Vol.86
〇一声惚れ
声には表情、姿勢、話し方、歩き方といったものの総合的な要素が、凝縮されて出ているのです。
一目惚れというのがありますが、一声惚れも案外とあるようです。
かつて、イタリアの男たちは、二階の令嬢にセレナータで愛を競い合いました。ロミオとジュリエットでも、思い浮かべてください。しかし日本では、つけ文でしたね。いえ、歌垣までさかのぼれば……。
一目惚れは別として、だいたいの恋のスタートは悪くない人だなという程度で、始まります。本当に惚れるには、電話でのやりとりも含め、声の印象抜きにはありえませんでした。
もちろん、あばたもえくぼ、惚れられたら声など、どうでもよくなるともいえますが。逆もあります。
声に惚れたら、あとはどうでもよくなるというのもロマンチックですね。
〇第一印象を分ける声の印象
現実は、日本人は、目でみて判断する度合いが高いと思います。これが端的に表われたのが第一印象というものです。でも、これにはおもしろい結果が出ています。声の感じは、むしろ第一印象に大きく問われているそうです(心理学者メラビアンによると、38パーセントは声ということです※)。
一目ぼれに近い状態が起きても、次のステップがなくては発展はありません。その多くは、第二の出会い、心配りや気遣いなど内面的なものが触れ合ったときに起きます。
しかし、声からみると、言葉が働きかけたときです。たった一言、たった一声が運命を変える。その最終結果がプロポーズの言葉かもしれません。
〇オルゴールは、なぜすたれたのか
軽井沢、那須、嵐山、小樽、河口湖、箱根など、「オルゴール館」は、日本全国の観光地にできています。あの豪華絢爛な大オルゴール、それが、なぜすたれたのか、わかりますか。
それは、エジソンがおもちゃ代わりにつくった蓄音機の発明のせいです。そう、レコードに代わられたのです。
そこに人間の声を入れた。歌声など、当時のは、雑音だらけで聞くに耐えなかったのです。
ちなみにオルゴールは、貴族がオーケストラや弦楽四重奏を呼ぶ代わりに、購入しただけあって、荘重で、迫力あるすばらしい音質の演奏にまで、発達していたのです。ただ一つ、欠点がありました。それは、人間の声が入らなかったことです。つまり、人はそれほどまで人の声を聴きたかったのです。
〇声は見た目じゃわからない
ストーカーまがいの恐い声というのは不気味ですが、その声の持主を知りたいと思う声もあるでしょう。私は、オンエアだけで聞こえる声に惚れたことが何度かあります。そのまま、その声の主が誰かわからなかったこともあります。
歌も、かなりあとになって映像を入手して、顔をみて、ああ、こういう人がこう歌っていたのかと知った例も多いです。ジャケットや雑誌、本などのうつりの悪い一枚の写真のイメージで、思い込んでしまった例もあります。 スモーキー・ロビンソンやライオネル・リッチーなど、実像は、思い描いたイメージとギャップがあって、それなりにショックを受けました。慣れたら、より魅力的に聞こえるようになりましたが。
あなたも、歌い手や声優は、声で判断していませんか。昔から噺家などは、声で客をくどいていたものです。
〇声の感じと人柄
ということは、日常にも少なくありません。私は電話だけで話していた人と実際に会ってびっくりしたことがあります。とても明るくバリバリに声で思っていた人が、地味でおとなしい人だったとか、暗く軟弱そうに思えたのに、会うと筋骨隆々で明るくいい人だったなど。
多くの人の場合、声の感じと人柄は、大体、一致します。
ところが、例外もあります。
なぜそうなったのかを聞いてみると、なるほどと思うこともあります。生まれ、育ちの環境も影響していたのです。
○女性の声
世の中には、声の魅力的な女性は少なくありません。現代においては、うぐいすのような声や、ソプラノ歌手、たとえばマリア・カラスのような声は、必要ありません。寵愛を一身に受ける声というのは、もはや、女性の“能力といいがたい”からです。
仕事においてバリバリのキャリアウーマン、プライベートにおいてかわいい女、イメージによって求められる声は違いますが、これを使いこなしている声の芸術家も少なくありません。女性の美しい顔、体、そして声は、もちろん男性の気をそそります。
魅力的とは、そのように見える、そのように聞こえるということです。素顔と、化粧ばえでない表情です。声も、生の声より表情のある声が求められます。
カラオケの歌声で自己アピールする人も多いですが、普段のさりげない一言のもつ声のニュアンスを大切にしましょう。そこにキュンとなる人も、決して少なくないはずです。
〇育った環境が声をつくる
声は、もって生まれたものだけでなく、育った環境で大きく左右されます。英語圏の人が英語にすぐれ、インターネット社会でも有利なのと同じです。声にも先進国とはいいませんが、すぐれた環境とそうでない環境があります。
国際的にみると、声をあげるのも話すのも笑うのも、はしたないとしてきた日本は、弱声国です。カラオケなどでがんばっていますが、のどを嗄らすだけ、日本人に限っていうと、スポーツ応援でも選挙戦でも、終盤にはもう声を損ねています。あまり、そんな国はありません。
欧米のように乾燥していて、家が石造りで声を反響させて伝えるのと、木と紙で障子に目あり、声がつき抜けてしまい、いつも小声でしゃべる、じめじめした日本とは、求められた声が違ってきても当然でしょう。
○うるさい地域の声
地域にしてみると、強いのは、うるさいオバさん、オジさんのいるところです。関西(特に大阪)を中心に、広島、福岡、沖縄です。江戸、博多、土佐、薩摩といった方言のアクの強いところも、含めてよいでしょう。
私は昔、関西から10名、関東から40名の団体を引率して、「皆さん関西から?」と言われました。2割の人数の関西弁が、東京を“凌駕した”のです。
だいたい暑いところはうるさく、寒いところは静かです。東北の人は、“朴訥”で口が重い。北陸、山陰などでも、似た傾向があります。そこで、方言の問題も生じます。
〇なまっていてもよい
東京にも、方言はあります。この情報化時代、全国あらゆる言語が統一されてしまって、味気なくなっています。どんな地域の人も、共通語を理解して話せるようになってきています。かえって千葉、埼玉、栃木、茨城、福島あたりの、少々なまりがかかっている方が治りにくいと思われます。大して気にすることはありません。
言語に正しいを求めるなら、言葉遣いや敬語においてのことです。日本で活躍している外国人の日本語でも、充分に通用しているのです。
〇育つ環境と声
声は育った環境に大きな影響を受けることを確認してみましょう。
育つなかであなたの声は多くの人の影響で変えられてきたはずです。特に、よく会う人、とても関心を抱いた人(好きな人)、キャラの際立っている人、特徴のある人の声は、あなたの声の形成に大きく影響しています。あなたの声に関する判断基準、好き嫌いにも関係しているのです。
・親の影響
・学校や先生の影響
・職場の影響
・職業による声の違い
〇方言は声の宝物
しかし大切なのは、この事実よりも、ここからくる考え方です。地方出身だからと方言を気にしていると、ますます口ごもり、もぞもぞっとはっきりしなくなります。堂々と話し、笑う奴には笑わせておけばよいのです。方言を改めるのでなく、もう一つ標準語を獲得すると考えてください。外国語を覚えるよりも楽でしょう。ちなみに私は、方言で話す人を、とても尊敬しています。
〇共通語の必要性
外国語は、恥かく人ほど早くマスターするのです。故郷の言葉を恥じる必要は、全くありません。そのニュアンス、その思いの深さは、標準語が失ってしまった声の、もっとも大切なものをたくさん保っているからです。あなたは、方言をもっていることに胸を張って誇ればよいのです。
ただ、人とコミュニケーションするのは、別だということです。仕事では、各地方の言葉やニュアンスを、いちいち解釈していられないからです。方言のよさを活かしつつ、共通語もマスターしておきましょう。
〇日本語
ときおり、日本語見直しブームのようなことが起きています。日本人は、日本語を大切にしてきました。それは日本を大切にすることだったのです。
たとえば、インドは西欧文明を英語で取り入れたため、いまだに20以上の公用語があり、少し離れると、英語でしか共通に話せません。そのため、欧米との仕事はしやすくなりましたが。日本人は、日本語に世界中の言語を翻訳し造語してきました。情報習得量が、膨大に上がりました。こうした先人の努力に、頭の下がる思いがします。
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