○自分のよいところに絞って、組み立てる
歌がうまいのと、うまくないのは、何が違うのでしょう。実力でしょうか。それでは実力とは何でしょうか。
私が思うに、それは、最終的には自分のよいところで最大限アピールし、自分のよくないところを最小限に抑え、出さないことです。
少なくとも、プロといわれる人は、まわりと比べて自分のプラス面を伸ばし、そこにマイナス面を隠す、絶妙なバランス感覚をもっています。(それが同時に限界の壁もつくるのですが・・・)
それでは、実際の練習にはどう落とし込めばよいのでしょうか。
まず、あなたの一番よく歌える曲の、これまた一番よいと思われる部分を選んでください(10~15秒くらい)。次に、それをその曲から離れて、キィ(ここでは、声の高さ、ピッチの意味)を半音ずつ高低させてください。
また、自由にテンポを速くしたり、遅くしてください。さらに、歌詞を母音読み(あなたの→あああお)したり、もっとも発声しやすい一音だけにしてください。
その全ての組み合わせをメニュとして、その中でベストを決めてください。
ベストはよりベストに、ベターはベストにしていくのです。そうして、自分自身の声や歌に厳しい判断力をつけていくことです。
できたら、せりふの一言でも、これを試みてください。さらに、声の一言「ハイ」「ライ」「ナイ」「ネエ」などから、体で一つにしていえる声を選んでみてください。
□ベストをよりベストに、ベターをベストにする
○得意な曲の1フレーズを応用しよう
たとえば、トレーナーのレッスンや音源での発声練習に慣れていないために、発声では、高めのドの音で喉がつまる。なのに、歌(カラオケなど)では、さらに高い音まで楽に出していることが少なくないのです。そういう現実を、私はいろんなスクールでたくさんみてきました。
基本的な発声練習とは、歌の複雑さ(音程、リズム、ことば、表現などの組み合わさったもの)を取り除き、簡単な音で、音程の狭いところで発声だけ、しっかりとチェックするために行うものです。
目的がそうならば、カラオケの1フレーズを選んで練習した方がよいということになりませんか。事実、多くのプロは曲から歌や声の使い方を覚えているのです。
厳しいチェックのために行うなら、少なくとも自分で確実に再現できるくらい、シンプルにできるところで行わないと、あまり意味がないのです。そのシンプルな声のすごさと難しさに気づいていくことです(そこを補助するのがトレーナーの役割です)。まずは好き勝手にスタートしてもよいのです。人によって違うようでも、深まれば、共通することにたどり着くのですから。
方法やトレーナーにも、相性があります。相性が合うほうがよいとは必ずしも限りませんが。
楽器なら、すぐれたプレーヤーにつけばよいのですが、そういう人なら、一つの音がろくに出ないうちに、たくさんのメニュを与える人はいないでしょう。
□早く自分にあった練習スタイルをみつける
○よい声、よい歌を聴くか、笑いころげる
うまくいかないときは、もっともうまく楽に歌える曲を(その曲の1フレーズでもよい)使ってみましょう。
日頃から、発声練習の中でも、ベストメニュを選んでおき、それを使うとよい状態になると思えるものをもつことです。そして、少しずつ細かくそういうときにどのようにすればよいのかを知っていくのです。
そのためにも、よい声のイメージをしっかりと入れておくことです。古今東西、第一級のヴォーカリストの声とその使い方を、体の真髄まで叩き込んでおいてください。
それらの中から、今の自分に合うもの合わないものを選び分けてください。自分の調子別にいろんな処方ができるようになってください。
発声練習がうまくいかないのは、無理な声量や声域を出そうとするとき、あるいはそれを目的で声を悪い状態で、ラフに使ったときが多いようです。
しかし、「うまくいかないから、どうする」ではなく、「うまくいっている」と思っているときに、すでに多くの問題が起こっているのです。ですから、「うまくいかなくならないようにどうする」ということで、予防しなくてはいけないのです。
それでも、ニッチもサッチもいかなくなったら、休めるか、笑い声トレーニングをお勧めします。笑い顔で体から声を出すことです。
私は、「下手な練習より腹から笑い転げなさい」といっています。一分間、笑い続けるのもけっこう大変です。
□悪循環に陥らない予防法を知り、うまくいくところまで戻る
○発声と歌とを分け、スポーツを参考にする
私は、当初から、歌は応用、声は基本と分けてきました。わかりやすくいうと、歌は試合、声はオフのトレーニングです。天才か器用な人は、歌だけで歌の問題を解決できるかもしれません。
しかし、そこで行き詰まったら、どうするのか。観察し、比較し、分析し、目標として求めるイメージとのギャップをみつけ、それを埋めるのにトレーニングをするのです。
声については、一人ひとり違います。誰かがそれができたからといって、誰もができるわけでもないし、できたというくらいでは、何ら勝負にならないのが大半です。
ともかく歌と発声と区別してください。トレーニングで行っていることをそのまま使って歌おうと、こだわりすぎないことです。
腕立てをして、すぐにバッターボックスに入る人はいません。腕立ての筋肉の使い方とバッターの打つときの筋肉の使い方は同じではありません。それを練習するのは、ベースとして通じることもあるからです。
歌や声はわかりにくいので、あなたが身体を使ってマスターしたスポーツや芸事などがあれば、そのプロセスを参考に、イメージをふくらませるとよいでしょう。
□歌は応用で、試合や発声は基本で、オフのトレーニング
○一流の作品を聞き込み、耳を鍛えよう
どこが問題かわからない人は、まず自分の曲を徹底して聞いて、下手とわかるところをチェックしましょう。音楽好きの友人にも聞いてみましょう。友人よりもあなたのチェックが甘いなら、トレーナーについたほうがよいでしょう。
問題がわからないうちは解決していかないからです。その間は、一流の歌や声を聞き込んでおくことです。
歌は総合力ですから、チェックするにはそれぞれに分けた方がよいでしょう。一般的には、メロディ(音程、音高)、リズム、詞などで、基礎力をみます。
しかし、実践的というなら、一流のヴォーカルから学ぶところを自分なりに区分けして、それぞれに対して、どう自分が聞こえるのかをみていくとよいでしょう。
1.ステージング 2.楽曲 3.歌詞 4.声(質) 5.メッセージ 6.音楽性 7.個性、オリジナリティ 8.ハイトーン、ファルセット 9.スキャット、アドリブ 10.ハーモニー(コーラス)
□何が問題なのかを発見する
○毎日ノートをつけ予習・復習をしっかりする
声や歌では、よい状態と悪い状態には大きな差があります。それをコントロールできないのが素人です。
トレーニングで地力をつけるとは、悪い状態のときにもできることを少しずつ底上げしていくこと、最悪の心身状態でも、人前ではカバーできるくらいの声や歌の力をつけておくことです。
その中心は、しっかりした声づくりです。これはよほど思い込みが激しく、狭い視野で乱暴に力づくで声を出しているか、反対に何もやらない人以外は、長く続けていればそれなりの“通じる声”になります。
役者とか声楽家のような職業声とも通じる、安定した深くタフで耐性のある声を目指しましょう。
そして、声の最低ラインをキープできることです(今の日本では、このラインというのもかなりあいまいですが、声が出ないなどということがなくなるなどということでもよいでしょう)。
ただ、それは目的でなく、そういう基礎固めの上で、奇跡の瞬間が降りてくるために行っておくのです。それは同時に、最高の状態をすぐにもってこれること(切り替え力、応用力)に通じ、そこでプラスαが起こる確率が高くなるということです。
本当の一流の天才は、この魔法を自在に操れる人です。声が出るとかうまく歌えるというのとは、次元が違うのです。
ともかく、予習復習をすること。そういう最高の目標をもって挑むことです。目指す目的レベルが高くなると却ってわからなくなるものだからです。
□自分の求めるところまでは準備して奇跡を待とう。
○伸ばすときは、ていねいにする
ブレス(息つぎ)が浅いと、フレーズの終わりごとに声を保てなくなり、音程やリズムが狂う原因になります。語尾がうまく切れないのも、息に充分な余裕がないことが多いようです。ピッチ(音高)も下がりやすくなります。もう一小節伸ばすくらいの気持ちで行いましょう。
長く伸ばせないというのも、何に比べてということです。「息(あるいは声)を30秒、40秒伸ばしましょう」というトレーニングは、余力をつけておくためです。
○ビブラートは、呼吸と声の安定で保つ
結論からいうと、ビブラートは上達してくるとしぜんとかかってきます。声は共鳴して出てくるものですから、そこにメリハリをきかせ、フレージングを大きくしたり、高音域をとったりしていくと、その流れが声に表れるのです。これが歌に心地よいゆらぎを加えるときの一つの技術となるのです。
ですから、私は無理なビブラートもどきのものをとったり、かけさせないように注意することはあっても、ビブラートをつけるトレーニングはすすめていません。
自分の歌のなかで、ふるえるところ、揺れるところがあれば、そこをチェックして徹底的に直しましょう。
根本的な原因は、呼吸が安定しないところにあります。息のトレーニングを毎日しましょう。息というものは、吐くほどしぜんと入ってくるものです。流れが悪くなるのは息が止まるからです。少し大きめに歌ったほうが、息が出る分だけ自然と入ってきやすくなり、声も安定するのです。
○メリハリは大げさにイメージし、小さな声を効かせる
声量のトレーニングの最大のメリットは、大きな声の方が、体全身を使えることが実感しやすいからです。何が発声の邪魔をするかという欠点も顕わになります。
小さい声でボソボソとエコーに頼って歌っていると、根本的なところが直りません。大声でマイクに頼らず歌う人の方が、気づきやすい分、直っていくのです。
私が真似を勧めず、感覚イメージレベルで大きく拡大して取り込ませているのも、そのためです。そこでの動きをフォームとしては保ち、声だけ絞り込んで小さく(長く伸ばして)使います。このコントロールは、大声よりも高いテンションと体の支えを必要とします。
小さな声を使うことで、表現に耐えうる方が、ずっと大切なのです。
伸ばすのは誰でもできますが、小さく弱くして表現に耐えられ声にするためには、とてもていねいなコントロールがいります。しかも確実に声にするには、子音などで強い息を出しても声に戻せるためには、深い息と深い 声の獲得しかないのです。そこに体が必要となるのです。
自然にひびきを解放しても、そこで芯のある声にいつでもすぐに戻せるからこそ、さまざまな応用も効くのです。
Jポップスでよく見られるようになった、表面上、海外のをコピーした浅い息吐きや息を混ぜた声(ウィスパーヴォイス、ハスキーヴォイス、ミックスヴォイスもどき)などは偽裏ワザです。本人はその気でも、だらしなく音楽性には耐えられない代物です。でも売れているとしたら、それはその声のおかげではないから、あまり真似しないように・・・。
○音色を魅力的に多彩に使うには、一つの声から
いくつかの声を多彩に使い分けるのも、ヴォーカルです。しかし、私は、その必要のある人でも、まず自分にもっとも合った声だけを徹底して使えるように磨かせます。
どれがもっともよいのかを知り、いつでも、その声がプロレベルで通じるようにします。
何年たっても声の変わらないのは、自分の中心ではない声からスタートするからです。歌は、高めにシフトします。高めでもボール球ばかり、練習しているなら、体で打つことは覚えられません。本来は、ど真ん中のストライクでホームランを打てるまで、体と感覚ができてから、それ以外に応用することなのです。あなたがまず求める音色とは、ど真ん中のフルスイングで出てくるものです。(歌では、話し声よりは高めになる)
それと好き嫌いは、別の問題です。持って生まれた楽器を最大限、活かした上で、必要なら表現上の加工をしてください。加工したのがあなたの世界として認められる完成度をもつなら、それも個性でよいといえます。ただ、トレーニングをそこをベースにして行なうと、うまくいかなくなることもあるのです。
一時、早くそれっぽくなってから限界となるのに、本人もトレーナーもわかっていないままで、問題として上がりにくいのです。
これは、あこがれの歌い手に合わせて出したがるヴォーカルのもつ宿命ともいえます。
基本の固まっていないうちでの加工ですから、応用性、柔軟性に欠けます。トレーニングによってくせでの偽再現性(固めてしまう)をつけてしまうパターンも多いです。
□声の音響学を学び自分の音色を知る