あなたが表現を続けたいなら、その表現で支えられる人(ファン)を一人みつけるまで頑張りましょう。一人いたら、100人を敵にまわしてもよいでしょう。その一人+α(次に現れるファン)のために、100人の負のエネルギーを前向きのパワーにしましょう。

 何かいわれるのは、力不足なのだと自省し、もっとがんばりましょう。私もそうして少しずつ力をつけてきました。一方で、ほめられ、あるいは何もいわれず、批判を恐れたり嫌になったりして、いつ知れずダメになった人をたくさんみてきました。それもその人の人生の選択です。

 表現していきたいなら、ぼろくそにいわれても、目立っていきましょう。目立つのが気に食わない人は放っておきましょう。少しずつ何かをやっている人たち、やり続けている人たちと親しくなって世界が開けていきます。

 まだ、あなたはそこまでやっていないから辛いでしょうが、一歩ずつ、そこから抜け出していきましょう。「類は友を呼ぶ」のです。低いレベルで争ったり気にしていては、そこから抜け出せなくなります。貴重なエネルギーをムダに費やすのはやめましょうね。

 

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Q.のどを守るために、何に気をつけたらよいのでしょうか。守るための環境についても教えてください。

 

〇喉の守り方

 

喉の守り方は、トレーニングで知っていくことです。私は、2つに分けて考えています。目的やレベル、今、何を優先するかによっても違ってくるので、これを参考に考えてください。

 調子のよいときは、ハードにセッティングします。調子の悪いときは、以前は、休めませんでした。しかし研究のチャンスでもありました。何事も育てていく、鍛えるときと、それをキープするときは、考え方、対処の仕方が変わるものです。

1.環境をよくして、よい状態で声を出すことが第一でしょう。自分のことさえよくわからないうちはよい環境づくりを目指します。湿度や温度も整えます。

2.プロ志向の人なら、その上でハードさに耐えうるため、ときには乾燥や、熱いところ(とはいえ、ほこりなどはだめです)、寒いところはあまりよくありませんが、あえて試みます。慣れていく、非常時にどうなるのかを知ります。

 

 ステージやスタジオは、乾燥していて、照明や人、荷物の出入りで、発声によい環境ではありません。かつては、たばこでくもっているようなところでした。

 空気清浄機や加湿器は、練習の環境にとてもよいのですが、そうでない場でやることも考えておきましょう。

 

〇悪循環にしない

 

 一般的には、のどの状態や体調のよいときは(特に若ければ)何とでもなります。気をつけるのは、心身の状態やのどのよくないときです。

 第一に欲しいのは、休養、声を出さない時間をとること。途中の休みをたくさん入れること。

 第二には睡眠や栄養、気分を切りかえ、マイナスの方向にいかないようにします。

 

 トレーニングは、集中したときしか行なわれないようにします。ステージや練習よりも、そのあとのしゃべりすぎで声の状態を悪循環にしてしまう人が多いものです。

 打ち上げ、アルコールや食べ物が入った状態での大声でのおしゃべりほど、疲れたのどに悪いことはありません。

 

 サイン会や握手会、あいさつや会話も大きな負担です。お腹からの声でなく、軽く浅い声を使うほうが、のどへの負担を押さえられる人が多いです。低い声はしっかり使わないと発音不明瞭になります。自分の声の使用状態をガソリンのFull-Emptyのように考えるとよいでしょう。Eに近づいてきたと思ったらセーブすることです。

 のどの疲れは、休めないととれません。気力やハイテンションで、一時、大きく声が出ても、少しでもかすれているときは、地獄の一丁目近くにいるのです。自分の限界を試してみるのも必要ですが、越えてはいけないのです。調子の悪いときは、気をつけて、早めに休めるのです。

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