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92号 「Q.外国人のような歌い方を習得できるのか、日本人には可能でしょうか。」

〇外国人のように歌えるか

 

トレーニングの目的や位置づけとも関係しますので、まとめてみます。

そのアーティストの声と歌い方、さらにあなたの声と歌い方の相違によってもかなり可能性は違います。日本人もひとくくりにはできないのですが、一般的には、根本的に入っていないことや育ちのなかで入り方が足らないことは、「慣れ」という、もっとも時間のかかることなので、いかんともしがたいところはあります。つまり、その母語で幼少期に育たなければ語学のネイティブになれないというレベルでみると、習得の時期と長さ(1万~3万時間以上)の差という前提があります。

「外国人のような歌い方」というのも、そのアーティストが誰であれ、あいまいにならざるをえません。声がまったく同じ人もいないし、歌い方も全く同じ人はいないので、100%同じことは、難しいというのが一方の極での問題です。声についてを、素材の段階で考えると、まず全く同じ楽器かどうか、バイオリンなら難しくても電子ピアノのなら、100%に限りなく近づけるでしょう。もちろん、同じバイオリンでも一弦と二弦では違います。

歌い方というのですから、バイオリンとビオラのように音色が違っても、奏法やフレーズに共通のものを見いだせるかとなると、どの程度にということになります。

弦楽器と鍵盤楽器、吹奏楽器ではどうでしょうか。タッチやニュアンスは、かなり違います。同種の方が似させられます。しかし、これをクラシック、ジャズ、ロックなどに分けてみると、楽器の音や奏法よりも、ジャンルの方に、似ているという共通点を感じることができるでしょう。

 

〇楽器として分けられない声

 

「私の声と今の歌い方を変えることによって、○○のような声で○○のような歌い方をすることができるでしょうか」と考えると、少し具体的になります。

本来のヴォイストレーニングは、バイオリンで例えるのなら、その楽器の調整ともっともよい音色を出し、それで音楽を心に聞かせられる音の動かし方をできる奏法を身につけるようなものです。この奏法は、とても基本に忠実なものとかなりその人独自のものがあります。ところが、ヴォーカルの歌については、バイオリンのようにきちんと分けられないのですから、

1.楽器としての体づくり

2.楽器から音をとり出すための発声、呼吸、共鳴の習得、これが歌唱の基礎となります。

3.歌唱

と踏んでいきます。この歌唱も、発声の基本に忠実なものと、その人独自のものがあります。

 

〇歌のジャンルと歌唱法

 

トレーナーには、よく発声法、あるいは歌唱法を分類してそれぞれの発声をマスターさせるような方もいますが、私のみる限り、どれも中途半端なものまねになっているだけのように思います。私は声を分けて使うのでなく、使った声が人によって分かれて聞こえるというような見方です。一流のアーティストの声の習得過程がそうなのですから、そのレベルに至ろうとするなら、先の12は、ヴォイトレで強化調整しても、そこからでてくるものは、同じになるわけがないのです。

しかし、邦楽の口伝と同じく、洋楽でもあこがれのアーティストをまねしていき、その限界から、自らのオリジナリティへ脱していくのは、一つのプロセスとなります。歌唱のジャンルというのも、比較的、求める感覚や歌い方が近い人でグルービングされているのです。ですから私が、「○○のように歌いたい」という人が初心者なら、すぐにOK、やった分、前よりはよくなります。ただし、長年、ずっとやってきて、すでにハイレベルに似ている人がきたら、よくよく相談して、残された可能性をみてから、OKしたりお断りしたり、ある期間、試行錯誤する、という方法をとることもあります。

 

〇そっくりに歌えるか

 

似させることはどんなものであれ、ある程度はできるのです。まして、基礎的なヴォイストレーニングをしっかりやれば、今よりも柔軟に応用性が増すのですから当然です。しかし、それがどの程度かは、ことばで答えても、何ら意味がありません。ものまねのようにくせをデフォルメしてみないと似ていることがわかりにくいという聞き手もいるでしょう。ここにはものまねでないことを求めていらっしゃるからなおさら、その人の声、声の育ち、音楽性や歌唱レベル、すべてをみても、その歌い方ができているかどうかは、問えることではありません。

ポピュラーからは全員がかなり似ているようにみえるクラシック歌手でも、個々にかなり異なっています。パヴァロッティみたいな歌い方をできるかというと、一流の人でも「できるけど、できない」というでしょう。まして、一流でもないレベルにおいて問うことは、意味はないとしか言いようがないのです。

もし、その歌い方が人生をかけるすべてであれば、こんな回答がどうであれ、その人の声や歌い方がその人の能力の限度まで、それに近づいていくでしょう。また、そのようにトレーニングを利用し、そのような方向へ成果が出ていくでしょう。

 

〇他の人の歌い方のコピーについて

 

私は、すべてにおいてオリジナリティを尊重する立場にいるつもりです。すぐれたアーティストの声や歌い方は、応用されたプレーで、ファインプレーの連続みたいなものです。もしそれをレッスンやトレーニングでアプローチしようとしたら、フィジカル、メンタル、発声の基礎から、自らの感覚や体を変えて可能性を大きくしていくことが何であれ、大前提であるということです。

もし、こうすればその歌い方がマスターできるというような先生がいたら、それはかなり表面的なまねであり、私がさけたいのは、ただ一つ、それをもって目的とするような安易さです。どんな歌い方であれ、ヴォイトレでなく、そのアーティストの育ちや作品への飽くなき追求、努力の結果に形づくられてきたもので、おいそれとできるかできないかで問えるものではありません。

 

〇声の差と可能性

 

「ルノワールのような描き方ができますか」と問われたら、私は、「できると思います」と、答えます。模写の名人になるのも10年以上はかかりますが、本気になって時間をかければ、きっとなれるでしょう。写真やスキャンでとればもっと早いでしょう。とはいえ、これをもって声には限界があるけれど楽器や絵筆なら、誰もがアーティストと同じことができると考えるのはおかしなことと思います。

 

声の差からの可能性のことは、やっていくしかないのです。しかし「私はプロになれますか」と聞く人は、「プロになります」という人の、かなり後方でスタートをまだ切っていないという話をよくしました。確かなことは何一つないのです。

自分の選ぶ眼や、やっていることを信じることです。やっていることを信じられるようになるには、かなり大変です。誰よりも、人の何倍もやらなくてはいけません。そのようにしてしか、何事もやっていけないのです。スタートを切らない人、スタートを切ったのにまた戻る人もけっこういます。でも、早くスタートしましょう。         

 

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○邦楽のトレーナー登用

 

日本のヴォイトレでは、おそらく初の試みとして、邦楽(ここでは歌謡曲、演歌以前のものを示す)のヴォイストレーナーを入れています。ということはもちろん、世界で初になります。

邦楽と私との関わりは、古く、90年代から、端唄、小唄、浪曲、長唄(詩吟)、能の謡などの師匠やそのお弟子さん、あるいはそこへ入門なさった方々に接してきました。以来、竹内敏晴氏のような先達を参考に対処しつつも、洋楽、声楽などのようなオーディションやプロという基準もなく、結果について充分な検証ができないままにきたといえます。

ここのところ詩吟や能のヴォイトレに、私自ら出向くようになったこともあり、また研究所にも年配の方で趣味で長く続ける人もいらっしゃるようになり、新たに和から日本の伝統芸からのヴォイトレを加えていきたく存じます。

オペラや洋楽の歌唱においては、ここ30年ほどさしたる成果を日本人は、少なくても世界に冠たる他の分野の成果と比べると出せないでいるといえます。もしかすると、オペラやポップスなども、欧米からグローバルに普及したなかで、日本人の声だけとりのこされてしまった危惧を覚えざるをえません。一方で日本の古典芸能の声の先行きも安心していられる状況ではありません。もちろんそれは声だけに限りませんが。

邦楽は、師匠以外のところへ学びにいくのは、もともと厳しい状況におかれてきました。それでも、技能向上や真理の追究に先駆者となる人は必ず現れるものです。

 

○次代の先取り

 

研究所は、次代を先取りするというか、旗を高くあげているので、次代のニーズのある人が、先にいらっしゃいます。つまり、一流、プロ、その弟子、最後にその入門者や初心者となるのが、これまでのパターンです。落語やお笑いの芸人も、邦楽も全く同じ流れです。

 

〇劇団からのニーズ

 

声優とともにミュージカルや劇団のベテランがよくいらしているのは、いくつかの理由があると思います。

そのひとつは、自分たちの教わってきて鍛えられた方法では、若い人は育たないということです。その限界をふまえて、若い人や弟子をよこされる人もいます。本人自ら、よりよい指導者になるために学ばれるためにいらっしゃる場合もあります。もちろん、一方で本人の声そのものの可能性をよりつきつめるという目的もあります。「若い頃のように声が出なくなったからと」いう人も少なくありません。

 

〇本番とヴォイトレ

 

現実面において根本的なトレーニングほど、舞台ステージングとどう両立させるかは、最大の難問です。そのため多くのレッスンでは、これまで私が述べてきたように状態をよくして調整することで終始しせざるをえないのです。

大切なのは、明日の可能性より、今日の舞台ということが、現実としてあるからです。

しかし、そこまで追い込まれてしまうと、トレーニングも難しくなります。私はいつも、そういう状況になるまえ、(デビュー前、や活躍前)がベスト、あるいは、もっとも調子のよいときに何年か先のことを考えて、少しずつでよいからレッスンに通うことを勧めてきました。でも、プロの人は声を損ねたり、下り坂になっていらっしゃることも多いので、両立については、個別に多くのことに対処することになります。

 

〇邦楽と声楽のヴォイトレ

 

オペラで40代が最高といわれている声について、邦楽では、50代、60代でひよっ子、7080代でさらに最高の声を出しているのは珍しくないのです。まして、日本人でしたら、日本の風土や精神に合って形成されてきた邦楽の声づくりをヴォイトレに加えるのは、私の長年の夢でした。

邦楽にはヴォイトレはありません。作品を師匠からの口承(口伝え)にて、直接コピーしていくのです。この一見、無謀と思われる試みが、本研究所のいろんな経験と歴史の上でようやく準備できたということです。

 

考えてみるまでもなく、ここのトレーナーの大半は、二期会レベルの声楽家でオペラを本業としているのに関わらず、オペラそのものを教えているのでなく、オペラの発声のなかの声の基礎としてのヴォイトレを教えているわけです。(オペラを学ぶ人も少数いますが)

つまり、邦楽においてもそれぞれの表現として問われる歌唱や発声は大きく異なります。能などは流派も多く、それぞれによしとされる声も異なります。

 

〇日本人のヴォイトレと邦楽

 

私は、これまでも邦楽の表現には、タッチせずに、その声づくりに声楽やどちらかというと洋楽よりの発声からきたヴォイトレを試みてきました。そして、一定の成果を声づくりでは出してきました。(邦楽独特の音感トレーニングについては、さらなる改良が必要と思っています)

腹から出る体、呼吸、共鳴づくりや発声のコントロール、などについて、人間の体という共通の基盤をもって強化、調整をしてきたのです。

今度は、その逆を行うわけです。ただ、あまりにくせの多いそれぞれの歌唱表現については、保留にします。ことばよみ(詠み)や声だしのトレーニング、つまり朗じるところから入ります。とはいっても、元々私のテキストには、日本の詞、詩歌や落語がたくさん入っています。特に歌舞伎の口上、香(具)師の口上(もの売りの口上のこと、「外郎売り」、ガマの油売りなども含まれます)などは、和の発声、まさに長唄や詩吟から入った方が近いともいえます。

役者や声優、あるいはビジネスリーダー(経営者やマネージャー講師など)にとっては、日本の合唱団のようなキレイな声よりも、こういう人の心をぐっとつかむ、しっかりとした声が必要です。

講談や浪花節(浪曲)などは、日本では、話の手本であったのです。かつては寺子屋で漢詩を吟じ、大学の弁論部で弁舌を鍛え、政治家になった人もいました。

 

歌と語りが大きく離れてしまった今こそ再び、声としての統一をはかりたいと存じます。オペラもミュージカルも歌いあげるのは日本人だけ、本場、もしくは一流レベルでは、もっと語るように叫ぶようにしゃべるように演じられているのです。それは、まさに歌舞伎、狂言、能から学ぶべきことでもあるのです。

 

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Q.低音トレーニングで高音が出なくなったのですが、どうすればよいでしょうか。

 

〇低音のトレーニング

 

低音と高音とは、ギアの切りかえのように考えてみるとよいといわれます。ローのギアでは、速く走れません。これは、胸声と頭声というひびく感覚の違いのところでも起きます。ただ、初心者の場合は、どちらも、ギアがきちんとはまっていないことが多いので、本来は、低声、中声、高声、どこでももっとも理想的に出せているところで、発声の基本となるフォームをつくってから応用していくとよいでしょう。

 もっとも、のどに負担がかかっていない声をみつけることも、わからなければ、低い声、高い声のどちらが得意な方からやりましょう。それもわからなければ、いつもの声が他の人よりも高いか低いかで決めてもよいし、思いっきり低くして出せるのなら、そこから始めるとよいでしょう。ここは大切なので、トレーナーにつくことをお勧めします。

 あとは、低音を主にしてから高音を伸ばす、次にその逆をすることです。目的が声域を拡げることか、声質、発声をよくするかによっても異なります。とはいえ、低い声ばかり使うと、低く出しやすくなり、高く出しにくくなるし、高い声ばかり使うと、その逆になります。

 要は、その高低のレンジの移行を繰り返し、声質、発声がよくなり、声域も拡がっていくことが重要なのです。その判断は、結構難しいといえます。

 これをギアの使い方で覚えるか、オートチェンジのように一つのギアでやれるようにするかもそれぞれに違います。一般的には、どちらもできるようになれたらよいのです。

 

Q.芯と共鳴の関係がつかめません。

 

〇芯と共鳴

 

声の芯、ポジションは、抵抗(感)のようなイメージです。共鳴、ひびきも波動現象ですから、音波としてとらえられますが、トレーニングで使うには、あまりそういう感じにはなりません。

 ビブラートの違いで1秒間に音圧や高さ(pitch)がどのくらい規則的に変化するかというくらいで、これも測定でなく、人間の耳、つまり聞く脳で判断するしかありません。この関係は、頭声と胸声という、共鳴していると感じる体感でのポイントのようなものです。

 つまり、一人のトレーナーとその生徒さんの間での、ある発声での共通のキーワード(指標)として使っているものの一例です。私の場合も、頭胸の一直線上のどこかに中心を感じるレッスンを行なっています。(「ヴォイストレーニング基礎講座」参照)

 声楽家などは、頭部のどこか(ひたい、頭頂部、眉間、頬骨など)に共鳴を集めて、そのうち頭部とつながってくる感じで捉えているのでしょうか。一流の発声を聞き取って、いろんなイメージをもち、豊かなイマジネーションで自分の発声に当てはめていってください。

 

Q.声は生まれもってのものなのですか、変わるのですか。

 

〇本来の声と個性

 

声には正誤がないという例として顔と同じと述べています。流行や、なんとなく時代や地域でよしあしはあっても、一人ひとりの声や顔に間違いはありません。顔もDNA、肌の色や紙も、遺伝的な要素はありますが、その後の育ち、環境や習慣によって大きく変わってくるのです。

 人は必ずしも自分の顔や声で職を選ぶわけではありません。しかし、双子でも、一人がホテルマン、一人が魚屋さんになったら、20年後の声は全く異なっているでしょう。

 私は、生まれつき持っている条件と、育ちで持つようになる条件とを研究しています。トレーニングを行なう状態での個別の違いは、当然レッスンの方法やペースにも関係するからです。

 医者や学者に会うのはそのためですが、一般的なことは少々わかりますが、高度なトレーニングをしていく人(トレーニングが日常から切り離せない人から、その状況で育った人も含む)には、当てはまらないケースが多々あります。

 何をもって同じか違うかということと、違うと同じとは、どの範囲のことかということになるので、声の使い方で声はかなり変わって聞こえるし、声そのものも変わっていくこともあります。

 

Q.「呼吸のとき、横腹は動くのですか。」「息吐きのときに、お腹は出るのか、引っ込むのか。やわらかくなるのか、硬くなるのでしょうか。」

 

〇呼吸とお腹

 

これも一言では答えにくい質問です、実践の方からいうと、あまりこだわらない方がよいことです。自分の表現を支えるに足る呼吸のコントロールができていればよいことだからです。

 トレーニングというプロセスでは、部分的、意識的に行なうので、力を入れたり、入ったり動かしたり、出したり引っ込めたり、いろんなアプローチがあります。トレーナーによってもかなり考え方や、やり方や、チェックの仕方が違います。武道や健康法、美容などまで入れると、さらに呼吸法についてさまざまな手段がとられてます。それらを正誤で分けて考えることはできません。

 腹式呼吸についてのことを聞いていらっしゃるのでしょうが、それも、いろんな意図的なプロセスを使って、しぜんにできていくよりも早く成し遂げようとするのが方法やトレーニングです。人によってかなり違うともいえます。

 結論としては、どんなプロセスを経ても、最後には自由に変じられるのがよい、つまり、しぜんを人工的に大きなしぜんに導いていくようなイメージだと思ってください。声と同じく、一流の域では、呼吸も相手に感じさせない、しぜんでシンプルなものになっているのです。

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