Vol.96
〇声での魅惑術
かつて遠距離恋愛の必需品は、電話でした。料金が高かったことが障害となり、二人の感情を大いに盛り上げたのです。今や、スマホが必需品でしょう。ただ、やりとりがメールやSNSになったのは残念なことです。
電話では、表情はわからないですが、声で判断できます。親しくなるほどに、言葉よりも声のニュアンスが大切になります。
恋愛モードに入ると、長電話になります。そこでは話の内容でなく、相手とつながっていたい、声を聞いていたいのです。
「自分に利をもたらす声」というのとは違い、そこに相手の好みに応じようとすることが入ってくるのです。
あなたの相手が、声に無関心であまり価値をおかない場合と、とても大きくウエイトをおいている場合では違ってきます。
日本では、声のことは、容姿ほど、相手に求める条件に出てきません。
「好みのタイプは? 何を優先して決めますか」と聞いても、まだまだ声というのは表に出てこないものです。でも意識されていないだけで、声には強いだめ押し効果があるのです。
〇声のだめ押し効果
「もう一声」、これで決まることがあります。セールスマンの最後の一言などです。クロージングで押し切るのは、声のかけ方、タイミングとトーンです。くどくことも同じでしょう。売れないセールスマンは、声で失敗するのです。
タイミング、声の感じなどで、「この人(この声)からは買わない方がいい」とか「買いたくない」と思ってしまうのです。恋愛も似ていますね。
飽きない声、癒される声というのは、どうしてそうなっていくのでしょう。
「声なんて、相手が好きになればどうでもよくなる」という人もいます。
でも、相手を好きになるのに、声は案外と大きい要素です。ずっとその声と一緒にいることを考えてみてください。
ルックス、スタイルは、多くの異性を惹きつけるのにはよいでしょう。しかし、そこであなたの望むたった一人のパートナーのハートを射止めるには、声は、決め手なのです。
「聞いていて飽きない」「癒される」となったら、最強です。
〇美人モデルには、声で勝てる
電話して、一方はいつも明るくハキハキ、「待ってました」とばかりにすぐに出る、もう一方は事務的な応対だとしたら、どうでしょう。
落ち込んだ人が弱気になったときは、あなたが声の優秀な使い手なら、あなたから発される落ち着いた声は、相手を元気づけます。ところが、どんなに心を込めても、冷たく淡白な声なら、さらに落ち込ませます。
とても美人やイケメンが異性にふられるのにも、こういうケースが少なからずあります。
つまり、容姿に恵まれて生まれ育った人は、あまり声に感情を表わすことに慣れていないのです。なぜなら、声に何か込めるような必要もなく、まわりの人が聞いてくれていたからです。
私が思うに、ファッションモデル出身の人には、声にコンプレックスがあったり、実際に声がよくないことが多いようです。モデルはしゃべり慣れていないこともありますが、背が高いので、モデルになる前は、猫背だったり、目立たないよう声も大きくならないようにしていたこともあるでしょう。あまり使い慣れていないのです。
〇恋は声を色気づかせる
恋すると、きれいに色っぽくなる、角がとれる、自信がもてる、明るい未来に想い馳せられる、お金や衣食住にも欲が出る、など。もちろん相手がいればお金などいらないとなることもあるでしょう。その幸福感と充実感は、あなたの表情も声も、より魅力的にしていきます。よいパートナーに恵まれ、仕事などで頭角をメキメキと表わした例は多いです。
しかし恋愛の気分と、幸福の持続は違います。恋は現実と夢とのはざまに揺れ動くからこそ、ドラマチックなのですが、どこかで生活が待っているのです。
快楽ホルモンが、声に及ぼす影響はとても大きいそうです。β-エンドルフィン、ドーパミンなどは、血行をよくしてストレスをとります。そういうときは、心身とも感じやすくなります。すると、同じ場所の同じ風景でさえ、違ってみえます。感動しやすく、涙もろくなるのです。それは、声を成熟させます。
〇本物の恋の力
声の幸せへのエネルギーについては、どうでしょう。目的やプロセスなんて、めんどうなことを一切、忘れさせるように、本物の恋は、いともたやすく、あなたに変わることをセッティングするのです。
「声に関心を」など言わなくても、恋をしたら自分の容姿、話し方、そして、声にも、細部にまで、関心がいくようになるのです。
これまで、マイナスのことばかり考えていた人も、プラス思考になるでしょう。
恋愛にかけるエネルギーは、大きくなり、そこでは無駄もたくさん出てきます。普段なら決してやらないような愚かな選択をしてしまうこともあるでしょう。笑ったり喜ぶことも多くなりますが、悲しんだり、苦しむことも多くなります。
自分のことだけを考えていればよかったのが、二人分、考えるのですから、当然です。しかももう一人は、自分とは別の心身なのですから。だから、大きく変われるのです。
声は相手なしには使えません。日本では「歌のトレーニングを河原でやる」というような、ストイックなイメージがありましたが、私はあまり好きではありません。大切な人のまえで、歌うことで極めていくとよいでしょう。
恋する相手の家の前でセレナーデを歌う。日本では、それは異常者扱いされ、通報されるので、カラオケボックスの中でとめておいた方がよいですが、恋は狂気と紙一重です。声もまた本当の相手を得て完成されていくのです。
〇声でわかるコミュニケーション力
およそ人というものは、相手に合わせて同じように返すものです。やさしい声を投げかけたら、相手も声もやさしい声で返してくるものです。
そういうセンサーが壊れている人は、考えものです。そういう能力がなければ、だいたい社会的にもうまくやっていけないからです。
それは、仕事だけでなく、家族や友人との会話での、声の使い方についてみると、わかります。なかには、仕事は有能でも、プライベートの関係に不向きな人もいます。
「自分には精一杯してくれる」、あなたにはそう思えても、家族や社会で通用しない人は、あなたの家庭やあなたのまわりの人と、うまくやっていくのは難しいのではないでしょうか。
割り勘などは、男女平等が一般化しつつある、とはいえ、男性というものが女性にプレゼントするために出世し、人間としても大きくなるということからいうと、あまりよくありません。
愛するのは、相手に無条件に与えようとするものです。借りをつくることをあたりまえとしてしまう人には、たいした将来はないでしょう。
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